憑依in実験体のアビドス生徒   作:改名

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こんなに執筆にかかってしまった……。
出勤時は電車の中で人が多過ぎて、執筆が出来ず。
退勤時は疲れでぼう……としてしまい。

3日空けて投稿してた、あの頃に戻りたい!!!
なるべく早い期間で書けるように頑張りますが、今回みたいに空いてしまうかもしれません。お許しください、読者様方!!!


25.ヒフミとの出会い(後編)

 

 

 

 

 

「転売?」

 

 

 ヒフミから出た言葉を、『顔無し(ノーネーム)』が復唱した。

 

 

「そうなんです! キヴォトス各地でペロロ様グッズの買い占めが起きると同時に、高額な値段で売られる事態が頻発してまして……」

 

 

 俯いていたヒフミが、悲しそうな表情で強く拳を握っている。余程許せないのだろう。

 その感情の乗り具合に、改めて『顔無し』はヒフミのペロロ様に対する思いを知った。

 

 

「各地で、ね……個人でやるには限界がありそうだな」

 

「はい。私もそう思います。そんな時に聞いたんです、沢山のペロロ様グッズを持つ集団が、ブラックマーケットに出入りしているって噂を……!」

 

「組織的な転売ってわけか……で、そこを見つけて乗り込もうって?」

 

 

 被り物の中で、簡易的な変声機が用いられてるとはいえ、声のトーンから『顔無し』が不満げであることが分かる。

 護衛と聞いていたが、自分からトラブルに突っ込んでいくとは思わなかった。このように彼が言いたいのだと思い、ヒフミは首を振る。

 

 

「違います! 今日は本当に散策の護衛だけでして……! その人達を見つけられるかも、分かりませんし……」

 

「……因みに、もし見つかったらどうする?」

 

 

 その問いに、ヒフミは眉根を下げる。

 

 

「トリニティは勿論、連邦生徒会やヴァルキューレも頼れないですよね……ええと、じゃあまずは転売を止めるように、お話をします! ペロロ様好きに悪い人はいないですし……多分」

 

「行き当たりばったりじゃねェか」

 

 

 『顔無し』は溜息を吐いた。

 

 恐らくヒフミは本気だ。仮に組織の拠点がここにあり、その場所を見つけたら一人で乗り込むだろう。

 

 だがブラックマーケットは治外法権が罷り通る、治安の悪いエリアだ。彼女の言う通り、外部からの助けは期待できない。

 事前調査はしているようだが、ヒフミはここに訪れるのは初めてだ。好戦的でなく心優しい性格もしている。

 

 

「……護衛するって依頼だからな。俺もその場に立ち会うよ」

 

「ええ!? そ、そんな申し訳ないです!」

 

 

 まあつまり、そんな善良な少女をここに一人にさせるわけにはいかなかった。

 引き下がるヒフミに、『顔無し』は手をヒラヒラさせる。

 

 

「遠慮するな。厚意には素直に甘えとけって」

 

「うう……じゃあ、お言葉に甘えて。正直……凄く助かります」

 

 

 ヒフミはしばらく考えた後、申し訳なさそうに頭を下げた。

 決まりだな、と『顔無し』は言い、二人は裏路地を後にする。

 

 

 

 ブラックマーケットにある古びた倉庫。陰からひょこっと、並んでそこを見つめる二つの影があった。

 

 

「……あったな」

 

「ありましたね……」

 

 

 『顔無し』とヒフミである。まず二人は先程の不良が、組織からペロロ様の商品を買った人間だと仮定した。

 

 彼女が見つからなかったため、直接話を聞くのは諦めたが代わりに、彼女の目撃証言からこの場所を特定したのだ。

 バイクに乗ったまま、ブラックマーケットを走行する不良が彼女以外いなかったのは、運が良かったと言える。

 

 

「普通にいる時にゃいるからな。バイク民」

 

「まさか、転売を止めてほしいというペロロ様の思いが……!」

 

「……そうかもな」

 

 

 何も言うまい。

 解釈は人の自由だ。それにヒフミが瞳を輝かせている。それを突くのは野暮だと思い、『顔無し』は流した。

 

 ヒフミは両手で握り拳を作る。

 

 

「私、絶対止めてみせます……!」

 

「やる気が出たんなら結構。それで、どう止める?」

 

