憑依in実験体のアビドス生徒   作:改名

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挿絵いきまぁす!
ちょっと赤い描写がありますので、後書きに挿入しますね。
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31.一か八か(挿絵あり)

 

 

 『顔無し(ノーネーム)』と先生がアビドス対策委員会の部室に入ると、そこにはすでに先客がいた。

 

 

「お。委員長とゆるふわちゃん」

 

「おはよう。二人とも」

 

 

 ノノミとホシノだ。

 膝枕をされているホシノは声を掛けてきた『顔無し』と先生に顔だけを向け、間延びした挨拶をする。

 

 

「おはよー、先生。それと『顔無し』くんも」

 

「おはようございます。お二人とも今日は早いですね?」

 

 

 ノノミは上半身を少し捻り、先生と『顔無し』に頭を下げてから、にこやかに笑った。

 

 上品な所作だ。まるでどこかの令嬢みたいだな、と『顔無し』は思った。

 隣の先生はそれとは対照的である。熱血漢のように拳を作った。

 

 

「状況が状況だからね……私も、何か力になりたくて」

 

「それで俺も早起きってわけだ。ふぁ……」

 

 

 少し眠いのか、『顔無し』が欠伸を溢す。そのまま流れるように、ホシノを視界に入れた。

 仮面の中の目は、少し不満そうだ。

 

 

「なのに当の委員長はリラックスしてるし……」

 

「うへ〜。ノノミちゃんの膝枕は柔らかくてサイコーだからねー。私だけの特等席なんだ〜」

 

「……まあ、気を張り詰め過ぎるのもよくないか」

 

 

 隣の先生も気にしていない様子だし。

 やる気が空回りする結果になったが、『顔無し』はそう言って自分を納得させる。

 

 ノノミは頷いた。

 

 

「そうですよ。のんびりできるのは久しぶりですから……今はみんな、やりたいことをやってるんでしょうね」

 

 

 彼女が言うには、シロコはトレーニング。アヤネは図書館で勉強。そしてノノミ本人は先生達が来る前に、学校の掃除と教室の整頓をしていたようだ。

 

 

「……」

 

 

 学生らしい、当たり前の生活。これを彼女達は満足に出来ていなかった。

 その背景を知ってる身からすれば、文句は言えない。寧ろ、存分に謳歌してほしいものだ。

 

 

(その分を、俺が動く)

 

 

 『顔無し』は部室の扉へと身体を向ける。

 

 巨大な黒幕が判明したとは思えない、平和な日常。

 アビドスの面々がそれを享受していることを素直に喜ばしく思う反面、気持ち悪さを抱いてもいた。

 

 

(……まるで、決戦前の最後の日常のような。もやもやした感じがする)

 

 

 ゲームでいう、『これが最後の戦いだ。やり残したことがないようにしよう』というやつだ。嵐の前の静けさとも言えるかもしれない。

 

 現実はゲームと違う。敗北すればゲームオーバーで暗転し、すぐにやり直せるわけではない。その敗北した後の世界が続くことになる。

 

 永遠に、カイザーコーポレーションによってアビドスの面々は苦しく、後悔ばかりの人生を送ることとなるのだ。

 

 

(……それだけは避けたいよな、斑目)

 

 

 今の平和が、そんな陰鬱な世界に変わるかもしれない。その落差に気持ち悪さを抱いているのだろう。

 

 まだカイザーコーポレーションと戦闘行為を行うと確定したわけではないが、準備は万全にしておきたい。

 

 だからシロコのように、身体を動かしに部室を出るつもりだった。

 ちょうどその時、『顔無し』の端末からモモトークの通知音が鳴る。

 

 

『こ・こ・に・き・て♡』

 

「……」

 

 

 ムツキだな。

 

 送り主はアルだったが、文面からそう推測した。

 何をしてるんだと呆れている間に、続けて地図のURLが送られる。場所は柴関ラーメンだ。

 

 しかし、『顔無し』にとっても好都合だった。

 

 

『分かった』

 

 

 アル達もアビドスへ来ているのは丁度良い。

 距離も近いし、話したいこともあった。協力者は多いに越したことはないのだから。

 

 メッセージを送り、ピコンという音がした。

 

 

「……へぇ〜。他校の、しかもウチを攻めてきた子達とこの部室で連絡を取り合うなんて、いい度胸してるねぇ?」

 

 

 間延びした声が左腕の側面から聞こえ、『顔無し』はすぐに端末の電源を落とし、こちらを覗き込むホシノに視線を向ける。

 

