多分、次話でプロローグ終わります! 長過ぎる! プロローグとは(哲学)
斑目くん(真)と斑目くん(偽)、主人公交代が近付いてきましたね……嬉しいような寂しいような。うむ、感慨深い。
お気に入り登録者が増えること、高評価を頂けること、感想を貰うこと。全て励みになっております! 本当にありがとうございます!!
これからもよろしく!!!!
斑目が受ける研究。
その目的は、彼を『ヘイロー持ちと同位の存在に出来るか』という問いへの答えを出すことにある。
ヘイローとはホシノ達の頭上に浮かぶ輪のことだ。彼女達は斑目と違い、非常に頑丈な身体を持ち、銃弾や砲撃程度の衝撃で死ぬことはない。
故に最低条件として、斑目には人間離れした頑丈さが必要となる。
黒服は台の上に固定される斑目に目を向けた。
『さて。これからユウさんには薬の投与・神秘の投入を行います。その成果は損傷を与えた時の、身体の反応によって検証します……こんな風にね』
「いっ……!?」
斑目が顔を歪める。足の甲を横一文字に裂くような痛みが走ったのだ。
それと同時に生暖かい液体が伝うのを感じる。斑目が自分の臍を覗き込むように足を見ると、そこには切り傷が生じていた。
見せつけるように、アームの先に付いたナイフが血を垂らす。
『今回はナイフですが、段階を踏むにつれてより強力な武器に変えていくつもりです』
「っ……!」
斑目が目の前の光景に、顔を引き攣らせた。冷や汗を垂らし、その顔は青ざめている。
その様子を見て、黒服は笑う。
『ククッ。安心してください……今すぐではありません。徐々に慣れるでしょう』
斑目の目の前には、無数の武器が広がっていた。
刃物が台の下に戻ったかと思うと、また無数のアームの先に付いた新しい武器が顔を出したのだ。
ハンドガン・ショットガン・アサルトライフル・バズーカ・グレネード・マシンガンといった兵器が、銃口を斑目に向けている。
『もしこれらが効果をなくした時、貴方がホシノさん達と同位になった証明になります』
「つまり投薬や神秘というものを投入した後、僕にこれらを撃ち込むと……!?」
正気の沙汰じゃない。斑目の中で、それを何ということのないように言う黒服に対する恐怖が湧き上がっていく。
睨みつけるように目を見開いて、こちらを見る斑目を気にする様子もなく、黒服は頷いた。
『ええ。そうしないと、成果が出たのか分からないでしょう? これで傷付かなくなれば、貴方は晴れてホシノさんの仲間入りというわけです』
「!」
小鳥遊さんの、仲間入り……。
その黒服の一言に、斑目の乱れていた心が凪いでいく。
斑目はずっと気にしていた。自分の脆弱さを。ユメやホシノに守られながら日々を過ごしていたことを。
この研究が成功すれば、自分は経過観察として監視は付くものの、解放されると契約書にはあった。
その時アビドスに戻り、許してもらえればホシノの隣に立ちたい。もし許されなかったとしても、人知れず支援することは出来る筈だ。
「……どうせ、もう逃げられない」
「僕は
「ホシノさんは!! 地上でッ! 一人でッ! 戦っている!!!」
無理矢理、身体を蝕む震えを抑えるように叫ぶ。事実を叫ぶ。
アドレナリンが出ているのか、もう足の甲の痛みは消えていた。
そうだ。もう引き返せない。恐れたところで解放はあり得ない。
自分の弱さに怒りを燃やしたところで冷静さを取り戻し、斑目は黒服を見た。
「フゥーッ……黒服さん、お待たせしました。……お願いします」
『クククッ……ええ。始めますよ、ユウさん』
これが、アビドス高等学校にてホシノがカイザーローンの支払いをした、数週間前の話である。
時間は現在に戻る。
ホシノとの会話を終え、黒服は斑目のいる部屋に入った。防音で塞がれていた、斑目の声が鼓膜を大きく揺さぶる。
「ぐぅっっ!!! あああぁぁぁぁぁ!!!!」
『ほう……グレネードですか』
斑目の『太腿から下は無くなっていた』。台の上には丸い焦げ跡と、散らばった肉片と赤が広がっている。
「づぅぅぅ!!! いっ……だい!!! ああ!!!」
『相変わらず耐久力は変わらない。元のまま』
しかし、と黒服は斑目の脚を観察する。すると、ミチミチと音を立てて逆再生のように身体が構築されていった。
骨が生じ、筋肉と血管がそれを覆い、最後に皮膚がそれらを包むように現れ、傷ひとつない脚が形成された。
「はぁっ……! はぁっ……! くぅっ」
『(驚くべきはその回復力……! 欠損した箇所の修復にかかる秒数、ダメージ度合いが高くなっているにも関わらず、遅くなるどころか早くなっている!!)』
何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故。
黒服の頭に、無数の疑問符が浮かび上がる。
同時に複数の箇所を欠損させたらどうなるのか。欠損させた後、その傷口を凍結したらどうなるのか。再生できない程のダメージを与える兵器はあるのか。
『……分からない。こんなの、見たことがない……!』
きっかけは初めての投薬と神秘の投入による、成果の確認だった。
ここでヘイローが出現する。ナイフが折れる。もしくは斑目の身体に傷がなければ、研究は成功と言えた。ホシノ達と斑目は同位になったのだと。
