憑依in実験体のアビドス生徒   作:改名

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次回から再び、本編進みまーす!
取り敢えずホシノちゃんには、軽いジャブを喰らわせましょうね!


21.斑目じゃねえよ

 

 

 

 今迄動きがなかった『顔無し(ノーネーム)』に、変化が生じる。

 彼はホシノの手首を掴んで。

 

 

 

 自分の腕から離させた。

 

 

 

「え、斑……目?」

 

 

 ホシノが呆然としながら、ゆっくりと顔を上げる。

 その瞳孔は揺れていて、何かを恐れているようにも見えた。

 

 

「な、何!? ……感動の再会じゃないのっ?」

 

 

 ホシノだけではない。その拒絶するかのような行動に、全員が『顔無し』に視線を向けていた。

 意味が分からなかったのだ。こういう場面で、何故そんなことをするのか。

 

 

「あ、あ……」

 

 

 だが、ホシノにはその心当たりがあった。

 

 

『ユメ先輩を返せッ!!』

『お前なんか……お前なんか仲間じゃない!!』

『ここから出ていけ! 二度と私の前に現れるなッ!!』

 

 

 過去の記憶が蘇る。

 心に同じ傷を負った彼を、励まし合うわけではなくアビドス高等学校から追い出した。

 

 あろうことか、その身体に跡が残るであろう傷を付けた。

 

 ホシノにとっては、想定できた反応だ。だが実際にそれをやられると、心にくるものがあった。

 

 

「ご、ごめん……! 私、斑目にあんな……!!」

 

「……あー」

 

 

 『顔無し』は後頭部を掻く。

 

 自分の服を握り、取り乱しているホシノ。

 そして何が起きてるか分からないが、踏み込める雰囲気じゃないため、遠くから見守る先生達。

 

 

(面倒な状況になったもんだ……)

 

 

 『顔無し』は一つ、溜息を吐いた。その音に肩を跳ねさせるホシノを見て、もう一度心の中で溜息をする。

 

 

「委員長。一回、手を離してくれるか?」

 

「……やっぱり、怒ってるよね。だからずっと、私を呼んでくれないんだ」

 

「怒ってない……それも含めて話すから、まず部室に帰ろう。話はそれからだ」

 

 

 大体、その論理なら書記ちゃん達にも怒ってることになるだろ。

 

 『顔無し』がそう言うと、ホシノは静かに彼から離れた。説明に納得したのだろう。

 そしてそのまま、校舎に向け歩き出した。その後ろ姿を見て、アビドスの面々は放っておけなかったのだろう。

 

 

「……ホシノ先輩を追いかけよう」

 

「はい! 行きましょう!」

 

「ああ、もう。『顔無し』! あんたちゃんと後で説明しなさいよね!」

 

 

 彼女達も学校の中へと戻っていった。

 この場に残っているのは、先生と『顔無し』だけだ。

 先生が申し訳なさそうに縮こまりながら、こそっと寄ってくる。

 

 

「えーと……私、何かしちゃったかな?」

 

「……いや。ただ生徒のためにやっただけだろ、先生は。どちらかというと、俺の責任だ」

 

 

 直前にしていた先生とホシノのやり取り。

 詳細はよく分からないが、先生はホシノに斑目に関する調査を頼まれたのだろう。『顔無し』はそう考えた。

 

 恐らくだが、ホシノに斑目だと思われる言動をしてしまったのかもしれない。身長と雰囲気で分かったと言われれば、それまでなのだが。

 

 先生は首を捻りながら、『顔無し』に問いかける。

 

 

「それで、えーと。これから何て呼べばいいかな……? 斑目くんとか、ユウくん?」

 

「斑目じゃねえよ」

 

 

 え、と驚く先生。そんな彼女を置いて、『顔無し』は歩き出す。

 慌てて後を追う先生に、背を向けながら彼は言った。

 

 

 

 

 

「今は『顔無し』だ。詳しい話は後でな」

 

 

 

 

 

 

 

 部室に着くと、定例会議の並びで対策委員会の面々が話を聞く姿勢になっていた。

 扉に入った瞬間、五人の視線が集まる。その雰囲気に先生は喉を鳴らし、ゆっくりと席に座った。

 

