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週一投稿になりつつあって悲しい……。
こうなったら毎日書いたるか! おおん!?
「……ここまで来れば大丈夫でしょう」
ヒフミが振り返り、そう言った。
追手はいない。安心したのも束の間、二人分の足音が聞こえたので、緩んだ気を締め直す。
「!」
「大丈夫。俺達だ、ヒフミ」
現れたのは先生と『
真っ直ぐ背を伸ばし歩いてくる『顔無し』とは違い、先生は立ち止まり、額に汗を滲ませ、上体を傾かせたまま肩で息をしている。
「皆、は、速過ぎ……」
「先生は仕事し過ぎだな、仕方ないことだけどよ……ほら、しっかり」
「ほっ……」
引き返して先生の背を撫でる『顔無し』。その後ろからは足音が聞こえない。追手はいないと考えていいだろう。
ヒフミは胸に手を当てて、今度こそ安心したように息を吐いた。
そんな様子を見て、シロコが言う。
「ふむ……ここを随分危険な場所だって認識しているんだね」
「えっ? と、当然です。連邦生徒会の手が及ばない場所のひとつですから……。ブラックマーケットだけでも、学園数個分の規模に匹敵しますし、決して無視はできないかと……」
ヒフミは続けた。
「それに様々な『企業』や『グループ』がこの場所で違法な事柄を巡って利権争いをしていると聞きました。それだけじゃありません。ここ専用の金融機関や治安機関があるほどですから……」
「ぎ、銀行や警察があるって事!? そ、それって勿論、認可されていない違法な団体だよね!?」
「はい……そうです」
「スケールが桁違いですね……」
純粋に驚いているノノミとセリカを見て、先生の呼吸を落ち着かせた『顔無し』は苦笑する。
(はは……それが普通の反応だよな)
認可されていない違法な団体。ブラックマーケット内は、そういった機関で溢れている。区域全体がグレーに染まっているのだ。
だがそのお陰で、自分も身分証なしで生活出来た。ワケありの者に対し、深く追及しないこの場所がなければ、今の自分はいなかっただろう。
「中でも特に治安機関は、とにかく避けるのが一番です。騒ぎを起こしたらまずは身を潜めるべきです……」
(ここに一人、生活が掛からなくても、ブラックマーケットを行き来してるであろう奴がいるけどな……)
『顔無し』にとっては、そっちの方が驚きだ。
ヒフミの説明がいち段落したところで、声を掛ける。
「ほー……随分ここに関して詳しくなったもんだなぁ。ヒフミ?」
「あっ……。は、はは……それは、そのぉ」
そこでヒフミは思い出した。
ブラックマーケットには来ない。再び来るのではと、自分の身を心配してくれた『顔無し』の前で、そのような約束をしたことを。
しかし実際は数回は訪れている。その分、事前調査も深めた結果ヒフミには、今の知識があるのだ。
「う、うぅ……」
それを言外出来るはずもなく。
冷や汗を垂らし、気まずそうにヒフミは目を逸らした。
『顔無し』はその様子を見て、自分の推測が合っていたことを察する。仮面の下で白けた目をヒフミに一度向け、後頭部を掻いた。
「お前……そんなに行ったのか」
「は、はい。つい我慢できず……」
「危険な場所だって言ったろ? 何やってんだ全く……」
困ったように、あはは、と笑うヒフミに『顔無し』は溜息を吐いてから言った。
「……次、来る時は俺に連絡しろ。また付き合うから」
「い、いいんですかっ!?」
「止めてもどうせ来るだろお前……。なら、目の届く範囲に居させた方がマシだ」
「『顔無し』さん……」
ヒフミは強い尊敬や感謝を含んだ視線を『顔無し』に向けた。傍から見れば、良い雰囲気の男女に思える。
ラブロマンスなら、ここで音楽が流れ、しばらく二人を写し、to be continuedで終わる、そういうあれだ。
そこに間延びした声が入り込む。
「……決めたー。ヒフミちゃん?」
その主はホシノだ。いつものだらけた笑みを浮かべている。
突然呼ばれた理由が分からないまま、ヒフミは何となく返事をした。
「は、はい。えっと、ホシノさん。何ですか……?」
「助けてあげたお礼に、私達の探し物が手に入るまで一緒に行動してもらうねー♪」
「え、ええっ?」
