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前話と前々話の感想の量が凄過ぎる……。
ホシノの曇る姿を見て、そんなに愉悦するなんて……貴方様達も悪よのう! 人のこと言えませんがね。私も。
『
並ぶ二人の姿と、どこか憑き物が取れたようなホシノの表情に、置いていかれた対策委員会の面々と先生は、安堵の息を吐く。
普段の姿からは考えられない程、ホシノは取り乱していた。なので彼女達は心配していたのだ。
反応を見て分かったのだろう。ホシノは困ったように笑った。
「うへへ……心配掛けてごめんね? 皆」
「ううん。ホシノ先輩がすっきりしたなら、よかった」
「そうですね。ありがとうございます、斑目先輩☆」
「俺は何もしてないよ。委員長が勝手に、気持ちの整理をしてくれただけだ。それと俺は『顔無し』ね」
体育館の倉庫で外した仮面を、既に『顔無し』は付けている。
そして飽くまで自身を『顔無し』とし、先輩として振る舞うつもりがないのだと、対策委員会の面々は理解した。
「で、でも。例え記憶がなくて、私達のことを知らないとしても。私は『顔無し』さんを先輩と呼びたいです。現に今、私達を助けてくれてますし……」
アヤネは『顔無し』に頼もしさを感じている。男性の先輩がいたらこんな人なのかなと考えていた時があった。
まさか本当に先輩だとは思わなかったが、それはさておき。
現在、記憶がないから先輩と呼ぶに相応しくないのだと『顔無し』が自嘲しているのだと思い、アヤネは悲しそうに目を伏せる。
「……参ったな」
彼女達には記憶喪失と言ったが、自分と斑目は全くの別人だ。だから先輩と呼ばれるに相応しくない。
その呼び名は、この学校のために尽力した彼に取っておいてやるべきだろう。
とはいえ、そんな顔をされては申し訳なさも感じた。
「バカね。難しく考えすぎよ」
呆れたような溜息が聞こえる。出所はセリカだ。
「要は斑目って呼ばれたくないんでしょ? ……まあ、気持ちは分かるわ。変な感じしそうよね、自覚がない名前を周囲から何度も呼ばれるのは」
「……」
「でも、『先輩』だけで呼ぶならいいと思うの。あんたがやってきたことは、間違いなくアヤネちゃんにとって『先輩』と呼べることだった筈よ……も、勿論、私にとってもね」
ふい、と顔を背けて言うセリカ。その頬が紅潮しているのもあり、『顔無し』は追及しないことにした。
したが最後、自分に牙が向くだろう。
なので『顔無し』はセリカを視界から外し、アヤネを見た。
こくこく、と緊張した顔で頷く姿に、『顔無し』は額を抑え降参の溜息を吐く。
「分かった分かった……今はそれでいい。記憶が戻ったら、苗字か名前も付けてくれよ」
「! はい!!」
表情を輝かせ、アヤネは大きく頷いた。
因みに『顔無し』を『先輩』と呼ぶことになったのはアヤネだけだ。他は今迄通りの呼び方を続けるらしい。
事態は一段落したが、まだ問題が残っている。『顔無し』は溜息を吐いた。
「しかし、まさかアル達も出向いてくるとは。面倒なことになったもんだ……」
カタカタヘルメット団に引き続き、新たな刺客の登場。それも知り合いの実力者達ときた。
『顔無し』が漏らした言葉にまず反応したのは、ホシノだ。
「そうだそうだ。いるじゃ〜ん、ここに一人」
「?」
にへらと笑う彼女に見られる『顔無し』。眠そうな目が、何故かギラついているように感じた。
ホシノだけではない。対策委員会全員の目が、キラリと光り『顔無し』に向けられていた。
「妙な便利屋に襲われて……」
「何が起きているか全く分からずじまい」
「ん。先が思いやられていたけれど」
「ラッキーですね、私達☆」
「うん。じゃあ少しずつ調べていこうー。というわけで『顔無し』くん、あの娘達のこと教えてくれる?」
知ってること全部吐くまで帰さない。
アヤネ、セリカ、シロコ、ノノミ、ホシノにそう言われてるように感じた。
(……サバンナのシマウマになった気分だ)
