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仕事納めいたしました。
これで執筆速度が上がる……!!!
……上がりたい!!!(絵の勉強、別の目的の小説執筆から目を逸らす)
数時間歩き続けた先生の足は限界だった。対策委員会やヒフミも先生程ではないものの、疲労が現れてきている。
そんな時に見つけたのが、たい焼き屋だ。ノノミの提案により、そこで一同は休憩することになった。
「ホシノ、『
「! 先生……」
『顔無し』と別れた直後のことだ。
ホシノはしばらく彼の背中を見つめた後、緩い苦笑いを浮かべて振り返った。
『……うへ。『顔無し』くんの奔放さには、おじさんも手を焼いちゃうよ〜。全く困った子だぁ』
その様子はいつもと変わらない。
だがここまでの道中、先生はそれが間違いだったと気付く。
時折、誰からの視線も浴びなくなる一瞬、ホシノの表情に翳りが生じるのを確認できた。そして後輩達やヒフミの視線を浴びると、元の表情に戻る。それの繰り返しだ。
「……先生には敵わないなぁ。うん、『顔無し』くんに悪いことをしたなって……」
ホシノは認める。そして重い溜息を吐いた。
「『顔無し』くんは斑目じゃない。ちゃんと区別する意思を本人の前でおじさんは示した……けど、結果は見ての通りだよ」
『顔無し』の仮面の下が判明した際に、二人は体育館倉庫で話をしている。斑目と重ねられ、『顔無し』は彼と自分は別だとした。
自分はそれに頷いた筈だ。だけど現実は、呼び方しか変えられていない。
どうしても斑目といた時のように、危険から遠ざけようとしてしまう。付きっきりになってしまう。
「こんなおじさん、『顔無し』くんも苦手に思ってるんだろうなー……自分の知らない人間を勝手に重ねて、口を出してくるんだから……はぁ」
先生は顎に手を置いた。そして「ふむ」と考え込み、ホシノに顔を向ける。
「気にしてるとは思ってたけど……恋の悩み?」
ホシノは一度キョトンとすると、その頬を紅潮させた。
「っ? ……っ!!? ち、違うよ〜。まだ出会ったばっかだし、『顔無し』くん『は』仲間仲間〜!」
「『は』ということは、斑目先輩は違うんですかっ? ホシノ先輩」
否定するホシノにずい、と笑顔で迫るノノミ。彼女だけではなく、他のメンバーも先生とホシノの周りに集まってきていた。
「ん。ホシノ先輩の顔がどんどん赤くなってきてる。これは『ある』ね」
「は、はわわわ……!」
「私達は『顔無し』しか知らないけど……ちょっと気になるかも」
『やっぱり、昔も頼れてカッコよかったんでしょうか……。ホシノ先輩の反応を見る限り』
シロコ、ヒフミ、セリカ、アヤネの反応に、ホシノは身体を震わせる。そして絞り出すような声を出す。
「ま、斑目はそんなんじゃないよ〜っ! オカルト本を持って、学校の復興のために『未来の自分達にどうすればいいか聞いてみよう』とか、『並行世界の自分達を呼んで一緒に戦ってもらおう』とか、『幽霊と友達になって見えない攻撃で戦おう』とか言い出す奴だし……!」
ユメとは違う方向で、斑目も実現不可能なものを発案していたことが、今でも鮮明に思い出せる。
それも冗談ではなく、少年のように瞳をキラキラさせながら言うのだ。却下していたが、あれはタチが悪い。
あの顔は、母性本能がくすぐられるものだった。
「おじさんより力が弱いのに、すぐに負担を肩代わりしようとするし、戦えない自分を変えようと常に一生懸命で……!」
「うんうん。ホシノが斑目くんのことが好きなのは、よーく分かったよ」
否定するつもりだったんだろうが、ホシノがしたのは墓穴を掘ることだ。
口の中が甘ったるいのだろう。先生は冷たくて少し苦いお茶を口の中に流し込んだ。
「斑目先輩の悪い所も良い所も、よく見てたんですね〜。ホシノ先輩?」
「う……うへぇ〜。勘弁してよ、ノノミちゃーん……」
ノノミの一言に、ホシノは項垂れた。
