憑依in実験体のアビドス生徒   作:改名

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やりたいことが沢山あること。仕事。
これのせいで、俺の更新速度は落ちる一方なんだ……!!!
許さん、許さんぞ……!!!




陸八魔アル!!!!


34.合流

 

 

 

 

 ホシノはゆっくりと、顔を上げる。その瞳は震えていた。

 

 

「なに、言ってるのさ……。斑目が、死んだ……?」

 

 

 違う、とかぶりを振るう。

 だって、彼は生きているではないか。ホシノの脳内には、『顔無し(ノーネーム)』の姿が浮かんだ。

 

 

「違う、そんな筈ない! だって斑目は……『顔無し』君は今、私達といる! 生きてる!!」

 

「それは本当に、貴女の知ってる斑目ユウでしょうか?」

 

「ッ……!」

 

 

 黒服の問いに、ホシノは口を噤んだ。

 今の彼は、自分の知る斑目と全く違う。別人といっても言い。

 

 ホシノは黒服の問いに否定した。

 

 

「違う。でも、それは記憶喪失だから……」

 

 

 お前の、実験で。

 

 本当はそう言って、目の前の黒服を睨みたかった。

 だが出来ない。そのきっかけを作ったのは、自分であるとも言えるからだ。

 

 ホシノの心中を察したのか、黒服は首を振る。

 

 

「一つだけ言っておくと、実験中は斑目ユウの記憶は確かに存在していました。どんな苦痛を受けようと、常に貴女達のことを想い続けていた」

 

 

 ホシノの瞳孔が最大限にまで開かれた。

 信じられない。彼女がそう思っていることは、如実だった。

 

 

「想ってた……? 恨んでた、とかじゃなくて?」

 

「ええ。寧ろ、自分こそ恨まれるべき。……このような趣旨の発言もしていました。貴女に付けられた肩の傷。それは自分の罪の証だと、大事にされていた」

 

「……ッ!」

 

 

 衝動的に発砲したこと。それに関して、恨まれていると思っていた。

 しかし、実際は違う。斑目はそれを受け入れていた。

 

 

 黒服を通じて、それを知ったホシノ。

 しかしそこに安心などはない。

 

 

「違っ……斑目、違う……! っごめん、ごめん……!」

 

 

 恨まれていなかったことを素直に喜べなかった。

 溢れたのは、謝罪の言葉だ。この場に斑目がいれば、すぐにでもホシノは彼を抱き締めにいっただろう。

 

 自分の発言。行動。

 前向きな彼を、そこまで自罰的な思考に向けてしまったのだから。

 

 俯いて肩を抱き、身体を震わせているホシノを見ながら、黒服は呟く。

 

 

 

「その後、彼は自殺しました。施設を出た後、自室で」

 

「自、殺……」

 

 

 

 壊れた機械のように繰り返す。

 ホシノの心は、既に限界に近かった。

 

 

 

「……そういえば、その直前、妙なことが起こりましたね」

 

 

 

 黒服がふと思い出したかのように、顎に手を置く。

 ホシノは弱々しく、顔だけ黒服の方に向けた。光を無くしたその瞳は、曇ったガラスのようだ。

 

 彼女の心と同様、些細なことで砕け散る。そんな脆弱な印象だった。

 

 

「妙な、こと?」

 

「斑目ユウは何かを恐れていた。何も存在しない筈の宙を見て、何かを拒絶するように……まるでそう、『悪霊』を見たような反応でした」

 

「悪霊……。っ!」

 

 

 呟き、そしてホシノは目を見開いた。

 動悸が止まらない。冷や汗が肌を伝う。

 

 

「ねぇ……実験中、斑目は私達を想っていた。これに間違いはない?」

 

「ええ。勿論」

 

 

 ホシノの中で、最悪のロードマップが浮かんだ。

 

 

「でも、その悪霊を見たような反応の後、斑目は脱走した」

 

「……」

 

 

 確認しながらそれを追っていく。

 

 

「そして自殺して、今は斑目だった頃の記憶を無くしている……!」

 

 

 ホシノの表情に変化が現れた。

 目尻と口角が上がっていく。喜んでるわけではない、それは怒りによるものだった。

 

 その様子を見た黒服の目を通して、目の前のホシノが過去の彼女と重なる。

 

 

(……まるで獣。過去の貴女を思い出しますね)

 

「……行かないと」

 

 

 ホシノは装備を担いで、部屋を出ていった。

 彼女が向かう先は、ただ一つ。今迄避けてきた場所。勇気を出せず、近付くことすら出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 すなわち、班目ユウの部屋である。

 

 

 そして部屋に取り残された黒服は、小さく笑う。

 表情に変化は見られない。だが、確かな悪意が表れているようであった。

 

