憑依in実験体のアビドス生徒   作:改名

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今回の番外編は短編です。
上手く纏まれば、前編・後編。長くなれば、前編・中編・後編になりそうですねェ。
こういう世界もあったら面白そう、て感じで書きました。

一応、本編のネタバレ要素があるので新規様はご注意を。
ではどうぞ!


番外編
ユメ先輩が謎のDVDを拾った世界(前編)


 

 

 

 

 

「『斑目ユウの物語』……?」

 

 

 

 アビドス高等学校の生徒会室で、困惑した声が発せられる。

 

 机に置かれているのは、『斑目ユウの物語』と書かれたDVDだった。普通のケースに収められている、何の変哲もない白いDVD。

 

 一度手に取り、全体を見回し危険性がないことを確認したホシノ。

 眉頭の皺が深くなる彼女に、そのDVDを持ってきたユメはおろおろとしていた。

 

 

 

「もしかしてユウくん、ストーカーにでもあってるのかな……?」

 

「……ネーミングセンスはどうかと思いますが、考えられなくはないですね」

 

 

 

 斑目ユウの物語。そういった記録とも読み取れる。

 

 彼は最近、船を漕ぐ姿や目を開けて何とか眠気に勝とうとする姿が頻繁に見られる。

 さらに目の下に出来た隈。これだけの要素が揃えば、斑目が十分な睡眠を取れていないことは明白であった。

 

 

 そしてその原因として、ストーカーによる精神的負担というのは普通にあり得る話だ。

 

 

 

「ユメ先輩。これはどこで拾いましたか?」

 

「校門の前。隠されていたわけでもなくて、普通に置いてあったの」

 

「……斑目の狼狽える姿を見たかったのかもしれませんね」

 

 

 

 または、ずっと見ている。というメッセージだろうか。傍迷惑な話だ。ホシノは不快気に舌を鳴らす。

 

 彼女程ではないが、ユメも思うところがあるらしい。胸の前で拳を作り、目には力が入っている。

 

 

 

「……犯人を捕まえよう、ホシノちゃん。早くユウくんには、安心してもらいたいもん」

 

「私も一緒です。だから」

 

 

 固い声のユメに対し、ホシノも同様のトーンで返す。

 そしてDVDを手に持ち、廊下の方を指差した。

 

 

「ユメ先輩、視聴覚室に行きましょう。このDVDに、犯人に繋がる何かが残っているかもしれません」

 

 

 

 こうして、ホシノとユメは視聴覚室へ向かう。

 被害者である斑目には、一先ずこのDVDの存在を知らせるべきではない。だから彼を巻き込まず、二人で解決することにした。

 

 

 二人はまだ知らない。

 

 

 

 

 

 このDVDに記録されたものが、彼女達の予想を遥かに超える代物だということを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 視聴覚室にある一台のパソコンに、DVDを挿入する。

 特にパソコンに害が与えられた様子はない。再生も問題なく出来そうだ。

 

 やはりこれは、再生されることを目的としてるもの。そう考えられる。

 犯人は斑目ユウ本人に見てもらいたかったようだが、そうはいかない。

 

 

 

(望み通りになんてさせませんよ。私達がいる限り)

 

 

 

 ふん、と鼻を鳴らしホシノは再生ボタンをクリックする。

 彼女から見た犯人像は、自己顕示欲が高い人物だ。無意識に映像の中に映り込む可能も十分に考えられた。

 

 それを足掛かりにして、必ず捕まえてやる。

 

 ホシノは画面を食い入るように見た。小さな異変一つすら、見逃さないように。

 隣に椅子を寄せて座っているユメも、ホシノを真似るように目を凝らす。

 

 

 映像が始まった。

 『斑目ユウの物語』。黒い背景の前に白文字の大きなテロップが出る。

 

 その数秒後、日記が映されると同時にそのページが捲れた。

 

 

 

 

 

──ユメ先輩は優しい先輩だ。いつも笑顔で、体力がない僕を気にかけてくれる。

 

 

 

 画面の下に日記の文字が現れる。

 同時に背景には、映像が流れた。

 

 校内に溜まった砂の掃除で、服を汚している斑目。彼が任されたスペースは、ホシノやユメが担当する箇所より遅れているようだ。

 

 息を乱しながら額を拭う斑目。そんな彼に近付いたユメは、笑顔で水分を差し出した。

 

 

 

 ユメの背筋に冷たいものが走った。

 それでも、映像は流れ続ける。

 