そう。気になる異性でない限り、こんなにすぐ良い所も悪い所も挙げられない筈なのだ。
つまり斑目に対するホシノの思いは、友情という範囲で収められないという証明であった。
「こ、これはマジみたいね……」
「ん。初めて見た、ホシノ先輩がこうなるの」
近しい者の青春を目撃し、彼女の後輩達が騒がしくなる。
周りが湧き上がると同時に、段々とホシノは冷静さを取り戻していった。
「でも……やっぱりダメだよ」
自分と斑目が、そのような関係になる未来を想像出来なかったためだ。
当たり前だろう。彼を傷付け、記憶を無くす程の実験をさせてしまい、それを止めることも出来なかった。
どの面を下げて、好意を伝えることが出来るのか。もはや元の関係に修復出来るのかすら怪しい。
「斑目に酷いことをしちゃったからね……おじさんに、斑目を好きになる資格なんて……」
「ホシノ。それは違う」
先生が言った。食い気味に。
首を振り、真剣な眼差しをホシノに向けている。
「君はまだ子供なんだから、早いうちに可能性を狭めるのは勿体無いよ」
「……斑目が記憶をなくした原因が、私だったとしても?」
ポツリと呟いた後、ホシノの声量が上がった。その顔は後悔に塗れ、ぐちゃぐちゃとしている。
「私の行動が違っていれば、斑目は記憶をなくして、身体が変わる程の実験を受けなかったかもしれないんだよっ……?」
責め立てていなければ。寄り添ってあげてれば。
ホシノの告白に先生は動きを止めた。そして強くその小さな体躯を抱きしめる。
「っ……」
「確かにホシノは一度間違えたのかもしれない。でも、それを理由に自分の未来を縛る理由にはならないよ。斑目くんと会話をしていないなら、尚更ね」
斑目がホシノの謝罪を受け入れる可能性。受け入れない可能性もある。
後者のことを考えると確かに恐ろしい。しかし、前者があるのにも関わらず最初からその可能性を破棄するのは勿体無いことだ。
先生の発言からその意味をホシノは読み取る。彼女の先生の服を掴む握力が強くなった。
「……許して、くれるかなぁ?」
「……ごめん。それは私にも分からない、かな」
でも、と先生は続ける。
「分かることは一つあるよ、私でも。……一番悪いのは、斑目くんにそんなことをしたやつだってこと」
『顔無し』の表情、瞳の色、記憶喪失の理由。彼について様々なことが知れた。
だが先生に喜びはない。生徒の前なので抑えているが、その内面は強い怒りで燃え盛っている。
ホシノと斑目。子供の心を傷付けた、顔も知らぬ相手に向けて先生は静かに歯を噛んだ。
歯が軋む音が聞こえたのか、身体に伝わる先生の震えが伝わったのか。
「……ありがと、先生」
ホシノは一度先生を抱き締める力を強めると、身体をゆっくり離す。
その表情は少し晴れやかに感じられた。
「……あ、そうだ」
「?」
先生が何かを思い出したように、顔を上に向ける。
首を傾げるホシノに、先生が口を開けた。
「最初の問いの答えね。『顔無し』を見る限り、ホシノを苦手になんて思ってないと私は思うよ。咳き込んだ時も。本当に気にしてないようだったし」
「うへ……言い切るねぇ」
「だって苦手に思ってるなら、そもそもアビドス復興に手を貸そうと思わない筈だよ。でも『顔無し』は、ホシノや皆のために動いている。さっき咳き込んだ時も、ホシノを責めることはなかった」
それに、と先生が続けた。
「『顔無し』はこう言ってたよね?『記憶喪失なんだよ、俺は。ここで過ごした思い出は記録だけのもので、身に覚えは一切ない』……って」
「うん……」
ホシノの声が沈む。彼女にとって、これは大きな罪悪感と絶望感を与えられるだけの一言だった。
しかし、その認識は次の先生の一言で覆る。
「つまりそれって、『『顔無し』は斑目くんだった時の記録を見て、皆の手助けをしてる』ってことじゃない? 多分、日記とかそういうので。そこにもし斑目くんがホシノを悪いように書いてたら、そもそも手助けしようと思わないんじゃないかな?」
