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今回は後書きに小話があるぞぅ!
あくまでIFなので、それを承知の上で読んで頂ければ幸いです。
チナツは目の前の光景を見て、予想通りの結末に肩を落とす。
『
彼女と違い、イオリは予想外の結果だったのか。満足に動かない身体を押さえつつ、感情のままに叫んだ。
「な、なに!? 私達が負けただと!?」
イオリの視線は、流れるように『顔無し』に向けられた。
一番警戒すべき敵が、先生の緩い拘束に動きを封じられている。なので勝利を確信していた。
しかし、得た結果は敗北だ。何とか動けそうなのは自分だけ。
周囲に気絶した風紀委員が倒れている中、こちらを見るシロコ、ノノミ、セリカに、イオリは息を呑んだ。
「『顔無し』がいなくても、私達は勝てる」
「私達を過小評価してくれて、ありがとうございます。お陰でスムーズに進みました」
「そういうこと。だから、アンタは大人しくしてなさいよね!!」
セリカがそう言って、顔を向けた先には『顔無し』がいる。
彼から見れば、何か自分に向けて言ってるのは分かったが、肝心の内容が距離の問題で聞き取れなかった。
『顔無し』は先生に寄りかかるような体勢のまま、口を開く。
抵抗を諦めた者の態度だった。
「なんだって?」
「自分達だけでも勝てるから、『顔無し』は大人しくしてて。だってさ」
『顔無し』は渋い表情を浮かべる。
「大人しくするも何も、出る幕ないだろ。もう」
「当たり前。『顔無し』にはこの後、しっかり休んでもらうからね。その分、後日きっちり皆でお話をします」
「うぇ」
先生は『顔無し』を解放すると、チナツの元に向けて歩き出した。
嫌そうな顔をするが、その後『顔無し』は後頭部を掻きながら、先生の隣を歩く。
何か起こった場合、すぐに庇えるようにだ。先生の気持ちが、心の底から嫌なわけではないということが窺える。
「……」
それでも、この身体について説明することが『顔無し』を憂鬱にさせた。
「久しぶり、チナツ」
「……この前以来だな。元気してたか?」
先生と『顔無し』を目の前にして、チナツは気まずげな表情を浮かべ、視線を逸らす。
いつの間にか、二人の後ろにはシロコ達が来ていた。視線を逸らすのも仕方がないと言える。
「先生、『顔無し』さん……こんな形で、お目にかかるとは……その」
「そんな顔するなよ。俺は気にしてないしな」
「私もチナツには怒ってないよ」
シャーレ発足時に、『顔無し』と先生はチナツと既に面識があった。
その中で彼女の大体の性格は知っている。
少なくとも、民間人がいることを承知の上で、砲撃をする生徒ではない。これが二人の認識であった。
故に、今回の出来事の裏を引く者は他にいる。
『顔無し』は後頭部を掻きながら言った。
「どうせ聞いてるんだろ? だんまり決め込んでないで、いい加減出てこいよ。時間の無駄だ」
『……ふふ。時間に余裕を見せない男性は嫌われますよ? 『顔無し』さん』
風紀委員会の端末から、ホログラムで少女が投影される。
水色の髪で、その手にはバインダーを持っており、にも関わらず最初に目に入ったのは胸部の両側面にある肌色だった。
『こんにちは、アビドスの皆様。私はゲヘナ学園所属の行政官、アコと申します。今の状況について、少し説明させていただきたいと思いますが、よろしいでしょうか?』
説明の前に何か羽織れ。気が散って仕方ない。
そう口に出したかったが、自分以外の全員が女子ということもあり、飲み込むことにした。
デリカシーがないと、敵味方問わず口撃されるのはごめんだ。時間も勿体ない。
「「「……」」」
シロコ、ノノミ、セリカは敵意を孕んだ目でアコを見ているし、どう考えてもそんなことを言える空気ではなかった。
『行政官ということは……風紀委員会のナンバー2……』
『あら、実際はそんな大したものではありません。あくまで風紀委員長を補佐する秘書みたいなものでして……』
「本当にそうなら、そこの風紀委員達がそんなに緊張するとは思えない」
「だ、誰が緊張してるって!?」
半身を傾けながら、イオリがゆっくりと歩いてくる。声の大きさにしろ、まるでまだ全然戦えることをアピールしているようだった。
しかし全員が少し見ただけで、またアコに視線が戻る。イオリは少しショックを受けたような顔をした。
アコに至っては、完全にスルーしている。
『なるほど、素晴らしい洞察力です。確か……砂狼シロコさん。でしたか?』
「……」
