雪がちらつく中、ざくざくと新雪を踏みしめて山道を歩く。
雪の深い所は魔術で掻き分けながら進む。
北方大地の冬は厳しい。普通は町の外には出ないものだ。
そんな中で町の外で活動するのは、依頼を受けた冒険者くらいのものだ。あるいは俺たちのように何かすべきことがあって出ている者も居るのかもしれない。
俺はエリスを連れて、北方大地のある国を訪れていた。
オルステッドからの指令だ。詳細は省くが、ある男が遭難するので助けるようにというものだ。
次のラプラス戦役にて役に立つ存在になるらしい。
その男を救助し、家がある山間部の村に送り届けた、その帰路のこと。
◆ ◆ ◆
帰路の途中、俺たちは吹雪に見舞われていた。
雲を散らしても良かったが、行きは護衛対象が居て、ずっと天候を操作し続けていた。そのため、流石に消耗を感じ、魔力消費を抑えなければならなかった。
風魔術でどうにか視界だけは確保しながら、予め頭に入れていた山小屋に俺たちは向かっている。
そこで天候が落ち着くまで凌ぐつもりだ。
「エリス、その恰好で寒くないの?」
「大丈夫よ!剣の聖地も寒かったもの。ルーデウスは意外に寒がりなのね!」
普通は寒いよ。だって吹雪の中だもの。……これも闘気のおかげなのかしら。
俺は魔術でローブの中を温めながら歩いているが、それでも寒い。
俺たちは軽口を叩き合いながらも山小屋に着いた。
山小屋に積もった雪を魔術で掻き分ける。
中に入ると早速、火魔術で暖炉に火を着けた。
濡れたローブや上着を脱いで干しておく。
ブランケットを被り、暖炉の前で温まっているとエリスもその中に入ってきた。
「エリス、寒くないんじゃなかったの?」
「寒くないわけじゃないわ」
エリスは俺の肩に頭を乗せてきた。そういうことか、愛を感じるね。
二人で身を寄せ合いながら暖炉の火を眺める。
耳に入るのは暖炉の薪がぱちぱちと燃える音と、
ガタガタと山小屋の窓が風で鳴っている音、
俺たちが息をする音だけだ。
エリスの温もりを感じながら、かつて今日のように雪を掻き分けながら旅をしていたことを思い出す。
その時は隣に誰もいなかった。
俺は暖炉の火を眺めながら呟いた。
「昔、俺がエリスと別れた後にも北方大地を旅してたんだけどさ」
「……」
「その時はもっと寒かったな、誰かと一緒に温まることもできなかったから」
「そう……」
エリスの声音は低かった。ゾルダートから聞いた俺の様子を思い出してしまったのだろう。
「責めてるわけじゃなくてさ。エリス、お前と一緒に今こうして旅をできるのが嬉しいってだけ」
俺がそう言うと、エリスもぽつりぽつりと話し始めた。
「ルーデウス、あなたがオルステッドに殺されかけた後、魔術の練習をしていたの見て、とても大きく見えたの。このままじゃ、私はあなたには釣り合わないと思って旅に出たのよ」
俺は黙って彼女の言うことに耳を傾けていた。エリスは更に言葉を続ける。
「私も今、ルーデウスの隣に居られるのがすごく嬉しいわ」
エリスの方を見ると目の前に彼女の端正な顔があり、目が合った。
自然と、俺達は口づけをしていた。
その後、エリスが俺の目を見つめて言った。
「好きよ、ルーデウス」
あらやだ、私の真っ赤な顔をそんなに見つめないで頂戴。
……何とか気を取り直して答える。
「俺もだよ、エリス」
もう、これ以上の言葉は必要なかった。
エリスが俺の服を脱がしてくる。俺もエリスの服を脱がす。
二人共生まれたままの姿になると、エリスが俺に覆いかぶさってきた。
俺たちは再び口づけし、激しく求め合った。
ただ、互いの温もりを感じていたかった。
暖炉の火が重なり合う影をただ映し出していた。
◆ ◆ ◆
翌朝、天候が回復したので俺たちは山小屋を出て、また歩き始めた。
エリスが新雪を踏みしめて少し楽しそうにしている。そういうところは相変わらずだ。
まだ、昨日の温もりは胸に残っている。
彼女と北方大地の雪道を歩いていると、寒さも和らぐような、そんな気がした。