憑依in実験体のアビドス生徒   作:改名

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今回と次回はちょっとした日常回です。平和です。
その次からまたブルアカが始まります。それではどうぞ。


3.置いてかれた『顔無し』

 

 

 

 先生は『顔無し(ノーネーム)』のシャーレ加入希望を、二つ返事でOKした。

 

 

「うん。いいよ。……これからよろしくね?」

 

「? こっちこそよろしく。流石先生だな」

 

 

 にっこりと笑う先生に疑問符を浮かべながら、『顔無し』は差し出された手を握り返す。

 心なしか、先生の握力が強く感じた。

 

 

「ふふ」

 

 

 勿論、彼女は何も考えずに許可したわけではない。『顔無し』にこれ以上無茶させないためには、目に届く範囲に置いた方が良いと考えたからだ。

 

 

 無茶したらお前、分かっているな?? 

 

 

 笑顔と共に圧を発する先生に、最後まで『顔無し』は気付くことはなかった。

 その光景を見ていたユウカとチナツは、呆れと同情を含んだ複雑な表情を浮かべる。それが先刻までの出来事だった。

 

 現在はというと、先生、ユウカ、チナツ、『顔無し』の四人は並んでシャーレに向かう帰路を歩いている。

 部室に戻り、先生が書類を作成した瞬間、『顔無し』はシャーレの一員となるのだ。

 

 

「そういえば住むところが無くなったって話だったけど、『顔無し』はどこに住んでいたの?」

 

 

 ふと気になったのか、先生が覗き込むようにしながら『顔無し』に問いかける。彼は一度先生に視線を向けてから、再び前を向いて答えた。

 

 

「俺はブラックマーケットって所を拠点にしていた。普通ならあまり住みたくないような場所だな」

 

 

 『顔無し』はブラックマーケットに住んでいたらしい。ここは大抵の品物を取り揃えた闇市で、治外法権がまかり通る治安の悪いエリアである。

 ユウカが訝しげに『顔無し』を見た。

 

 

「分かってるなら、どうしてそこを選んだのよ……」

 

「家賃が一番安かったから。初めは生活できる金を稼げるかも分からなかったし」

 

「切実かつ単純な理由ですね……」

 

「……」

 

 

 ユウカ達には言わないが、『顔無し』が拠点をブラックマーケットに決めたのは、家賃の他に大きな理由が一つある。

 

 それは身分証が不要だったことだ。他の地区では身分証を求められたが、ブラックマーケットは違った。

 勿論、求めてくる業者もいたが、深くは聞かないというスタンスの懐の深い業者が奇跡的にいた唯一の地区だった。

 

 斑目ユウの証明書を『あるべきところ』に置いてきた、何者でもない彼にとっては、幸運といっても過言ではなかった。

 ……まあ、そんな幸運も今では灰になってしまったのだが。

 

 

「そこが特定と同時に燃やされて、今に至ってるわけだけどな」

 

 

 自分がどれ程の人間に恨まれていたのかを知った『顔無し』。

 本人は真っ当だと言うが、彼は今や悪い意味で有名な便利屋である。『顔無し』によって痛い思いをした者は沢山いるだろう。

 

 そんな彼が危機に陥っているという話を聞けば、恨みを持った者達の必ず仕留めるという意思は強くなる。

 

 

「帰る場所を潰して、精神的・身体的に追い詰めようとしたんだろ。酷いことしやがる」

 

「……ごめん」

 

 

 申し訳なさそうにしていた先生が謝った。今『顔無し』が立っている状況に責任を抱いているようだ。

 先生に視線を向け、『顔無し』は溜め息を吐いた。

 

 

「これは先生のせいじゃないだろ。タイミングの問題だ。遅かれ早かれこうなってた」

 

 

 確かに先生の被害を無くすため、ヘイトを稼いだ。それに加え、上着を脱ぐことで『顔無し』は男だと知らしめた。

 だがそれは些細な問題に過ぎない。『顔無し』の名前は既に収まらない程、大きなものになっていた。遅かれ早かれ、大勢の敵を作ってしまった彼はこうなっていたのだ。

 

 それに、と続ける。

 

 

「寧ろ感謝してるんだぜ? 便利屋は廃業だけど、前より良い環境で暮らせるんだからな。もし先生達と知り合わなければ、ホームレス暮らしだっただろうし」

 

「容易に想像出来るわね……」

 

 

 女子三人の脳内には、仮面を付けたまま廃墟で草を貪る『顔無し』の姿が浮かんだ。

 

 

「「「っく……!」」」

 

「……よく分からんが、お前達が変な想像をしたことだけは分かった」

 

 

 先生の負担を軽くは出来たが、代わりに自分が恥をかくことになり、『顔無し』は額を押さえるのだった。

 

 

 

 

 

 窓から差す光に刺激され、『顔無し』は目を開ける。

 ここはシャーレの居住区にある、休憩室だ。そこで彼は寝泊まりをさせて貰えることになった。

 

 

「ん……っ」

 

 

 ぐっ……と背筋を伸ばす。

 ここで世話になってから数日は経過している。先生と『顔無し』の二人で、偶にユウカが顔を出して三人で業務を行うことが日常となっていた。

 

 その間、先生の出費をユウカが管理することになったりだとか。

 

 『顔無し』の素顔を、先生が仮面を外して見たりだとか。

 

 そんな出来事が起こったりしている。後者に至っては彼の落ち度であり、業務に疲れ果て執務室のソファで寝てしまったのが原因であった。

 とはいえ、『顔無し』は楽観視していた。

 

 

「ま、先生ならいいだろ。不用意に他人に言いふらすような人じゃないし」

 

 

 そもそも(この身体)が誰なのか先生には知る術もない。斑目ユウの自宅に向かえば可能かもしれないが、ピンポイントに向かうこともないだろう。

 そう思い、いつもと変わらない様子で、『顔無し』は執務室に入る。

 

 

「おはよう先生……先生?」

 

 

 おかしい。いつも先に執務室にいる先生がいない。手を挙げてくる先生がいない。

 遅刻? いや、責任感ある彼女がそんなことをするなんて考えられなかった。

 と、そこで先生のデスクの上にメモが置いてあるのに気が付いた。

 

 

「っ……」

 

 

 何故か嫌な予感がした。鼓動が早くなっている。

 見たら最後、後悔しそうな気がしてならなかった。

 

 『顔無し』は、覚悟を決めてそのメモを取り目の前に持ってくる。

 

 

 

 

 

 

『アビドスに出張します』

 

 

 

 

 

「……うっそだろ」

 

 

 先生に手を掴まれ、共に地雷原へ向かわされた気分になった。

 

 

 




次回
『メモリアルロビー その仮面の下』


誰得とか言わないで。私がやりたかったんです。ちゃんとストーリーにも必要なんです。信じてくださいお願いします!

一つのイベントにつき、話数を使い過ぎ? 文字数とか内容を削った方がいい?

  • 使い過ぎ
  • 丁度良い
  • 寧ろ少ない!!
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