ミドガル王国軍、オリアナ王国に出兵。
その兵の中にはシド、ヒョロ、そしてジャガもいた。
「よいか!我が国はオリアナ王国と同じ天は仰がぬ!」
出陣前、ミドガル軍にアイリス王女の演説が始まった。シドは欠伸をしている。ジャガはアイリスの顔を見て
(だめですね、あれは…。完全に闇落ちしています)
隣で二度目の欠伸をしたシドに
(誰のせいと思っているのだか…)
ブシン祭のあと武神ベアトリクスとアイリス、二人がかりでシャドウに挑んでも全く歯が立たずに敗れた。アイリスは怒りと屈辱のあまり拳を地に叩きつけて悔し涙を流して泣き叫んだ。
そして後日、ディアボロス教団のことを報告に来たアレクシアに対して『そんなものは存在しない、すべてシャドウガーデンが作り出した偽の情報』と一蹴してしまう。
父王クラウスを幽閉したというのは本当だったようだ。色々と教団がアイリスに手を貸しているのだろう。まさに傀儡状態だ。
そして驚いたことにアレクシアはオリアナに亡命した。
もう滅茶苦茶ではないか…。ジャガの戦意は低かった。
「シド君、君のお姉さんはアイリス様を止めなかったのかい?」
「止めたそうだよ。そしたら反逆罪だと言われたそうでカゲノー男爵家に逃げてきたよ。ちなみに出兵は拒否」
「はあ、素晴らしい情報感謝いたしますよ…」
「手柄立てて出世したら女にモテモテだなぁ!」
ヒョロの脳天気ぶりが羨ましいジャガだった。
「悪しきオリアナと手を結ぶ、王国の怨敵シャドウガーデンを討つ!」
「「おおおおおおっ!」」
アイリスの演説が終わった。いつシャドウガーデンとオリアナ王国が手を結んだのだ。小説情報でそれは知っていたが現実では初耳のジャガだった。
ミドガル軍、オリアナ王国王都に向けて進軍を開始。
ジャガも一兵卒として行軍するが、出陣前にミリアへ密命を与えていた。ミドガル軍幹部に潜んでいるかもしれない、ある男を探しておくように、と。
「あれ、シドがいねえぞ。またトイレか、あいつ」
ヒョロが言った。兵の中からシドが消えたということは…。
先行隊からアイリスに伝令が来た。
「前方に六百から七百の兵団がおりますっ!装束からシャドウガーデンと思われます!」
ミドガルとの国境を越えてシャドウガーデンがミドガル軍を待ち構えていた。
それはそうだ。いまだ王都はモードレッドが発した黒キ薔薇によって破壊され復興中。そこを攻め込まれたらたまったものではない。ミドガル領まで出張ってくるのが当然だ。
そしてシャドウカーデンの最前列中央にはシャドウの姿が。この時点でミドガル軍は詰みだ。どんな大兵力があろうと彼のアトミックの前では意味すらない。
女王ローズも前線に立っている。
総大将であるアイリスが
「全軍かかれーッ!」
と号令、ミドガル軍の魔剣士たちが突撃を開始、ヒョロとジャガも出る。そして
「ぐあああっ」
あっさりとジャガは討たれた。
「ジャガ!ちくしょう、この女たちめ!俺が本気を出せば世界が崩壊…ぷげっ!」
ヒョロも討たれた。シャドウガーデンの美しい魔剣士の胸の谷間に気を取られて、それはもう、あっけなく。
それから間もなくジャガの亡骸が消えた。一兵卒のモブである彼、戦闘の喧騒のなか、それに気づく者は誰もいない。
だが、しばらくしてアルファの元に
「ミドガル軍にスライムスーツを着て我らと戦っている者がおります!」
「なんですって?」
スライムスーツは門外不出の魔力操作、漏れたとしても、そう真似が出来るものではない。
報告によると深紅のスライムスーツを纏いし武人、棒術を使い、シャドウガーデンの女たちを鎧袖一触するほどの戦闘力を有していると。
「面白い…」
シャドウが前線に出た。深紅の武人が立ち、シャドウガーデンの女たちが何十人も倒れていた。
「お前たちは戦闘不能の者を担いで下がれ」
「「ははっ」」
「君がシャドウですか」
「そうだ」
「僕はレッド」
「なぜ女たちを殺さない?」
「後が面倒だからですよ。シャドウガーデンの女性たちは結束が固く、一人でも殺したら、この戦争が終わってもしつこく狙われてしまいます。割に合いません」
「単なるお情けではないということか、面白いな」
「だが君は別です」
スライムランスを構えたレッド、シャドウもスライムソードを出した。
「お相手しよう」
その時…
「見事です。我が軍勢に貴方のような武人がいるとは…私も加勢…」
アイリスがミスリルの剣を抜いて、その場に来た。
「引っ込んでいなさい、邪魔です」
「な…」
「なら、私がお相手いたしましょう、アイリス様」
「ローズ・オリアナ…。貴女が私に勝てるとでも?」
「ええ、そんな哀れな剣、私の敵ではありません」
シャドウとレッドの一騎打ち、それはアイリスとローズ以外の者が息を飲んだ。
(この男、強い…!)