肉食獣に囲まれる自分の姿を一瞬幻視した後、『顔無し』は後頭部を掻き、口を開く。
「といっても、俺から言えることはあんまりないぞ。第一フルネームも知らねぇし」
「知らないの!?」
先生の目は驚きで見開かれている。
対策委員会の面々も、彼女程ではないが驚いた。ホシノに関しては疑ってもいる。
あんなに親密そうな姿を見せられたのだ。『顔無し』の発言にそのような反応を見せるのも無理はない。
「ああ。自己紹介はしたけど、あいつら言ったの、下の名前だけだったからな。俺はそのまま『顔無し』って名乗ったし」
「すぐに関係が途切れそうな自己紹介だわ……」
「実際はその逆なんだから、不思議だよね……」
「ね」
セリカとアヤネが顔を見合わせ、苦笑する。
『顔無し』が大して便利屋68について知らないことが判明してしまい、流れが止まってしまった。
原因である『顔無し』は、さぞかし肩身が狭く思ってるだろう。大人として、先生は空気を柔らかくしようとした。
「だ、大丈夫! 先生はカッコいいと思うなっ。裏社会みたいで!」
「引っ叩くぞ」
『顔無し』の周りの空気を固くする結果に終わる。先生は無力感を抱きながら、背を丸めて黙った。
パンパンッと手を叩く音が響く。出所はホシノだった。
「はいはい。じゃあまずは社長のアルって子の身元から洗ってみよ。何か出てくるよ、きっと」
その言葉に全員が頷く。しかし時間も時間なので、今日はそれでお開きとなるのだった。
翌日。
アビドス地区のホテルを、朝日が照らす。
既に身体は、何もせずともこの時間帯に起きるようになった。
『顔無し』はいつも通り、ベッドから降りて浴室に向かう。併設された洗面台で、身支度と歯磨きを済ませるためだ。
「……ぁ?」
手前と奥に腕を動かしていると、コツン、と歯ブラシのヘッドに何かが当たる感触がした。
寝ぼけ目で鏡を見て、自分の舌にある『それ』に『顔無し』の意識が冴えていく。
『顔無し』は一旦、水で口をすすいで吐き出し、足早に先生の元へ向かった。合鍵でドアを開き、室内に入る。
「先生、先生」
「ん……どうしたの、のーねーむ。こわい夢でもみた? いっしょにねる?」
「寝てる場合じゃない。異常事態の発生だ」
魅惑的な身体をした女性が薄着でこちらに手を広げ、そして眠りに誘おうとした。
まだ暖かさが残ったベッドと掛け布団、その発生源である抱き心地が良さそうで温もりを感じるであろう先生は魅力的ではある。
しかし『顔無し』はそれどころではない。
説明するより見た方が早いだろうと、『顔無し』は口を開き舌を出す。先生はその両頬を掴み、自分の顔を彼の舌に寄せていく。
「ん〜……ん?」
『それ』を見た瞬間『顔無し』と同様に動きを止め、段々と先生の寝惚け目が冴えていく。
そして、『顔無し』の目と舌を交互に見た。
「ノ、『顔無し』。これ……!! って顔近いね私達!?」
「……締まらないな、本当に」
溜息を吐き、顔を顰める『顔無し』。これは先生に向けたものではなく、彼女に不快感を抱いているわけではない。突然起こった自分の異変に対するものだ。
先生は喉を鳴らして、問いかける。
「それ……『ヘイロー』、だよね?」
「ああ。なぜか突然、口内に出現しやがった」
それに、と『顔無し』は迷う素振りを見せずに自身のヘイローを『摘んだ』。
「物理的に触れるみたいだしな。はっきり言って、意味が分からん」
「お、おー……!」
ピンッ、と指で弾かれ舌先を中心に回転するヘイローに、先生の目が釘付けになった。その瞳は少し輝いており、初めての玩具を見る子供のようだ。
当の本人である『顔無し』は、先生のように楽観的にはなれなかった。
異常事態が自分にとって好ましいことになるケース等、想像できなかったからだ。
『顔無し』は後頭部を掻いて呟く。
「また面倒なことに、ならなきゃいいんだけどな」
やったね斑目くん!
欲しかったものが手に入ったよ!
君はもうそこにいないけどネ!
haha!