ジャガ転!陰の傍観者になりたくて!   作:越路遼介

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第二話 ジャガの側近は、まさかのあの人

「初めまして、まぐろなるどのメニュー開発担当のニコルと言います」

ニコル、彼女のガーデン内の名前はニューだ。本名のニコレッタの名前を少しアレンジしたようだ。

 

ここはミツゴシ商会内に在る『まぐろなるど』の応接室、連日大賑わいの同店。

そこにイモ男爵家の次男ジャガが新メニューのプレゼンに訪れていた。

 

「僕はイモ男爵家の次男ジャガです。本日はよき機会を与えていただき感謝いたします。我が領地の特産品である芋料理をまぐろなるど様にお使いいただきたいと思い参りました」

 

当然ニューはジャガがシドの学友と言うことは知っている。

本来なら彼女自身も魔剣士学園に通い、学生同士としてジャガと会っていたのかもしれないのだから。

それにしても聞いていた印象と違う。意中の女生徒に告白してストーカー扱いをされたそうだが、今の彼は何とも堂々としたものではないか。

 

「これはミツゴシ商会の新商品、フライヤーによって当家で生まれた料理なのですが早速実演してもよろしいですか」

「ええ、よろしくお願いいたします」

 

ジャガの補佐をしている女性もいる。実演調理にかかった。

ニューはかつて在籍した魔剣士学園で見た覚えがあった。だが軽率に『貴女、〇〇さんですか?』と訊ねるわけにはいかない。それを言うことは、元の自分が元侯爵令嬢ニコレッタ・マルケスと言ってしまうようなもの。

その女性も自分をニコレッタではないか、と思いつつ黙っている可能性もある。お互い知らぬふりがいい。

それにしても調理の手際がいい女性だった。ニューと共に席に在ったシャドウガーデンの少女たちも美味しそうな匂いに興味津々だ。調理をする女性を横にプレゼンを続けるジャガ。

「ニコル様もご存じでしょうが、当男爵家の領地の特産品であるジャガイモとサツマイモ、共にミドガル王国で九割以上のシェアを誇ります」

「はい、存じております。特にサツマイモは栽培が難しいと」

「先祖の苦労によって現在の我らの暮らしがあります。しかし年によっては豊作すぎて困ることも。それを打開すべく今回の席を設けていただきました」

 

「ジャガ様、出来ました」

「ありがとうございます。さあニコル様、これが『ポテト揚げ』でございます。味付けは塩だけです」

フライドポテトのことだ。

「いただきます」

一口食べるや、もう止まらない。続けて『ハッシュポテト』『ポテトチップス』サツマイモを使ったスイーツ『大学芋』『スイーツポテト』を調理して見せた。

ちなみにシドへ他に転生者が、ということが露見しないよう、料理名はこの世界に添った名称に変えた。

どれも大変美味で

「すべて採用させていただきます。レシピの金額、そしてジャガイモとサツマイモの仕入れについて取り決めましょう」

「ありがとうございます。ミリアさん、君の調理の腕が良かったからですね。まぐろなるどの方に伝授をお願いいたします」

「分かりました、ジャガ様」

 

名を聞いてニューは思い出した。やはり、かつて魔剣士学園で見たことがある子だと。話をしたことは無かったがブシン祭の決勝に出場した父親に、これでもかというくらい声援を送っていた、あの女の子だと。

(生きていたのね…。アルファ様が止めを刺したと聞いたけれど)

 

だとしたら彼女を救ったのは誰なのか。悪魔憑きの暴走は、もう救う術は無いと聞いた。

ジャガは男爵家を代表してミツゴシに訪れているのだから従者がいて当然だが、ミリアはジャガ個人の部下に見える。もしや彼なのか。シャドウガーデンすら有していない暴走状態となった悪魔憑きを解呪する方法を知っていると。

新メニューより、ニューはジャガに興味を持った。もしや彼も主人シドと同じく通常時は一般人として振舞うことを自らに徹底しているのではないか。調べる必要がある。

 