「えっ? えーとですねぇ……」

 

 

 そのやる気は消え、彼女は目を泳がせた。冷や汗を流してるところから、具体的な案は考えていないみたいだ。

 やっぱりな、と『顔無し』は言う。そしてヒフミの前で、人差し指を立てた。

 

 

「一つ、転売を止める案がある」

 

「本当ですか!?」

 

「……あるんだが、ヒフミにとってあまり受け入れられない案かもしれない。それだけはまず言っておく」

 

「受け入れられない……? な、何ですかっ、その案って!?」

 

 

 瞳を輝かせていたヒフミだが、不穏な一言に身体を固まらせる。

 しかし興味が勝ったのか、詰め寄るように『顔無し』に問いかけた。

 

 

「耳を貸せ。あと大きい声を出すなよ?」

 

「ごくり……」

 

 

 ヒフミは喉を鳴らし、耳を傾ける。ペロロ様の被り物をしているため、『顔無し』は内緒話する時より少し大きな声量で話した。

 

 

「っ!? 〜〜っっ!?」

 

「待て待て待て。……危ないな、大きい声出すなっつったろ?」

 

 

 ヒフミの口を掌で覆う『顔無し』。お陰で、その声が外に漏れることはなかった。しばらく経って落ち着いたのか、ヒフミが『顔無し』の腕を叩く。

 

 手を離すと、ヒフミは顔を近付けて言った。

 

 

「しょ、正気ですか……!?」

 

「やっぱりファンからしたら受け入れられないか。うぅん……」

 

 

 『顔無し』が少し考え、口を開く。

 

 

「もし、倉庫にいる奴等がペロロ様のファンでも何でもない、金儲けしか眼中にない奴等だったらどうだ?」

 

「……ッ」

 

「凄い葛藤しながらOKしたな……」

 

 

 まるで悪魔に魂を売ったようだ。苦しげに両腕で丸を作るヒフミ。

 方針は決まった。後は流れに身を任せるのみである。

 

 

 

 

 ヒフミは『顔無し』といた場所を離れ、一人で倉庫へと向かった。

 中に入ると、数十人の不良達がいる。集団で駄弁っている彼女達だが、ヒフミを目にすると、目尻を下げた。

 

 まるで次のカモを見つけたかのように。

 

 

「……ねえ、見なよ。あいつの制服」

 

「ああ、トリニティだ……。お金もたんまり持ってるだろうなぁ」

 

(う、うぅぅ……!)

 

 

 全身を舐め回すような視線に、ヒフミは身を震わせる。

 もうこの時点で、『『顔無し』の案』に踏み込みたかったが、念のため確認してみることにした。

 

 

「あ、あのぅ……ここで、ペロロ様のグッズを買えると聞いたのですが……」

 

「おーおー! お嬢ちゃんよく見つけたなぁ! その通りだよ、ほら、ご覧の通り!!」

 

 

 そう言うと、不良の一人がヒフミの目の前に巨大な段ボール箱を置いた。その中が開かれる。

 

 

「こ、これは……ッッ!!!」

 

 

 目を見開くヒフミ。その中には、ペロロ様ファンにとっては喉から手が出る程欲しい、宝物のようなグッズが山程あった。

 

 

「凄いだろぉ? ここでしか手に入らない、宝の数々ってやつよ!」

 

「何せ他の店には売ってないんだからな。へへへ……ま、私達が買い漁ったからなんだが」

 

「は、はい! 本当に! ……あっ」

 

 

 ヒフミは本来の目的を思い出す。自分の両頬を叩いて、宝物を前に思考を無理やり戻した。

 

 

「あははは! これは夢じゃないよ? トリニティのお嬢様!」

 

「ご、ごめんなさい。目の前の光景が幸せに溢れてるせいで、つい……っ」

 

 

 謝りながら、ヒフミは自分のすべきことを纏める。

 

 

(まずはこの人達がペロロ様を愛しているかどうか、ですよね……もう、半分答えが出てる気がしますが)

 

 

 向けられる視線と、先程聞こえた独り言からヒフミは殆ど諦めていた。目の前の不良達が、ペロロ様を好いてる人達だということを。

 

 

「でも、いいんですか? こんなに沢山の貴重な品……」

 

「いいのいいの。あたし等、こんなの興味ないしー」

 

「今でも信じらんねぇよなぁ。これのために何十万も払うやつがいるんだぜ? ま、あたしらにとっちゃ有り難い話だがな!」

 

「もっと値段上げちゃう? 私達からしか手に入れられない状態みたいだし!」

 

 

 あはははははは!!!!!

