憑依in実験体のアビドス生徒   作:改名

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29.来訪者

 

 

 

 

 『顔無し(ノーネーム)』は先生達と合流するために歩いている。その最中、彼は違和感を覚えていた。

 

 

「……?」

 

 

 いつもより、妙にブラックマーケットが騒がしいのだ。

 マーケットガードが声を荒げながら走る姿もしばしば見られる。

 

 その内容を聞いて、『顔無し』は仮面の中で呟いた。仮面の中の瞳は、驚きからか少し見開かれている。

 

 

「マジか。あそこに強盗なんて、根性ある奴等もいたもんだ」

 

 

 あそことは、ブラックマーケットでも大きな銀行の一つだ。

 

 キヴォトスで行われる犯罪の15パーセントの盗品が流され、横領、強盗、誘拐、あらゆる犯罪行為で獲得された財貨が、違法な武器や兵器に変えられて、また別の犯罪に使用される。

 

 そんな悪循環の源であり、犯罪を煽っているといっても過言ではない場所だ。

 ある意味、ブラックマーケットを象徴するシンボルとも言える。

 

 

「そりゃ、マーケットガードも躍起になるわけだ」

 

 

 そこへの強盗を許しただけでなく、察するに犯人に逃げられ遅れを取っているようだ。

 

 彼等にもプライドはある。

 

 犯人を捕らえようと、人員を増やしたり強力な武器を使用する可能性もあった。

 

 

「……巻き込まれる前に、先生達連れて離れておいた方がいいかもな」

 

 

 その矛先が、勘違いという形で自分含め先生達に向けられる可能性は否定しきれない。それで派手なドンパチに巻き込まれるのは御免である。

 

 『顔無し』は端末から先生に連絡を掛けた。すぐに繋がったので、呼び掛ける。

 

 

「先生、聞こえるか?」

 

『『顔無し』! っハァ。よかったっ。今ちょうどっ、連絡をしようと思ってたの!』

 

 

 端末から聞こえてくるのは、息が乱れている先生の声だ。

 それだけじゃない。発砲音や足音も絶え間なく続いている。

 

 つまり、先生達は追われているのだ。

 最悪の想像が現実に起こっていることを知り、『顔無し』は駆け出した。

 

 

「先生。現在地を教えろ。今向かってるから」

 

『そ、それは駄目! 今の私達と合流しなくて大丈夫だから! ちょっと待っててっ』

 

 

 先生は慌てたような声を出す。

 

 ……駄目? 今の私達と合流しなくて大丈夫?

 

 先生の言葉の真意が分からず、首を傾げたくなった『顔無し』に先生から場所のURLが届いた。

 

 

『ここ! ここで落ち合おう!? 私達は大丈夫だから!! 心配いらないから!!』

 

 

 私達は大丈夫。心配いらない。

 

 この言い分から、先生は自分を厄介ごとに巻き込みたくないのだと『顔無し』は推測する。

 

 

「状況は分かってるつもりだ。マーケットガードに追われてるんだろ?」

 

『あ、うん』

 

「銀行強盗が入ったらしいからな。連中、殺気立ってやがる。それにしても何の関係もない先生達を追いかけ回すとは……」

 

『うう……いや、ええと、ね?』

 

「マーケットガードのレベルも落ちたものだな。全く」

 

 

 先生の声は小さく、『顔無し』には届いてない。

 なので彼は続けた。

 

 

「そんな奴等に負けないから、遠慮なく頼ってくれて大丈夫だ……だから先生、今すぐ合流しよう。人手は多いに越したことはない、だろ?」

 

『ごめん!』

 

「? いきなり何だよ」

 

『……です』

 

「? なんて?」

 

 

 『顔無し』は突然の謝罪に、動きを止めた。

 先生が何か言ったが聞こえず、復唱するように求める。

 

 

 

『銀行強盗。私達です……』

 

「は?」

 

『『顔無し』の分の覆面はないので、合流できません。一人だけ身元が分かってしまいますので、URLの場所で落ち合いましょう』

 

 

 先生の言葉は、妙に畏まった口調で話された。そのままプツッと通話が切れる。

 