『アビドスに生徒会の面々だけが残ってると聞きましたが、皆さんのことのようですね。アビドスの生徒会は5名と聞いていましたが、あと一人はどちらに……?』
アコの問いかけに、『顔無し』は先生に顔を向けた。
「……あのアコってやつ。こっちの人数と名前を把握してるようだぞ、先生」
「そうだね……調べられてる」
一方的に知られている。二人の警戒感を高めるには十分だった。
「……因みに委員長は? サボりって言ってたけど、連絡したら来るとも言ってたよな?」
「一応、ここに来る前に事情はアヤネから連絡してる。だから、そろそろ来ると思うけど……」
それにしたって遅いと、先生も怪訝な表情を浮かべる。
行き先を聞いておくべきだった。そう二人は後悔する。
心配だが、これから宛てもなく探し当てるのは不可能に近い。それに、今の自分達は他人の心配をしている場合ではないのも事実だ。
ホシノに関して二人が出来ることは、無事を祈ることのみだった。
アコの問いに答えたのは、アヤネだ。一年生とは思えない、毅然とした態度で対応している。
『今はおりません。そして私達は生徒会ではなく対策委員会です、行政官』
『奥空さん……でしたよね? それでは、生徒会の方はいらっしゃらないということでしょうか? 私は、生徒会の人と話がしたいのですが』
「アビドスの生徒会はずっと前に解散したの! 事実上、私達が生徒会の代理みたいなものだから、言いたいことがあるなら私らに言いなさい! こっちも言いたいこと、山程あるんだから!!」
「こんなに包囲して銃を向けられたまま『お話をしましょうか〜』なんていうのは、お話の態度としてはどうかと思いますけどね? 既にそちらの砲撃で、負傷者も出ているんです」
『?』
ノノミの言葉に、アコは不思議そうな顔を浮かべる。
負傷者なんていないじゃないか。
言葉には出さずとも、そう思っていることは誰もが分かった。
「っ……!」
それに『顔無し』を除く、セリカを始めとしたアビドスの全員の目が鋭くなる。先生も、少し穏やかな表情でなくなったが。
「落ち着け、お前ら」
ゆっくりと、『顔無し』が口を開けた。先生は勿論、アビドスの全員に聞こえるように。
『先輩……でも』
「別にいい。今の俺はただの上裸の男だからな、状況から見ても間違いじゃない……寧ろこれで済んでよかったくらいだ」
「……どう言う意味? 場合によっては、本気で怒る」
シロコから静かな怒りが感じられる。先生も、自分達も彼の身を案じていた。それを不必要だと言われたようで、カチンときたのだ。
周囲から発せられるプレッシャーに、『顔無し』は後頭部を掻いた。
「言葉通りだよ……これが他の奴であってみろ、上半身裸で帰らなきゃならないんだぞ? そんな姿、かわいそうで見てられねェだろ?」
「いや、まさにアンタがそんな姿になるんじゃないの?」
セリカがそう言うが、『顔無し』は気にしていないようだ。
その理由に全員の怒りが抜け落ちた。凄く馬鹿馬鹿しい気持ちになる。
鈍感な癖に、変なところを気にするなと全員が思った。確かに女子として、上裸で帰るのは嫌なことではあるのだが。
「俺はいいんだよ。男だし、恥ずかしくないしな」
「『顔無し』が良くても、他の子が照れちゃうからダメだよ。帰る時、私のジャケットを貸してあげるから」
『こほんっ……!』
アコがわざとらしく咳をする。
全員の視線がこちらに向いたことを確認し、彼女は再び笑みを浮かべる。
『ふふ。十六夜さん、確かにそれもそうですね。失礼しました、全員武器を下ろしてください』
「! いつの間に」
『顔無し』達に緊張が走った。
アコの指示に、いつの間にか復帰して、自分達を包囲していた風紀委員会が武器を下ろしたのだ。
その打たれ強さと、気付かぬまま攻撃を仕掛けられていたら危なかったことに冷や汗を流す。
故に、素直に武器が下されたことに面を食らった。
「あら……」
「本当に武器を下ろした……?」
先生は安心したように息を吐くが、『顔無し』が首を振るのを見て、唇を強く結ぶ。
「「……」」
警戒を緩めるつもりはない。
シロコも同様に、黙っていつ何が起きてもいいよう、周囲に目を向けていた。
『先程までの愚行は、私の方から謝罪させていただきます』
「なっ、私は命令通りにやったんだけど!? アコちゃん!?」
『命令に、まずは無差別に発砲せよなんて言葉が含まれてましたか?』
「い、いや……」
含まれていなかったようだ。イオリは口をもごもごと動かす。
必要な範囲で火力支援、歩兵の投入……と言っている彼女を無視し、アコは続けた。
『ましてや他の学園自治区の付近なのだから、きちんとその辺りは注意するのが当然でしょう?』
(付近……?)