 

 

 倉庫に不良達の笑い声が響き渡る。ヒフミはこの瞬間に理解した。

 彼女達はペロロ様を、ただの金儲けの道具としか見ていない。ペロロ様を、そしてそれを求める自分達を馬鹿にしているのだと。

 

 

「……っそう、ですか。分かりました、貴女達はそういう人なんですね」

 

「あん?」

 

「私は完全に怒りました!!!」

 

 

 瞳を潤わせ、睨みつけてくるヒフミに不良達がピリつく。

 

 

「ハッ! お嬢様が一丁前にメンチ切ってんじゃねえよ! ああん!?」

 

「この人数に勝てると思ってんの? あんたみたいな、ナヨナヨしたお嬢様がさぁ!」

 

 

 彼女達が一斉に銃器をヒフミに向けた。

 ヒフミは恐れることなく、その一言を叫ぶ。事前に『顔無し』から聞かされた、その案の第一歩。

 

 

「助けて!!! ペロロ様!!!!」

 

「あっはははは!! 良い啖呵を切ったかと思えば、仮想のキャラクターに頼るのぉ!?」

 

 

 マジ面白い、という不良の言葉は最後まで続かなかった。

 突如、倉庫に侵入してきた者の飛び蹴りで、吹き飛ばされたからだ。

 

 その姿を見て、不良達は叫ぶ。

 

 

「「「なんだこのナマモノ!!?」」」

 

 

 そこには、ペロロ様の被り物をした『顔無し』の姿があった。

 彼はヒフミの横に立ち、彼女に問い掛ける。

 

 

「迷いはなくなったみたいだな」

 

「はい。一緒に、やっつけましょう。この人達を」

 

 

 『顔無し』の案。

 それは『自分が暴れることで、不良達にペロロ様に対するトラウマを刻み付ける』ことだ。そうすれば永遠に不良達はペロロ様を遠ざける。そう考えて。

 

 先程の『助けてペロロ様』は、その引き金となるワードである。

 

 これにヒフミは難色を示していた。正気ですか、と。

 当然だ。いくら相手が不良とはいえ、自分が好きな存在を恐怖の象徴とするのは複雑だった。

 

 だが不良達の言葉を聞いて、もう彼女達に迷いはない。慈悲もない。

 ヒフミは今、彼女達を成敗することを決意した。

 

 

「くそ! 相手は二人! しかもトリニティのお嬢様と変なナマモノだ! やっちまえ!!」

 

「マジか……こいつら俺に気付いてねェ」

 

 

 服も体格も変声機の声も変わっていない。それでも、不良達が自分の正体に気付かないことに、『顔無し』は驚いた。

 そして少しだけ口角を上げる。

 

 

(まさかこんな形で、悩みを解決出来るなんてな)

 

 

 ヒフミと出会わなければ、この気付きはなかった。だから彼女のために感謝の気持ちも込めて、不良達を打ちのめそうと決意する。

 

 『顔無し』は強く地面を蹴り、目の前に弾丸が迫ると同時に腰を落とす。そのままスライディングのように地面を滑った。

 

 

「ガフッ!」

 

 

 不良の数メートル前辺りで、一度前転し勢いを殺すと、床に両手をつけて身体の軌跡で橋を作るように、不良の顔に両足の平を叩きつける。

 

 

「この野郎! ……ふげ!」

 

 

 不良の仲間が、着地して片膝を床に付けた状態の『顔無し』に銃を向ける。

 しかし、ペロロ様の被り物で突っ込んできた彼によって、銃も身体も宙を舞う結果となった。

 

 

(っと。ヒフミのことも気にかけねェと)

 

 

 護衛する者として、敵を排することはいい。ヒフミの脅威を少なく出来る。

 だが比重は大事だ。排することに集中し過ぎて、護衛が疎かになるのはよくない。

 

 『顔無し』はヒフミの方を向く。そして目を見開いた。

 

 

