憑依in実験体のアビドス生徒   作:改名

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そろそろ掲示板回や、小話を挟もうかな。これで筆を走らせて、そのまま本編も進ませるって作戦よ!! 完璧〜。



33.対面(挿絵あり)

 

 

 

 柴関ラーメンより少し離れた場所にて。

 ゲヘナ風紀委員会の擲弾兵の口から、引き攣った声が上がった。

 

 

「嘘でしょ……!?」

 

「どうした? 仕留めきれなかったか?」

 

 

 イオリは表情を顰める。

 今、歩兵を動かし、突入させようとしたところであった。その出鼻が挫かれ、面白くないのであろう。

 

 

「なら撃ち続ければいい。たった四人だろ?」

 

「……いいえ」

 

 

 イオリの問いに、擲弾兵は静かに首を振った。

 冷や汗を流し、その瞳は震えている。

 

 

「一人です」

 

「……は?」

 

 

 イオリが目を見開き、擲弾兵を見た。

 信じられない。そう言いたいことは、表情から分かる。

 

 それは擲弾兵も同じだった。本当は否定したい、だが間違いなくそれは現実だ。

 否定したいが出来ない葛藤を体現するかのように、叫ぶ。

 

 

「便利屋の姿はありません! 一人の男に、砲弾を封殺されました!! 男は無傷です!!!」

 

「封殺!? それに無傷だって!? ……そんなバカな話あるか!?」

 

 

 砲弾の封殺。それはまあ、想像は出来る。

 同じ威力の砲弾を真正面からぶつけたりすれば、可能っちゃ可能かもしれない。

 

 しかし、そんな代物がある飲食店なぞ聞いたことがなかった。ならば、その男は他の手段を使ったということになる。

 それが信じられなかった。

 

 イオリと共にいるチナツは、『男』という単語に反応する。

 

 

「男……!? それって」

 

「もう一度撃て! 私も見てみる」

 

「は、はい!」

 

「あ、ちょっと待っ……!!」

 

 

 一体どんな手段を使ったのか。

 

 イオリは砲撃を指示し、自分は片手で望遠鏡を持って目に置いた。

 続いて、砲撃音が鳴り響く。制止が間に合わず、チナツは慌てて映像でその姿を確認した。

 

 

「……わ、悪くないな」

 

 

 見えたのは、一人の少年。

 上半身を露わにしていて、その身体は引き締まっている。

 

 無駄なく鍛えられていることが、イオリにも容易に理解できた。つい、感心して見惚れてしまう。

 

 イオリの顔がほんの少し紅く染まっているのと対照的に、チナツの顔は驚きに染まっていた。

 

 

「……嘘、そんなことって」

 

 

 チナツは彼の顔と身体に見覚えがあった。

 

 その表情から面影はないように見える。しかし顔付きは確かに委員長であるヒナに見せてもらった資料にあった、アビドス高等学校の斑目ユウだった。

 

 そしてその身体は、シャーレに訪れた時に成り行きで間近に見た、『顔無し』のもの。

 

 

 チナツは呟く。それは誰の耳にも拾われなかった。

 

 

「斑目ユウが、『顔無し(ノーネーム)』さん……?」

 

 

 あの時の先生の推測は正しかったのだ。それ故、彼の変化が信じられない。

 一体、その身に何が起こったのか。チナツはしばらく『顔無し』から目を離せなかった。

 

 

 一方、ここでイオリが正気に戻る。熱を帯びた顔を振り、冷静を取り繕った。

 

 

(って違う! そうじゃないだろ!)

 

 

 イオリは本来の目的を思い出し、上半身だけでなく彼の全体を観察した。

 生気を感じさせない、光を失った目。下の衣服に付着した赤い液体。そして片手に握り締めた、金属の棒。

 

 全てが普通じゃない。感想はその一言に尽きる。

 イオリの背筋に寒気が走った。彼に、既視感を抱いたのだ。

 

 

 次の瞬間、彼と初対面ではないと気付く。

 

 

「!! あいつ……!!!」

 

 

 先程飛ばした砲弾は『顔無し』に直撃する筈だった。

 だがそうはならず、それは大きな音を響かせると同時に、彼の目の前で爆炎と煙と化す。その二つもすぐに両断されていた。

 

 

 

 『顔無し』は砲弾と自身の得物を当て、爆発した瞬間、膂力だけで爆炎と煙を切り裂いたのだ。刃物ではなく、金属の棒で。

 