 

「いやぁ、全部採用されて良かったです」

ミツゴシ商会を出たジャガ、連れてきたミリアの手を取って大感謝だった。

「元々ジャガ様が考案した料理ではないですか」

前世、芋川一平は料理が上手で現世のジャガにも反映されている。

しかし、調理法を教えたらミリアの方が上手に出来た。

 

「それと…ニコルという方ですが…」

「はい」

「おそらく私に気づいています」

「でしょうね…。でも僕には君しか部下がおりませんから…」

シャドウガーデン側にミリアの生存が露見するリスクはあると思ったものの、他に人がいなければ選択の余地もなかったわけだ。

 

今回のまぐろなるどへの販路獲得は、イモ男爵家からの課題だった。多大な利益をもたらせば自由にしていいということ。次男坊は長兄に仕えるもの。この束縛から解き放たれる。

どこかから拾ってきた少女と一緒になるのも良い。無駄に広い男爵家領内の未開地を開拓するもよし。とにかく自由、勘当ではなく男爵家の名前を使うことも許される。父母や兄との縁が切れるわけでもない。結婚式には招待できるし、子供が生まれれば会いに行くことも。

 

まぐろなるどとの、その後の話は父と兄が継承する。もうジャガがすることは何もない。今回の利益によって、少しの小遣いを得るだけだ。

少年期からの盗賊狩りにより、ジャガは十分な資産も有している。少女一人を養えるくらいに。

 

「ジャガ様、つけられています」

「うん、そうですね。何故でしょう」

「悪魔憑きの暴走状態を解呪する方法…。それをジャガ様が有しているかもしれないと考えたのでは」

「困りましたね。あれは教えようがないのですよ」

 

暴走して巨大化したミリアの悪魔憑きそのものを解呪したのはアルファであるが、命は救うことは出来ずに、そのまま立ち去った。ミリアを幾度も切りつけたアイリスも去った。その後にジャガは現場にやって来た。

 

シドにとってアルファの立ち位置になる仲間が欲しかったジャガ、しかも物語に全く影響を及ぼさない人物でなくてはならない。小説内容の改変は絶対に避けたい。

Web小説版の『陰の実力者になりたくて!』では再登場するミリアであるが、原作小説では最新刊の五巻に至るまで再登場はしていない。五巻のラストからWeb小説版のミリア再登場のシーンに繋がるとは考えにくく、ミリア救出を決めた。

 

元は悪魔憑きであったミリア、英雄の子孫である証だ。快癒後に力を与えて訓練をすれば強くなると見込んだジャガ。

死亡状態だったミリアを気功のエネルギーを発する手で行った心肺蘇生法で甦らせて連れ帰った。それだけなら衰弱していたミリアは再び亡くなってしまっただろうが、ジャガの前世芋川一平が有する自衛隊救命士という、多くの人命を救った高度な医療知識と経験によりミリアは快癒に至る。

ジャガが教えようがないと言ったのは、そういうわけである。気功と令和日本の現代医学によってミリアは救われたのだから。

その後、ミリアはジャガの期待に応えて、頼りになる側近として在る。

 

「私が対応します」

「任せます。僕は男爵家の王都屋敷に戻っていますので」

「はい」

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

路地裏に入ったジャガとミリア、ニュー率いる三名のシャドウガーデンもその路地裏に入るとジャガの姿はなく、ミリアだけが立っていた。

「どうされました。ニコル様」

「…………」

仮面を着けているのに、あっさりと見破られた。

「いえ、お久しぶりですね。ニコレッタ様」

ニューは観念して仮面を外した。

 

「ええ、お話したことはなかったけれど清楚なお顔に似合わない、お父様譲りの強き剣を振るう人として貴女のことは覚えていました。ミリア様」

「お譲りしたレシピに何か穴でもございましたか?」

「いいえ、他に用件があります」

「なんでしょうか」

「貴女は誰に命を救われたのですか?」

「…………」

「貴女は先のアレクシア王女誘拐に端を発する、あの事件のさい、巨大化して暴れていました。それを我らの長が一閃して悪魔憑きから解呪しました。しかし命までは救えなかった」