 

 

── 小鳥遊さんも優しい。ちょっと顔が怖いけど、さり気なく気遣ってくれてることが分かる。いつも物を持つ時、僕より小さい身体で優先して重い物を持ってくれてるし、戦闘に巻き込まれそうになれば、文句を言いながらも助けてくれる。

 

 

 

 今度の映像は、ホシノと斑目を主としたものだった。

 斑目の視点から見たであろう、自分より大きな荷物を持って、隣を歩くホシノ。

 

 表情は険しいものだが、それでも決して斑目を置いていくことはなく、歩幅も合わしてくれている。

 

 映像が変わった。

 登校中に運悪く、斑目は戦闘に巻き込まれたようだ。

 ホシノはそれを見つけた瞬間、駆け出し彼の周囲にいた敵を一瞬で殲滅する。

 

 そして文句を言いながらも手を伸ばし、姉のように彼の手を引いて自分の学校へと戻る。

 

 

 

 ホシノの背筋にも冷たいものが走った。

 再生を一度停止すると、自分とユメの息遣いが荒くなっているのを認識する。

 

 

 

「何、これ……」

 

「ホシノちゃん。これ、違うよ……!」

 

 

 

 違うというのは、ストーカーが撮影したものということだ。

 それはホシノも理解出来た。

 

 

 おかしいからだ。カメラの視点が。

 

 

 映像はどれも心当たりのあるものだ。だがこの目で見た記憶が正しければ、この映像が撮れる位置にカメラは存在しなかった。

 

 

 まるで自分達には見えない、第三者によって記録されたような……そんな気味悪さだ。

 

 

 脳が警鐘を鳴らす。これ以上はまずい、もう引き返せなくなると。

 このDVDがストーカーのものではないと分かった。それでもう十分じゃないか。

 

 

 

「……続けますよ、ユメ先輩」

 

「っうん……!」

 

 

 

 だがホシノの指は、再びマウスを右クリックした。

 ユメもそれを止めず、恐怖を押し殺すように後輩の腕の袖を掴む。

 

 ストーカーが原因ではないことは分かった。

 それでも、彼は今苦しんでいる。この映像を見続ければ、その答えに辿り着けると思った。

 

 

 

──……僕も、少しは役に立ちたいなぁ。戦闘面でも、金銭面でも。

 

 

 

 表情を暗くさせる斑目の表情に焦点が絞られる。

 ユメから水分を貰った後、ホシノと荷物を持ってる間、ホシノに手を引かれ自分の高校へと歩いている時。

 

 僅かな間、俯いた斑目の表情が歪む。

 

 

 

「「っ……」」

 

 

 

 それを見て、ホシノとユメは息を呑んだ。

 表情の度合いから、なかなかに深刻な様子だった。

 

 それでもこの時の自分達は、彼の心情に気付いてあげられなかったのだ。

 過去の自分を恨む二人を置いて、映像は進む。

 

 

 

『斑目、無理しないで。私より力が弱いんだから』

 

『っはは……ごめん、小鳥遊さん。もうちょっと回数、増やそうかなぁ』

 

 

 

 自宅で必死にトレーニングに励む斑目。

 それでも結果は現れず、持ち上げられなかった荷物を軽々と持ったホシノに呆れられる。

 

 苦笑する斑目。映像越しに見るその表情は、酷く痛々しく思えた。

 第三者の視点で見たその光景に、ホシノの手に力が入る。

 

 映像が切り替わった。

 生徒会室で話す3人が映される。

 

 

 

『……ユウくんで人を集める?』

 

『はい! 調べてみたのですが、僕はこのキヴォトスで唯一の人間型男子生徒のようです。客寄せパンダのように、物珍しさに人が来てくれるかもしれません! それでアビドスを気に入って貰えれば、住人も増えます! 多分!!』

 

『『却下』』

 

 

 

 ユメとホシノが端的に言った。その声は固い。

 怒っているのだ。珍しく、ユメが眉を寄せて叱った。

 

 

 

『よく聞いて。先輩として、ユウくんが動物園の目玉みたいに見られる案は認められない。純粋に物珍しさに来る人だけとは限らないんだよ?』

 

『その希少性を狙う悪人もきっと出てくる。ヘルメット団に加えて、そいつらも相手出来る余裕はアビドスにはないし。そもそも、他の学区の奴等が今のアビドスを気に入るわけ……』

 

『ホ、ホシノちゃん! そこはほら、今後発展させていけばいいんだよ〜!!!』

 