 『顔無し』は出入り口近くの壁に背を預ける。このまま話すつもりらしい。そしてその口を開いた。

 

 

「色々話す前に一つ教えてくれるか、委員長。……いつ、そして何で俺が斑目だって思った?」

 

 

 この質問には二つ意図がある。

 

 一つは単純な興味。日記の内容を見るに、自分と斑目の口調は全く違う筈だ。なのにどこで気付かれたのか、それが気になった。

 

 そしてもう一つは、時間稼ぎである。

 正直、『顔無し』はこの後の対応を決めかねていた。

 

 真実を話すか。嘘をつくか。その両方を組み合わせるか。

 ホシノと会話し、それを決める時間を作る。会話中の反応が決断材料にもなりそうなので、一石二鳥というやつだ。

 

 ホシノは寂しそうに目尻を下げてから、ぽつぽつと話す。

 

 

「……最初に会った時、何故かそう思ったんだ。自分でも驚いたよ……全く似ても似つかないのに、どうして目の前の人が斑目と重なるんだって」

 

(……既に、初対面の時点で疑念を抱かれてたとはな)

 

 

 そのことに驚くが、『顔無し』は余計な口を叩かなかった。

 黙って話を促す。ホシノの声が少し大きくなった。

 

 

「でも、だんだん確信に変わってきた。顔と名前は隠しても、『癖』は隠せなかったみたいだね……」

 

「『癖』?」

 

「斑目はね、返答に詰まったりすると無意識に頭を掻く癖があるんだよ。その様子だと、気付いてなかったみたいだけど……」

 

 

 言われてみれば、そうかもしれない。

 外でホシノが取り乱した時も、無意識に後頭部を掻いていたことを思い出す。

 

 

「他にも自分を客寄せパンダにしようとしたこと。さらに肉声まで聞いちゃったら、もう辿り着いちゃうよね」

 

「肉声? そんなの聞かせて……っああ。あの時ね」

 

 

 セリカを救出した後に、戦車に轢かれそうになった時のことを『顔無し』は思い出した。

 あの時、血を吐き出して仮面がズレていたのだろう。そのまま自分を守ってくれたホシノの前で言葉を発した。

 

 そりゃバレるな……と『顔無し』は溜息を吐く。

 

 

「さてと」

 

 

 ホシノが立ち上がり、『顔無し』の下へ歩いた。

 そして両手で強く壁を叩き、見上げる。

 

 背後は壁、両側はホシノの腕、正面は小さな体躯に阻まれた。『顔無し』はホシノの檻に囚われる。

 

 

「今度は斑目の番だよ。その口調は何? その身体能力はっ? ……教えて。あの後……何があったの?」

 

(あの後……ねぇ)

 

 

 多分斑目なら分かるだろうが、『顔無し』は分からなかった。

 話を合わせるにしても、きっと早い段階でボロを出す。実際、今のようなことになっているのだから。

 

 

(……これ、記憶喪失って言った方がいいかもな。多少の真実と嘘を織り交ぜて)

 

 

 変に設定を作り墓穴を掘るのなら、真っ白にした方がやりやすい。

 『顔無し』は当初の予定通り、今後の自分の方針を決めた。

 

 なので、小さく呟く。

 

 

「悪いけど……それには答えられない」

 

「……どうして」

 

「俺自身、それが分からないからだ」

 

「え」

 

 

 『顔無し』の一言に声を漏らしたのは、ホシノだけではなかった。

 先生、セリカ、アヤネ、シロコ、ノノミ。

 『顔無し』以外の部室にいる全員が声を漏らしたのだ。しばらく黙り込む彼に、段々と嫌な予感が湧いてくる。

 

 そして遂に、ホシノにとって聞きたくなかった言葉が発せられた。

 

 

 

 

 

 

「記憶喪失なんだよ、俺は。ここで過ごした思い出は記録だけのもので、身に覚えは一切ない」

 

 

 

 目の前が真っ暗になる感覚。

 ホシノは今、正にそれを体感した。

 

 嘘だ。

 嫌だ。

 信じられない。

 

 