 

「寝返るつもりはねェよ。寧ろその逆。こっち側に付いてくれないか、交渉する予定だ」

 

「本当かなー。可愛い女の子からのお誘いに嬉々として向かうようにしか見えないよ? そのままコロッと落とされちゃうんじゃないのー?」

 

 

 見られたか……。

 

 『顔無し』は心の中で溜息を吐く。文脈だけ見れば、ホシノの感想も理解できた。だからすぐに電源を落としたが、無駄だったようだ。

 

 凄まじい動体視力だな、と内心舌を巻く。

 

 黙る『顔無し』に、ホシノが喉を鳴らした。そして少し潤った瞳を彼に向け、目尻を拭う。

 

 

「……くく、ごめんごめん。『顔無し』くんがそんなことをする子じゃないことぐらい、分かってるよー」

 

 

 どうやら揶揄われたらしい。ホシノは手をフリフリしながら歩き、もう片方の手で部室の扉に手を掛ける。

 ノノミがその背中に向かって、声を上げた。

 

 

「あら先輩。どちらへ?」

 

「うへ〜。今日おじさんはオフなんでね。適当にサボってるから、何かあったら連絡ちょうだい、ノノミちゃん」

 

 

 そう言ってホシノは部室から姿を消した。揶揄われ、後頭部を掻いた『顔無し』もその後に続く。

 

 

「俺はさっき言った通りだ。柴関ラーメンにいるから、何かあったら連絡してくれ。先生」

 

「交渉するんだよね……私も行こうか?」

 

「いや。あいつらが呼んだのは俺だからな……有難いけど、それを反故にするわけにはいかない」

 

 

 『顔無し』は遠回しに遠慮した。

 先生は残念そうにするも、無理に付いていこうとはしない。

 

 ふ、と優しい笑みで見送る。

 

 

「そっか。いってらっしゃい、『顔無し』。気を付けてね」

 

「っ? ……別に気を付けることはないと思うけどな」

 

 

 『いってらっしゃい』。

 正面からそう言われ、妙に照れ臭く感じた。『顔無し』はそれに困惑を表す。

 

 当初より、感情の起伏が現れてる感覚だ。

 長い間この身体で動いたことで、身体そのものの在り方が戻ってきているのかもしれない。

 

 

(身体に精神が引っ張られるのも、考え物だな)

 

 

 感情の起伏が乏しいことにより、冷静さを損なわないこと。

 今迄それに恩恵を受けていたが、今後は分からない。少年の身体に精神が引っ張られる可能性もあった。

 

 

(まあ、冷静な時の感覚は覚えてる。それを意識的に作り続ければいいか)

 

 

 それにプラスに考えれば、身体そのものの在り方が戻ってきているということはだ。

 

 斑目が戻ってくる可能性が近づいている。

 または彼が戻った後、日常生活を送りやすくなるといった利点があった。折角学校生活に戻れたのに、感情の起伏が乏しいのは可哀想だ。

 

 『顔無し』は一度頭を掻き、息を吐く。

 すっ……と頭から足先までが凪いでいった。

 

 

「それじゃ。行ってくるよ、先生」

 

 

 自分の得物を握り、肩に置く。

 そして『顔無し』は普段通りの様子で、アビドス高等学校を後にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 『顔無し』が柴関ラーメンの入り口の扉を開くと同時に、幼い少女の弾ける声が聞こえてくる。

 

 

「来たぁ! いただきまーす!」

 

 

 鼻腔に届くラーメンの匂いと、彼女が鳴らしたであろう掌の音が食欲を湧かせた。

 『顔無し』も何か食べようかと思いながら、彼女達がいる席へと向かう。

 

 

「ひ、ひとりにつき一杯……こんな贅沢しても良いのですか?」

 

「……日頃の食生活が分かる一言だな」

 

「ひゃっ!? ノ、『顔無し』さん……!!」

 

 

 肩を跳ねさせ、驚くハルカ。

 自分達の席の傍に立つ『顔無し』に、ムツキ、アル、カヨコの順で反応を示した。

 

 

「やっほー! ネムネム。先に頂いてるよー!」

 

「き、ききき、きたのねっ。『顔無し』、遅かったじゃない……!」

 

「社長……」

 

 

 ムツキは麺を箸で摘みながら笑い、アルは何故か顔を紅潮させて身体を震わせている。カヨコはそれを呆れたように見ていた。

 席の端にいたムツキは、よっ、という掛け声と共に席から降りる。

 

 