アビドス自治区じゃなくて?
そう疑問に思う。
『顔無し』だけでなく、アヤネも違和感を感じたようだった。
その沈黙に構うことなく、アコは続ける。
『失礼しました。対策委員会のみなさん』
『私達ゲヘナの風紀委員会はあくまで、私達の学園の校則違反をした方々を逮捕するために来ました』
『あまり望ましくない出来事もありましたが、まだ違法行為とは言い切れないでしょうし……やむを得なかったということで、ご理解いただけますと幸いです』
随分とそれらしい、長い口実だ。
『顔無し』は敢えて納得したように頷いてから、切り出す。
「成程な……『それで』?」
『……『それで』、とは?』
「『本当の目的』だよ。アル達が本命じゃないだろ、お前ら」
アコは自分の説明を理解できていないのだと思い、『顔無し』に白けた目を向けていた。
しかし続く彼の言葉に、面白いものを見たかのような笑みを浮かべる。
『へぇ……』
「風紀委員会のことは俺も知っている。違反者を捕まえに、自分達の学区から出ることもな」
『よくご理解頂いているようで。……でしたら、何もおかしい所はないのでは?』
『顔無し』は首を振った。
「タイミングがおかしいんだよ。今回の場合、アル達はただラーメンを食べに来ていただけだ」
それ以前に傭兵を雇ってのアビドス襲撃をしてはいたが。
また『顔無し』は知らないが、さらに前にはカイザーPMC理事の依頼の元、アル達はヘルメット団を襲撃している。
いつもの風紀委員会なら、その日の内にアル達の目の前に立ち塞がっていた筈。『顔無し』はそう考えた。
「それとも不意打ちで仕留めるつもりだったか? なら悪かった。まさか5人を相手に、そんな情けない手を使うとは思わなかったよ。風紀委員会ともあろう者達が」
『い、言わせておけば……!!』
『顔無し』の発言に、アコの口角と目尻が痙攣を起こす。自分の属する組織に対する挑発を受け、怒りを抱いたのだ。
それに対して、『顔無し』の背後から歩んできた者がピシャリと言い放つ。
「怒りたいのはこっちだよ、アコ」
「……カヨコ。それにアル達も」
そこにいたのは、便利屋68だった。
彼女達の姿を視界に入れ、セリカは声を上げる。
「ちょっとアンタ達、大将は!?」
「安心しなさい。彼の案内で、ちゃんとシェルターまで送り届けたわ」
「えっ? そ、そう……。その、ありがとう」
大将を放置してきたのかとセリカは邪推したが、簡潔なアルの答えに目を瞬かせる。
そして素直に謝った。アルは少しだけ頬を紅潮させ、声を上擦らせる。
「ありがっ……!? れ、礼は必要ないわよ。これはそう、万全を期すために必要だっただけだから……!」
「つまり、また戦いに戻ってきたわけか。大将と一緒にゆっくりしてよかったんだぞ?」
「そういうわけにはいかないわ」
『顔無し』に被せるように、アルは言い放つ。そこには確固たる意志が存在していた。
ムツキも同調するように頷く。
「私もアルちゃんと同意見かなー? こいつら全員、ブチのめさないと気が済まないかも」
「じゅ、準備は出来てます……! 何人でも、何十人でも、何百人でも道連れにしてやりますから……!!!」
彼女の小さい手が、『顔無し』の身体に触れる。そのまま摩られるのは、先程まで欠損していた箇所だった。
ハルカはそれを痛ましげに見た後、眼前の敵を睨む。
一触即発。
便利屋68が加わった今、この場はその四文字で表せた。
(対策委員会にしろ、便利屋にしろ……随分深く繋がっちまったな……)
その理由を何となく『顔無し』は理解する。
自分が推測した、風紀委員会が柴関ラーメンを砲撃した理由に関連しているためだ。
答え合わせのように、カヨコは自分の考えを述べ始める。
「風紀委員会が私達を狙って他の自治区まで追ってくる。これはまあ、あったね。でも、中隊規模の兵力なんて非効率的な運用、いつもの風紀委員長ならまずしない。だからアコ、これはアンタの独断行動に違いない」
「この多すぎる兵力も私達以外の勢力との戦闘を想定していたとすれば、説明が付く。そしてアンタ達が砲撃してきた場にいたのは、私達とラーメン屋の大将。そして『顔無し』だけ……なら結論は一つ」
「アコ、あんたの目的は『顔無し』。彼を追ってここまで来た、そうでしょ?」
リクエスト①!
もし顔無しが先生の誘惑に乗ってしまったら!
