早くアビドス組を出したい今日この頃。
多分次話で出せるかな? この話と前話は章のプロローグみたいなものだから……。プロローグとは(哲学)
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早瀬ユウカはシャーレの部室に訪れていた。
昨日の作戦行動にかかった経費を精算するために、請求書の雛型を携えてシャーレを訪ねてきたのだ。
扉が音を立てて開けられる。
「こんにちは、先生。この間お話しした請求書のひな形を持ってきました。お手隙の際に……」
ご確認ください。と顔を上げ、部屋全体を見た彼女の動きが止まる。
「あ、いらっしゃいユウカ」
「書類整理の次は作成か? 忙しいな……ておい、先生。コロッケパンを書類が広がった自分の机で食うな。汚れたらどうする、書類を片付けるなりなんなりしろ」
「あ、勝手に食べてることは怒らないんだ」
自分の机で昼食を食べる先生。
それはいい。理解できる。理解できないのは、書類を仕分けながら先生と会話している人物だ。
頭上にヘイローがなく、フードと仮面で顔は見えない。そして発音と同時に発せられている合成音声。
「『
警戒を露わにして、銃器を構えようとする。
先生は片手にパンを持ったまま、手を振った。
「待って待って! ユウカ、『顔無し』は危なくないよ。私が依頼して、手伝ってもらってるの」
「『顔無し』に書類仕事を手伝わせてるんですか先生!?」
ユウカは頭が痛くなった。
昨日あれ程、この便利屋の危険性は伝えた筈なのに……。
先生の神経の太さもそうだが、それを素直に請け負う『顔無し』も『顔無し』だ。
書類仕事が最も似合わない者が書類仕事をする光景を見て、脳がバグりそうだった。
一応確認してみると、書類はしっかりと分けられている。ユウカはがっくりと肩を落とした。状況に疲れたようだ。
「一体どうしてこんなことに……!!!」
「何でただ仕事してるだけで、そんな顔されないといけないんだ?」
「『顔無し』が健全な便利屋ってイメージじゃないからだと思うな。裏社会で暗躍してそう」
「偏見にも程がある。買い出しの手伝いとか力仕事とか護衛とか、真っ当な便利屋だよ俺は。どこからそんなイメージが……いや待て。身に覚えが出てきた」
思い当たる節があったのか、額に手を置くと共に溜息を吐き出す『顔無し』。
というか、電話に出る時の『ヤバい仕事も大歓迎』というフレーズがもうそれっぽい。身元を徹底的に隠そうとする見た目もだ。
そんな二人のやり取りに、落ち着いたユウカは目を鋭くした。
「……説明。説明を、お願いします。何故、先生はよりにもよって『顔無し』に依頼したのか。何故、『顔無し』は素直に従っているのか」
「俺に至っては便利屋だからだよ。はい、次は先生の番」
『顔無し』が短く答え、先生にバトンパスをする。
「んぐんぐ……ごく。うん、それはね……」
先生は手に持ったパンを全て口に含み飲み込み、話し始めた。
最初は『顔無し』を更生させるために、この場に呼ぼうとしたこと。
その口実を考えていたら、書類仕事を手伝って欲しいと言ってしまったことを。そして今に至ると。
これに対し、『顔無し』は首を捻る。
「更生って……俺何かしたか?」
この男はよく分かっていないようだ。
その様子を見た二人の女子が目を吊り上げた。
「してるよ! この前、そのお陰で私死ぬところだったんだからね!!」
「貴方のヘイローがないことを利用した戦い方! その正体が分からないこと! それによって、昨日先生が発砲されたんです! 当たってたら一大事だったんだから!!」
「っ……あー。そういうことね」
『顔無し』は理解した。きっとその仮面の下は、渋い顔をしているだろう。
つまり自分の所為で、キヴォトスは今ヘイローも持たない人間に銃口が向けられる状態になっていることを知ったのだ。
その事実が染みているようで、『顔無し』の雰囲気が変わった。反省しているのだと思い、先生は続けた。