「ほらほら座って〜。ずっと立ちっぱなしも疲れるでしょ?」

 

「……アルの端末で送ったあの文章然り、何を企んでんだか」

 

「ひどーい、純粋な好意なのにー……くっふっふ〜」

 

 

 絶対嘘だ。

 『顔無し』は笑うムツキを見て、そう思った。詰めればいいのに、何故わざわざ席を立ったのか分からない。

 するとアルが唸り出す。

 

 

「う、うぅぅぅ〜〜!!!」

 

「アル?」

 

 

 『顔無し』の呼び掛けに、何か覚悟を決めたような表情で彼女は机を叩いた。

 無理して口角を吊り上げ、その顔は紅く染まっている。

 

 

「『顔無し』!! 私の隣に来なさい!!!」

 

「……は?」

 

「あはは〜! アルちゃんってば、大胆〜!!」

 

「まあ、戸惑うよね……」

 

 

 カヨコの呟きが聞こえる。やはり、これは何かを狙ってのことらしい。

 だが何の意図があるのか。それが全く分からなかった。

 

 

「ほ〜ら。どっちどっち〜?」

 

「お、男らしく、早く決めて……っ!」

 

 

 理由を聞こうとしても、ムツキにははぐらかされる。アルは……声は上擦ってるし、顔も紅いし、まともな会話が出来るかも定かではない。

 なので『顔無し』は。

 

 

「それで、一体どういうことなんだ? ムツキ」

 

「くふふ。ネムネムご案内〜!」

 

「ガーンっ!!」

 

 

 ムツキを選んだ。アルは白目で口を大きく開ける。

 そんな彼女を尻目に、『顔無し』は背を押されるがままに席に座らされた。

 

 

「っと……ハルカ?」

 

「! ごめんなさい、ごめんなさい!!」

 

 

 右腕を強く引っ張られる。そのまま席の中央に引き摺られた。

 そのままハルカによって、腕をホールドされる。

 

 席の順は、ハルカ・『顔無し』。その対面に、アル・カヨコの順となった。ムツキは立って笑っている。

 

 ハルカは謝るものの、安心したように少し笑みを浮かべていた。

 困惑する『顔無し』に追い討ちが掛かる。

 

 

「はいドーン!」

 

 

 『顔無し』の膝の上に、ムツキが勢いよく腰を下ろしてきた。

 太腿から骨盤辺りまでに重みが加わる。

 

 

「うっ……何だってんだ、全く」

 

「見て分からない? 誘惑だよ、ゆ・う・わ・く♡」

 

「ちょっ。こら、ムツキ! そんな足動かしたら……!」

 

 

 足を揺らし、ムツキは安定する位置を探る。その際、『顔無し』を覗き込むことを忘れない。

 

 布に包まれた柔らかな感触が、衣類越しの『顔無し』の太腿を刺激する。アルが危惧していたことだ。

 

 そしてムツキのその小ぶりなお尻が、『顔無し』の股関節の辺りにすっぽりハマった。

 

 

「およ? いいねここ、安定する〜」

 

「お前。ここ飲食店だぞ……?」

 

「知ってるよ? だからラーメン食べてるんじゃーん。あ、ネムネムも食べたい?」

 

「いや、いい」

 

 

 『顔無し』は特に慌てる様子を見せていない。ムツキも不満げな表情を浮かべるわけでもなく、そのまま過ごしている。

 

 アルは心の中で大きな声を上げた。先程の赤面が嘘のように、その瞳は尊敬で輝いている。

 

 

(えーーーーー!!? こ、ここまでされてるのに何の反応もなし!? 色仕掛けには屈しないということねっ、アウトローだわ!!!)

 

 

 そんな最中、ムツキは『顔無し』の胸を背もたれにして、寄りかかった。

 

 

「ねーねー。別に仮面外していいんだよ? 私達、もう正体知ってるし。クライアントから顔写真も見せられたしね〜」

 

「まさかアンタの仮面の中身が、あんな童顔だとは思わなかったけど」

 

「知ってんのか、顔」

 

 

 まあ、そうだろうな。

 斑目の捕獲を命じられてたのなら、顔写真を渡されていてもおかしくない。

 

 とはいえ、『顔無し』の答えは決まっている。

 

 

「なら尚更ダメだ」

 

「えー」

 

「見せられるもんじゃねェよ。この顔は」

 

 

 いかに便利屋。そしてアウトローを目指す者達とはいえだ。

 この濁り切った瞳を見せるわけにはいかない。空虚な瞳を見せるわけにはいかない。

 