 

 

 固まっていた空気が霧散した。

 子供のように腕を振るユメに、ホシノが溜息を吐く。

 後頭部を掻いて、斑目は苦笑してそれを見守った。

 

 

 

──だめ、かぁ。

 

 

 

 彼の心の声がパソコンから響く。

 短いその言葉は、深海のようだ。

 

 奥深くに、色々な暗い感情が詰められている。そんな声だった。

 

 知ろうとしなかった、もしくは知ることができなかった斑目の心象にユメとホシノは心が締め付けられる。

 彼はこんなにも思い悩んでいたのか。なのにどうして、気付いてあげられなかったのだろう。

 

 ユメがぽつりと呟いた。

 

 

 

「ホシノちゃん……」

 

「……はい」

 

 

 

 ホシノがそう答える。

 ユメはその小さな肩に、両手を添えた。

 

 

 

「もう少し、ユウくんを見てあげようね。私達」

 

「はい……一緒に、もっと斑目に目を向けるようにしましょう。ユメ先輩」

 

 

 

 このDVDを見て、大体の彼の悩みは分かった。

 劣等感。彼はそれに苛まれている。

 

 自分達と違い、彼の身体は脆い。だから負担を減らすようにしてきた。

 だがそれだけでは駄目だったようだ。

 

 結果的に、彼は余計に自分の非力を嘆いている。

 しかし、だからといって自分達のパフォーマンスを落とすわけにもいかない。

 

 そうすれば日々の厄介事に対して、時間も疲労も増えるからだ。

 もし斑目にパフォーマンスを落としていることが気付かれれば、余計に彼の心を傷付けることになる。

 

 だから、自分達のみで今後の行動を決めるわけにはいかない。

 ホシノが続けた。

 

 

 

「そして今後のことを話し合いましょう。3人で」

 

「うん!! ありがとう、ホシノちゃん!!!!」

 

「むぐっ!? く、苦しいので離してくださいっ!」

 

「むう。ホシノちゃんのいけずー」

 

 

 

 ユメが笑顔で頷き、大きく手を広げホシノに抱きつく。自分と同じ結論に至ってくれたことが嬉しいようだった。

 ホシノは照れながらも、その抱擁を引き剥がす。

 

 口を尖らせたと思えば、ユメはパソコンに目を向けた。

 その眼差しは優しいものだ。

 

 

 

「最初はストーカーのものかと思って、中盤は正直怖いと思ったけど……振り返れば、悪いものではなかったね。私達に、ユウくんの悩みを教えてくれたんだから」

 

「今後もこんな風に見られると考えると、正直堪ったもんじゃありませんけどね……。まあ、今回は特別に感謝しておきますよ」

 

 

 

 そう言って、ホシノはDVDの再生を終えようとする。

 斑目がそろそろ登校してから時間だ。早速迎えて、今後のことについてゆっくり話し合おうと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが彼女達は、思い違いをしている。

 

 

 

 

 

 

 

 確かに斑目は自分の無力さに苦しんでいた。

 しかしだ。

 

 

 

 最近、斑目の睡眠時間が不足している要因はそれではない。

 そのことに、ホシノが気付くのはすぐだった。

 

 

 

 停止しようとした瞬間、パソコンにその文字が現れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──帰り道、黒服の男に出会った。そいつは言った。条件を呑めば、アビドスの借金を減らしてくれると。

 

 

 

 

 ホシノの呼吸が止まった。

 映像と文章を視線で往復する。しかし、間違いではなかった。

 

 その者は、確かに自分が知る者だ。

 

 

 

 

 

 

「黒、服……っ」

 

「ホシノちゃん……? この人のこと、知ってるの?」

 

 

 

 

 

 画面の下に表示される日記の文章。

 そして映像で流れる、冷や汗を垂らして見上げる斑目とそれを見下ろす黒服の姿。

 

 掠れた声がホシノから発せられる。

 突如生じた後輩の異変に、ユメは心配した表情で彼女の小さな肩を揺すった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼女達による、今後の彼の物語の視聴。

 それはまだ終わりそうにない。

 

 

 




現在、パヴァーヌを読み進めております。
出勤の間にね。少しずつ。

ミレニアムプライスおめでとうからの、不穏な雰囲気にガクブルですよ……一体、何が起きるというんだァ……っ。ゲームに得体の知れないデータ入れて良かったのかぁ……!?

そんなわけで、当分番外編続きになりそうです。
よろしく!!!
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