だがそうはならなかった。ヘイローは生じず、彼の足からは普通に赤い線と共に血液が流れたのだ。
『あの時、失敗したとすぐに立ち去らなくてよかった』
そのお陰で、処置をせずとも治っていく瞬間を見れた。
次の成果の確認時は、同じく身体の頑丈さは変わらないものの回復する速度が上がっていることに気付けた。
徐々に兵器を強力にしても、同じように前より速度を増して、斑目の身体は修復を行なった。
『この回復力。しかし耐久力は一向に伸びない。神秘が耐久力と引き換えに、回復力を底上げしている? もしこれで、耐久力・筋力も向上できれば……ククッ』
できれば、斑目はキヴォトス随一の実力者となるだろう。
脆弱だった人間型男子生徒が、自分の実験によってホシノ達を超える存在となる。研究者として、黒服は止まれるわけがなかった。
それに斑目の頭にはまだ、ヘイローが浮かんでいない。研究はまだ終われない。
「……人の欠損場面を見て笑うなんて、いい趣味してますね」
『おや。斑目さん。落ち着きましたか』
顔を横に向けて、白けた目で見てくる斑目を気にした様子もなく、黒服はそんな言葉を投げ掛ける。
斑目は嗤って、顔を上に向け直した。
「痛いのは変わらないですけどね。何回もやられれば、もう、嫌でもこうなりますよ」
その瞳は既に輝きを無くしている。
食事や睡眠といった、生きる上で必要なことは行っている。
だが会話はすることが殆どなく、偶に黒服とするだけ。目に見える光景は、今いる白い部屋と外の廊下。
そして定期的に行われる、兵器による身体の破壊に対して修復する身体。
少年の精神を磨耗させるには十分過ぎた。
「ははっ。このままじゃ、いずれ痛みも感じなくなりそうですね」
『いいことではないですか。私もスムーズに研究が進みそうで助かります』
「人の心は既に置き去ったようで。今に言えたことではありませんが」
それで? と斑目が黒服を見ないまま言う。
「打ち込む薬の種類。増やすんですか?」
『はい。耐久力に加え、筋力の向上に使えそうな薬を打ち込んでいくつもりです。神秘も同様に投入します。成果の確認時には従来のに加え、身体能力に変化があるか見るために拘束を解き、検査してみましょう』
「そうですか。身体を動かせるのはいいことですね」
ガチャガチャと斑目が拘束具を揺らした。身体を動かせるようになれば、ストレスも発散出来る。
彼の瞳の輝きが戻るかは分からないが。
「あと黒服さん。一つ、お願いがあるのですが」
『ほう……』
珍しい、と黒服は思い耳を傾ける。研究が始まってから、斑目が黒服に何かを頼むことなどなかったからだ。
「僕の部屋から、日記を持ってきてもらえませんか?」
『日記。ですか?』
「小鳥遊さんやユメ先輩との思い出が詰まってるんです。最近、自分がこうなってる意味を忘れてしまいそうで……幸せだった過去を思い返して、原点に戻ろうかと」
昔の斑目自身が見たら、有り得ないと思うだろう。どこか他人事で、淡白に彼女達の名前を連ねる自分の姿に。
そこに熱は感じられなかった。
彼女達との思い出が遠い昔のようだ。さらに自分が研究に参加した理由も、徐々に薄れている気がする。
斑目にとって一番楽なのは、その磨耗に身を任せて何も考えないことだ。
だがそれはしてはならないと、魂が叫んでいる気がした。斑目を人間たらしめる部分の、最後の抵抗のようであった。
故に斑目は、日記を黒服に持ってくるよう頼んだのだ。
『クククッ。いいでしょう……無気力より気力を持って頂いた方が、予想してなかった結果が現れるかもしれない。こちらも助かります』
黒服は快く、その願いを受け入れた。
それと同時に、斑目のモチベーションの維持も必須項目だと思い、ある行動に出るのだった。
〜
ああ。ああ。ああ。
今迄の自分はどうかしていた。
何でこんな輝かしい思い出を忘れかけていた?
どうしてこうなったか?
アビドスを救うためだ。それしかないだろう。
小鳥遊さん、ユメ先輩。ごめんなさい。
もう二度と、どんなことがあろうと貴女達との思い出は薄れさせません。
僕に力をくれてありがとう。大好きな人達。
お陰で僕はまた、守るために戦うことができます。
〜
〜
……此処に来てから、結構時間が経ったのだと自覚した。
黒服さんが見せてくれたのは、今のアドビス高等学校の動画だった。多分、盗撮。
そこには、小鳥遊さんだけじゃなくて、知らない女の子達が四人も映っている。
小鳥遊さんは髪の毛が伸びていた。ユメ先輩を思い起こさせるような恰好で、自堕落な姿を見せる彼女を見て、そのギャップに笑みを溢すのと同時に……悲しくなった。
……やっぱりまだ引き摺ってるんだ。ごめんなさい、小鳥遊さん。僕はあんなに大好きだったのに、ユメ先輩をちゃんと覚えてることさえ、できなかったよ……。
シロコちゃん。ノノミちゃん。アヤネちゃん。セリカちゃん。そして小鳥遊さん。
皆、アビドス高等学校で笑顔を浮かべている。まるで僕と小鳥遊さんとユメ先輩が過ごした時間のように、眩しくて暖かい光景だ。
僕もそこにいたかったな。一人は寂しい……。
ああ、神様お願いします。どうか彼女達の日常が失われませんように。
僕の母校から、笑い声が絶えず響いていますように……。
〜
〜
もう僕には、小鳥遊さんに顔を合わせる資格がない。
このまま、消えてしまいたい……。あの傷のように……。
〜