 『顔無し』は長い溜息を吐いた。

 

 

「……しょうがない。移動するか」

 

 

 再度掛けるのは気が引けた。合流しない理由も納得できた。

 大人しくURLの場所へ向かい、落ち合うこととしよう。

 

 なぜ銀行強盗したのか。先生としてそれでいいのか。

 湧き出るそれらの言葉を一旦飲み込み、『顔無し』は止まっていた足を目的地へ向けて動かすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 無事に追手から逃れ、安全地帯へ辿り着いたアビドスの面々と先生、そしてヒフミ。

 そのことに喜ぶ者、胸を撫で下ろす者、反応は様々だった。

 

 

『封鎖地点を突破。この先は安全です』

 

「やった! 大成功!」

 

「はぁ〜……よ、よかったです。学園に迷惑を掛けなくて済みましたぁ」

 

『本当にブラックマーケットの闇銀行を襲っちゃうなんて……あ』

 

 

 その中で、アヤネが何かに気付いたように短い声を上げる。

 人影だ。向こうも気付いたようで、こちらに向かってきた。

 

 全体像が見え、先生が最初に彼の名前を呼ぶ。

 

 

「あ、『顔無し』」

 

「……取り敢えず、お疲れ様って言うべきか?」

 

 

 アビドスの面々が持つ覆面とヒフミが被っていた紙袋、そしてシロコの手にあるバッグを順に見渡し、『顔無し』はそう言った。

 

 

「先生としてバレたらまずいだろ、これ。覆面持ってないみたいだし」

 

「大丈夫。こうしたから」

 

「うわ、髪のお化け」

 

「む」

 

 

 先生は長い後ろ髪を束ね、顔面に貼り付けるようにする。ゴムを伸ばし、額辺りを留めれば髪の仮面が完成した。

 それに対する『顔無し』の反応に、先生は頬を膨らませ髪を元に戻してから、手刀を優しく彼の頭に落とす。

 

 

「女の人の髪に、そんなこと言っちゃ駄目でしょ?」

 

「髪自体は綺麗だよ。使い方でそう思っただけであって」

 

「……えっと、あの、意図せずそういうこと言うの、ずるいと思う」

 

 

 声が小さくなり、俯く先生。その顔はほんのり紅い。

 『顔無し』は後頭部を掻く。

 

 

「まあ何にせよ、シャーレに影響がないなら良い。ユウカも驚くだろうし、子供達を守る大人二人が無職かつ追われる身になるんじゃ、笑い話にもならねぇ」

 

「怖いこと言わないでよ……。それに、『顔無し』もまだ子供でしょ?」

 

 

 先生が首を捻った。心底不思議そうな顔だ。

 そのことに気付き、『顔無し』は自分の発言を訂正する。

 

 

「ん? ああ、確かにそうだ。委員長の癖が移ったかな?」

 

「ほうほう⭐︎ よかったですね、ホシノ先輩?」

 

「だから違うってばぁ……! おじさんが、じゃなくてぇ……っ」

 

 

 ノノミは悪気のない笑みで、ホシノに視線を向けた。

 ホシノは否定し、つい想い人の名前を出しそうになるが、何とか堪えた。

 

 事情を知ってる者は生暖かい笑みを浮かべていたり、苦笑していたりする。『顔無し』は首を捻った。

 

 

「? 何だよお前ら、揃いも揃って」

 

「『顔無し』くんは気にしなくていいよ〜! それよりシロコちゃん、集金記録の書類はちゃんと持ってるっ?」

 

「う、うん……バッグの中に」

 

 

 ホシノの勢いに押されながら、シロコはバッグを漁る。

 その様子を見ながら、『顔無し』は口を開いた。

 

 

「集金記録の書類? 何でそんな物を……」

 

『それが……先輩。実は、毎月私達が利息を渡していた銀行員の方が、闇銀行へそのお金を流しているのを目撃してしまいまして……』

 

「成程……知らず知らずのうちに、ブラックマーケットに犯罪資金を提供していたわけね」

 

 

 アビドスの面々が襲った銀行を、『顔無し』は知っている。

 故に、彼女達の動機を瞬時に見抜いた。

 