アビドス地区のホテルを、朝日が照らす。
既に身体は、何もせずともこの時間帯に起きるようになった。
『顔無し』はいつも通り、ベッドから降りて浴室に向かう。併設された洗面台で、身支度と歯磨きを済ませるためだ。
「……ぁ?」
手前と奥に腕を動かしていると、コツン、と歯ブラシのヘッドに何かが当たる感触がした。
寝ぼけ目で鏡を見て、自分の舌にある『それ』に『顔無し』の意識が冴えていく。
『顔無し』は一旦、水で口をすすいで吐き出し、足早に先生の元へ向かった。合鍵でドアを開き、室内に入る。
「先生、先生」
「ん……どうしたの、のーねーむ。こわい夢でもみた? いっしょにねる?」
「寝てる場合じゃない。異常事態の発生だ」
魅惑的な身体をした女性が薄着でこちらに手を広げ、そして眠りに誘おうとした。
まだ暖かさが残ったベッドと掛け布団、その発生源である抱き心地が良さそうで温もりを感じるであろう先生は魅力的ではある。
だが、今はそんなことをしている場合ではない。
『顔無し』は彼女の方を揺すり、起こそうとする。
それがいけなかった。
「ん〜〜っ……! こどもはおとなに、えんりょしない!」
「先生おい待て。何するっ」
つもりだ。『顔無し』は最後まで言えなかった。
食虫植物に引っ掛けられた獲物のように、彼は布団に飲み込まれ、その中にいる先生によって、完全に動きを封じられる。
口がたわわな果実に覆われるが、強く抱き締められてるわけではないため、息は出来た。頭も動かせる。
そのたびに、先生の口元から吐息が溢れた。
「こら、のーねーむ……っ。あばれちゃ、だめ」
「あばれてねぇよ……」
地味に先生との密着度が高まる。加えられる力も増している気がした。
これ以上抵抗すれば、呼吸も危うくなるかもしれない。
(仕方ない……か)
『顔無し』は脱出を諦め、身を委ねることにした。
先生は完全に起きているわけではなく、眠ってるわけでもなかった。夢か現か判別できない状態にあるのだろう。
それで行っているこれの意図を、『顔無し』は掴めずにいた。
「なあ先生。何たって、こんなことをしたんだよ」
「う〜ん?」
間延びした声の後、先生は『顔無し』の背中を摩る。
「だってのーねーむは、がんばってるから」
「?」
「がんばってるのに、たのしそうじゃないから。いつもなにかに、おわれてるようだから……やすんでほしいから、かなぁ」
「……」
『顔無し』は動きを止める。
やはり、先生は先生なんだなと思った。
長い時間共にいるだけあり、彼女は自分の内面を見抜いていたようだ。
「……でも、わたしじゃたぶん、かえられないのかなぁ。おとなしっかくだね、わたし。ちからになれなくてごめんね、のーねーむ」
『顔無し』と先生の全身が完全に密着した。
力を加えられているのに、不思議と苦しさを感じない。
彼は初めて、抵抗するためでなく自ら先生を引き寄せるために、彼女の背中に腕を回した。
「いいや。十分助けられてるよ、俺は」
こんなこと、日中に言えない。というか、真正面から言えるわけがない。
だから『顔無し』は、先生から見られないよう彼女の身体に顔を埋める。
「先生がここに来たから。先生が俺に連絡してくれたから。先生が俺をシャーレに入れてくれたから。先生がアビドスに出張してくれたから……今の俺がある」
もし何かが起こらなかったら、『顔無し』は未だに便利屋として活動していたかもしれない。今のように、アビドス対策委員会と友好関係を築けなかったかもしれない。
「勿論、すらすらと物事はいってない。予測してなかった事態も起こってる……だけど今のところ、確実に良い方向に向かってる筈だ」
まだ立ち塞がる山は数えられる程あるだろう。舌にあるヘイローもその一つだ。
だが『顔無し』は一人ではない。先生や、対策委員会といった頼りになる者達に囲まれている。
「その道を作ってくれたのは間違いなく先生なんだよ。だから感謝してる……ありがとな、先生」
『顔無し』は自分の意識が消えかけていくのを感じた。
身体を包む、先生の温かさと柔らかさ。安心感を覚え、眠りへと誘われている。
(まあ、いいか……)
そもそも、先生が引き摺り込んだんだし。
『顔無し』は睡魔に逆らわず、そのまま瞳を閉じるのだった。
その後、起床した先生は自分の胸元で寝息を立てる『顔無し』に驚く。
「……ふふっ」
しかしすぐに、彼の子供らしい寝顔と穏やかな寝息に頬を緩ませ、その髪を撫でるのだった。