「それにね『顔無し』。そのやり方じゃ君を恨む人達が沢山出てくる。もしかしたら、君の周りにも被害が及ぶかもしれないんだよ?」
「ん? ああ。それなら問題ない。そんな人間いないから」
先程とは打って変わり、軽い調子で『顔無し』は答える。
「「え……」」
「友人も先輩も後輩もいないし、被害を被るとするなら俺だけだ。関係を持つ奴等もいるが……まあ、あいつ等なら大丈夫だろ」
呆然とした顔でこちらを見つめる二人に『顔無し』は気付かない。過去に知り合った者達を思い返していたからだ。
ブラックマーケットでの買い物に護衛を頼んできた、変なマスコット好きの少女。
特売のゲームを買うためだけに依頼をしてきたピンクの少女。
騒がしい同業者組織。
彼女達の顔が浮かんだが、少女2人は銃を携帯していたし戦える。自分と違い学校に所属しているため、いざとなれば助けを求められる筈だ。
同業者組織に至っては、荒事は日常茶飯事だ。問題ないだろう。
そう『顔無し』は結論付けた。
「とはいえ、先生に被害が出るのは避けるべきだな。先生は今のキヴォトスの脳みたいなもんだろ? 潰されれば機能は停止して、ここには朽ちていく未来しか残らないよなぁ」
そう言うと、『顔無し』は部室から出て行こうとする。
先生は慌てて止めた。
「ちょっと待って! どこ行くの」
「自分の蒔いた種だ。片付けくらい自分でやれる。迷惑かけて悪かったな、先生」
「そんなの駄目。書類仕事がまだ残ってる!」
先生は何とか『顔無し』をこの場に留めようとする。
先程のやり取りもあり、この子は放っておいたら危ないと思った。
孤独であることを受け入れ、仲間を求めず寧ろ自分一人が被害に遭うのだから問題ない。
そんなことを簡単に言えるのは信じられない。明らかに自らの身を顧みていない発言だった。それを子供が言っているのだから、先生として見逃すことなど出来なかったのだ。
「悪いな。不履行に終わったから報酬は無しでいい。そこの青髪、申し訳ないが俺の代わりに手伝ってやってくれ。じゃあな」
その思いは届かない。
手を振り上げた後、『顔無し』は消えた。これ以上、引き留められるのが面倒臭かったからかもしれない。
だがこれで諦める先生ではなかった。
「ユウカごめん! 私、『顔無し』を探しにいく!」
「私も行きます! 先生一人にすると危ないですし、あいつを放っておくと何をしでかすか分かりませんから!!」
二人は『顔無し』を探すため、部室を飛び出したのだった。
ユウカと先生はシャーレ内にて、訪れていたチナツと合流して一緒に外へ出ていた。
勢いに任せ、外に出たとはいえどこを探せばいいか分からない。
「『顔無し』の奴が今ピンチらしいよ! 100人には囲まれてるんだって!」
「よぉし!! 便乗してぶちのめすぞあの顔隠し!!!」
そんな時、耳に入ったのが闘争心を露わにしながら走る不良生徒の情報だった。先生は彼女達を止めようとしたが、邪魔するなと銃口を向けられ、戦闘が行われる。
「ねえ。『顔無し』がどこにいるのか、私に教えてくれないかな?」
勝利した先生達は、ボロボロになった不良生徒から『顔無し』のいる場所を聞き出し、現場へ向かった。
そして、その光景に息を呑む。
「嘘でしょ……」
「新手か? って、何だ先生達か」
そこには『顔無し』が立っていた。
周囲には、彼を囲うように気絶した不良学生達が倒れ伏している。その数の多さに、ユウカは声を震わせながら続けて言った。
「これ……一人で倒したの?」
「まあな。数で攻めてきたが、こいつら全員仲間じゃない。俺が避けることで、互いの弾を当てさせるのは簡単だったよ。仲間割れする奴等もいたし、その隙をつけばこんなもんだ」
チームワークさえあれば倒せたかもな。
そう言って、ぐっ……と両手を組み背を伸ばす『顔無し』。
動きやすさを意識したのか、上半身を包む半袖服の生地は薄い。