素っ頓狂な声がヒフミから上がる一方、対策委員会は賛成の意を示す。
「わぁ☆ 良いアイディアですね!」
「なるほど、誘拐だね」
「はいっ!?」
「誘拐じゃなくて案内をお願いしたいだけでしょ? 勿論、ヒフミさんが良ければ、だけれど」
そうセリカが言うものの、周りから向けられる期待の目に背くことが、ヒフミには出来なかった。
「うう……私なんかでお役に立てるかは分かりませんが、アビドスの皆さんにはお世話になりましたし、案内役、引き受けさせていただきます」
しかし、それは『顔無し』の立場を奪うことになるのではないか。数秒後その考えに至り、ヒフミは彼に視線を向ける。
『顔無し』はそれに気付き、問題ないと手を振った。
「……ああ。気にするな。寧ろ助かるよ。今回、俺は力になれないからな」
「え? どういうことですか?」
『顔無し』は何でもないように答える。
「ここで集団に家を燃やされてな。案内人じゃなくて要護衛者になったんだよ」
「集団!? しかもお家なくなっちゃったんですか!?」
「残念ながら。見事に灰に早変わりってやつだ」
両掌を上に向け、『顔無し』はおどけてみせた。
先生はその傍に歩み寄る。その額には皺が出来ていた、目を寄せたまま『顔無し』の仮面をコツコツと叩く。
「お・ど・け・な・い。今の反応といい、これから単独行動することといい……もう少し、自分を大切にして? 『顔無し』は私と同じで、撃たれて当たればすぐ死んじゃうんだよ?」
「あ、バカ」
『顔無し』が制止するが遅かった。
「えぇ!?」
「は?」
先生の発言に、ヒフミとホシノの口から、性質の違う声が発せられた。
前者は驚愕を露わにして。後者はつい漏れてしまったような、低く響く声だ。
もしこの声が聞こえていれば、普段自分達が知る先輩と掛け離れた声に、アビドスの面々はすぐさま、そちらに顔を向けたことだろう。
だがヒフミの声量が勝ったことで、そうはならなかった。彼女はその勢いのまま、口を動かす。
「皆さんの会話から思ってましたけど……『顔無し』さん人間だったんですか!?」
「……あー、そうか。お前にゃ言ってなかったな。あの時は身体の線が出る服も着てなかったし」
ヒフミの前では、全身が布で覆われている姿でいたことを思い出す。
この驚き様から、今日まで中身が人間だと予想していなかったことは、容易に分かった。
(まあ、この声と人間離れした動きもあるからな……無理もない)
というか、布で全身を覆う目的はそれだ。因みにこの状態の彼を、自発的な行動で人間だと看破したのはムツキだけである。
脳内で悪戯っ子のように笑うムツキを消し、さて、と『顔無し』は思考を切り替えた。
話はちょうど一段落ついたところである。なので、ここで自然にこの場からフェードアウトするつもりだ。
『顔無し』は、足音を立てぬようこの場から離れようとした。先生の発言を聞いて、冷静でいられないであろう者を知っているからだ。
ガシッ。
「『顔無し』くん。おじさん達が君をガイドから外した理由、分かるよね?」
(ま、こうなるよな)
仮面の中で『顔無し』は溜息を吐く。
彼を捕らえたホシノの、これからの動きも速かった。掴んでいた腕を自分の方に寄せる。
身長差と力の差により、『顔無し』は簡単にホシノの方へ身体を傾かせる。
その襟首を掴み、逃がさないように彼の後頭部に手を添える彼女の姿は、捕食者のようであった。
確認するように、ホシノは繰り返す。
「理由……分かるよね?」
「俺がここで集団に家を燃やされたから。ヘイローのない身体だから。そんなとこだろ?」
本当のことを言うと、『顔無し』には既にヘイローが存在している。先生もそれを知っているが、本人からの口止めもあるため言わない。
それにヘイローを持ったからといって、身体が頑丈になったわけではないのだ。実際に撃たれれば、容易に『顔無し』の身体には穴が空くだろう。
正直なところ、『顔無し』にとって自分のヘイローは存在する意味が分からない。そんなモノを抱えつつ、彼は言った。
「問題ねぇよ委員長。ここの奴等、服と仮面変えるだけで俺が分からなくなる、目が節穴の奴しかいない。買い物ぐらい容易に出来る」
「買い物? ……またオカルト本?」
「……『また』? オカルト本?」
