無職転生二次SS集   作:カンピロバクター

9 / 10
蛇足編まで読了推奨
ララ、アルス、ジークの3人がエリスにイタズラを仕掛ける話です。


鬼ごっこ

 ある天気の良い日のことだった。

 ララは魔法大学が休講になり、実家の庭先でぶらぶらとしていた。

 何か面白そうなネタはないかと周りを見渡していると、気持ち良さそうに昼寝をしている赤ママの姿があった。

 赤ママが昼寝をしているのは珍しい。心地良い陽気だからなのだろう。

 これは悪戯するチャンスだとララは思った。

 家の中からインク壺と羽ペンを持ってくると、同じく大学が休講なので遊んでいたアルスとジークに声を掛けた。

 帰るまでが遠足だとララは理解している。いざとなれば生贄にする腹積もりであった。

 

「赤ママが寝てるなんて珍しいよね。チャンスだと思わない?」

 ニッと笑ってペンを掲げる。ララが何をしたいかは明白だった。

 ジークが怯えて答える。

「流石に赤ママはまずいよ……バレたらお尻叩かれるよ」

「黙ってたら誰がやったか分からないよ。ジークも剣の訓練でしごかれてるだろ? たまにはやり返そうぜ」

 アルスは乗り気だった。

 普段から剣の訓練で散々にしごかれていて、少しだけ鬱憤が溜まっていた。

 結局、仲間外れにされるのは嫌なジークも首を縦に振った。

 

 三人は寝ている赤ママに足音を殺して近づくと、顔に落書きをした。

 噴き出しそうになるのを抑えつつ、離れる。

 近くの物陰に隠れて様子を窺った。

 落書きされて間もなく、彼女は起きて素振りを始めた。気付いている様子は無い。

 しばらくして、三人の父であるルーデウスが仕事から戻ってきた。

 彼は赤ママの顔を見るなり噴き出し、笑い出した。殴られて倒れるのが見える。顎にスクロールで治癒魔術を掛けると、彼女の顔を指さした。二人が家の中に入っていくと、家の中から更に白ママと青ママの笑い声も聞こえる。三人は顔を見合わせ、結果に満足して笑い合った。

 

 間もなく赤ママがバンと扉を開けて出てきた。洗ってもすぐには落ちなかったのか、顔は黒く汚れている。烈火の如く怒っている表情も相まって、まるで鬼のようだ。

 その様子を見て、アルスとジークが怖気づいた。

「大丈夫だよな……? ララ姉?」

「大丈夫……だと思う」

 ララも過去の悪戯で叩かれたお尻の痛みを思い出し、少し不安になるのであった。

 

「ララ!アルス!ジーク!出て来なさい!やったのはバレてるのよ!クリスが教えてくれたわ!」

 赤ママが三人を探す。クリスが窓のカーテンの隙間から見ていたことに、三人は気付いていなかったのだ。

 

「正直に言えば許してくれないかな……」

 ジークが弱音を吐く。

「逃げ回ってたら、白ママや青ママやパパが宥めてくれるかも」

 ララが希望的観測を言う。アルスとジークの二人はそれに頷くしかなかった。

 

「そこね!」

 赤ママが気配を察知して向かって来る。ララは普通に逃げたのでは、追いつかれる事を確信していた。なので決断する。

 ドンッとアルスを物陰から蹴り出すと、蹴り出した方向と逆に逃げた。

「おいっ!何するんだよ、ララ姉!待てよ!」 

 アルスが殺気を感じて振り返ると、悪鬼の如き形相の赤ママが居た。逃げ出そうとするも、すぐに捕まってしまう。家の中まで連れて行くとアルスに睨みを利かせて言った。

「アルス、家の中で待ってなさい。今日はいつもより痛いわよ。シルフィ、逃げ出さないよう見張ってて」

 白ママが苦笑しながら頷く。アルスは来る運命を想像し、顔面蒼白になって震えていた。

 

 それからララとジーク、二人のお尻を懸けた鬼ごっこが始まった。シャリーア中を赤ママから逃げ回り、赤ママも二人を探し回った。

 日も暮れかけてきた頃になって、赤ママは遠方に二人の姿を見つけた。ララも遠目に赤い髪を見つけ、ジークと共に路地へと駆け込む。

「待ちなさい!」

 赤ママの声が遠くから聞こえた。その声から逃れるように二人が路地を駆けていると、何かにぶつかった。顔を上げるとガラの悪そうな冒険者風の男たちが居た。

「何だ、このガキ共」

「ごめんなさい。先を急ぐので」

 ララはジークの手を引き、通り過ぎようとする。だが、進路を塞がれてしまった。

「この髪の色……魔族のガキか? 売れば金になるかもしれんなあ」

 男たちは顔を見合わせて下卑た笑いを浮かべた。

「グレイラットの者です。手を出したら大変なことになります」

「グレイラット? お貴族様か、じゃあ尚更高く売れそうじゃねえか」

 男たちはこの街の新参者だったらしい。ララは覚悟を決めた。勝てるか分からないけれど、戦うしかないかと魔力を集め始めた、その時だった。

「誰の子供を売るって言うのよ?」

 背後から強烈な殺気が放たれている。二人が振り返ると、赤い鬼が立っていた。

「誰だ、てめえ」

「この子たちの親よ!」

「親だか何だか知らねえが、女一人だ。やっちま……」

 男の仲間の一人が話しているリーダー格の男の口を塞いだ。こっそり耳打ちする。

「あの外套は剣の聖地から下りてきた奴だぜ。いくら何でもやばいっすよ」

 流石に他所者であっても、剣の聖地の剣士の恐ろしさについては分かっていた。慌てて頭を下げる。

「お子さんが迷子になっていたようでして、子供だけでこんな場所をうろついてたら、売られちゃうぞと言ってただけなんですよ、なあ?」

 男たちは皆頷いた。

「では、あっしらはこれで」

 冒険者風の男たちは走り去ろうとしたが、騒ぎを察知したルード傭兵団の連中がその先に待っていた。強面の獣族の男達に囲まれて、彼らはどこかへ連れられていった。

 

「こわかった」

 ララとジークは赤ママに縋り付いた。

「子供だけでこんな路地にまで入っちゃだめよ。心配したんだから」

 二人の頭を赤ママが撫でる。

「さあ、家に帰りましょ」

 二人とも頷き、家路に就いた。

 

   ◆ ◆ ◆

 

 家に帰ると、ララは先の件で悪戯が有耶無耶にならないかなーと考えていた。だが、赤ママによってその希望は脆くも打ち砕かれた。

「ララ、アルス、ジーク。三人とも、お尻を出しなさい」

 

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