 仮面を押さえる『顔無し』。そこには、絶対に自分の顔を晒さないという強い意志が感じられた。

 

 

「……そっか。それなら仕方ないねー」

 

「……人には一つや二つ、言えない事情もあるもの。ムツキがごめんなさい、『顔無し』」

 

 

 何やら事情があるのだと、便利屋68の全員が察した。だからこれ以上、追求するのはやめた。

 アルは組織の長として、頭を下げる。『顔無し』は手で制した。

 

 

「気にすんな。しかし、何だってこんなことを?」

 

 

 そして話題を変える。アルは簡単にその流れに乗ってくれた。

 

 

「フフ……ズバリ、『顔無し』。貴方を買収するためよ」

 

「買収?」

 

「ええ。これから、私達とアビドス間の戦いは熾烈になるわ。貴方には恩もあるし、出来れば傷付けたくないのよ……」

 

 

 髪をさらりと払うアル。冷静に見えるが、鼓動は早まってるし冷や汗を流していた。

 『顔無し』は呟く。

 

 

「何だ。考えることは同じか」

 

「えっ!」

 

 

 それはつまり、とアルが表情を輝かせる。

 

 

「俺も人手が欲しくてな。お前達とも出来れば戦いたくない。だから、こっち側についてほしい」

 

「私達が買収される側!!?」

 

 

 アルは『顔無し』を真っ直ぐ見据える。

 そっちが私達に下るの! と言っているようだ。

 

 『顔無し』も同様に、黙ってアルを見ている。

 口には出さずとも、お前達がアビドス側に来いと言っていることが分かった。

 

 

「くふふっ。アルちゃん。もうこれは、あの手しかないんじゃな〜い?」

 

「うっ……くぅ……! やってやろうじゃない!!!」

 

 

 アルは席を立ち、『顔無し』の左に座るとその腕を強く抱き寄せた。

 自分に実る双丘に彼の腕が埋まるのを、目と感触で認識し、恥ずかしながらも声を上げた。

 

 

「いいから! 私達の側に付くの!!」

 

「よーし! 皆、総攻撃だー!!!」

 

 

 ムツキも自身の身体を揺らす。楽しげな表情から、たまに妖艶な笑みを浮かべて、猫を撫でるように『顔無し』の首筋を優しく摩った。

 

 ハルカはただ右腕に抱きついている。アルも同様で、偶に身体を揺らすくらいだ。

 

 カヨコは溜息を吐きながらも、席を立ち……『顔無し』の後ろの席に回る。柵越しに『顔無し』の仮面の頰辺りに両手を添え、顔を近付けた。

 

 

「……ねぇ。男でしょ? こんな可愛い子達が身体を張ってるんだから、その意図を汲んであげなよ……」

 

「うわ。良い声だなお前」

 

「っうるさい……」

 

 

 恥ずかしくなったのか、カヨコの頬が紅くなる。

 わちゃわちゃと一人の男に群がる、美少女達の図が飲食店で展開されていた。

 

 

「こら、そこの学生さん達」

 

 

 『顔無し』とアル達は動きを止めた。

 店の通路から、妙なプレッシャーを感じる。ゆっくりとそちらに顔を向けると、腕を組んだ柴犬の大将がいた。

 

 

「ここは飲食店だ。乳繰り合う場じゃない。分かるよな??」

 

「「「「「はい、すいません」」」」」

 

 

 思わず敬語になる。ガチな大人の説教トーンには勝てなかった。

 ちゃんとした飲食店での席順に戻ろうとした時。『顔無し』は異変を感じる。

 

 

 

 

 

 

 何か風を切る音が、こちらに向かってる気がした。

 

 

 

 

 

「全員伏せろっ」

 

「っ」

 

 

 『顔無し』の声に、後ろの席にいたカヨコはすぐに飛び込むように伏せる。

 

 

「ほぇっ?」

 

「「?」」

 

 

 アルとハルカとムツキはまだ席にいた。

 

 

「え、ちょちょちょ!?」

 

「うわー! なになにー!?」

 

「あわわわ!!」

 

 

 なので『顔無し』は素早く3人を抱き寄せ、大将を巻き込むように投げ飛ばす。大将を押し潰す形で、4人は固まって伏せる形となった。

 

 

「おわーー!!?」

 

(悪い大将)

 

 

 この間、数秒。

 大将に謝りながら、さらにノーネームは行動を起こす。少し勿体無いが、ラーメンが乗った机を通路にひっくり返して立てて、盾のようにした。

 

 

 バキバキッ!!