 

 

 

 

「クククッ。お会いできる日は近そうですね……『顔無し』さん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 セリカ達は駆け足で、柴関ラーメンへと向かっている。

 彼女達の頭上を飛ぶドローンから、アヤネの声が響いた。

 

 

『そろそろ柴関ラーメンです! それと先生、あまり無理は……!』

 

「私は……っ、大丈夫っ! 私のせいで、皆の足を止めるわけにはいかない……!!」

 

 

 先生の息と服装、そして走るフォームは乱れていた。

 動くのに邪魔になったジャケットは、走りにくいためヒールの高い靴と同様に脱いだ。それらは纏めて抱えられている。

 

 流石のシロコも、今の先生に声を掛けられなかった。

 

 本当は背負うことを提案するつもりだったのだが、鬼気迫る表情でそんなことを言われてしまえば、手助けは野暮というものだ。

 

 

(……ん。ちょっと、羨ましい)

 

 

 先生から大きな感情を向けられている『顔無し』に対し、少しだけ嫉妬する。

 先生から視線を外し、前を見ると人影が見えた。同時に、上空のドローンを通して、アヤネの声が響く。

 

 

『あれは……便利屋の皆さん!? それに、大将も!!』

 

「大将!? 無事だったんだ!!」

 

 

 嬉しい報告だ。セリカは目に涙を浮かべ、輝くような笑みを浮かべた。

 人影がはっきりと見えてくる。

 

 大将はカヨコに抱かれていた。便利屋の面々の顔には、疲労が見える。

 

 

「! 大丈夫!?」

 

「っ……! 何て酷い怪我……!!!」

 

「ちょっと! 歩いていいの!? これ!!」

 

 

 先生が駆け寄った先にいたのは、アルだった。

 ノノミを初めとした、対策委員会の面々も『それ』を見て同様の行動を取る。

 

 彼女の服には、夥しい量の血液が付着していた。

 

 

「っ……違うわ。これは、私のじゃない」

 

 

 アルは近寄ってきた先生を拒絶するように、身体の全面を隠す。そして何かを恐れるように、視線をこちらに寄越した。

 先生と対策委員会の背筋に、嫌な冷たさが伝う。

 

 

「……うそ」

 

 

 信じたくない。その一心で、先生の口からこぼれ落ちた。

 

 

 アルに付着した血液は彼女のものではない。かといって、大将や他の便利屋のメンバーのものでもないことは、一目瞭然だった。

 

 そして、この場にいない者が一人いる。柴関ラーメンに向かうと言い、まだ姿を見せない少年が。

 

 

 これらの状況が揃えば、全員一致で最悪の想像がつく。

 絶望。今の彼女達の顔は、その一言で言い表せるだろう。

 

 

 だが、ただ一人。『例外』はいる。

 

 

 

「……行くわよ」

 

『セリカちゃん……?』

 

 

 アヤネが戸惑いの声を上げた。先生含め、他の対策委員会もただ一人に視線を集中させている。

 

 

 セリカだ。彼女だけが前を向き、踏み出していた。

 

 

「あいつは、そんな簡単にくたばらない」

 

「! 貴女、『知ってる』の……?」

 

「出来れば知りたくなかったけどね……」

 

 

 ヘルメット団に誘拐された時のことを思い出し、セリカは溜息を吐く。あれは心臓に悪い、心の底からアル達には同情した。

 

 

「ん……話が全く見えない」

 

「そ、そうだよ。どういうこと? 『顔無し』は……」

 

 

 生きてるの?

 

 弱々しい先生の声は、響く轟音に掻き消された。

 

 

『砲撃音……!!?』

 

「あいつらまだ……!」

 

 

 滅多に見せない、険しい表情をムツキが浮かべる。

 その視線の先には、砲弾が弧を描いて飛んできていた。

 

 ここまでは届かないものの、着弾点は何となく分かる……柴関ラーメンより前。即ち、『顔無し』がいるであろう場所だ。

 

 あれだけの目に遭わせておきながら、攻撃を緩めないのか。

 現場を目撃したアル達は、風紀委員会に対して怒りのボルテージを上げた。

 

 

 

 ボゴォン!!!