そのため太くはないものの、鍛え上げられた男の身体が剥き出しになる。
「って、ああ! 『顔無し』が服脱いでる!?」
「上着な。それだとただの変態だ、先生」
周囲の光景の衝撃で気付かなかったが、『顔無し』はフード付きの上着を脱いでいた。
「あの……お怪我は?」
「ん、見ての通り無しだ。心配してくれたのに、悪いな」
「い、いえ。お気になさらないでください」
肩を回し、大丈夫だとアピールする『顔無し』。チナツは医薬品が入った大きな鞄を持ち、素直に引き下がった。その顔は少し赤い。
見慣れぬ異性の身体に、恥ずかしさを抱いてるのかもしれない。それはこの場の全員に共通していることだった。
誤魔化すように、少し上擦った声で先生が言う。
「へ、へぇ〜。キヴォトスにも男の子っていたんだ。先生、し、知らなかったなぁ〜」
「そ、そういえば先生はご存知じゃなかったですね。キヴォトスにも男子はいます。アビドス高等学校にいたらしいですよ。聞いた話なので、私もよく知りませんが」
「ねえねえユウカ……それじゃあ、その子が『顔無し』の正体じゃないの?」
ユウカを手招きし、小声で耳打ちする先生。ユウカは何ともいえない顔で唸るだけである。
男子生徒がいたという記録だけで、顔も名前も分からないのだ。無理もない。
「いえ。恐らく違うと思います」
「チナツ? その男子生徒のこと知ってるの?」
「はい。委員長から見せてもらった資料にありまして……それによると、彼は特に戦闘能力があるわけでもなく、身体付きも細かったです。なので」
「違う、と。確かに……戦闘能力はえげつないし、身体付きも良いよね」
「ええ。さらに言うと、写真もありました。当時の資料の時期から現在までの間に、あそこまで肉体が発達することは有り得ません。なので、彼とその生徒は別人だと思われます」
チナツの言葉で議論は終わる。『顔無し』は上着を着直し、3人の元に歩いて来た。
「何はともあれ。これだけ暴れたんだ、先生が撃たれることはなくなったな。『顔無し』=男という構図はこの件で広がるだろうよ」
「っ私を守るためにこんな無茶を……!?」
『顔無し』がシャーレの部室から出た時から、薄々そんな気はしていた。だから止めようと動いたのだが、間に合わなかった。
私は大人失格だ。守るべき子供に、逆に守られるなんて。
先生は悔しくて、両手を強く握りしめる。
そんな彼女を否定するように、『顔無し』は首を振った。
「先生だけじゃねぇよ。キヴォトスのためにでもあるし、もしかしたら今後くるかもしれない同胞のためだ」
先生が死んでしまえば、キヴォトスはゆっくりと滅びの道へ行くだろう。現状維持なら、今後キヴォトスにくるヘイローを持たない人間は、あっという間に死んでしまう。
それを避けるために、『顔無し』は戦った。これにより、今後無差別にヘイロー持ちでない者が撃たれることはなくなる筈だ。
そう『顔無し』は説明した。
「それに大人も子供に助けられることくらいあるだろ。極端な例だけど、教育研修で来た先生に自信つけさせようと、授業中何回も手を挙げる小学生とかな」
そして、強く握る先生の両手を緩める。涙を流しながら、彼女が顔を上げた。
「だから……そんな責任感じた顔しなくてもいいんじゃないか? 子供が大人を助けるのは珍しいことじゃないんだし」
相変わらず仮面は付けられている。声も合成音声のままだ。
だが確かに、『顔無し』から温かい雰囲気が感じ取れた。
「そんな子供から、大人である先生に頼みがあるんだが……」
「……?」
困ったように『顔無し』が後頭部を摩る。
その時点でもう、温かい雰囲気は霧散していた。
「シャーレに加入させてくれないか? そして住まわせてくれ。俺、住むところなくしちまった」
悪い。と片手で合掌を作る『顔無し』。
しばし三人は固まり。
「「「えええーーーーーーーー!!!?」」」
仲良く声を張り上げるのだった。
次回 アビドス入り(仮)