東方無貌神〜Find love and enjoy the journey〜 作:文才の無い本の虫
阿礼と出会ってから数年。
彼女は二十になり、よく体調を崩すようになった。
俺は布団で本を読む阿礼の横に座り、手帳を書く。
この記憶を忘れないように、零さないように。
・・・・・俺も随分人らしくなったな。
前は忘れることが不快だとは思うことなど無かったのに。
「銀さん」
「どうした?」
「ふふ、呼んでみただけです・・・・・けほっ」
阿礼が軽く咳き込む。
背を擦りながら確認する。
「ったく、大丈夫か?」
「はい。今日は少し体調が良いみたいです」
少し肌が白くなった阿礼が微笑む。
前に彼女が寝ている間に調べさせてもらったが、彼女は三十まで生きられない。
見覚えがある――強過ぎる魂により魂魄(魂と体を支える力)のバランスが取れていない――症状だった。
光の巫よりは魂の力は弱く魂魄のバランスが取れているが・・・・・取れているからこそルーミアのように再誕することは無いだろう。
・・・・・何故、気付かなかったんだろうな。
「銀さん、どうしたんですか?」
「・・・・・いや、少し後悔してるだけだ」
「ふふ、銀さんも後悔するんですね」
「ああ。妖怪だろうと何だろうと変化はするもんだ」
「そうですね。銀さんも変わりま」
その時、ぐぅ、と阿礼の腹がなる。
阿礼は恥ずかしさで顔を赤くした。
「ははっ、何か持ってこようか?」
「・・・・・お願いします」
俺は小声で言う阿礼に「行ってくる」と言い、部屋から出た。
◆◆◆◆
私は知りたがりだった。
切掛は古事記の編纂に関わった事だったけど、今では成る可くしてそう成ったんだと思う。
数年前に出逢った『ナイアルラトホテップ』・・・・・いえ、"銀さん"は「ああ。当分暇でな・・・・・対価と言っては何だが用心棒を雇わないか?お前、絶対要らんことに首を突っ込むだろう?」と言ったけれど、その通りだと思う。
今思い返せば銀さんが居なかったら死んでいた場面は両手の指で数えられない程ある。
・・・・・流石に妖怪の山に物見遊山に行ったのは不味かったと思う。
銀さんには「馬鹿なのか?!・・・・・ったく、しょうがねえ。俺から離れるなよ」とか言われたっけ。
あの時はどきどきしたなぁ。
ルーミアちゃん曰く「ニャルは女誑しなのだー」と。
昔もらった日記に書いてあっただけで少なくとも
・・・・・ルーミアちゃんも誑されてるのね。
私も誑されて無いと言ったら嘘になるけれど。
でも・・・・・私と銀さんでは時間の長さが違う。
それに私は短命だ。
もう十も生きられるかもわからない。
少し前に銀さんが居ない時に会った龍神様の言っていた私の短命の原因にもなっている能力、【一度見た物を忘れない程度の能力】。
龍神様は「貴女は、役目のために、転生する・・・・・能力でも記憶は、
輪廻転生、か。
あくまで可能性。
だけど、少し勿体無いから。
魂が巡るというのなら本質は同じ筈。
きっと私は銀さんに好意を抱くだろう。
記憶は繋ぐ。
後は次の私が上手くやるでしょう。
なにせ相手は銀さんですから。
こうしちゃいられない。
今直ぐ家の者たちに転生のことを言い含めて・・・・・いえ、伝説や言い伝えのような形の方が良い。
それなら・・・・・
◇◇◇◇
「銀さん、お願いがあるんです・・・・・けほっ」
阿礼が真面目な顔で切り出す。
何かと読み返していた手帳を閉じて彼女の方を見る。
「私を抱いて下さい」
冗談か?
・・・・・良く見ても本気のようだ。
「老い先・・・・・というより余命が短いですし、銀さんには私を誑した責任を取って女にして貰おうかなと」
「はぁ・・・・・誑した自覚は無えが、お前が言うのならそうなんだろう・・・・・後悔しねぇな?」
「はい。銀さんが女の敵なのは重々承知してますし、命短し恋せよ乙女といいますし・・・・・好きですよ、銀さん」
「ったく・・・・・」
銀は阿礼を抱き寄せ、人払いの結界を張る。
そしてゆっくりと二人の影は近づいて行き・・・・・
◆◆◆◆
―――酷く滑稽だな、ルイン
ああ、全くもってその通りだ。
自分でも可笑しいと思うレベルだ。
・・・・・だが、悪く無い。
―――ふっ、あの時の『人形』が『人間』に成るとはな
『人』との『間』と書いて『人間』か。
言えて妙だな。
―――ああ、全くだ
―――貴様は漸く『ワタシ』という補助輪を外し、『ルイン / ナイアルラトホテップ』という"自己"を確立した
――それもまた、貴様が『他者』との『関わり』を持ったからだ
珍しく喋るな。
ん?
補助輪・・・・・そうか、お前は『
―――ああ、お別れ、というやつだ
―――ルイン、貴様の生き様はとても愉快だったぞ
―――ワタシは今、柄にもなく貴様がこの先
―――さらばだ、
・・・・・俺の中で何かが砕ける音がした。
ああ、じゃあな、
『
きっと・・・・・いや、死ぬまでお前のことは忘れねえよ。
―――・・・・・
―――
◇◇◇◇
「・・・・・銀さん、コレを」
阿礼が銀に一冊の本を渡す。
「コレは?」
「私の日記です・・・・・次、会うまで預かって置いてください。必ず・・・・・戻ってきますから」
「・・・・・ああ、待ってる。約束だ」
「はい・・・・・約束で、す・・・・・」
阿礼の身体から力が抜けて、身体が傾く。
ぽすりとソレを受け止めて言った。
「おやすみ、阿礼」
阿礼が再誕することは無かった。
『神式 銀(阿礼が考えた)/ ナイア』
阿礼によって『人間』の側面を獲得した。■■■風に言うなら『人間』に成った『人形』。ルーミア曰く「前より柔らかく笑うようになった・・・・・美味しそう」とのこと。■■■がルインの魂に完全に統合されたことで『人で在り、人成らざる者』となった。阿礼の手記には強力な状態保存を掛けている。
『稗田 阿礼』
ナイア・・・・・銀との関わりで本来よりも少し活発になった。享年二十八。古事記の編纂に関わったのは十八の頃。天才少女だった様だ。稗田の家に手記(ある程度書き換えた)と一つの言い伝えを残した。『太古の旅人』(ルインの手記を物語のように書き直したもの)の作者。
『龍神』
ナイアが居ないうちに阿礼に接触し阿礼に能力と役目を教えた。そろそろ長い眠りに着きそう。星の神秘は薄れ、母の支えは要らなくなる。その時は近い。
『■■■』
彼の魂に溶け込んだ彼女は謳うだろう。祖に呪いあれ。人の世に呪いあれ。だが、彼に幾許かの祝福があっても悪くはないだろうと。
・・・・・俗に言うツンデレ。