 

 

 次の瞬間、天井から丸い物体が突き破ってくる。『顔無し』は自分の得物の頑丈さを信じて、その物体に向けて投げた。

 そして背を机に付け、しかし破片などがアル達に当たらぬよう、身体を大きく広げる。

 

 平和な飲食店に、似合わぬ爆発音が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 半壊した柴関ラーメン。天井は青空となり、店内は四方から風が吹く開放感溢れる様相となった。

 

 

「こほっこほっ……! 何なのよ、砲撃!?」

 

「やったのは……あいつらだね。こんな無茶なこと仕出かすのは」

 

 

 アルが咳き込みながら身を起こし、カヨコは目を吊り上げた。

 

 

「大将ー。大丈夫ー?」

 

「おお。嬢ちゃん達が覆い被さってくれたお陰でな……」

 

「よくも、よくもアル様に危害を……!!」

 

 

 ムツキは大将を助け起こし、ハルカは歯を剥き出し、今にも愛銃を持って特攻しそうだ。

 

 

「……おい」

 

「あ、『顔無し』。ありがとう、お陰で助かっ……」

 

 

 アルは顔を上げて、目の前にいるであろう『顔無し』に礼を言おうとする。

 安心からその表情は緩んでいた。だがそれは固まり、どんどん血の気が失せていく。

 

 

「お前等……怪我ないか?」

 

 

 そう問い掛け、少し服が汚れた程度の彼女達を見て『顔無し』は安心したように微笑んだ。

 

 仮面は地面に落ちていた。その裏側は真っ赤な血で染まっている。

 

 彼の口全体から血が溢れていることから、吐き出されて外れたことがその場の全員が分かった。

 

 

「ネムネム……それ……」

 

「私達は、怪我ありませんけど……っ!!」

 

「……!!!」

 

 

 全員の視点が一箇所に集まる。

 

 『顔無し』の左上半身だ。そこには、大きく抉られたような穴があった。傷口は赤黒く染まっている。

 爆破によるものなのか、それによって飛ばされた破片で生じたものなのかは分からない。

 

 

 ただ一つ分かるのは、それが致命傷だということだ。

 

 

「っは……なら、良かった」

 

「『顔無し』!!!!」

 

「ネムネム!!! しっかりして!!!!」

 

 

 重力に従い、倒れる『顔無し』を抱き留めるアル。

 そこに恥じらい等はなかった。例えその顔が自身の胸に埋もれていたとしても、赤面することはない。

 

 ムツキも駆け寄る。初めて見せる、必死な表情だった。

 呼吸がうまく出来ない。初めての感覚だ。ここで『顔無し』は初めて、『死』を意識した。

 

 自然に、それは口から出される。

 

 

「……斑、目。お前の意志、継げねェかも」

 

「っ! とりあえず、安全なところに!!(斑目の意志……?)」

 

 

 唯一、カヨコだけが『顔無し』の呟きを拾う。

 『顔無し』も『顔無し』で、自分の呟きに笑みをこぼした。

 

 

(全く……修復しない条件もまだ分からないってのに、馬鹿なことしたな。多分、肺や心臓も爆ぜたぞこれ……紛れもない致命傷か)

 

 

 まあ、でも。と『顔無し』は思う。顔を向けた先にいたのは、アル達だった。

 

 あの状況で自分だけ守るのは違う筈だ。例え彼女達が自分より身体が頑丈だからと、何もしないのは違う。

 それはカッコ悪い。斑目でも同じ行動を取った筈だ。

 

 

(……さて、どうなるか)

 

 

 アルの胸の感触と体温が心地よく、少し休もうと『顔無し』は瞳を閉じた。

 

 

「『顔無し』……!?」

 

 

 それがまるで死にゆく姿に見え、アルは彼の身体を揺する。

 生暖かい沼のような感触が掌に纏わりつく。

 

 赤い血だ。一面につくそれが、もう助けられない量だということを示した。

 

 

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

 

 怒り・悲しみ・恐怖。

 全ての負の感情を込めたような金切り声が、アビドスに響き渡るのだった。




いってらっしゃい。

どうしよう、先生。
2度と帰ってこないかもよ? 彼。




【挿絵表示】




はい。左上半身を抉られた顔無し君です。
目は各々で、好きな死んだ目を当てはめてください。
髪も無理矢理、理想の髪型を当てはめてください、お願いします。

それと模写、難しすぎるだろ!!! アル達をもっと可愛く曇らせて描きたかったのに!! うわーん!!!
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