「……!」
「だからきっと、斑目くんも『顔無し』もホシノを苦手とは思ってない……と、私は思うんだけど。どうかな……?」
「そこは最後まで自信を持ってほしかったなぁ……おじさんは」
ホシノは溜息を吐きながら言うが、その顔は穏やかだった。
自分にとって救いのような解釈に、説得力があったからだ。納得がいく故に、その可能性もあると思わせてくれた。
実際、先生の解釈は正解だ。
斑目の日記にホシノに対する悪感情はない。『顔無し』は日記を読んだことで、アビドスへの助力を決意した。
ホシノはそれを知らないが、沈んでいた気持ちは大分無くなっている。これから戦闘が起こったとしても、本調子を出せるだろう。
「……ん。何だか、やる気が湧いてきた」
「ですね⭐︎ ホシノ先輩と斑目先輩の甘酸っぱい日々も見たいです」
『そのためにもまず、借金をどうにかしないとですね』
「『顔無し』の記憶もね……(記憶を失うほどの実験を受けたのか……あいつ。一応、本人に思い出す覚悟があるのか聞いた方がよさそうね)」
対して、ホシノの後輩達は闘志を燃やしていた。
斑目を含め、先輩達の心を傷付けた者に対する怒り。ホシノに一人の女の子らしい生活を送らせたい願望。
ホシノの過去を知った後輩達全員が、この二つの気持ちを共有していた。
「わ、私も出来る限りお手伝いします!」
ヒフミも同様だ。そんな話を聞かされて、心優しい彼女の心が動かない筈がない。
一致団結。正にそんな言葉がピッタリだった。数時間後、その力の大きさを彼女達は示すことになる。
銀行強盗という形で。
『顔無し』は拾った小石を複数個、掌で転がしながら、ブラックマーケットを歩いていた。
襲われた際の最低限の装備である。遠距離には小石の投擲、靴飛ばし、近距離には格闘で対応するつもりだ。
「……準備する必要はなかったか」
『顔無し』は持っていた小石を投げ捨てる。目的地に着いたためだ。
ブラックマーケットの奥。そして人通りが少ない場所だ。簡易な露店が立ち並ぶそこは、希少な物が取引されている。
故に、そこで騒ぎを起こす者はいない。商品を傷付けられる可能性がある場所で、二度と商人が商いを行わないことは誰もが分かる。
そうなると、目当ての商品を手に入れるのにまた時間と労力がかかり、最悪、一生手に入れられない可能性もある。
それを分かっている客全員からヘイトを向けられ、この場で袋叩きに遭う。それを皆恐れているため、ここで問題を起こす者はいないのだ。
「さてと……掘り出し物はあるかね」
正直、今の『顔無し』の手持ちの金は少ない。0が5つ並んだ商品はすぐに視線から逸らした。
「ん……?」
「……はぁ」
その先に、自分の露店のシートの上に体育座りで落ち込む犬の獣人を見つける。
商品が全く売れてないようだ。謎の金属3本1セットと黒い粘土が、シートの上にある。
値段は両方とも50000円だったようだが、今では25000円まで引き下げられていた。
「随分下げたな……自信の品だろ、いいのか?」
「あ、お客さん。……いや、いいや。どうせまた帰られるだろうし」
「すっかりネガティブになってんな……」
『顔無し』は溜息を吐きながら、胡座をかく。
正直、これらの商品に興味が湧いた。話を聞きたいが、店主がこの調子では無理だろう。
なので、商人としての彼の魂に火を付けることにした。
「……金属の塊がこの値段か。そりゃまあ、そうなるだろ」
「! ただの金属じゃないですッ…! これは偶然採取出来た、キヴォトス一固い金属ですよ!!!」
『顔無し』の狙い通り、自分の商品に自信を持っている商人が顔を上げた。
「キヴォトス一……ね。それが本当なら凄いな」
「本当です! 実践してみせますよ、見てて下さい!!」
予め用意をしていたのだろう。金槌や鋸を取り出し、それを3本の金属の塊のうちの1本に向ける。
金槌で殴打するも、金属の形は変わらない。
