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次回から再び、本編進みまーす!
取り敢えずホシノちゃんには、軽いジャブを喰らわせましょうね!
今迄動きがなかった『
彼はホシノの手首を掴んで。
自分の腕から離させた。
「え、斑……目?」
ホシノが呆然としながら、ゆっくりと顔を上げる。
その瞳孔は揺れていて、何かを恐れているようにも見えた。
「な、何!? ……感動の再会じゃないのっ?」
ホシノだけではない。その拒絶するかのような行動に、全員が『顔無し』に視線を向けていた。
意味が分からなかったのだ。こういう場面で、何故そんなことをするのか。
「あ、あ……」
だが、ホシノにはその心当たりがあった。
『ユメ先輩を返せッ!!』
『お前なんか……お前なんか仲間じゃない!!』
『ここから出ていけ! 二度と私の前に現れるなッ!!』
過去の記憶が蘇る。
心に同じ傷を負った彼を、励まし合うわけではなくアビドス高等学校から追い出した。
あろうことか、その身体に跡が残るであろう傷を付けた。
ホシノにとっては、想定できた反応だ。だが実際にそれをやられると、心にくるものがあった。
「ご、ごめん……! 私、斑目にあんな……!!」
「……あー」
『顔無し』は後頭部を掻く。
自分の服を握り、取り乱しているホシノ。
そして何が起きてるか分からないが、踏み込める雰囲気じゃないため、遠くから見守る先生達。
(面倒な状況になったもんだ……)
『顔無し』は一つ、溜息を吐いた。その音に肩を跳ねさせるホシノを見て、もう一度心の中で溜息をする。
「委員長。一回、手を離してくれるか?」
「……やっぱり、怒ってるよね。だからずっと、私を呼んでくれないんだ」
「怒ってない……それも含めて話すから、まず部室に帰ろう。話はそれからだ」
大体、その論理なら書記ちゃん達にも怒ってることになるだろ。
『顔無し』がそう言うと、ホシノは静かに彼から離れた。説明に納得したのだろう。
そしてそのまま、校舎に向け歩き出した。その後ろ姿を見て、アビドスの面々は放っておけなかったのだろう。
「……ホシノ先輩を追いかけよう」
「はい! 行きましょう!」
「ああ、もう。『顔無し』! あんたちゃんと後で説明しなさいよね!」
彼女達も学校の中へと戻っていった。
この場に残っているのは、先生と『顔無し』だけだ。
先生が申し訳なさそうに縮こまりながら、こそっと寄ってくる。
「えーと……私、何かしちゃったかな?」
「……いや。ただ生徒のためにやっただけだろ、先生は。どちらかというと、俺の責任だ」
直前にしていた先生とホシノのやり取り。
詳細はよく分からないが、先生はホシノに斑目に関する調査を頼まれたのだろう。『顔無し』はそう考えた。
恐らくだが、ホシノに斑目だと思われる言動をしてしまったのかもしれない。身長と雰囲気で分かったと言われれば、それまでなのだが。
先生は首を捻りながら、『顔無し』に問いかける。
「それで、えーと。これから何て呼べばいいかな……? 斑目くんとか、ユウくん?」
「斑目じゃねえよ」
え、と驚く先生。そんな彼女を置いて、『顔無し』は歩き出す。
慌てて後を追う先生に、背を向けながら彼は言った。
「今は『顔無し』だ。詳しい話は後でな」
部室に着くと、定例会議の並びで対策委員会の面々が話を聞く姿勢になっていた。
扉に入った瞬間、五人の視線が集まる。その雰囲気に先生は喉を鳴らし、ゆっくりと席に座った。
『顔無し』は出入り口近くの壁に背を預ける。このまま話すつもりらしい。そしてその口を開いた。
「色々話す前に一つ教えてくれるか、委員長。……いつ、そして何で俺が斑目だって思った?」
この質問には二つ意図がある。
一つは単純な興味。日記の内容を見るに、自分と斑目の口調は全く違う筈だ。なのにどこで気付かれたのか、それが気になった。
そしてもう一つは、時間稼ぎである。
正直、『顔無し』はこの後の対応を決めかねていた。
真実を話すか。嘘をつくか。その両方を組み合わせるか。
ホシノと会話し、それを決める時間を作る。会話中の反応が決断材料にもなりそうなので、一石二鳥というやつだ。
ホシノは寂しそうに目尻を下げてから、ぽつぽつと話す。
「……最初に会った時、何故かそう思ったんだ。自分でも驚いたよ……全く似ても似つかないのに、どうして目の前の人が斑目と重なるんだって」
(……既に、初対面の時点で疑念を抱かれてたとはな)
そのことに驚くが、『顔無し』は余計な口を叩かなかった。
黙って話を促す。ホシノの声が少し大きくなった。
「でも、だんだん確信に変わってきた。顔と名前は隠しても、『癖』は隠せなかったみたいだね……」
「『癖』?」
「斑目はね、返答に詰まったりすると無意識に頭を掻く癖があるんだよ。その様子だと、気付いてなかったみたいだけど……」
言われてみれば、そうかもしれない。
外でホシノが取り乱した時も、無意識に後頭部を掻いていたことを思い出す。
「他にも自分を客寄せパンダにしようとしたこと。さらに肉声まで聞いちゃったら、もう辿り着いちゃうよね」
「肉声? そんなの聞かせて……っああ。あの時ね」
