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これで100話です!
我ながらよくここまで続いたものだ……。
ブルアカの魅力と、読者の皆様へ感謝……ッ。
斑目は先生と一緒に無我夢中で走っていた。
今のところ負傷はない。気になる点は水に濡れた服が重く感じるだけ。
一人だと危なかったと思う。
爆撃やら銃弾が飛び交うゲヘナ地区。
その中で比較的に安全に行けるルートを先生が探してくれたお陰だ。
二人の視界に目的地である、試験会場が目に入る。
「あ、あぅぅ……」
「試験会場は、こ、ここ……?」
そこには既に先客がいた。
ヒフミとコハルだ。バイクから降り、試験会場の建物を見上げている。
建物といっても廃墟ではあるが。
そんなことより二人の無事が嬉しかった。
自然と先生と斑目は駆け足となる。
「ヒフミさん! コハルさん!」
「二人共っ。無事でよかった……!」
「あっ! 先生! ユウも!」
「無事でしたか……! 必死になっているうちに、いつの間にかはぐれてしまいましたね……」
ヒフミが安堵の息を漏らした。
「良かったです……給食部の車が川にダイブした時は、もう終わりかと思いましたが……」
「ハルナ、親指立てながら沈んでたけど大丈夫かな……」
「親指立てる余裕があったので大丈夫だと思いますよ……こっちは死ぬかと思って必死でしたけど」
斑目は溜息を吐きながら言う。
車ごと川に落ちた際、フウカも先生も斑目も必死になって地上まで泳いだ。
だが美食研究会は違う。
日常茶飯事とばかりにそこまで慌てていなかった印象を受けた。
先述の通り、ハルナに至っては映画のワンシーンのように水の中へ沈んでいく程だ。
「あ、アズサとハナコは⁉」
「今到着した」
「お待たせいたしました♡」
少し遅れて、アズサとハナコが現れる。
前者はガスマスクを、後者はスクール水着を身に着けて。
その身体には黒い煤のようなものが目立っていた。
「えっと……」
「そ、そっちは何があったのよ……」
「特にハナコさんは、何故水着に……?」
ヒフミとコハルと斑目から向けられる視線に、アズサは一度頷くと。
「温泉開発部と風紀委員に包囲されたとき、ハナコの案を採用してこうなった」
「水着になって相手の動きを止めるとか……?」
「なぁ……⁉ エッチなのは駄目! 死刑‼」
「うふふ♡ 二人が考えているような作戦ではありませんよ。安心してください」
そう言って笑うハナコ。斑目は自分の考えを思い直した。
水着で相手の動きを止めるのは確かに難しいかもしれない。
想像でしか言えないが。
女性の立場からしたら、同性が急に水着になったとしても動きを止めるような衝撃や罪悪感、恥ずかしさは抱かないだろう。
「私は試験が迫る中、アズサちゃんと二人で二つの勢力を相手にするのは得策ではないと考えました。だから一先ず、協力関係を結ぶことにしたのです」
「スクール水着でですか……?」
「風紀委員は絶対に協力してくれないでしょ。正義実現委員会もそうするだろうし」
「はい。コハルちゃんの言う通りです♡ だから私は、まず温泉開発部に協力を持ちかけました」
「温泉開発部に水着で……?」
それでどうやって協力を持ちかけると言うのか。
温泉は裸で入るもので、水着はプール等で着るのが基本的な筈だ。
入る娯楽という点では同じだが、水と油のように反するものであるような気がする。
困惑する斑目にハナコは目を細める。その頬は紅く染まり、恥ずかしそうに身を捩らせた。
「ふふ♡ ユウさん、今、私が温泉に入っている姿を想像してはいませんか? 駄目ですよそんな、こんな場所で……」
「ユウ‼」
「冤罪です⁉」
「はい、ユウさんは冤罪です♡ だって温泉には水着で入ることも可能ですから。温泉に入る=全裸が全てではありません」
「え、そ、そうなの?」
コハルと一緒に斑目も驚く。
だが今そんな反応をすれば、想像したわけではないがハナコの裸を想像したという冤罪を補強してしまう。
斑目は落ち着きを取り戻したことで、段々とハナコの案の全容が見えてきた気がした。
「つまりハナコさんは水着姿になることで温泉好きをアピールして、一時的に温泉開発部の仲間になろうとしたわけですか」