「ッ!!」

 

「っおい、委員長?」

 

 

 頭の中で否定の言葉が繰り返し響き渡る。その雑音を振り払うように、ホシノは走り出した。『顔無し』の手を取って。

 

 そのままホシノが向かった場所は、体育館の倉庫だった。

 積み上がったマットに、『顔無し』を押し倒す。パンドラの箱だと分かっていながらも、その素顔を確認したかった。

 

 

「何だってんだ、一体……あっ」

 

「! う、あぁ……っ!!」

 

 

 ホシノは『顔無し』の仮面を取った。

 取ってしまった。

 

 

『小鳥遊さんっ!!』

 

 

 そこにあったのは、自分がよく知る。

 犬のように人懐っこい男子の顔。

 

 

 ではない。

 

 

「……酷い顔するな、委員長。そんな不細工か、この顔?」

 

 

 当時とかけ離れた顔が、そこにはあった。

 ホシノの脳裏に、柴関ラーメンでの先生の言葉が流れる。

 

 

『うん……光をね、灯してないの。全てを諦めて、心を擦り減らしたかのような目をしてるんだ。『顔無し』は』

 

 

 全くその通りだった。

 彼の瞳は光をなくし、その色は灰色に濁っていた。喜怒哀楽が抜け落ちた表情は、まるで生気が感じられず、機械のようだ。

 

 ホシノは感情を抑えきれず、その胸板に顔を埋める。

 

 

「ゔぅ……! 斑目ッ、斑目ェ……!!」

 

「……委員長。苦しい、息ができない」

 

 

 背中を叩かれるが、ホシノは『顔無し』を抱くのをやめなかった。

 

 どれ程のことが起きれば、人はここまで変わるのだろう。

 この変化から、記憶喪失という信憑性が増してくる。それ程、斑目は大きなストレスを受けたのだ。

 

 

「ごめん、ごめんね斑目……! 斑目は悪くないっ、仲間じゃないなんて嘘っ! 生きててくれて、ありがとう……!!」

 

「……」

 

「今度は絶対、守るから……! 斑目が傷付かないように、私が守るから……!!」

 

 

 頭に浮かぶのは、黒服の姿だ。

 許せない。強い怒りが沸々と、身体の中に湧き上がる。

 

 もし今目の前に黒服が現れたら、その瞬間に銃口を突き付けてやりたい程だった。

 その怒りは、頬に添えられた手によって収まっていく。

 

 

「委員長……それは、俺に言うことじゃない。お前が知る俺が戻ってきた時、言ってやるんだ」

 

「……うん」

 

 

 そうだ。彼は斑目じゃない。

 今の彼に謝罪をすることは、反撃がないことを良いことに攻撃をする者と同じだ。

 非難も蔑みもないと分かりきった上で、謝って満足するズルい行為だ。

 

 頷いたホシノに、『顔無し』は少しだけ口角を上げて頷く。

 

 

「よし。それじゃあ退こうか。部室に帰れない」

 

「あ。ごめん」

 

 

 馬乗りになっていたホシノが離れると、『顔無し』は立ち上がった。

 そのまま倉庫から出て行こうとする彼を、ホシノは呼び止める。

 

 

「待って! ……君のことは、なんて呼べばいい?」

 

「今まで通りでいいだろ、『顔無し』で。ただし俺が記憶を取り戻した時は、ちゃんと斑目って呼んであげろよな」

 

「……うん。そしてちゃんと謝るよ。ありがとう、『顔無し』くん」

 

 

 そう言うと、ホシノは『顔無し』の隣に駆け寄った。

 

 

「ねっ。折角だし、二人で帰ろうよ〜。このまま帰ったら、皆心配しちゃうし」

 

「そうだな。丸く収まりましたってアピールするか」

 

 

 ホシノの口調もすっかり元に戻っている。

 どうにか出来たようだ。一時はどうなることかと思ったが、これでまたアビドス対策委員会は活気を取り戻すだろう。

 

 『顔無し』はようやく肩の力を抜き、ゆっくりと息を吐けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




2人とも仲直り?出来てよかったね。





せいぜい噛み締めろ(今の幸せを)
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