 

「その証拠の押収ってところか。確かにそれなら手段は強盗しかねぇな」

 

 

 とはいえ、それを選ぶ決断力とやり遂げる力は誰しもが持っているわけではない。

 黙って見ていることしか出来ない、実力不足で失敗してしまう。そうなる可能性もあった。

 

 しかしアビドスの面々はやり遂げた。やっていることはだいぶグレーではあるが、母校のために発揮されたその力は賞賛に値する。

 

 

「本当に凄いよ。お前達は……」

 

 

 『顔無し』の呟きは、次の瞬間、ホシノの驚いた声に掻き消された。

 

 

「へ? なんじゃこりゃ!? カバンの中に……物凄い量の札束が……!?」

 

「うえええええっ!? シロコ先輩、現金盗んじゃったの!?」

 

「……ちゃんとやることやってるところも含めてな」

 

 

 『顔無し』もバックの中身を見てみる。

 セリカの言う通り、そこには現金が詰まっていた。

 

 一斉に向けられる視線に、シロコはたじろぐ。

 

 

「ち、違う……目当ての書類はちゃんとある。このお金は、銀行の人が勝手に勘違いして入れただけで……」

 

「どれどれ……うへ、軽く1億はあるね。本当に5分で1億稼いじゃったよー」

 

 

 ホシノの口から発せられた金額に、セリカは喜びを露わにした。

 

 

「やったあ! 何ぼーっとしているの! 運ぶわよ!」

 

「……」

 

『ちょ、ちょっと待って下さい! そのお金、使うつもりですか!?』

 

 

 シロコは表情で、アヤネは声色から難色を示していることが分かる。

 その制止に、セリカが返した。

 

 

「アヤネちゃん、なんで? 借金を返さなきゃ!」 

 

『そんな事したら……本当に犯罪だよ、セリカちゃん!』

 

「は、犯罪だから何!? このお金はそもそも私達が汗水流して稼いだお金なんだよ!? それがあの闇銀行に流れていったんだよ!」

 

 

 セリカの声量が大きくなる。それは怒りによるものだった。

 

 

「……」

 

 

 『顔無し』は黙って成り行きを見守る。

 

 元々、そのお金は借金を返済するために払われた金だ。それを自分達の知らないところで、犯罪資金として使われていた。

 その立場を考えれば、安易に口を出せるものではない。

 

 

「それに、そのままにしておいたら、犯罪者の武器や兵器に変えられてたかもしれない! 悪人のお金を盗んで何が悪いの!?」

 

「……」

 

 

 ヒフミも同様に、静かに成り行きを見守った。

 悲しそうな表情を浮かべてる辺り、強盗は悪いことだと思いつつ、共感からセリカの言い分も理解できているのだろう。

 

 『顔無し』とヒフミ、そして先生を置いて議論は続いていた。

 

 

「私はセリカちゃんの意見に賛成です。犯罪者の資金ですし、私達が正しい使い方をした方が良いと思います」

 

「ほらね! これさえあれば、学校の借金だってかなり減らせるんだよ!?」

 

 

 ノノミという先輩の同意も得て、セリカは嬉しそうだ。

 後輩のそんな顔を見て、眉を下げるホシノ。

 

 

「んむ……それはそうなんだけど……シロコちゃんはどう思う?」

 

「自分の意見を述べるまでもない、ホシノ先輩が反対するだろうから」

 

「へ!?」

 

 

 セリカは驚きの声を上げた。

 ホシノは申し訳なさそうな顔をセリカに一瞬向けてから、いつもの怠けた表情に戻る。

 

 

「さすがはシロコちゃん。私の事、分かっているねー。私達に必要なのは書類だけ。お金じゃない。今回のは悪人の犯罪資金だから良いとして、次はどうするの? その次は? こんな方法に慣れちゃうと……ゆくゆくはきっと、平気で同じことをするようになるよ」

 

 

 既にホシノの表情は抜けたものではなくなっていた。

 一人の先輩として、年長者として、諭すように話す。

 

 