素早く鋸を動かすが、切り傷が付かない。
「へェ……」
『顔無し』は関心を示す。この頑丈さは彼が求めるものだった。
「弾丸は?」
「跡が残りません。完全に弾いてくれますとも。実験済みです」
「熱は?」
「影響無しです。溶けることもありません」
「売れない理由それか……」
「あ」
獣人は目と口を丸く開け、呆けた顔をする。
叩いて成形させることも、切断も、溶かすことも出来ない金属。
頑丈さに特化しているとはいえ、使い道が限られていれば購入する意思を見せる者は少ないだろう。
「もう駄目だ……商人やめよう」
「待て待て。帰らねぇよ。買うんだからそれ」
『顔無し』は25000円を獣人の手の上に乗せる。感触を確かめさせるように、自分の手で小さなモフモフの手を包んで握らせた。
「おぉ……!! ありがとうございます! ありがとうございます!!」
強くお金を握り締め、何度も頭を下げる獣人の頭を『顔無し』は軽く撫でた。
そして、売れ残っている粘土に顔を向ける。
「……因みにこれは? あんたが売ってるんだ。ただの粘土じゃないんだろ?」
「ええ! ええ! 勿論ですとも!!」
嬉しそうに首肯を繰り返す犬の獣人は、粘土を掲げる。
「この粘土、接着性が凄いんですよ! 一度強く押し付ければ、二度と離れません! 刃物で削ぎ取るのが唯一の手段ですっ」
「雨に濡れてもか?」
「はい!!!」
「普通に凄いな。建築とかにも応用ができそうだ。なんで売れない?」
「これしかないからです!!!」
「数が少な過ぎるってことか……」
それは仕方ない。
ノーネームはここで会話を切り上げ、思考に耽る。三本の頑丈さに特化した棒。耐水性、接着性が優れた粘土。
「気に入った。これも買わせてもらうよ」
これらを材料に作れる、良い武器を『顔無し』は思いついた。
「!! こちらこそ、選んでくださりありがとうございます!!!」
『顔無し』から渡された金を受け取り、尻尾を振る犬の獣人。喜びの表れか、舌を出して息遣いが荒くなっている。
『顔無し』が商品を両手に持ったところで冷静になったのか、首を傾げた。
「しかし……一体、それ何に使うのです?」
「武器を作るんだ」
「武器ですか!? しかしその金属は叩いて成形も、溶かすことも……」
「多分……俺なら出来る。溶かす必要なく」
『顔無し』はそう言うと、片手で2本、片手で1本持つと。
火花と金属が擦れる音を生じさせた。
「同じ金属同士で……ッ!? いやしかし、それは私も試しました。他の金属が負けるのなら、お互いで研ぎ、打ち合って成形すればいいと!!」
犬の獣人は俯く。
それでも駄目だったのだ。残ったのは凄まじい疲労と虚無感、そして手の痛みだけだった。
だから無駄だと、自分の商品を買ってくれたお客さんに同じ体験をさせたくないと、再度顔を上げ説得を試みる。
「え……!!?」
その口からは、説得ではなく驚愕の声が漏れた。
角張っていた金属の塊が、確かに形を変えている。
丸い円柱に研がれていたのだ。
驚きを露わにする犬の獣人をよそに、『顔無し』は作業を続ける。
目の前の獣人が切り分けてくれた粘土2つを、円柱1本の底面と上面に粘土を付着させた。
ギュギ……!!! グググ……!!!
そして、円柱2本で上下から挟むように力を加える。ギリギリギリッッ……と音が鳴り、その大きさは測りかねない。
「……ふー」
しばらく経ち、『顔無し』は加えていた力を解いた。
そして真ん中の円柱を振り、上下に付いた円柱が離れないのを確認する。
「『棒』完成っと。ありがとな、良い買い物出来たよ」
『顔無し』はそう言うと、持っていた棒を肩に置いて歩き出した。
店主である犬の獣人、その他の商人、彼らの商品を買いに来た者。
全員が、立ち去るその背中が消えるまで、『顔無し』から目を逸らせないでいたのだった。
アビドス対策委員会ィィィィ!!
ファイヤァァァァァァァァ!!!!
『顔無し』は記憶喪失じゃないけどネ