「良かったのか? 」
宿屋の一室で言葉を発したのは、鍛えられた肉体を持った獣族の女、ギレーヌだった。剣王の称号を持つ彼女は、同室の弟子にして、先日同じ剣王の称号を贈られたばかりの女、エリスに問いかける。
「いいのよ」
答えたエリスの目元は真っ赤に腫れていた。
彼女は昼間にあったことを思い出す。
五年間、愛する者を守る力を得るために剣を研ぎ澄ませてきた。先日、それは身を結んだ。龍神オルステッドに挑んだ、愛するルーデウスを守り切ることができたのだ。
後は彼と結婚する。そのつもりだったができなかった。
ルーデウスは自らの行動で深く傷ついてしまったことを知った。その彼を、今は二人の妻が立派に支えていることも知った。
実際に会ってみると二人とも魅力的な女性たちだった。可愛くて家事全般が得意なしっかり者のシルフィ、賢くいつでも落ち着いていて的確な助言をくれるロキシー。ルーデウスが己よりも愛してると言うのも当然なのだろうと思った。
ルーデウスの足手まといになりたくなくて、離れたのだ。一緒になることを無理強いすることはできなかった。
手紙でも妻に迎える用意があると書いてくれていたし、彼の家族も歓迎してくれている。しかし、彼の妻たちは胸が小さい体型の可愛らしい女性で、自分とは違う。本当は好きではないのに責任を取ってくれようとしてくれていたのだろう。彼も傷ついていたのだから、気にすることはないのに。
なので、出て行くことにした。後腐れが無いように決闘の形で。
自分が勝った時に愛しなさいという条件を入れたのは、一縷の望みとワガママだった。
だが、そのワガママが通じることはなかった。
ルーデウスの魔術が自分に命中し、目論んだ通りになってしまった。
彼が気にするといけないから、ただ一言 「じゃあ、行くわね」と残し、なるべく平静を装って去った。
宿に戻ってから、ベッドに顔を埋めて泣いた。
こんなに泣いたのは、両親と祖父の死を聞かされた時以来だろう。
「今後はどうするんだ? 」
ギレーヌがエリスに聞く。
「この街に居て、ルーデウスを守るわ」
「…………」
悲壮さすら感じさせるエリスの覚悟を見たギレーヌは、何も言うことができなかった。
◆ ◆ ◆
翌朝。
宿の一階でエリスがギレーヌと共に食事を摂っていると、勢い良く入口の扉が開いた。
息を切らせながら、男が入ってきた。
エリスが目を見開く。
その男には見覚えがあった。忘れる訳がない。
諦めはしたが未だ愛する男、ルーデウスがそこに居た。
ルーデウスは何かを決意したような顔で口を開いた。
「エリス、実は言いそびれてたことがあるんだ」