シャドウは心の底から驚いた。これほどの武人がいたのかと。前世影野実が知らない格闘術をレッドは体得している。自衛隊格闘術である。これは一般に道場やジムはなく自衛官にならなければ体得できないもの。
しかもレッドの前世芋川一平は短剣格闘術の達人だった。槍から転じてスライムナイフを持ちシャドウを圧倒していく。多勢を相手にする時は槍か棒、しかし一対一ならナイフの方がよい。そして、ついにレッドのナイフはシャドウの胸部を貫いた。常人なら即死だ。
シャドウは心臓の位置をわずか変えられて致命傷は避けられる。この程度では死なないと分かっているレッド、ナイフを抜くや
「オーラ・バースト!」
「なっ!?」
レッドの両手に気功のエネルギーが圧縮されていた。闘気の塊がシャドウの胸部に叩き込まれて吹っ飛んだ。これは戦闘中だったローズとアイリスも驚いた。すぐに七陰、ニュー、ラムダ、ウィクトーリアがレッドに襲い掛かったが
「オーラ・ストーム!」
両手を空に掲げ、気功を集中、それを地に叩きつけると爆風が生じ、七陰たちも吹っ飛んだ。
「魔力じゃない!?」
スライムスーツが焦げている。さすがのアルファも理解できないエネルギーの威力に戸惑う。その時、
「うがああああ!」
起き上がったデルタ、怒りに我を忘れてレッドに飛び掛かるが
「やめなさいデルタ!バラバラに戦って勝てる相手じゃない!」
アルファの制止は間に合わず、レッドはデルタの強烈な爪撃を受け止めて、そのまま腕を取って関節を極めて投げ落とした。右肘と右肩、粉砕骨折、あまりの激痛にデルタは叫んだ。
「がああああっ!んがあああ!」
地にのたうち回るデルタ、シャドウガーデン最強の戦士デルタがまるで相手にならない。
「やるな…」
シャドウ、全くの無傷だった。彼の後ろに七陰が立ち上がり隊列を整えた。デルタは右腕を押さえたまま辛うじて立ち、呼吸荒くレッドを睨んだ。
その時に密命を与えていたミリアが戦場にやって来た。
「レッド様」
ミリアのスライムスーツはレッドとは違う白で統一されて、赤と金のラインが入った鮮やかなものだ。そして一人の男の首根っこを掴んでいる。
再び攻撃に出ようとしたシャドウと七陰を制し
「戦うのもいいですが、その前にお話があります。七陰が一人、金豹族のゼータとは貴女のことですか?」
「…?そうだ」
「この男に見覚えがありませんか?」
「…ッ!」
ゼータは体を震わせていた。忘れたことは無い、あの男。
「ペトス…!」
「聖教の司祭、そしてディアボロス教団ラウンズ第十席ペトス…。ゼータ殿、貴女のご家族、そして金豹族すべての仇で間違いありませんね?」
ゼータは顔を紅潮させ、怒りに震えながら答える。
「…ああっ、間違いないっ!こいつの顔…忘れたことはないっ!」
「影武者ではない裏取りも出来ています。で…見ての通り、僕の部下がかなり痛めつけましたが息はあります。条件はこの場で手打ち、ミドガル軍とシャドウガーデン互いに退く。追撃もなし。そうしてくれればゼータ殿にこの男を渡します。飲めないのであれば僕の部下がこの場で殺します」
「いいでしょう。その条件飲みます」
「アルファ様…」
即答したアルファに驚くゼータだった。
「ごめんなさい、シャドウ…。ゼータの家族の仇というのもあるけれど、この男から情報も得たい。いま彼の部下に殺されては困る」
「好きにするがいい。あとは任せる」
「はっ」
「レッド殿」
強敵には敬意を払う。これも中二病の特徴だ。
「ん?」
「また会おう」
シャドウはデルタの右腕をその場で治し、そのまま歩き去った。
「待て、シャドウオオオ!」
アイリス王女がローズの一瞬の隙をついてシャドウに突進した。しかし
「うあっ」
レッドが当て身を食らわせて意識を奪い、アイリスを肩に担いだ。
「ホワイト」
「はっ」
『ホワイト』ミリアがレッドの元で戦う時の名前のようだ。ペトスの首根っこを掴んで引きずり、ゼータの前に放った。ホワイトは
「…この男ほど悪魔憑きとその家族に対して惨いことをしてきた者はいない。楽に殺すんじゃないよ」
「言われるまでもない…。生まれてきたことを後悔するほどの地獄を見せてから殺してやる!」
「相手を取ってしまい、申し訳ございません。ローズ女王陛下」
「いえ、かまいません…。ところで貴方は…」
「ミドガル雇われ兵レッドと言います。アイリス王女を無事に連れて帰るよう、命令を受けていますので」
「アイリス様の噂は聞いていましたが…驚きました。これほど歪んでいたとは…」
ローズはレッドに担がれているアイリスを見つめ、そう言った。
「歪んでしまった剣でしたか」
「ええ…」
