憑依in実験体のアビドス生徒   作:改名

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せめて、せめて週一投稿だけは外させん……!

そして、そろそろ物語が動き出す手筈となっています。私自身、書きたかったシーンが書ける時が近付いていて、胸が高鳴りますぞッ!
あとまた挿絵をねじ込みたい。そして成長を感じたい(願望)


26.ただの友人だ

 

 

 

 

 

 ヒフミとの出会いを話し終えると、『顔無し(ノーネーム)』はそのまま目の前にいるホシノを見た。

 

 

「……というわけで、ヒフミはただの友人だ。委員長が思ってるような仲じゃない」

 

 

 それに、と『顔無し』は続ける。

 

 

「今の俺は記憶を無くしてるんだぞ。自分のことで手一杯なのに、恋人なんて作る余裕ねェよ。それに記憶戻った俺も、いきなり身に覚えのない恋人がいたら驚くし、そんな勝手な真似できるか」

 

 

 あー。と何人かが頷いた。

 目が覚めたら、時間が経っていてさらに初対面の恋人を名乗る異性がいる。その立場を想像すれば、勝手な真似という言い分も理解出来た。

 

 これから好きになっていけばいい。

 果たしてどれ程の人間が、そんなことを自信に満ちて言えるだろうか。

 

 

「……本当?」

 

(……あと一歩。そんなところだな)

 

 

 今の『顔無し』の説明で、ホシノの瞳が揺れた。光が灯り、希望が生まれたようにも見える。

 ホシノの状態を分析し、『顔無し』は迷うことなく頷いた。

 

 

「ああ。本当だ」

 

「そっか。……そっかぁ」

 

 

 ホシノは安心したように息を吐く。

 緊張に包まれていた空気が霧散していくのを感じ、ヒフミは息をゆっくり吐いた。

 

 

「えーと。誤解は解けた、と思っていいんでしょうか……」

 

「……うん。ごめんね〜、ヒフミちゃん。それに『顔無し』くんも。おじさん、もう年だからか少し感情的になっちゃった」

 

「「そんな歳に大差ないだろ(でしょ)」」

 

 

 『顔無し』とセリカの突っ込みによって、小さな笑いが発生しそれを機に、いつもの賑やかな空気に戻っていく。

 ホシノの謝罪を受け、ヒフミは両手を前に伸ばして振った。

 

 

「いえいえっ。寧ろ謝るのは、私の方です。皆さんがいなかったら、学園に迷惑を掛けちゃうところでした」

 

 

 そして気まずそうに、顔を逸らす。

 

 

「それにこっそり抜け出してきたので、何か問題を起こしたら……あうう……想像しただけでも」

 

「何気に凄いこと言ったな、お前今」

 

「どうしてそこまでして、こんな所に……?」

 

 

 こっそり学校を抜け出してきたと言うのだ。目の前のヒフミは。

 純粋な性格で、真面目な彼女の口から出た言葉とは思えず、『顔無し』は少し驚いた。

 

 先生と対策委員会の面々も、彼と同様の反応を取る。大人として先生の口から出た疑問に、ヒフミは一度『顔無し』を見て、気まずそうに視線を外した。

 

 

(……ああ。そういうこと)

 

 

 それに気付いた『顔無し』は、呆れたように額を押さえた。

 

 ヒフミは普段は常識があり、心の優しい少女である。

 だが『とある物』が関わると、予想外の行動を取ることもあった。それを前回、『顔無し』は実感していた。

 

 『顔無し』は確信を抱きながらも、問い掛ける。

 

 

「ペロロ様だな?」

 

「うっ……」

 

 

 ヒフミが呻いた。冷や汗も流れている。

 

 

「……となると限定グッズか。通常品なんかのために、学校を抜け出してここにくるわけないよな、お前が」

 

「あ、あはは……仰る通りです」

 

 

 言い逃れ出来ないと思ったのか、ヒフミは肩を丸めた。

 だが、二人が何を言ってるのかこの場の殆どの人間は分からない。

 声に出して、首を傾げたのはセリカとシロコだった。

 

 

「ペロロ?」

 

「限定グッズ?」

 

 

 ヒフミは嬉しそうにバッグの中に、手を入れる。布教するチャンス、と思っているのかもしれない。

 そして出してきたのは、口にアイスクリームを突っ込まれたペロロ様だった。

 

 

「……何だ、これは」

 

「ペロロ様とアイス屋さんがコラボした、限定のぬいぐるみ! 限定生産で100体しか作られていないグッズなんですよ」

 

 

 『顔無し』はしばらく出された物を眺め、指を差してヒフミに言う。

 