「くそ! 全然壊れねェぞこのデカ人形! 邪魔だ!」

 

「舐めた顔して踊りやがってクソが!!」

 

「ぎゃあ! いつの間に……!」

 

 

 不良達の目線は、何故か愉快な音楽と共に踊っている、大きなペロロ様人形に向けられていた。

 近くの物陰に潜むヒフミには気付かず、撃たれ終わった後に気付くようだ。既に何人か不良がそれによって、気絶している。

 

 

「中々やるもんだ、ヒフミ」

 

 

 その善戦ぶりは、つい『顔無し』の口から称賛の言葉が溢れてしまうほどだ。

 敵が纏まり、デコイに夢中になっている好機を『顔無し』は逃さない。

 

 

「「「うわぁぁぁぁぁぁ!!!!?」」」

 

 

 その筋力を余すことなく発揮して、一気に不良達を蹴散らす。

 ヒフミは静かに歩き、ある場所を目指した。それは『顔無し』も同様だ。

 

 

「あとは、お前だけだな」

 

 

 ヒフミと『顔無し』が見下ろす先には、床に尻餅を付いて身体を震わせる不良がいた。転売グループのリーダー格だ。

 自分は戦わず、観戦を決め込んでいたが予想外の結果に慄いている。

 

 『顔無し』とヒフミの足音が近付くにつれ震えを増し、そしてついに……額を床に付けた。

 

 

「ご、ごめんなさい! 許してください! 何でもしますから!!」

 

「……どうする? ヒフミ。こう言ってるけど」

 

「う、うーん。ちょっと可哀想な気がしてきました……」

 

 

 ヒフミはゆっくり頭を下げる不良に近付き、膝を曲げた。

 

 

「あの、頭を上げてください」

 

「は、はい……!」

 

「えっとですね……もう、こんなことはやめてください。貴女達にとっては、ペロロ様は大したものじゃないのかもしれません」

 

 

 でも、とヒフミは続ける。

 

 

「私達にとってはかけがえのない存在なんです。それを占領して、高値で売りつけることはやめましょう。私も、あまりこんなことしたくないので……」

 

 

 不良が恐る恐る頭を上げた。

 その時に見えた光景は、困ったように笑うヒフミと。その後ろで踊るペロロ様。そして黙ってこちらを見下ろす、ペロロ様の被り物をした『顔無し』だった。

 

 

「ひ、ひぃ……!」

 

「もしまた同じことをしていたら……何度でもペロロ様は現れますよ。私と一緒に」

 

「あ、あい……っ」

 

 

 不良が背後に倒れる。気絶したようだ。

 ヒフミの言葉と、その背後にいるペロロ様二体が発する(ように感じた)圧に気絶してしまったようだ。

 

 

「え!? あのっ、大丈夫ですか!?」

 

「放っておけ。そのうち勝手に起きるだろ」

 

 

 『顔無し』は不良を揺するヒフミを通り過ぎる。そして、さて、と段ボール箱に近付いた。

 

 

「こいつらはどうする?」

 

「はうぅ……!!!」

 

 

 箱の中に見える宝物の数々に、ヒフミは瞳を輝かせる。

 駆け寄って、しばらく見つめ……頭を振った。

 

 

「……やっぱりダメです。私一人で、全て貰ってしまうのは」

 

 

 ヒフミは箱を持ち上げる。そして『顔無し』を見上げた。

 

 

「『顔無し』さん。ごめんなさい、ちょっと付き合ってもらえますか?」

 

「ん?」

 

「これは分け合うべきです。本当に欲しかった人達と一緒に」

 

「……全く。本当にお前は、お人好しだな」

 

 

 『顔無し』はそう言って、ヒフミが持つ倍のダンボール箱を持つ。

 

 

「『顔無し』さん……!」

 

「俺も付き合うよ。それとヒフミ……まさか、その場で皆と分け合うつもりか?」

 

 

 隣を歩く『顔無し』の問いに、ヒフミは首を傾げる。

 何故そんな当たり前のことを聞くのかと。

 

 

「? はい。そうですけど……」

 

「なら言っておく……今のうちせめて2、3品は好きな物取っとけ」

 

「ええ!? で、でも」

 

「別に罪悪感を抱くことではないだろ? その人達はお前がいなければ、ずっと高価でペロロ様グッズを買うことになっただろうし」

 