「貴女にはシド君がいた。彼女にはそんな存在はなかった。それだけですよ」
シド君のことを知っているのか、ローズは一瞬驚くも微笑み
「そうですね…。彼がいなければ私もどんなに歪んでいたか…」
「ともかく、この勝利でオリアナの国民が貴女を見る目も変わりましょう。次は味方としてお会いしたいです」
「はい、その時までご達者で」
レッドがアイリスを肩に担ぎ、そのままミドガルへ引き上げる。
総大将が戦闘不能となり戦線離脱、相手のシャドウガーデンも退却したのでミドガル軍も退却を開始。マルコ・グレンジャーが全軍を率いて王都へと帰還するのだった。
マルコはいつもアイリスの横で傲岸不遜に振舞っていたハブという男が見当たらず、調べてみたらシャドウガーデンに連れ去られていたことが判明した。
後日、王都で死体となって吊るされることになる。
アイリスを担ぎながら歩くレッド、一度だけ振り向き
(ゼータ、もう時系列的にシャドウガーデンを裏切り、ウィクトーリアと共にシド君を神にするため動き出しているはず…。今回、アルファに粋な計らいをされたものの、それでも、もう後戻りはできません。これからどうなることか)
その後、何食わぬ顔でシドとジャガは退却中のミドガル軍に戻っていた。
「大丈夫ですか、ヒョロ君」
シャドウガーデンに斬られたヒョロは生きていた。彼はジャガとシドに左右支えられて何とか歩いている。
「ケッ、あんな女ども俺が本気を出せば空の彼方に吹っ飛ばして…いたた」
シドは事前にシャドウガーデンへジャガとヒョロは見逃してやれと言っていたのだろう。『やられたー!』と思っても、気が付けば浅手だった。
「はいはい、頼もしいですね。次にこんな機会があったら頼りにしていますよ」
「おう、任せておけ。おい、シド、そんなに揺らすなよ。もっとゆっくり」
「うるさいやつだなぁ、分かったよ」
(うんうん、引き上げる軍勢の中で戦友を支えて歩く今の構図、何かモブっぽくていいね)
幽閉から解かれた父王クラウスはミツゴシ商会に仲介役を要請してオリアナと和睦に至る。会長ルーナが立ち合っていたので公式の扱いとなる。
アイリスは廃嫡となり、オリアナから帰国したアレクシアが次代国王に選ばれた。
“ディアボロス教団など存在しない。すべてシャドウガーデンが仕立てた偽りの組織”
アイリスはこれを信じてしまった。あのブシン祭の日、ジミナ・セーネンに化けていたシャドウに試合では何も出来ずに敗れ、その後正体を現したシャドウに武神ベアトリクスと二人がかりで戦っても、まるで相手にならなかった。アイリスはプライドを捨ててアーティファクトであるミスリルの剣で挑んだというのに。
そして見たシャドウの巨大な魔力、王都一帯を魔力のドームで包んだ。人智の及ばない魔力と強さに屈したアイリスは悔しさと怒りで感情が爆発して泣き叫んだ。
シャドウ憎し、その感情をディアボロス教団にまんまと利用されてしまったアイリス。アレクシアが知らない間に妙な側近が就いていた。
そしてディアボロス教団に関する資料を持って報告に訪れたアレクシアに、そんな教団は存在しないという証拠の数々を目の前に示した、その側近。名はハブと言った。
アイリスはその男の言う耳に心地よい言葉を盲信してしまう。
これはアレクシアだけではなく、アイリスの父クラウス国王も危険と思い、幾度か説得するもアイリスは聞く耳を持たなかった。それどころか『ここに至っても事なかれ主義か』と父王を幽閉してしまう有様だった。
そのハブはシャドウガーデンに討たれ、改めて戦後にアイリスが知った真実、ディアボロス教団は存在し、自分はその教団に踊らされていたこと。聖教より異端国家とされたオリアナ、その聖教がすでに腐敗の極みに在り、ディアボロス教団と繋がりがあること。
オリアナ王国に宣戦布告をして戦争を仕掛けても戦果は皆無、謎の男レッドの活躍もあってシャドウガーデンを相手にして兵の損失が一割にも満たなかったのは上々とも言えるが、国民はそんなことを理解しない。
身勝手に戦争を起こして前途ある若者たちが命を失い、税金の無駄遣いをしただけではないか。
廃嫡、そして悔恨と自責の念からアイリスの心は壊れた。別荘とは名ばかりの廃屋に幽閉されることになったアイリス、彼女は廃人となってしまった。
さらに最悪なことは重なった。アイリスが悪魔憑きを発症したのである。
「きゃはっ、きゃははははは!」
気が狂ってしまったアイリス、そこへ
「やはり最初に出てくれたSSRキャラは見捨てられませんね…」
マスターオブガーデンのガチャで最初に出てくれたSSRがアイリスと言うのは、実は私も同じだったりします。