「そしたらまたピンチの時に『仕方ない』と言いながらやっちゃいけないことに手を出すと思う。もしかしたら、もっと酷いことに手を出すかもしれない」

 

 

 そんな訪れてほしくない未来に、ホシノは首を振った。

 

 

「……うへ~、おじさんとしては、可愛い後輩がそうなっちゃうのはイヤだなー。そうやって学校を守ったって、何の意味があるのさ」

 

『……』

 

「……」

 

 

 ホシノの思いに、アヤネとセリカは口を噤む。

 本当にホシノが、自分達のことを大切に思ってくれているのが分かったからだ。

 

 セリカは反論することが出来ない。その思いは不要だとホシノを否定することになる。

 感情的に生じた反論で、先輩を悲しませたくなかった。

 

 ホシノはノノミに顔を向ける。

 

 

「こんな方法使うくらいなら、最初からノノミちゃんの持ってるゴールドカードに頼ってた筈ー」

 

「……私もそう提案しましたが、ホシノ先輩が反対されて……。先輩の気持ち、分かります。いくら頑張ったって、きちんとした方法で返済しない限り、アビドスはアビドスじゃなくなってしまう……」

 

「うへ、そういうこと。だからこのバッグは置いて行くよ。頂くのは必要な書類だけね、これは委員長としての命令だよー」

 

 

 反論をする者は誰もいない。納得し切れていない者はいるが、場の空気は『金を置いていく』流れになっている。

 

 

「……そろそろ決まったかな?」

 

 

 先生の一声に、セリカが叫んだ。無理矢理、気持ちを消化するように。

 

 

「うわああっ!! もどかしい! 意味わかんない! こんな大金を捨てていく!? 変な所で真面目なんだから!」

 

「ん、委員長としての命令なら」

 

 

 『金を置いていく』。それがアビドスの下した決断だった。

 

 

「私はアビドスさんの事情は良く知りませんが……このお金を持っていると、何か他のトラブルに巻き込まれるかもしれません。……災いの種、みたいなものでしょうから」

 

「心理的負担も計れないしな」

 

「うぅん……確かに、そうだけど〜っ!」

 

「まあ、口惜しくなる気持ちは分かるよ」

 

 

 気持ちは分かるが、やはり強盗によって得た金を持ち帰るのはよくない。アビドスではない、ヒフミと『顔無し』の答えは共通していた。

 

 二人の意見を聞き納得しつつあるが、一番名残惜しそうにしているセリカの肩を、『顔無し』は叩いて励ます。

 

 その様子を、ノノミとホシノは見ていた。

 

 

「あは……仕方ないですよね。このバッグは私が適当に処分します」

 

「ほい、頼んだよ~」

 

『ッ! 待ってください! 何者かがそちらに接近しています!』

 

 

 響いたアヤネの声に、場に緊張が走る。

 バッグを持っていたノノミはそれを下ろし、ホシノはいつでも発砲できるよう、銃に手を置いた。

 

 

「……!! 追っ手のマーケットガード!?」

 

『い、いえ。敵意はない様子です……。調べますね……あれは……』

 

 

 アヤネのドローンから音が鳴る。備え付けられたカメラで、対象を拡大しているのだろう。

 そして、その追跡者が判明した。

 

 

『べ、便利屋のアルさん!?』

 

「あいつ何やってんだ……」

 

 

 というか、この状況マズくないか? 

 

 

 『顔無し』はそう心の中で呟く。

 アビドスの面々も慌てて覆面を被った。先生も素早く、髪の仮面を作り顔を隠す。

 

 唯一、普段と変わらないのは『顔無し』だ。

 

 加えて、顔を隠したとはいえアビドスの面々の制服や体型、髪の色は変えられない。

 自分が一緒にいることで、アルはデジャヴを感じるだろう。それにより、『顔無し』は銀行強盗の一味の正体が、アビドスだとバレる可能性も高まるのではと考えた。

 

 

「先生、先に帰ってるぞ。俺がいたら、ややこしいことになりそうだ」

 

「え? あ、そうか。また後でね、『顔無し』」

 

 