 

「……確認だけど、アンチに転じたわけじゃないよな?」

 

「? 当たり前じゃないですか。私は生涯、ペロロ様が大好きだって誓えます! ほら、可愛いでしょう?」

 

 

 満面の笑みを浮かべるヒフミ。

 それに対し、シロコは沈黙で返し、『顔無し』は小さく呟いた。

 

 

「……」

 

「好きにも色々、種類があるんだな」

 

 

 再度、『顔無し』が視線を元の位置に戻す。

 そこではノノミとヒフミが会話に花を咲かせていた。どうやら彼女も、モモフレンズが大好きなようだ。

 

 ある程度話すと、ヒフミがホシノに顔を向けた。

 

 

「そういえば、アビドスの皆さんはなぜこちらへ?」

 

「私達もヒフミちゃんと似たようなもんだよ。探し物があるんだー」

 

「そう。今は生産されていなくて手に入れにくい物なんだけど、ここにあるって話を聞いて」

 

 

 ホシノとシロコから目的を聞き、ヒフミが相槌を打つ。

 

 

「そうなんですか、似たような感じなんですね」

 

(モノが物騒だけどな、こっちの場合)

 

 

 『顔無し』がそう心の中で呟いたと同時に、通信機越しにアヤネが声を上げた。そこには焦りが見える。

 

 

『皆さん、大変です! 四方から武装した人達が向かってきています!』

 

「何っ!?」

 

 

 報告を受け、セリカが辺りを見回した。

 確かに、武装した者達が向かってきている。しかも彼女達には見覚えがあった。

 

 

「あいつらだ!」

 

「よくもやってくれたな! 痛い目に遭わせてやるぜ!」

 

『先ほど撃退したチンピラの仲間のようです! 完全に敵対モードです!』

 

 

 そう。先程、ヒフミを助けた時に撃退したチンピラの仲間達だ。

 数では明らかに敵が優位。しかし、比較的好戦的なシロコとセリカがいち早く戦闘態勢に入る。

 

 

「望むところ」

 

「まったく、なんでこんなのばっかり絡んでくるんだろうね? 私達、何か悪いことした?」

 

『愚痴は後にして……応戦しましょう、皆さん!』

 

 

 対策委員会の面々とヒフミが応戦を開始した。

 『顔無し』は彼女達と前進……せずに、先生の隣に歩いてくる。

 先生はきょとん、とした顔だ。

 

 

「あれ。『顔無し』が前に出ないなんて、珍しいね?」

 

「頼みたいことがあってな。下がってきた。それに、あいつ等は委員長達だけで十分だろ」

 

「! そうなんだ! ふ〜〜んっ……ふ〜〜ん!」

 

 

 先生は瞳を輝かせ、頰を緩めた。そして『顔無し』の頭を、甘やかすようにひたすら撫でる。

 『顔無し』は首を捻りながら、さりげなくその手を掴んで、下ろさせる。

 

 

「……何でそんな嬉しそうなんだ?」

 

「いや、『顔無し』の成長が見れて嬉しいな〜って!」

 

「?」

 

 

 そうやって首を傾げる仕草も可愛いな、と先生は思った。

 彼女が喜んでいるのは、『顔無し』の言動にある。

 

 頼みたいことがあると言って、下がってきたこと。敵達に対し、対策委員会達で十分だという発言である。

 

 

(『顔無し』も遂に、人に頼ることを知ったんだっ。一人でやろうとしないで、ちゃんと他人に任せられるようにもなった。こうした子供の成長を間近で見れるのが、先生の醍醐味だなぁ……!)

 

 

「いいよ! 先生が、何でも言うこと聞いてあげる」

 

「そこまで求めてねェよ」

 

 

 『顔無し』は何故、先生がここまで喜んでいるのか分からなかった。

 

 別に自分がしている行動は不思議なことではない。この頼み事は、人望があり一番周りが見えている人間にすべきだと思ったから。

 

 先生の側に来たのは、対策委員会の足を引っ張る可能性を最小限にするため。再生しない法則が見つからない以上、多勢を相手取るのは自殺行為だ。

 

 

(あー。まどろっこしい。そして申し訳ない。再生不能な事態が起きなければ、突っ切って委員長達の負担を少しでも減らせたのに)

 

 

 まあ、つまり『顔無し』の在り方は全く変わっていない。

 もしこれを口に出していたら、ハイライトを消した先生が詰め寄っていただろう。

 

 心の中で言った正解を選んだ彼は、早速本題に入る。

 

 

「頼みたいことは一つ……いや、二つ」

 