「はい。その通りです♡ まあ結局、その案は使えなかったのですが」
「信用してもらえなかったんですか?」
ヒフミの問いに、アズサは首を振る。
「いや。上手くいっていたと思う。見た感じ相手も好感触だった。でもその直後、周辺で大きな爆発が立て続けに起こった」
「煙幕も張られまして……すると二人組の生徒が現れて、私達を包囲から逃がしてくれたんです」
煙に包まれ、シルエットしか分からなかったが印象に残る二人組だった。
『こ、ここは私達が何とかしますから……! お二方は早く、先生達と合流を……‼』
『そーそー。その代わり、あの子のことは頼んだよ♪』
一人は声は震え気弱そうながらも、握る散弾銃は震えていなかった。
もう一人は片手に大きなバッグを下げ、もう片方の手でひらひら手を振っていた。
恐らくゲヘナの生徒だと思う。だが名前も所属組織も分からない。
何故助けてくれたのかも分からないが、恩人だということは確かだった。
「何故、彼女達は助けてくれたのでしょう? あの子とは一体? うーん、気になる点が多いですね」
ぎくり、と先生は身を強張らせる。
情報が少ないので、ハナコが便利屋68に辿り着くことはないと信じたい。
だがハナコが僅かな情報から真実に気付いた例はある。
内心焦る先生だったが、それは杞憂に終わった。
「確かにその人達のことも気になりますけど、僕はこの試験会場のほうが気になりますね……」
「というと?」
「試験会場はこの廃墟の一階ですよね。見た感じ人の気配がありませんし、試験用紙とかどうするのかなと」
「成程。何かしらの手段は用意している筈だ。探してみよう」
斑目の疑問から話題が試験に移ったからだ。
アズサの提案で、皆が試験会場の周辺を見て回る。
それを見つけたのは、提案者であるアズサだった。
「……これだ」
「これは……不発弾、ですか」
「L118、牽引式榴弾砲の弾頭だ。スローガンとかの散布用なのか、雷管と爆薬を取り除いて爆発しないようにしてある」
「成程。L118ということはティーパーティーの……つまり、ナギサさんからということですね」
ハナコに頷き、アズサは視線を手に持つ弾頭へ移した。
「この中に何かある筈。開けてみよう」
開けてみると、中から紙が出てくる。
ヒフミは弾んだ声を上げた。手段を見つけられて、一安心したのかもしれない。
「あ、中に紙が……これが試験用紙ということですね!」
「特に破損も見られない。こっちは……通信機か」
アズサが手に持った通信機を起動すると画面にノイズが走る。
それは一瞬のことだった。すぐに映像が流れ始める。
『……これを見ているということは、無事に到着されたようですね』
「ナ、ナギサ様⁉」
「……」
「え、じゃあこの人が、ティーパーティーの?」
「ヒフミさん達を退学させようとしている人、ですか……」
ヒフミは驚きを露わにし、ハナコは黙って耳を傾けた。
ナギサを初めて見るコハルと斑目は、食い入るように画面を見ている。
『ふふっ……恨みの声が聞こえてきますね。まあこれは録画映像なので、リアルタイムには聞こえないのですが。ですので、今の私に話しかけても無意味ですよ』
「やられたら嫌なことをしているって自覚はあるんですね」
『それでは約束の時間までに試験を終えて、戻ってきてくださいね。一応引き続きモニタリングはさせて頂いておりますので、そのことをお忘れなく……では幸運を祈りますね、補習授業部の皆さん。どうかお気を付けて』
頭を一度下げ、ナギサは続けた。微笑みと共に。
『顔無しさんも』
ブツッと通信が途絶える。
静寂が訪れ、ヒフミと先生は生きた心地がしなかった。
一度、斑目自身の口からクロノススクールに『顔無し』かと確認されたこと。
それは耳にしている。
だがやはり慣れないものだった。
斑目が『顔無し』と言われるのを見るのは。
それをきっかけに、いずれ真実に辿り着いてしまうのではないか。そんな不安が過る。
「またですか……」
斑目は呆れたように溜息を吐いた。
アズサは彼に顔を向ける。
「その『顔無し』という便利屋、ユウと顔が似ているのかな?」
「分かりません。でも人間型男子生徒かつ顔が似ているのは困りますね……」