 

 

 イオリの脳裏に浮かぶのは、スーツを着た一人の仮面。

 単体で自身を含める風紀委員会を無力化し、風紀委員長であるヒナを足止めし、逃走に成功した。

 

 過去の記憶が、目の前の男に一致する。

 

 

 

「くそ……! そういえば、あの時も便利屋を手助けしていたな……!!!」

 

 

 

 イオリは歯を鳴らし、判明した敵対者に対しどのように攻めるか迷っていた。

 

 前回の戦いで、集団戦に持ち込んだとしても不利になることを、彼女は知っている。

 また自分達の武器や、仲間をその膂力で武器として、盾として用い、無力化されるのがオチだろう。

 

 

 かといって、このまま砲撃を続けても、あの男に防がれるのは目に見えていた。そうしてる間にも、便利屋はここから離脱するかもしれない。

 

 風紀委員会は『顔無し』を前に、完全に動きを止めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……動きが止まったな」

 

 

 『顔無し』はそう言って、棒を肩に担いだ。

 砲弾の封殺。想像以上に、パフォーマンスとして機能したようだ。

 

 

「しっかしこの金属……と粘土か。砲弾を受けてビクともしねェ。良い買い物したもんだ」

 

 

 それを成し遂げられたのは、この棒。そして『顔無し』の肉体。この二つがあったからだ。

 

 他の金属なら、砲弾と『顔無し』の力比べに負けて折れていた。

 『顔無し』でなければ、砲弾に力で負けて腕を持ってかれた後、全身が吹き飛んでいただろう。

 

 

 さて、と『顔無し』は離れた距離にいる風紀委員会を見た。

 

 

(遠距離からの砲撃は無駄。仲間を連れて攻めたら、より不利になる。一人で挑むのはもっての外。さて、どうくるかね)

 

 

 そして、『顔無し』は少しだけ顔を後ろに向ける。

 

 柴関ラーメンからは人気がないように感じた。恐らくアル達が気を利かせて、その場に留まるのではなく、大将を連れて逃げてくれたのだろう。

 

 とすると、望ましいのはこの膠着状態が続くことだ。しかし柴関ラーメンからアル達が離れれば、当然その姿が捕捉される可能性もあった。

 

 

「勿論、そうはさせないけどな」

 

 

 ギリ、と音が鳴る程に棒を握り締める。

 そのまま『顔無し』は身体の軸を回し、地面を掬い上げるように殴りつけた。

 

 彼の足元に弧が描かれる。そこから前方に向けて発生したのは、津波のような砂煙だ。

 

 

「視界が……!!!」

 

「ッ! 総員警戒!! あいつのことだ、きっと今攻めてくる!!」

 

「つ、強いとは思ってましたが、ここまで常識外れなんて……!!」

 

 

 風紀委員会への目眩しとしては、十分だった。

 

 イオリは目を細めながら大声を上げて、兵達に警戒を呼び掛ける。

 映像が黄土色に染まり、チナツも冷や汗を流すことしか出来ない。

 

 多数の不良を一人で制圧した『顔無し』を見て、驚かなかったといえば嘘になる。

 しかし、委員長であるヒナの強さを間近で見てきたため、その衝撃はあの場にいたメンバーの中では一番小さかった。

 

 

 だが、今回のこれは桁が違う。ヒナが純粋な力だけで、この離れ業をやってのけるかと問われれば、チナツの答えはノーだった。

 

 

 

 

 『顔無し』は全てを包み込んだ目の前の砂煙を眺め、ふぅ、と息を吐く。

 

 

「……?」

 

 

 ふと、後ろから複数人の気配を感じた。

 小刻みに柔らかい砂を踏む音が、段々と大きくなって近付いてくる。

 

 

「何だお前ら。逃げなくていいの……」

 

 

 か、と続く言葉が途切れた。それは足音の主が、『顔無し』が推測したアル達ではなかったからだ。

 

 

「『顔無し』……!!」

 

「先生……? それに……お前らも」

 

 

 そこにいたのは、息を切らし自分を見る、先生とアヤネとホシノを除いたアビドスの面々だった。

 

 先生の瞳には涙が浮かんでいて、その顔は血の気が引いている。セリカを除く、アビドスの面々も同様だ。

 

 

「……」

 

 

