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自分の投げた金が、怪しいからという理由で借金に充てられず、保管されていることを知った翌日。
『
「投げる場所を増やす。頻度は変えず、何ヶ月か経ったらやめる。実行するのは朝・昼・夜……」
彼はしばらくの間、投擲を続けるつもりのようだ。
というのも、止めた場合、『先生と顔無しに話した直後に止まった』という事実が出来上がり、アビドスの面々が後々自分の正体に近付く要素となると考えたためである。
だが金が使われない以上、この行為は続けるメリットがない。続ければ、金を投げてる犯人が自分だと気付かれる可能性が生じたままになる。
だから一定期間まで続け、それを過ぎたらやめる。ある程度の時間差がある方が、投擲犯が自分だとホシノ達に見破られにくい。
そう『顔無し』は考えたのだ。
「ん?」
ある程度の方針が定まったところで、『顔無し』のモモトークが通知音を鳴らした。見てみると、先生からだった。
『セリカのバイト先に行かない?』
「……先生というより、ノリが同級生だな」
『顔無し』が文字を打つ。
『乗り込んで、懲戒処分にでもするつもりか?』
『しないよ!? 校則で禁止されてるわけでもあるまいし! ただ皆と様子見に行くだけ。ちょうどお腹も空いたし』
ちょうどお腹も空いたし。
この一文で、セリカのアルバイト先の業種が分かった。行くことで空腹を満たせる店。
ずばり飲食店なのだろう。
『パス』
『えー! ラーメンだよ? 食べたくないの?』
「……ラーメン」
ぶっちゃけ、好物ではある。
『顔無し』は、自分の舌の下から出る唾液の量が増えている気がした。邪魔に感じ、ごくりと飲み込む。
しかし、何かを食べるということはこの仮面を外さなきゃならない。皆、ということはホシノもいる筈だ。その前で顔を晒せというのか。
少し考えたが、やはり『行かない』という結論を出す。適当な嘘で断ることにした。
『寝起きで食欲ない。行っても多分食えないからパス』
『そっか! じゃあまた今度ね!』
そんな日常的なやり取りで、一旦二人の連絡は終わる。
だが午後を回り日が落ちた頃に、二人の連絡が再び行われた。今度はモモトークではなく、通話という形で。
着信画面が出たのを見て、『顔無し』は仮面の変声機を入れる。
『『顔無し』大変なの!! セリカが誘拐されちゃった!!! 力を貸して!!!』
先生は開口一番にそう叫んだ。
すぐさま『顔無し』はホテルを出る。
場所を言われたら、すぐに駆け出し、セリカの場所に到達するつもりだった。
「現況は?」
『私達は今、アビドス高等学校にいる。セリカはバイト帰りに誘拐されちゃったみたい。最後に確認されたセリカの端末反応の場所はここ!』
先生から『顔無し』へ、モモトークでその場所にピンが挿されたマップが貼り付けられて送信される。周辺を囲うような円も描かれていた。
「この円は何だ?」
その問いに答えたのはアヤネだった。
『ヘルメット団の主力が集まっていると確認出来たエリアです! 恐らく奴等のアジトに連れて行かれたんだって、ホシノ先輩が……!!』
「分かった。ここのどこかにいるんだな。ありがとう」
『……っ』
涙声のアヤネを気遣っているのだろう。機械越しでも分かる、優しげな『顔無し』の声に、アヤネはさらに涙を溢した。
先生、と『顔無し』が言う。
「位置的に俺の方が近いだろ。無茶はするけど、先に行ってていいよな? ツインテちゃんが危ないんだろ?」
『……うん。お願い』
状況が状況だ。背に腹は変えられない。先生は苦しげな声で、『顔無し』の単独行動を許可した。
また彼に、無茶をさせてしまう。先生はグッと唇を噛んだ。
「そういうわけだ、書記ちゃん。君の同級生は必ず俺が取り戻すから、先生達のサポートを頼む。OK?」
『ぐすっ……っはい!!!』
なのに彼はそれが何でもないように振る舞う。素なのか演技なのか分からないが、いつまでも甘えてはいられない。
それは部室にいる全員が同じ気持ちなのだろう。だからアヤネも涙を拭い、顎を引いて引き締めた表情になった。
『『顔無し』さん! 私達も必ずすぐ追い付きます! なのでその間……セリカちゃんをお願いします!!!』
「ああ。任せろ」
出会ってそんなに日は経っていない。
だがその『任せろ』は、不思議とアヤネに安心感を与えてくれた。
(男性の先輩がいたら、多分こんな人なんだろうな……)
頼もしく応えてくれた『顔無し』に、アヤネはそんなことを考える。