 

 『顔無し』は歩きながら続けた。

 

 

「それを止めた功労者であるお前には、それくらいの権利はあるんじゃないか? 別に独占するわけじゃないだろ」

 

 

 それに、と『顔無し』は言う。

 

 

「多分、後悔することになるぞ。今取っておかないと」

 

「え、ええ……?」

 

 

 そんなことを言われれば、不安にもなる。

 ヒフミは多少の申し訳なさを抱きながらも、自分が一番目を引かれた商品を3点程手に取った。

 

 その後、ヒフミと『顔無し』はペロロ様グッズを手に分け与えようと、ブラックマーケットを出た。

 

 

 

 そして分け合いの場は、グッズを巡る生徒達の争奪戦へと姿を変え、巻き込まれた二人はボロボロになりながらも、その場を抜け出すことに成功する。

 

 

 

「……『顔無し』さんの言ってたこと、こういう意味だったんですねぇ……!」

 

「まあ……目の前に手が届かなかった物が現れたんだ。こうなるだろうさ」

 

 

 肌に汗を滲ませたヒフミが、疲れからか『顔無し』がいつも昼寝しているソファに倒れ込む。

 そのうちに『顔無し』は、ヒフミから受け取ったペロロ様の被り物を外し、いつもの仮面に付け替えた。

 

 

「ヒフミ」

 

「はい?」

 

「これ。助かった、ありがとな」

 

 

 ヒフミは『顔無し』から、差し出されたペロロ様の被り物を見て……首を振る。

 

 

「それは『顔無し』さんにあげます! お友達記念ということでっ」

 

「友達?」

 

「え? ち、違うんですか……?」

 

 

 うる、と歪むヒフミの瞳に『顔無し』は言葉を紡ぐ。

 彼女の中で、自分達は依頼人と便利屋ではなかったようだ。

 

 

「いや、そうだな。色々協力もしたし、危機も乗り越えた。俺達は友達だ」

 

「……はいっ!!」

 

 

 そう言うも、『顔無し』は優しくその被り物を押し返した。

 

 

「でも、これを受け取るわけにはいかない。ここは危険なんだ、燃え滓になったり蜂の巣になるより、お前が持ってた方がいいだろ」

 

 

 ヒフミの瞳に再び水気が現れ、『顔無し』は溜息を吐き、その肩を優しく摩る。

 

 

「大丈夫だって。往生際の悪さには自信があるんだ」

 

「本当ですか……? 勝手にいなくなったり、しませんか?」

 

「勿論。ヒフミのお陰で、そうならない確率も高まったしな」

 

 

 涙が引き、首を傾げるヒフミに『顔無し』は言う。

 

 

「仮面を変えれば、ここの住人は俺に気付かない。これは良い気付きだった」

 

 

 そんな単純な手で何とかなると思わず、今迄手を出してこなかった。

 しかし今日の出会いをきっかけに、それは間違いだったことを『顔無し』は知る。

 

 これからは服装、仮面、変声機から出す声。これらを変えて組み合わせることで、必要のない絡みも避けられるのだ。

 

 仮面で『顔無し』の顔は分からない。しかし、悪い顔をしてそうだというのはヒフミでも察せられた。

 

 

(も、もしかして私。何かしちゃいました……?)

 

 

 冷や汗を流しながらそう思っているヒフミに、『顔無し』から声が掛かる。

 

 

「あと心配してくれるのは有り難いけどな、ヒフミ。俺はお前の方が心配だよ」

 

「え?」

 

「見た目からは想像出来ない行動力してるからな。またペロロ様関連で、この場所に来るんじゃないかって話だ」

 

 

 ヒフミは苦笑いを浮かべた。

 

 

「あ、あはは。流石にもう来ませんよ……」

 

「そうか? ならいいけどさ」

 

 

 ごめんなさい、『顔無し』さん。確実に、とは言えないです……。

 

 決して高くない依頼料を払い、『顔無し』の事務所を後にするヒフミは、ほんの少しの罪悪感を抱く。

 

 そしてその数ヶ月後、何度か単独でのブラックマーケットの行き来を繰り返した彼女は、その場所で『顔無し』と再会するのであった。

 

 

 




ヒフミ編はこれで終わり。
次回から本編に戻ります!!
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