憑依in実験体のアビドス生徒   作:改名

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久々に火を吹く、『顔無し』らしいズルい戦法!!
そして次回、ついに合流です!!!


36.近付く足音

 

 

 

 

 『アコは『顔無し(ノーネーム)』を追ってここまで来た』。

 

 

「「「……ッ」」」

 

 

 カヨコの確信めいたその一言に、アビドス対策委員会が動く。

 彼の前に立ち、眼前の風紀委員会を睨んだ。

 

 手出しはさせない。

 その目と、いつでも撃てるように構えられた武器が彼女達の思いを示していた。

 

 

「「「「……」」」」

 

 

 それは便利屋68達も同様だ。

 

 臨戦態勢に入る彼女らに、イオリ達風紀委員会も武器を構える。

 数は圧倒的に優っているが、油断はできなかった。その証拠に、風紀委員会の全員が緊張で顔を強張らせている。

 

 

(っなんて迫力だ……!!)

 

 

 イオリは喉を鳴らす。その音すら交戦の合図になりそうで、常に意識を目の前と引き金に向けていた。

 そんな状況の中。

 

 

『……ふふっ、なるほど』

 

 

 アコは小さく笑う。

 

 

『ああ……便利屋にカヨコさんがいることをすっかり忘れてました。のんきに雑談なんて、している場合ではありませんでしたね……』

 

『まあ、構いません』

 

 

 笑顔を浮かべたまま、パチンと指を鳴らした。

 すると、ザッザッザッと柔らかな砂を踏む音が聞こえ始める。

 それは徐々に近付いてくる。探る必要もなく、その正体が明らかになった。

 

 

「……!?」

 

『12時の方向、それから6時の方向……3時、9時……風紀委員会のさらなる兵力が四方から集結しています……!!』

 

 

 夥しい数の風紀委員会の兵力だ。

 まるで圧縮せんとばかりに、アビドス対策委員会を、便利屋68を、『顔無し』を囲っている。

 

 

「……増員」

 

『まだいただなんて……それに、こんなにも数が……!』

 

 

 シロコは冷静を装っているが、こめかみから流れる冷や汗が彼女の心情を表している。

 アヤネに至っては不安を隠し切れていない。その声は震えていた。

 

 『顔無し』は違う。

 辺りをゆっくり見回すと、アコに視線を向ける。

 

 

「随分な大所帯だな」

 

『貴方はヒナ委員長を相手に、互角に渡り合ったと聞いています。これぐらいあっても困らないでしょう。大は小を兼ねると言いますしね☆』

 

 

 パチン、と『顔無し』にウィンクをするアコ。『顔無し』の反応は微妙なものだった。

 白けた目を気にすることなく、次にアコが目を向けた先にいたのは先生だ。

 

 

『さて。先程のカヨコさんの推理ですが、まだ完全な正解ではありません』

 

『私達の最終的な目的は……シャーレの先生、貴女なのですから』

 

「……私?」

 

 

 突如、自分の名前が出たからか。先生はそう聞き返す。

 アコは事のあらましを告げた。

 

 発端は、ゲヘナ学園と長年敵対関係にあるトリニティ総合学園の生徒会『ティーパーティー』であること。

 彼女達がシャーレの報告書を手にしていると、ゲヘナの情報部から上がった。

 

 対抗心からか、それをきっかけにアコはシャーレの存在を知り、行動を起こしたとのことだ。

 

 

『連邦生徒会長が残した正体不明の組織……大人の先生が担当している、超法規的な部活。どう考えても怪しい匂いがしませんか?』

 

(まあ、確かに)

 

 

 口に出して言われれば、そんな気もしないでもない。

 黙って頷く『顔無し』に、アコは白けた目を向ける。

 

 

『納得していますが、貴方もその一因なんですからね? ヘイロー無しで100人を超えるヘイロー持ちを制圧するって何ですか、ふざけてるんですか貴方』

 

「ふざけてねェよ。俺に言うなそれは」

 

 

 それはこの身体だからこそ、成されたものだ。斑目の精神力、そして黒服の技術力によるもの。

 

 器であるこの身体のスペックが元から高かっただけで、自分はそれを動かしているに過ぎない。アコから睨まれるのは心外だった。

 

 二人のやり取りを聞いていたムツキが、ぽつりと呟く。

 

 

「ふざけてるのはどっちかなぁ……ッ。ネムネムは私達と違って、その身体は脆い。いくら強いとはいえ、砲撃を打ち込むなんてどうかしてる!」

 