緩んでいく頬に気付くと、慌てて自分のなすべきことを思い出して、準備を行うのだった。
────────────────────────
セリカは揺れを感じて意識を取り戻す。
「う、うーん……。へ?」
目を開けると、薄暗い空間が広がっている。そして天井・壁・床の順で見回し、今自分が長方形の中にいることが分かった。
何故こんなところにいるのか、記憶を遡る。
午前中に先生に会って。付いてこられて、追い払って。バイトに行って。そしたらホシノ先輩によって、先生と仲間を連れて来られて。定時に帰って、それで……。
そうして自分の身に起きたことを思い出す。
「そうだ、私攫われた!―――くっ……あ、頭が」
ヘルメット団に攫われたのだ。意識を失う前、Flak41改の爆発音を聞いたことから、それを喰らったのだとセリカは理解した。
頭も身体も痛むのも、それが原因だろう。
立ち上がろうとするが両手は後ろで縛られていた。いまだダメージが残ってるようで、立ち上がることは難しい。
長方形の薄暗い空間と、その中で積まれた段ボール箱。セリカは今いる場所を理解する。
「ここ……トラックの荷台。……ヘルメット団め、私をどこに連れていくつもりよ」
うつ伏せの状態のためか、時折くる振動に息を溢しながらセリカは現状を理解した。視線を動かして、ある場所に目を留める。
「……暗い、けど。あの隙間から外が見れそうね」
唸りながら、爪先で床を押して芋虫のように這う。そして荷台の隙間に顔を近づけて外の様子を確認した。
「……砂漠……線路!? 線路がある場所って……ま、まさかここ、アビドス郊外の砂漠!?」
一面の砂に点々と見える廃墟。砂に埋もれかけている線路も見える。そこから自身が今どの地点にいるのかを理解して、セリカは顔を青褪めさせた。
「……そ、そんな。ここからじゃ、どこにも連絡が取れない! もし脱出したとしても、対策委員会の皆にどうやって知らせれば……。どうしよ、みんな心配しているだろうな……」
愛銃はない。当然だ。ヘルメット団は万が一を考える。セリカがいる場所に彼女の武器を置くわけがない。
連絡手段はある。だが恐らく近辺の通信設備の問題で、繋がらない。
そもそも両手が封じられているため、どちらにしろ連絡は不可能だ。
どれだけ考えてもいい結果は見えず、最悪の結末しか思い浮かばない。そうしているうちに思考はどんどんネガティブな方向に沈み込んでいった。
「……このまま何処かに埋められちゃうのかな。誰にも気付かれない様に……。連絡も途絶えて……私も他の子達みたいに、街を去ったと思われるんだろうな……裏切ったって……思われるのかな。誤解されたまま、皆に会えないまま死ぬなんて……」
『死』。
その一言を口にして、身体中に寒気が走る。
一番嫌なのは、誰にも気付かれず、仲間達には裏切られたと思われることだ。
対策委員会の部室で過ごした最愛の日々。その風景が灰色に染まり、罅が入るイメージが頭に流れた。
もうあの頃に戻れないのかもしれない。せめて別れの言葉ぐらい残したい。そんなマイナスな感情に襲われ、耐えるもののまだ少女であるセリカにとって、涙を流さないのは無理だった。
「う、う、ぐぅ……! うっ、ううっ……」
何とかして。何とかしてこの場から逃げ出したい。
そう思って再度、隙間から外を覗き見てみる。
「え」
そこで彼女は見た。
「『顔無し』!!?」
低い姿勢を維持したまま、並走する『顔無し』の姿。
何にせよこれはチャンスだ。自分を乗せたトラックなのかを判断している可能性も考え、セリカは大きな声で叫ぶ。
「『顔無し』!! ここ!! 私はここにいる!! お願い助けて!!!」
しかしトラックの車輪と砂が擦れる音。さらに運転席から『顔無し』の存在に気付いたであろう、ヘルメット団の射撃音に掻き消されてる気がした。
「ああ、もう! これで気付かなかったら呪ってやるわ! 女の敵よ!!」
セリカは側頭部を隙間に擦り付けるように動かす。自慢の黒くて、スラリとした髪の毛を外に出して、自分がいることをアピールするつもりだ。
それは成功した。風に髪の毛が靡く感覚が頭皮に伝わったので、暫くそのまま待機する。
髪の毛が抜けそうで怖くなったところで、髪の毛を引っ込め、再度外を見る。
「嘘ッ! いない!!?」
ここにはいないと思われたのかと、再度絶望を抱いた。しかし銃声が響いていることから、すぐさまその考えを却下する。
では、いったい何故……。
その答えは、すぐに出された。
バリィィィン!!!!