「っ……!」
突然の関連性が見られない単語に、『顔無し』が繰り返した。
自然と出たのであろう。ホシノも自分が発した単語に気付き、短い声を上げて片手で口を押さえた。
その反応を間近で見て、『顔無し』は察する。
(この反応……斑目関連か。そういえば風呂で目覚めた後、斑目の自室にあったなぁ。オカルト本)
「ッ……! ケホッケホッ」
「ぁ……」
拘束が弱まった隙に、『顔無し』はホシノから離れた。強く襟を絞められていたから、つい咳をしてしまう。
首を摩るその姿に、ホシノは今さっきまでしていた自分の行動を思い返す。彼女の顔からは、血の気が引いてきた。
……また、傷付けてしまった。
「ご、ごめん」
「ん……いや、いいよ。元々、俺が委員長達の心配を無碍にしたのもある」
駆け寄ろうとするも、手で制される。『顔無し』にとっては、本当に気にする必要ないと言う意思表示だった。
「ぅ……」
ホシノにはそれが明確な拒絶のように思えた。それに『顔無し』が咳き込む要因となった行動をしたこともあり、その足が完全に止まる。
手は行く先をなくしたかのように、宙ぶらりんな状態となった。
「それでもこの先、どうしても力は必要だ。道端にある物だけじゃ限界がある。だから武器を探す必要があるんだよ……分かってくれ」
『顔無し』は行く先をなくしたホシノの手を包むように掴むと、ゆっくりと彼女の腰へ戻す。
そして背を向けて、歩き出した。ホシノは追いかけられず、その場に立ち尽くす。
「それじゃヒフミ、こいつらの案内頼んだ」
「あっ、ちょっと『顔無し』さん!」
ヒフミが呼び止めるが、『顔無し』は手をヒラヒラと振るだけだ。
遠ざかる彼の背中が、あの日の斑目と重なる。
「待ってよ、斑目……」
辛うじて出されたホシノの呟きは、誰にも拾われずすぐに消えた。
便利屋68事務所にて。
事務所内に電話の音が響いている。アルは電話に出ずに暗い表情で、それを見つめていた。
「アルちゃーん、何してんの? 電話でないの?」
「……」
「表情が暗い……もしかしてクライアント……?」
「アル様……」
「うわ、そりゃそんな顔にもなるわ。失敗報告しないとだもんね~」
アル達はアビドス高等学校の占領、そして斑目ユウの捕縛を失敗している。間違いなく、それは突かれる筈だ。
最悪、契約を打ち切られる可能性もある。
覚悟を決めたのか、歯を強く噛みながらアルは受話器を取る。
「……っく。はい、便利屋68です」
相手はカイザーPMCであった。まず求められたのは、先日の戦闘結果についてである。
失敗に終わっているが、それを正直に言えるわけがない。なのでアルは、今迄のは練習だと述べた。
カイザーPMCは、挑発するような口調でアルに問いかける。
『ふむ、興味深い報告だ。ここまでの練習は拝見したよ。で、実戦はいつだ?』
「……うえ?あれが実戦だったんですが……。あ、いえ、なんでもありません。も、もちろん実戦はすぐにでも……はい、という感じで……あ、えっと1週間以内には……はい」
驚きの目を向ける仲間達から目を逸らしつつ、アルは顔をキリッとさせた。
「ふふっ。はい、そうです。……お任せください」
重々しく受話器を置くアル。
「はぁ……」
「大丈夫アルちゃん? 一気に老け込んだね〜」
「嘘っ!?」
わたわたと手鏡を探すアルに、ムツキは楽しそうに笑った。
「あっははは! 嘘だよ〜!!!」
「ム〜〜ツ〜〜キ〜〜!!!」
追いかけっこに発展した幼馴染である二人。アルがムツキを捕まえ、わちゃわちゃしてるところに、カヨコから声がかかる。
「一旦ストップ。社長、一体どういうこと? まさか、また戦うつもり?」
彼女がそう問うのも無理はない。
弾薬を消費したばかりであるため、便利屋68にはそれを購入する必要がある。しかし先日アビドスとの戦いで生じた人件費で、手持ちのお金は尽きた。
今いる事務所の家賃や食費、戦いのための弾薬に支払えるお金があるかと問われれば、自信を持って頷けない状況だ。
「あのクライアントは超大物なのよ。……この依頼失敗するわけにはいかないの」
真面目な話なので、アルは自分の机に戻り椅子に座った。
ムツキはその机に腰掛け、真剣な口調で話す。
「じゃあ……ネムネムを捕らえる?」