「そうですね。名前は存じませんが優しく慈愛に満ちた剣で私を斬ってくれました。今も感謝しております」

「巨大化が解けた時、すでに死亡状態だったはずですが…」

「仮死状態だったのです。あの王都の大混乱のなか、避難中のジャガ様が倒れる私を見つけて弔ってやろうと思い、抱き上げたところ蘇生した。それだけです。私を斬って下された方のような特別な技は使っておりませんし、ジャガ様はそんな器用な方ではありません。たまたま私の運が良かっただけなのです」

「…それを信じろと?」

「信じるが信じまいが、それが事実です。行く当てがなかった私はジャガ様に拾われて、現在はお付きの使用人として仕えております」

「…………」

「さあ、もうよいでしょう。私はお屋敷に戻らなければなりません」

「「ニュー様」」

ニューと共についてきたシャドウガーデンの少女二人、ニューに判断を仰ぐ。

「…行かせなさい」

「「はっ」」

ミリアはニューとすれ違う時、

「貴女たちのリーダーにお伝え下さい。道を違えざるを得なかった父オルバを止めてくれてありがとう、と」

「…伝えましょう」

 

 

一方のジャガ、イモ男爵家の王都屋敷に帰ったところ使用人たちが何やら涙ぐんでいた。

「どうしたのですか?」

執事に問うも、泣きじゃくり話にならず

「だ、旦那様のお部屋に。お呼びにございます」

何なんだ、と思いつつも父の部屋へと歩くジャガ。

 

「父様、ジャガです」

「入れ」

兄のサツマもそこにいた。

「父様、兄さん、まぐろなるどとの交渉は大成功です。当男爵家のジャガイモとサツマイモを大量、かつ継続して仕入れてくれるとのことです」

「「そうか…」」

 

「…父様、兄さん、どうしたのですか。今後イモ男爵家はミツゴシと共に繁栄を…」

「お前と一緒に、その繁栄を見られぬのであれば意味などない」

「…兄さん、それはどういう…」

「お前に出兵の命令が出された」

父のフカシより渡された書を手に取ったジャガ、オリアナ王国に宣戦布告、出兵するため三日以内に参陣するよう、そう記されている。

「な…」

 

原作小説ではオリアナ王国が聖教より異端国家とされて、世界を敵に回したこと。彼が前世で読んだ『陰の実力者になりたくて!』は、その時点まで記されている。今はその後だ。オリアナは四面楚歌の様相だが、かつてオリアナに攻め寄せたベガルダ帝国さえ出兵は見送っている。その理由は

「馬鹿な…。ミツゴシ商会を敵に回すことになります!」

 

たとえ世界を敵に回してもミツゴシ商会がオリアナの味方についている。

もはや世界の経済を牛耳る存在となったミツゴシ、莫大な資産を有する巨大組織。

どんな強力な魔剣士や最新兵器を有しているか分かったものではない。

もちろん、小説でミドガルとオリアナが敵対関係になったことは知っている。現実そうなった。しかし

(この状況で出兵しますか普通。ミツゴシが撤退したらミドガル王国は経済破綻を起こすというのに…)

 

アイリス王女が持つシャドウ憎しの心、これを側近となったハブという男に利用されたのだろう。教団にとってはミドガル王国が滅ぼうと関係ないのだから。

 

ミドガル王国には現在暗雲が立ち込めている。二度のテロ攻撃を受けた魔剣士学園が事実上の閉鎖となったこと。嘘か真か、アイリス王女が父王クラウスを幽閉したうえ、妹のアレクシアと対立しているとか。

(とにかく、ここからは僕も知らない『陰の実力者になりたくて!』ですね…。どうなることやら…)




やっぱり、ミリアは助かって欲しいので前作に続き登場してもらいました。
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