 事情を察し、先生は軽く手を振る。

 『顔無し』は頷いてから、踵で強く地面を蹴り、あっという間にその場から去るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 斑目の部屋があるマンションにて。

 長らく人の出入りがなかった彼の部屋に、来客が訪れる。

 

 

『久しぶりですね。ここに来るのは』

 

 

 黒服だ。

 PMC理事と会って以降、彼はアビドスの力の変化要因を調査していた。その結果、シャーレの先生と便利屋『顔無し』が要因だと仮定する。

 

 更に詳しく調査すると、後者の『顔無し』と斑目に「人間型の男子・怪力」という共通点があることを黒服は知った。

 彼の知る限り、人間型の男子生徒は斑目以外存在しない。しかし、彼は自分の部屋で自殺していた筈。

 

 

 その矛盾を解く答えは、ここにある。それを知るため、黒服は玄関に足を踏み入れた。

 

 

『……臭いが酷い。数ヶ月経っていれば、こんなものでしょう』

 

 

 その顔にある割れ目が微妙に変化する。浴室から漂う腐臭のせいだろう。彼にも嗅覚はあるようだ。

 

 腕で存在しているのであろう鼻の辺りを隠し、黒服は廊下を進んでいく。

 浴室を開け、その臭いが強くなった。壁、床、天井は乾いた血痕が付着している。これらからはあまり臭いはしない。

 

 となると、発生源は水と血液が混ざった浴槽ということが分かる。

 

 

『……ふむ。肉片等はない。腐敗が進んで、水と混ざったわけではないようですね』

 

 

 黒服はシャワーヘッドで浴槽をかき混ぜ、そのように判断した。

 

 

『つまり、ユウさんは生きている……クク。本当に貴方は、私を驚かせてくれる』

 

 

 検死した時、仮死状態だったのか。一度死んで、文字通り生き返ったのか。現段階では、考察する要素がないため判断することは出来ない。

 それだけじゃない。

 

 

『それに新たな謎も生まれました』

 

 

 黒服は浴室から出て、斑目の自室へ向かう。入った瞬間、微妙な変化に気付いた。

 本棚に並べられた本の角度や、机の上にある日記の位置が変わっている。

 

 

『恐らくユウさんが自殺をした理由は、PMC理事の洗脳によりアビドスの脅威になることを防ぐため。しかし、今の彼の行動はその考えとはあまりにかけ離れている』

 

 

 これには自分の予測する力が足りなかった。

 安易にPMC理事を信じてしまったことを黒服は悔いる。

 

 もしあの時違った選択をしていれば、もっと有意義な実験を続けられ、興味深い研究結果を得られたかもしれない。

 

 黒服は反省を止め、口を開いた。

 

 

『ユウさんなら、アビドスを手助けはするもののここまで表立って行動はしない筈。考えられるとしたら、死のショックにより生じた他人格、または記憶喪失でしょう』

 

 

 仕切り直すように、黒服は日記を捲る。

 

 

『ご苦労様……文字の癖が違いますね。ふむ……ユウさんの別人格もしくは記憶喪失ではなく、今の彼は、根本から在り方が違うと考えたほうがよさそうだ』

 

 

 黒服は日記を閉じて、本棚に目を向けた。

 オカルト関連の本を片っ端から取り、順に読み進めていく。

 その作業を終えると、黒服は静かな笑い声を溢した。

 

 

『ククク……! 成程。『水が異界への入り口を為す』、『血液は魂の通貨』……ですか。偶然か必然か、満たしていたようですね。ユウさん。「─────」の条件を』

 

 

 まさかただの生徒が、市場で出回っているオカルト本で成功させるとは、と黒服は感心した。

 

 

『……ククク。一度、彼と会いたいものです。中々会えるものではないですからね、「────」には。しかし今の状況では、ゆっくり話すことも出来そうにない……変化を起こしましょうか』

 

 

 近々、彼女を呼ぶ予定もある。

 

 リビングの机の上に置いてある、斑目とホシノとユメの写真。斑目の自室にあった日記を、その前に移動させてから、黒服はその部屋を後にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 




つまり、『顔無し』は……


誰? 誰なの!? 怖いよォ!!!
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