 

 徐々に声の音は上がっていき、最後は叫んでいるようなものだった。歯を剥き出しにして、怒りを露わにしている。

 それを受けてなお、アコは涼しい顔だ。

 

 

『服が破けてるだけで済ましてるじゃないですか……。それにヒナ委員長と対等にやり合える人が、砲撃程度で倒れるわけないでしょう?』

 

 

 とはいえ、少しはダメージを与えられれば嬉しかったのですが。

 

 続けられたアコの言葉は、信頼とも楽観的とも言える。

 その物言いに『顔無し』に庇われた便利屋68、その現場を見たアビドス対策委員会は、アコに鋭い目を向けた。

 

 

「何も知らない癖に……!!!」

 

「私達が、どんな思いをしたと思ってるのよ!!!」

 

 

 ハルカとアルの声は震え、瞳から涙が零れ落ちている。そこまで爆発させていないが、カヨコとムツキも同様だった。

 

 

『えっ!? な、何でそんな顔をするんです……!?』

 

 

 それにアコはぎょっとする。

 ここまでの負の感情を表す便利屋68を見たことがなかったからだ。

 

 周りが騒々しい分、冷静になるとはよく言うこと。

 『顔無し』はアコが自分に対して砲撃をしてきた理由を、大体推測できた。

 

 少しはダメージを与えられればよかった。そして彼女の最終的な目標はシャーレである。

 

 この二つが結びつく。

 

 

「成程。つまり脅威になりそうな俺を、最初に無力化しようとしたわけね」

 

 

 さらに注がれる視線が強くなり、アコはしどろもどろにながらも首肯した。

 

 

 

『え、ええ。シャーレという組織は、とても危険な不確定要素に見えます。これからのトリニティとの条約にも、どんな影響を及ぼすのか分かったものではありません』

 

『ですからせめて条約が無事締結されるまでは、わたし達、風紀委員会の庇護下に先生をお迎えさせて頂こうと思いました』

 

『そこで脅威となるであろう、『顔無し』さんをまず片付けようとするのは、当然の帰結ではないでしょうか……?』

 

 

 

 先生は目を見開く。

 つまり、それは……。

 

 

「私の、せいだ……。私が『顔無し』を、シャーレに引き込んだからっ! 『顔無し』が、あんなっ、あんな……!!!」

 

 

 アコの狙いはシャーレだった。そしてその障害になると判断され、『顔無し』は襲撃に遭ったのだ。

 

 もし『顔無し』がシャーレに加入していなければ、その被害はなかったということになる。先生はその事実に気付き、力無く膝を地面に付けた。

 そして自責の念に駆られ、何度も何度も涙を溢しながら、自分の髪をグシャグシャと掻き乱す。

 

 

 その目の前に、『顔無し』が立った。そして言う。

 

 

「でも、それがなければ俺はここまで来れなかった。アビドスの敵を知ることも出来なかった」

 

 

 『顔無し』は先生の両腕を掴み、下ろさせた。

 そしてしゃがんで、彼女と目を合わせる。

 

 

「そんな自分を責めるな先生。死んでないし、俺自身が言うんだから……な?」

 

「『顔無し』……でもっ」

 

「ほら立て先生。今すべきことは、下を見ることじゃないだろ?」

 

 

 『顔無し』はそう言って、先生の手を掴み立ち上がらせた。

 そして視線で誘導し、先生に前を向かせる。そこにはホログラムのアコやイオリ・チナツを含む、風紀委員会がいた。

 

 

「連れていきますって言われて、『はい分かりました』って身を差し出すか? まだ片付ける問題は残ってるのに。なあ? 先生」

 

「ずずっ……うんっ、そうだねっ……! 私にはまだ、やることがある……!!」

 

 

 先生は勿論、アビドス対策委員会も抵抗する姿勢を見せている。

 そんな中、セリカはチラッと便利屋を見た。

 

 

「あんた達は……って言うまでもないか」

 

 

 その目で分かる。 

 

 今の便利屋68は獲物を眼前にした獣そのもの。これから起こる戦闘から、逃げるわけがない。

 彼女達の怒りはまだ、胸の内で燻っている。

 

 

「ええ……完膚なきまでにアイツらを叩き潰すのに、協力するわ」

 

「そうだね社長。先生、大変だとは思うけど私達の指揮もしてくれると嬉しいな」

 

