ララ、アルス、ジークの3人がエリスにイタズラを仕掛ける話です。
ある天気の良い日のことだった。
ララは魔法大学が休講になり、実家の庭先でぶらぶらとしていた。
何か面白そうなネタはないかと周りを見渡していると、気持ち良さそうに昼寝をしている赤ママの姿があった。
赤ママが昼寝をしているのは珍しい。心地良い陽気だからなのだろう。
これは悪戯するチャンスだとララは思った。
家の中からインク壺と羽ペンを持ってくると、同じく大学が休講なので遊んでいたアルスとジークに声を掛けた。
帰るまでが遠足だとララは理解している。いざとなれば生贄にする腹積もりであった。
「赤ママが寝てるなんて珍しいよね。チャンスだと思わない?」
ニッと笑ってペンを掲げる。ララが何をしたいかは明白だった。
ジークが怯えて答える。
「流石に赤ママはまずいよ……バレたらお尻叩かれるよ」
「黙ってたら誰がやったか分からないよ。ジークも剣の訓練でしごかれてるだろ? たまにはやり返そうぜ」
アルスは乗り気だった。
普段から剣の訓練で散々にしごかれていて、少しだけ鬱憤が溜まっていた。
結局、仲間外れにされるのは嫌なジークも首を縦に振った。
三人は寝ている赤ママに足音を殺して近づくと、顔に落書きをした。
噴き出しそうになるのを抑えつつ、離れる。
近くの物陰に隠れて様子を窺った。
落書きされて間もなく、彼女は起きて素振りを始めた。気付いている様子は無い。
しばらくして、三人の父であるルーデウスが仕事から戻ってきた。
彼は赤ママの顔を見るなり噴き出し、笑い出した。殴られて倒れるのが見える。顎にスクロールで治癒魔術を掛けると、彼女の顔を指さした。二人が家の中に入っていくと、家の中から更に白ママと青ママの笑い声も聞こえる。三人は顔を見合わせ、結果に満足して笑い合った。
間もなく赤ママがバンと扉を開けて出てきた。洗ってもすぐには落ちなかったのか、顔は黒く汚れている。烈火の如く怒っている表情も相まって、まるで鬼のようだ。
その様子を見て、アルスとジークが怖気づいた。
「大丈夫だよな……? ララ姉?」
「大丈夫……だと思う」
ララも過去の悪戯で叩かれたお尻の痛みを思い出し、少し不安になるのであった。
「ララ!アルス!ジーク!出て来なさい!やったのはバレてるのよ!クリスが教えてくれたわ!」
赤ママが三人を探す。クリスが窓のカーテンの隙間から見ていたことに、三人は気付いていなかったのだ。
「正直に言えば許してくれないかな……」
ジークが弱音を吐く。
「逃げ回ってたら、白ママや青ママやパパが宥めてくれるかも」
ララが希望的観測を言う。アルスとジークの二人はそれに頷くしかなかった。
「そこね!」
赤ママが気配を察知して向かって来る。ララは普通に逃げたのでは、追いつかれる事を確信していた。なので決断する。
ドンッとアルスを物陰から蹴り出すと、蹴り出した方向と逆に逃げた。
「おいっ!何するんだよ、ララ姉!待てよ!」
アルスが殺気を感じて振り返ると、悪鬼の如き形相の赤ママが居た。逃げ出そうとするも、すぐに捕まってしまう。家の中まで連れて行くとアルスに睨みを利かせて言った。
「アルス、家の中で待ってなさい。今日はいつもより痛いわよ。シルフィ、逃げ出さないよう見張ってて」
白ママが苦笑しながら頷く。アルスは来る運命を想像し、顔面蒼白になって震えていた。
それからララとジーク、二人のお尻を懸けた鬼ごっこが始まった。シャリーア中を赤ママから逃げ回り、赤ママも二人を探し回った。
日も暮れかけてきた頃になって、赤ママは遠方に二人の姿を見つけた。ララも遠目に赤い髪を見つけ、ジークと共に路地へと駆け込む。
「待ちなさい!」
赤ママの声が遠くから聞こえた。その声から逃れるように二人が路地を駆けていると、何かにぶつかった。顔を上げるとガラの悪そうな冒険者風の男たちが居た。
「何だ、このガキ共」
「ごめんなさい。先を急ぐので」
ララはジークの手を引き、通り過ぎようとする。だが、進路を塞がれてしまった。
「この髪の色……魔族のガキか? 売れば金になるかもしれんなあ」
男たちは顔を見合わせて下卑た笑いを浮かべた。
「グレイラットの者です。手を出したら大変なことになります」
「グレイラット? お貴族様か、じゃあ尚更高く売れそうじゃねえか」
男たちはこの街の新参者だったらしい。ララは覚悟を決めた。勝てるか分からないけれど、戦うしかないかと魔力を集め始めた、その時だった。
「誰の子供を売るって言うのよ?」
背後から強烈な殺気が放たれている。二人が振り返ると、赤い鬼が立っていた。
「誰だ、てめえ」
「この子たちの親よ!」
「親だか何だか知らねえが、女一人だ。やっちま……」
男の仲間の一人が話しているリーダー格の男の口を塞いだ。こっそり耳打ちする。
「あの外套は剣の聖地から下りてきた奴だぜ。いくら何でもやばいっすよ」
流石に他所者であっても、剣の聖地の剣士の恐ろしさについては分かっていた。慌てて頭を下げる。
「お子さんが迷子になっていたようでして、子供だけでこんな場所をうろついてたら、売られちゃうぞと言ってただけなんですよ、なあ?」
男たちは皆頷いた。
「では、あっしらはこれで」
冒険者風の男たちは走り去ろうとしたが、騒ぎを察知したルード傭兵団の連中がその先に待っていた。強面の獣族の男達に囲まれて、彼らはどこかへ連れられていった。
「こわかった」
ララとジークは赤ママに縋り付いた。
「子供だけでこんな路地にまで入っちゃだめよ。心配したんだから」
二人の頭を赤ママが撫でる。
「さあ、家に帰りましょ」
二人とも頷き、家路に就いた。
◆ ◆ ◆
家に帰ると、ララは先の件で悪戯が有耶無耶にならないかなーと考えていた。だが、赤ママによってその希望は脆くも打ち砕かれた。
「ララ、アルス、ジーク。三人とも、お尻を出しなさい」