クロノススクールから聞いた話によれば、『顔無し』は凄腕の便利屋だ。
当初聞いたとき、そんな人と間違われて斑目は悪い気はしなかった。
だがよくよく考えれば喜んではいられない状況だと気付く。
前回のように、そして今回のように今後も間違えられる可能性があるためだ。
それによってトラブルに巻き込まれる可能性は否定できない。
自分だけなら良い。だがホシノやアビドスの皆、先生や補習授業部の皆も巻き込まれるのは嫌だった。
「ちょっと皆! 話してないで早く始めよう⁉」
コハルの慌てたような声で一同がはっとする。
ヒフミも頷き、試験会場の廃墟を指差した。
「そうですねコハルちゃんっ。みなさん入りましょう、いよいよ第2次特別学力試験です!」
緊張した表情で頷く者。静かに微笑みを浮かべる者。小さく頷く者。
反応は様々だった。だが共通している点はある。
その目は真っすぐと廃墟の中を射抜いていた。未知に対し挑むかのように。
先生と斑目も同様にして、彼女達に続き、廃墟の中へ足を踏み入れるのだった。
妙だ。斑目はそう思った。
試験会場。その前の方には先生が立っている。
後ろの方には斑目が立ち、試験を受ける補習授業部を挟む形になっていた。
勿論、彼女達がカンニングをするとは思っていない。
あくまで形式的なものだった。
位置的に外からの距離が一番近いのは斑目である。
だから、その異変にいち早く気付いたのは彼だった。
(……何か騒がしくなっている?)
最初、斑目は自分にだけ聞こえる幻聴かと疑う。
補習授業部は気にした素振りを見せないし、先生も同じ様子だった。
だが物音が外からしていること。それは確かなようだった。
補習授業部は試験に集中しているからで、先生は距離の問題で聞こえないことが考えられる。
(確認してこよう……)
放っておけば補習授業部の気を散らす障害になりかねない。
もしかしたら、それを意図している可能性も考えられる。
放置しておくわけにはいかなかった。
試験の形式上、先生を連れて行くわけにもいかない。
ただ外に出て注意するだけ。それだけだ。何の問題もない。
斑目はそう結論付けた。
彼が試験会場から出て、歩いてから二十秒に満たないときだった。
「斑目君!」
「先生⁉」
先生が試験会場から顔を出し、叫ぶ。
片方の耳には携帯端末を押し当てていた。
試験中の先生の態度としては怪しいところだ。
斑目は目を見開いた。
「試験中じゃ……!」
「私のところにきて‼ 飛び込んで‼ 早く‼」
両手を大きく広げ、受け止める姿勢を取る先生。
斑目は突然の彼女の行動を理解できなかった。
先生が想定しているであろう自分の行動に対し、気恥ずかしさも感じる。
「お願い!」
先生の表情は必死そのもの。
それが斑目の迷いを打ち払う。彼は踵に力を入れた。
だが、無駄だったのだ。
「熱っ……」
最初に斑目が感じたのは熱だった。
それは突風となって襲ってくる。四方から。
一番強い風によって、身が宙へ投げ出される。
浮遊感の次には、痛みが生じた。
最初は小さな破片がかすったのか。斑目はそう思った。
「がふっ……ぇ……」
自分の身体を見て、呆然とした。
呼吸が苦しい。身体に力が入らない。
当然だと思った。
何故ならその身体には歪な大小の欠片が刺さり、貫き、夥しい量の血が流れていたから。
身に着けた装備は何の役にも立たなかった。
「あぅっ……が……!」
受け身もできぬまま、斑目は床を転がる。
ばちゃばちゃと液体が弾けるような音がした。
その正体について、考えたくもない。
視線を向けたくもなかった。
「はぁ……はぁ……」
辺りは白い煙が舞っている。
そこでようやく爆発に巻き込まれたことを悟った。
斑目は力なく天を仰ぐ。
爆発によって大きな瓦礫が飛来してきているのが見えた。
呆然としたように、斑目が言う。
「……まだ、生きられるよね……? ホシノさんにも、また会え」
その言葉は最後まで続かない。
瓦礫による衝撃の後、斑目の視界は暗い闇に染まるのだった。
最近は起こっていない超回復。
実験体になったことで得た特別な力。
それが起こってくれることを願いながら。
ヒフミお前何の取り柄もない生徒は嘘だろ(イベスト鑑賞中)