「ふんふん」

 

「一つ。敵が引く姿勢を見せたら、撤退するように指揮をしてくれ。追撃じゃない、撤退な。俺達がだ」

 

 

 先生は目を瞬いた。そして、ニマニマと笑みを浮かべる。

 

 

「なーに? 『顔無し』も随分優しくなっちゃって。このこのー!」

 

「……そんなんじゃねェよ」

 

 

 胸板に押し付けられる肘を気にする様子もなく、『顔無し』が続けた。

 

 

「ここを管理している治安機関は厄介でな。見つかるのは避けたい。大事になる前に立ち去る。それがセオリーってこった」

 

「あ、そういう……」

 

 

 まあでも、私達を気にしてくれているし。

 肘を『顔無し』の胸から退け、肩を落としたもののそう先生は切り替える。

 

 

「それで二つ目は?」

 

「俺はこの後、単独行動を取る。その許可「却下」……早ェよ」

 

 

 一瞬だけ、スンッと表情を無くした先生に頼みを一蹴された『顔無し』。

 先生は諭すように、彼に語りかけた。

 

 

「あのね。『顔無し』はここで、家を燃やされたんだよ? そんな場所を一人で歩かせるなんて、私には出来ないよ」

 

「このままだと、俺があいつ等の足を引っ張る可能性が高くなる。だから力が必要なんだ。武器がな」

 

「そんなことない。『顔無し』は十分やってる、皆だってきっと……」

 

「確かに『今は』そうだ。でもこの先は分からない。想像を遥かに超えた奴等が、俺達の敵になるかもしれないだろ? ……持てるモンは全部持っときたい」

 

 

 先生は少し息が乱れていて、対照的に『顔無し』の様子に変わりはない。お互いに譲れない、意思のぶつけ合いだ。

 それに終止符を打ったのは、『顔無し』だった。

 

 先生、と呼び掛ける。

 

 

「頼む」

 

「……っ」

 

 

 そしてただ、頭を下げた。

 雑なものじゃない。大人に対して、意思を伝える本気の礼だった。

 

 そして先生は、大人としてそれを無碍には出来ない。溜息を吐きながら、頭を振る。

 

 

「……ずるいよ、『顔無し』。そんなことされたらさ……許可出すしかなくなっちゃうじゃん」

 

「悪い……ありがとう、先生」

 

「……まだ完全には納得してないけど、許してあげる。『顔無し』には助けられてばっかりだし、我儘の一つくらい聞いてあげなきゃ」

 

 

 ふふ、と女性らしい微笑みを先生は『顔無し』に向けた。

 もう一度、ありがとう。と彼は言う。

 

 

『先生! 敵が引き返していきます!』

 

 

 すると、タブレットから先生の耳にだけ届く声がした。

 アロナである。先生が戦場に視線を向けると、確かにチンピラ達が引き返していた。

 

 シロコ達は追撃をしようとしているようだ。それは避けたい。『顔無し』からの頼み事①を果たすのは、今だろう。

 

 

「ま、待ってください! それ以上戦っちゃダメです!」

 

「ん? どうして?」

 

「だ、だって……ブラックマーケットで騒ぎを起こしたら、ここを管理している治安機関に見つかってしまうかもしれません! あうう……そうなったら本当に大ごとです……まずはこの場から離れ……」

 

 

 だが、ヒフミの説明を受け、対策委員会は追撃の姿勢を止めた。

 そしてホシノの一声で、ヒフミの指示に従うこととなる。彼女を先頭に、対策委員会は地面を蹴った。

 

 取り残された先生と『顔無し』。

 出そうとした声を無理やり引っ込め、少し顔を赤く染めて、先生が『顔無し』を見た。

 

 

「……ヒフミにも教えていたなら、私に頼まなくて良かったんじゃ……。ちょっと恥ずかしいんだけど今」

 

「……教えてねェよ。多分、何回か既に通ってんなありゃ……」

 

 

 『顔無し』は仮面の中で、遠い目をする。

 

 

「先生。俺、少し先生の気持ちが分かったかもしれねェ」

 

「心配するでしょ? ……因みに」

 

「完全に行動を改めるとは言えないな」

 

「だと思った」

 

 

 なら。

 

 

(せめて、今だけはこの子の手を離さないでおきたい)

 

 

 そう思い、先生は『顔無し』の手を握る。

 彼は一度、その握られた手を見て、顔の向きを前に戻した。

 

 

(迷子かっての……いや、的を得てはいるか)

 

 

 『顔無し』はホシノ達と合流する直前まで、その手を解くことはなかった。

 

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