「いやぁぁぁぁぁぁ!!!?」
運転席の方からガラスが割れるような音が、大きく響き渡る。
それと同時にセリカの身体に横からの重力がかかり、暫くの間壁に押し付けられていた。
そして重力が解かれ、床に落ちる。
「あたたたっ……んもう、何なのよ」
すると、運転席の方からゴンッゴンッと重くて低い音が鳴った。
ドゴォン!!!
間を置いて一番大きな音と共に、人一人が通れそうな歪な穴が空く。
その先にいる人物に、セリカは喜びの表情で叫んだ。
「『顔無し』……!!!!」
「よう。結構酷くやられたみたいだな、ツインテちゃん」
「えっ……それ」
「ん? ああこれか? 運転席にあったぞ、お前の武器」
「違う、それはありがとうだけど、そうじゃなくて……!!」
荷台に入ってきた『顔無し』に、セリカは目を見開いた。
その視線の先は、彼が持つ自身の愛銃ではなくその身体全体に向けられている。
「大丈夫なの!? 傷だらけじゃない……!!」
その身体はズタボロだった。その身体は『赤』に染まっていた。
衣服には切り裂かれたような跡が多数見受けられ、そこから赤い血が際限なく湧いているようだ。
先程のガラスが割れる音は、運転席の窓を『顔無し』が突き破って生じた音である。
それにより生じた『顔無し』の身体を見て、セリカが自分より彼の方が重症だと気付くのは当然だった。
「待ってろ。今助けてやる」
「ま、待ってその前に治療……! そんな量の出血、死んじゃうわよ……!!!」
「必要ない。大丈夫だ」
いつもの合成音声で。いつもと変わらぬ仮面で。
ガラスの破片を持ち、自分の両手を拘束している縄を切る『顔無し』。
まるで痛みを感じてないようなその在り方は、まるで機械のようであった。
「ほら、解けたぞ」
「解けたぞ、じゃないでしょ!? 今すぐ座って、治療をッッ……え?」
その自分を顧みない態度に、心優しいセリカは我慢できず、『顔無し』の肩に手を掛け、座らせようとした。
そして違和感に気付く。
「傷が……ない?」
「……」
自分の手に付着する血。それは紛れもない本物だ。
赤く染まった両手を見るセリカに、『顔無し』は黙る。
「……な? 大丈夫だろ? 死ににくいんだ、俺」
言いながら、『顔無し』は段ボール箱を漁り出す。あったあった、と取り出したのは飲料水だった。それをセリカの手に掛け、彼女の手首を持って洗わせる。
先程の怪力とは思えぬ程、優しい持ち方でそれをさせる『顔無し』に、セリカは顔を赤くさせた。
「ちょっ、ちょっと! 何勝手に……! あっ、自分の身体まで!!」
背を向けて、新しい段ボール箱からタオルを取り出した『顔無し』は、上の服を破くように脱ぎ捨て、飲料水を頭から掛ける。
そして念入りにその身体をタオルで拭いた。その行動を見るだけで、『顔無し』は証拠を消し去りたいのだとセリカは理解する。
髪についた水滴を手で払い、上半身裸となった『顔無し』がこちらに身体を向けた。
「頼む。このことは、俺達だけの秘密にしてほしい」
「先生にも、お前達にも心配を掛けたくない。だから最後まで、黙っているつもりだったんだ」
セリカは黙る。
「……じゃあ何で、そんな無茶したのよ。無茶しなければ、隠し通せたかもしれないのに」
「書記ちゃんに頼まれたからだよ……『お願いします』って。涙声でな。最初はトラックを爆破でもしようと思ったんだが、拉致された以上、お前の身体にダメージは残っていると思った。俺と違って爆発で死なないとはいえ、蓄積はされるだろ?」
「アヤネちゃん……」
セリカが声を漏らす。同級生が泣いて目の前の男に頼む姿は簡単に想像できた。
それ程自分を思ってくれていることを再確認でき、セリカも嬉しさのあまり涙が溢れ出す。
「で、一番お前の身体にダメージを与えない方法。ベストだと思ったのが、『運転席を襲撃して、車を停めること』だった。荷台の隙間から髪の毛も見えたし、この車で間違いないと思ったよ」
「気付いて、くれたんだ」
「まあな。で、後は正面の窓から運転席に乗り込んで、運転手と助手席の奴を倒して、車を停めて助けた。そういうわけだ」
つまりこの男は、律儀にアヤネとの約束を実行するためにこのような救出方法を選んだのだ。
確かに爆破されるより、今回の救出方法は有り難い。この状態でさらに爆破されるのは、あまり考えたくなかった。
「……分かった。秘密にする」
そこまでされたのに、秘密にしてほしいと言われたことをバラすといった選択は、セリカには出来なかった。
何か事情があるにしても、自分達のために全力を尽くす『顔無し』が悪人だとは思えない。
『顔無し』は頭を下げた。
「ありがとう」
「その代わり!」
セリカは指を突き付ける。
自身を勘定から捨てる『顔無し』の在り方は、到底納得できるようなものではない。例え不死身に近い身体だとしてもだ。
ヘルメット団を襲撃したときもそうだった。ホシノの盾に隠れず、ゴミ箱の蓋を持って、特攻していた。
「もう少し自分の身を大切にしなさい! 流石に痛いって感覚くらい、ある……っ」
言いかけて、セリカは止まった。
(待って……本当にそうなの?)