セリカを救出した後に、戦車に轢かれそうになった時のことを『顔無し』は思い出した。
あの時、血を吐き出して仮面がズレていたのだろう。そのまま自分を守ってくれたホシノの前で言葉を発した。
そりゃバレるな……と『顔無し』は溜息を吐く。
「さてと」
ホシノが立ち上がり、『顔無し』の下へ歩いた。
そして両手で強く壁を叩き、見上げる。
背後は壁、両側はホシノの腕、正面は小さな体躯に阻まれた。『顔無し』はホシノの檻に囚われる。
「今度は斑目の番だよ。その口調は何? その身体能力はっ? ……教えて。あの後……何があったの?」
(あの後……ねぇ)
多分斑目なら分かるだろうが、『顔無し』は分からなかった。
話を合わせるにしても、きっと早い段階でボロを出す。実際、今のようなことになっているのだから。
(……これ、記憶喪失って言った方がいいかもな。多少の真実と嘘を織り交ぜて)
変に設定を作り墓穴を掘るのなら、真っ白にした方がやりやすい。
『顔無し』は当初の予定通り、今後の自分の方針を決めた。
なので、小さく呟く。
「悪いけど……それには答えられない」
「……どうして」
「俺自身、それが分からないからだ」
「え」
『顔無し』の一言に声を漏らしたのは、ホシノだけではなかった。
先生、セリカ、アヤネ、シロコ、ノノミ。
『顔無し』以外の部室にいる全員が声を漏らしたのだ。しばらく黙り込む彼に、段々と嫌な予感が湧いてくる。
そして遂に、ホシノにとって聞きたくなかった言葉が発せられた。
「記憶喪失なんだよ、俺は。ここで過ごした思い出は記録だけのもので、身に覚えは一切ない」
目の前が真っ暗になる感覚。
ホシノは今、正にそれを体感した。
嘘だ。
嫌だ。
信じられない。
「ッ!!」
「っおい、委員長?」
頭の中で否定の言葉が繰り返し響き渡る。その雑音を振り払うように、ホシノは走り出した。『顔無し』の手を取って。
そのままホシノが向かった場所は、体育館の倉庫だった。
積み上がったマットに、『顔無し』を押し倒す。パンドラの箱だと分かっていながらも、その素顔を確認したかった。
「何だってんだ、一体……あっ」
「! う、あぁ……っ!!」
ホシノは『顔無し』の仮面を取った。
取ってしまった。
『小鳥遊さんっ!!』
そこにあったのは、自分がよく知る。
犬のように人懐っこい男子の顔。
ではない。
「……酷い顔するな、委員長。そんな不細工か、この顔?」
当時とかけ離れた顔が、そこにはあった。
ホシノの脳裏に、柴関ラーメンでの先生の言葉が流れる。
『うん……光をね、灯してないの。全てを諦めて、心を擦り減らしたかのような目をしてるんだ。『顔無し』は』
全くその通りだった。
彼の瞳は光をなくし、その色は灰色に濁っていた。喜怒哀楽が抜け落ちた表情は、まるで生気が感じられず、機械のようだ。
ホシノは感情を抑えきれず、その胸板に顔を埋める。
「ゔぅ……! 斑目ッ、斑目ェ……!!」
「……委員長。苦しい、息ができない」
背中を叩かれるが、ホシノは『顔無し』を抱くのをやめなかった。
どれ程のことが起きれば、人はここまで変わるのだろう。
この変化から、記憶喪失という信憑性が増してくる。それ程、斑目は大きなストレスを受けたのだ。
「ごめん、ごめんね斑目……! 斑目は悪くないっ、仲間じゃないなんて嘘っ! 生きててくれて、ありがとう……!!」
「……」
「今度は絶対、守るから……! 斑目が傷付かないように、私が守るから……!!」
頭に浮かぶのは、黒服の姿だ。
許せない。強い怒りが沸々と、身体の中に湧き上がる。
もし今目の前に黒服が現れたら、その瞬間に銃口を突き付けてやりたい程だった。
その怒りは、頬に添えられた手によって収まっていく。
「委員長……それは、俺に言うことじゃない。お前が知る俺が戻ってきた時、言ってやるんだ」
「……うん」
そうだ。彼は斑目じゃない。
今の彼に謝罪をすることは、反撃がないことを良いことに攻撃をする者と同じだ。
非難も蔑みもないと分かりきった上で、謝って満足するズルい行為だ。
頷いたホシノに、『顔無し』は少しだけ口角を上げて頷く。
「よし。それじゃあ退こうか。部室に帰れない」
「あ。ごめん」
馬乗りになっていたホシノが離れると、『顔無し』は立ち上がった。
そのまま倉庫から出て行こうとする彼を、ホシノは呼び止める。
「待って! ……君のことは、なんて呼べばいい?」
「今まで通りでいいだろ、『顔無し』で。ただし俺が記憶を取り戻した時は、ちゃんと斑目って呼んであげろよな」
「……うん。そしてちゃんと謝るよ。ありがとう、『顔無し』くん」
そう言うと、ホシノは『顔無し』の隣に駆け寄った。
「ねっ。折角だし、二人で帰ろうよ〜。このまま帰ったら、皆心配しちゃうし」
「そうだな。丸く収まりましたってアピールするか」
ホシノの口調もすっかり元に戻っている。
どうにか出来たようだ。一時はどうなることかと思ったが、これでまたアビドス対策委員会は活気を取り戻すだろう。
『顔無し』はようやく肩の力を抜き、ゆっくりと息を吐けるのだった。
2人とも仲直り?出来てよかったね。
せいぜい噛み締めろ(今の幸せを)