 

 

 前方から爆発音が響く。次いで、大きな砂の波が彼方に向かって流れた。

 

 間違いない。既に『顔無し』は一人で戦っている。これ以上、彼一人に負担をさせるわけにはいかない。

 

 セリカは走り出す。先生と対策委員会も、慌ててその後を追うのだった。

 

 これが、『顔無し』と彼女達が合流する前の出来事である。

 そして現在。

 

 

 

 

 

 

「……先生、苦しい」

 

「ゔぅぅ〜……っ! 『顔無し』ぅ……、生きてて、よかったよぉ……!!!」

 

「本当よ……! この、バカっ」

 

「ツインテちゃん。地味に痛いのやめろ」

 

 

 『顔無し』は真正面から先生に抱き締められている。そして横からは、結構な力でセリカに抓られていた。

 溜息を吐き、顔だけを動かす。

 

 

「先生や他の奴等は分かるけどよ、お前、前回も見ただろ」

 

「何回見ても慣れないわよ!!! しかも今回は肉片とか、変なのも散らばってたし……!! 余裕がすっ飛んだわ!!!」

 

 

 『顔無し』は死ににくい。そのことは知っている。

 そして戦っているため、死んでいるわけがない。それも承知していた。

 

 だが実際に、柴関ラーメンに残されたモノを見たらその余裕は消え去った。その時の全員が、顔を顰め、その色を青白くさせている。

 

 

『うっ……これ、酷い光景だ』

 

『大量の血に……人の内、臓? ……ゔぷっ』

 

『骨の欠片が、肉と、混ざり合ってる……!!』

 

『先生! アヤネちゃん!! あまり見ちゃダメです……! 早く、ここを出ましょう……!!!』

 

『だ、大丈夫! 絶対、『顔無し』は生きてるッ、生きてるからっ……!!!』

 

 

 あの場で誰も戻さなかったのが奇跡。

 そう言える程、凄惨な赤に染まっていたのだ。『顔無し』をこの目で見るまで気が気でなかった。

 

 

「分かった。心配かけて悪かったから。取り敢えず離せ、離れろ……な? 言っとくけど、まだ敵があそこにいるんだぞ」

 

 

 にも関わらず、当の本人はこれである。

 

 鼓膜を大きく揺らすセリカの怒号に、顔を顰めながら『顔無し』は言った。

 彼がそう言うと先生は身体を離した。セリカも離れ、身体を砂煙の方に向ける。

 

 

「……落とし前、つけるわよ」

 

「ん」

 

「お仕置きの、時間ですね〜」

 

 

 対策委員会の面々が、各々の武器を手に砂煙へと足を進めていく。その後ろで、シッテムの箱を構える先生。

 その目は完全に据わっていた。

 

 

 ……これは止められないな。

 

 

 『顔無し』は溜息を吐くと、彼女達の隣を歩む。

 出来るだけ自分一人で制圧し、学園間の問題になりそうになった時は責任の大部分を負うつもりだ。

 

 そのつもりだったが。

 

 

「『顔無し』は先生と、ここに、いようね?」

 

「……分かったよ」

 

 

 戦闘指揮の準備を済ませた先生の両腕の輪の中に囚われた。

 絶対に逃さないという意思が、左右から掛かる力で分かる。

 

 『顔無し』は諦めて、先生の胸部に頭を預け、ことのなりゆきを見守るのに留めることにした。

 

 風紀委員会も、アビドスの動きに気付く。

 

 

「こちらに接近反応……! アビドスの生徒達です! あれ、『顔無し』さんがいない……?」

 

「4人……? よし、あいつが現れないなら勝機はある! 総員、戦闘準備!!」

 

 

 ガチャガチャガチャッ

 

 

 何十人分もの、銃器を構える音が響く。

 『顔無し』の姿が消えたことを好機とし、向かってくる敵を一気に叩くつもりのようだ。

 

 だがチナツはあることに気付く。

 

 

「ちょ、ちょっと待ってください。イオリ」

 

「何だ? これからだってのに」

 

「アビドス側に民間人が映りました。確認中ですので、お待ちください」

 

 

 チナツは映った人物を見て、声を上げる。

 

 

「え……!? あ、あの方はまさかシャーレの先生!? 何で『顔無し』さんにバックハグを……!?」

 

「何だシャーレって! 何だその状況は! ふざけてるのか!?」

 

 

 困惑するイオリとは対照的に、チナツは内心焦っていた。

 とてつもない戦闘指揮力を持つ先生。今は動けないが、圧倒的な制圧能力を保持する『顔無し』。

 

 その二人が、あちら側に付いている。

 それが意味することは……。

 

 チナツは声を荒げた。

 

 

「この戦闘、行ってはいけません!!」

 

「どういうことだ?」

 

 

 イオリがその意味を問いた直後に、部下から報告がされる。

 

 

「アビドス。こっちに接近中、発砲します!」

 

「ちっ。仕方ない、いくぞ!」

 

「あっ……」

 

 

 対策委員会との戦闘のために駆け出したイオリに、手を伸ばすも止められないことを悟ってか、チナツは腕を下ろした。

 

 どこか諦めたような、そんな表情で。




黒服は嘘は言ってません。
ええ。嘘は。言葉足らずなところはありますけどね。
それが大人なんです。カッコいいですね。
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