「ッ……!!」
向き合いたくなかったことに直面し、アルは強く歯を噛む。
珍しく、ハルカが最初に自分の意思を話した。
「……わ、私。出来れば、『顔無し』さんを捕らえたくないです」
「……そりゃ、この場にいる全員がそうでしょ。繋がりが出来ちゃったし」
カヨコも同意するが、視線をアルに向けて口を開く。
「でも、社長の選択に従うよ。私は」
「わ、私もです……!」
「くふふ。勿論だよね」
『顔無し』には大きな恩もある。人物としても好きだ。しかし自分達の長が、捕えろと言うのなら全力を尽くす。
それだけの思いを、彼女達はアルに向けていた。
「う、うぅ〜〜!!」
自分に集中する視線に、アルは唸る。だがどうしても『顔無し』を売るか、超大物のクライアントに反旗を翻すか、今決められはしなかった。
なのでアルは、机を叩き立ち上がる。
「臨機応変に!! はい決定!!!」
「あ、逃げた」
「はぁ……いつまで先延ばしできるかな」
「ど、どんな判断にも従いますからね、私は。アル様……!」
「黙りなさい! みんなうるさい! 静かに!」
ふぅー、とアルは深呼吸をした。
一先ず敵がアビドスになるにしろ、カイザーPMCになるにしろ、お金が足りない。これでは戦えないのだ。まずこれを解決しなければならない。
なのでアルは、優れた経営者として宣言をする。
「……融資を受けるわ」
言い放った言葉に、アル以外の便利屋の面々は首を傾げる。
代表して、ムツキが口を開いた。
「は? アルちゃんブラックリスト入りしているでしょ」
「違うわよ! 私は指名手配されて口座が凍結されただけ!」
「そうだっけ? ……あ、そうだった。風紀委員会にやられたんだよね」
「くっ、風紀委員会め……ここまでやられるとは思わなかったわ」
「どうするのー? 中央銀行も、行ったところで門前払いだよ~?」
「うるさいってば! 私にいい考えがあるんだから!」
アルは自身満々に答えた。そしてドラマのように目を細め、事務所のブラインドに指をかけ外を見ながら呟く。
「見てなさいよ、アビドス。このままじゃ終わらせないんだから。便利屋のミッションはこれからなのよ!」
高層ビルのとある一室で、PMC理事は座っていた。
「やつらのデータ自体は正確なものだったはずだ」
机の上には纏められた資料が置かれている。ふぅー、と疲労を感じられる息を吐きながら、それを手に取る。
「計算ミスか? いやしかし、『顔無し』もとい斑目を抜いたとしても、あの力は明らかに……」
部下に作成させた資料に、もう一度目を通す。
そこには、事前に数値化したアビドス高等学校のメンバーの戦闘力が記されていた。
勝てる筈だったのだ、限りなく正確に叩き出したこのデータに基づけば。
『顔無し』の正体が斑目だったこと以上に、PMC理事はアビドス高等学校のメンバーの戦闘力が増大していることに驚いた。
「……お困りの様ですね?」
背後から声が聞こえる。振り返れば、黒服がそこに立っていた。
PMC理事にとっては、今最も会いたくない者だ。
「いや、困ってはいない。ただ計算に少々エラーが生じただけだ。アビドスの連中がデータより遥かに強かっただけのこと」
「……データに不備はありません」
黒服はカイザーPMC理事の手元の資料を取り、少し眺めてからそう言った。
「これは単に、アビドスの生徒が更に強くなった、と解釈すべきかと」
「この短時間でそこまで変わるものか?」
「アビドスにどのような変化要因があったのか、確認してみましょう。……では」
そう言って黒服は部屋から出ていった。その後ろ姿がドアで見えなくなってから、カイザーPMC理事は舌打ちをする。
「チッ……まずいな」
黒服はまだ斑目が生きていることを知らない。だが変化要因を調べられれば、必ずその存在に辿り着くだろう。
それは避けたい。悔しいことに、あの身体を作ったのは黒服だ。舌での戦いになればこちらの分が悪い。
それでは駄目だ。あの便利な身体は必ず手に入れたい。そして洗脳に成功すれば、彼は強力な武器となる。
「今度こそ手に入れるぞ。斑目ユウ……!!!」
カイザーPMC理事は強く拳を握るのだった。
背後には気を付けるんだな、『顔無し』。
斑目の二の舞を踏みたくないだろう?