 セリカは複雑な表情を浮かべている。怒ってるような、悲しんでるような、そんな表情だった。

 

 上半身を露わにする彼に既視感を覚えている。だが今回は、あの時より与えられた衝撃は大きかった。

 

 事情は知っている。だが今は、目の前で息をしている『顔無し』の姿を見ていたかった。

 ツンとなる鼻を啜る。

 

 

「……生きてて、よかった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数刻前。

 とあるビルの大部屋の中。その部屋に入ってきたのは、小さな人影だった。

 

 

「……」

 

 

 小鳥遊ホシノだ。その表情は見えない。

 俯いて、だが確かに足はまっすぐ前へと進んでいた。

 

 

「これはこれは」

 

 

 座って待ち構えていたのは、黒服だ。机に置いていた両肘を離し、立ち上がる。

 

 

「お待ちしておりましたよ、暁のホル……いや、ホシノさんでしたね、これは失礼」

 

 

 演技のように頭を振る黒服。ホシノは気にせず歩みを進めた。

 

 

「いやいや、キヴォトスにはまだ馴染めていなくて。こちらへどうぞ」

 

 

 黒服が四本指で示したのは、応接用のテーブルと椅子だ。

 だがホシノはそちらに向かうことなく、変わらずまっすぐ黒服の下へと向かっている。

 

 そして目の前に立つと同時に、銃口を向けた。

 

 

「ククッ……穏やかじゃないですね」

 

「何がおかしい……ッ! 何がアビドスじゃないだ、何が無所属だ……!!」

 

 

 ホシノの腕は激情で震え、彼女の愛銃がカタカタと音を立てている。

 勢いよく上げられた顔。目尻から水滴が飛び、鋭く吊り上がっていた。

 

 

「よくも斑目を!! 私達の仲間を!!!」

 

「おや。そんな顔も、銃口を向けられる理由が分かりかねますね」

 

「何だと……!?」

 

 

 ズイ、と黒服が上半身を折り曲げ、ホシノが持つ散弾銃の銃口に額を当てる。

 発砲すれば間違いなく絶命させられる筈だ。

 

 

「確かに私は彼を研究対象としました。だがしっかりと同意を取った上です。契約書も交わしています」

 

「……っ!」

 

 

 だが彼女はそれが出来なかった。

 距離が近くなり影が深くなる黒服の顔に、恐怖感を抱き、そのまま跳び退いた。

 

 嘲笑うように、黒服は笑った。

 

 

「彼が孤独でなければ難しかった。そんなユウさんを無所属にしたのはホシノさん……貴女でしょう?」

 

 

 ホシノは反射的に叫ぶ。

 

 

「ッ!! 違う!!!」

 

「いいえ、何も違わない」

 

 

 子供に言い聞かせるように、ゆっくりと、黒服はホシノに問いかけた。

 

 

「傷心状態の彼を傷付け、追い込んだのは?」

 

 

 ユメを失い、傷心した斑目。

 そんな彼を責め立てたのは? 離れたくないと、悲しそうな顔で振り返る彼の肩に、銃弾を撃ち込んだのは?

 

 

 

 

 (小鳥遊 ホシノ)だ。 

 

 

 

「そんな彼の退学届を受理したのは?」

 

「事情を聞くために、そこに書かれた住所にも行けた。そこで異変にも気付けたかもしれない。それをしなかったのは?」

 

 

 

 記入事項に不備がなかった。それを口実に出来ないことで、勇気を出せず斑目の自宅を訪れなかったのは誰だ。

 

 

 

 

 

 (小鳥遊 ホシノ)だ。

 その時に異変に気付けたら、何かが変わっていたかもしれないのに。

 

 

 

 

「うっ、あぁ……!!!」

 

 

 

 

 その小さな身体が小刻みに揺れる。今度は怒りではなかった。

 喪失感、後悔、恐怖。それらが身体の内側を巡り、体温が下がっていく。

 

 その寒気によりホシノの瞳孔は開き、顔も青白くなっていた。生暖かい筈の涙が、妙に冷たく感じる。

 

 そんな彼女に追い討ちをかけるように、黒服は口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だから、彼は死んだのです」

 

 

 

 

 

 

 

「……は?」

 

 

 掠れた声が、ホシノの小さな口から溢れた。

 

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 




ホシノ。
水着姿で来てくれてありがとう。
僕は君が大好きだ。
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