傷だらけの時、『顔無し』の様子は普段と変わりなかったことを思い出す。傷を押さえる動作も、声を漏らすこともなかった。
それらが表すことは、つまり……。
「痛覚も、ないのっ……?」
「……あるっちゃあるんだがな。もう慣れたのか、俺にとっては葉で切り傷ができるようなもんだよ」
斑目ユウは過去に、実験によって何度も手足を欠損させられた。勿論、その時に麻酔などは掛けられていない。
繰り返される負傷に、脳か身体が斑目の精神を守るために痛覚を鈍くさせたのだろう。後半では、斑目が痛みに叫ぶことはなかった。
当然それは、同じ身体を持つ『顔無し』にも引き継がれている。実際彼も、何回か欠損しているがあまり痛みを感じなかった。
「っ……!」
『顔無し』の回答に、セリカは苦しげな表情を見せてから、何かを決意したような顔付きになり、ズンズンと歩いて行く。
「? おい、大丈夫なのか?」
「大丈夫よっ、戦えるから貸して!」
その行き先は『顔無し』の元で、奪うように愛銃を手に取る。
痛覚もない。自分の身を大切にしない。
それを知ってしまった心優しいセリカは、なるべく『顔無し』を戦わせたくないと思った。
(これ以上戦わせたら、『顔無し』はいつか絶対破綻する……! だから、私がやらないと!!)
「……あまり無理すんなよ?」
「それは鏡を見て言いなさい」
「俺はいいんだよ。年上は自分より年下を守る義務があるだろ?」
「なら私は身体がアンタより頑丈よ。『顔無し』を守る義務があるわね?」
軽口を叩き合いながら二人は、荷台の扉を開けて外に出る。
「そういえば私は黙ってるけど、真っ赤に染まった白い布と上の服、回収しなくていいの? 先生達に見つかったら、結局バレるじゃない」
荷台には『顔無し』の、血に染まった上半身を包んでいた衣服がある。それを放置すれば、自分との秘密が意味ないのではないか。
セリカの疑問に、奪ったのであろうマッチに火をつけて『顔無し』は言う。
「問題ねぇよ。先生達に居場所を伝える時に、どうせ消えるしな」
「……ああ、そういうこと。って、ちょっと待っ!!」
『顔無し』がガソリンタンクに向けて、燃えているマッチ棒を投げる。着火すると同時にトラックは炎上し、爆発しながら燃えていった。
トラックの車輪や、運転席に座っていたヘルメット団が吹き飛んだ。
「証拠隠滅完了」
「この、お馬鹿! これじゃ敵も寄ってきちゃうじゃない!!」
立ち昇る黒煙を指差し、青筋を立てながらセリカが言う。
『顔無し』は冷静だ。
「先生達の方が早いだろ。俺ら二人だけなら無理だけど、あの人達がいれば負ける気がしない。そうだろ?」
「ぐっ」
「大丈夫だよ。そもそも俺が一番にここに来れたのは、先生のお陰だ。近くまで来てるだろうし、また対策委員会の皆にも会えるさ」
「これで最初に現れたのがヘルメット団だったら、覚えておきなさいよ……」
セリカは銃を構える。
『顔無し』も何が起こっても対応できるよう、周囲を見渡しながらも身体を脱力させるのだった。
セリカちゃんは何らかの拍子で、普通に秘密を話しちゃいそう(偏見)
一つのイベントにつき、話数を使い過ぎ? 文字数とか内容を削った方がいい?
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使い過ぎ
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丁度良い
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寧ろ少ない!!