「勿論!」

 

 

 断る理由はなく、先生は力強く頷いた。

 ムツキとハルカは不満げに『顔無し』を見る。先生と『顔無し』の会話についてだった。

 

 

「それにしても、あの行政官に全く怒ってないのは何で? ちょっと人が良すぎない、ネムネム。おっぱい大きいからって贔屓してる?」

 

「してねェよ。俺を何だと思ってんだ」

 

「じゃあ何故……? い、言ってくれれば私が」

 

「それはこれからすんだろ、一緒に。言っても言わなくても」

 

 

 眼前の大群を叩くのは変わらない。とはいえ、チクチクと刺さる視線は地味に気になる。

 『顔無し』は後頭部を掻いて、口を開いた。

 

 

「まあ、気持ちは理解出来るからな。正体不明な奴ほど恐ろしいものはない。今回は偶然、俺がそっち側に回っちまっただけだしな。運が悪かったんだよ、俺の」

 

「何それ! ムツキちゃん納得できなーい」

 

「子供か。いや、子供だったな……」

 

 

 そう諭すが、ムツキは唇を尖らせている。

 やはりアコが何も知らず、兵を動かし自分達を制圧しようとしているのが気に入らないようだ。

 

 

「まあでも、確かにあの物量は厄介だな」

 

 

 『顔無し』はそう言うと、顎を押さえて対策を考える。

 目の前の兵は圧倒的な数だ。今は好戦的な様子を見せている対策委員会と便利屋だが、戦い続けるのはキツいだろう。

 

 体力や弾丸が先に尽きるのは、間違いなくこちらだ。

 

 

(……となれば、俺がすべきことは風紀委員会の士気を下げること。出来ればそれをきっかけに半数は制圧したいな)

 

 

 それを可能にするであろう方法は、思い浮かんでいる。

 今迄なら避けたであろう方法だ。しかし、もう先生含めた彼女達にはバレている。

 

 故に、繋ぎ止めるものはなかった。

 風紀委員会は『顔無し』の身体を知らないため、効果は期待できる。

 

 

「よし。いくか」

 

「『顔無し』!? 駄目、一人で行かないで!!!」

 

 

 先生が悲鳴に似た声を上げる。

 だが、『顔無し』は風紀委員会に向けて走り出していた。その行動に、彼以外の全員が目を剥く。

 

 

「っなんてスピード……。私でも無理」

 

 

 シロコがそう溢した。

 

 便利屋と対策委員会が彼を引き戻そうとするが、走る一歩一歩の距離と速さが比較にならないほど大きく、速いのですぐに振り切られてしまったのだ。

 

 

「あいつが来るぞ! 撃て撃て撃て!!!」

 

「「「は、はい!!!」

 

 

 イオリの号令で、風紀委員会が発砲を開始した。

 恐らく、これは縦横無尽に駆けて避けられる。イオリはそのように予測し、対応しようと銃を構えた。

 

 

 

 

 ドチュドチュドチュ!!!

 

 

 

 

 

「……はっ?」

 

 

 イオリはその音と目の前の光景に、呼吸を忘れ。

 

 

「「「ひっ……!!!」」」

 

 

 撃った風紀委員会も顔を引き攣らせる。

 そしてアコは、その顔を青褪めさせた。

 

 彼女達の視線の先には、『顔無し』がいる。

 

 

『な、何で避けないんですか……!? それに、血に、身体に穴が……!!!』

 

 

 

 

 頭部より下に、多数の穴を空けた。

 

 そこからは滴る赤い液体と、身体の中身が少しだけ見えている。

 立っているのが不思議なくらいだった。『顔無し』は、心臓辺りに出来た傷口を片手で塞ぐ。

 

 

 

 

「ごほっ……(ハッ。やっぱり、心臓撃たれても問題ないみたいだな)」

 

 

 砲撃を喰らって生きてたことから、何となく予想していた。これで頭より下を気にしなくて済む。

 

 吐血し、そして傷口から溢れた血液で髪の毛を掻き上げる。

 目の前に広がる景色が広くなった気がした。

 

 アコの瞳孔も、『顔無し』の身体の異変を目撃し、大きくなる。

 

 

『!? 傷口が……!!』

 

 

 『顔無し』の傷口が塞がっていくのだ。

 幻かと思ったが、彼の身体とその周辺に付着している赤い血が、先程彼が致命傷を負っていたことの証明だった。

 

 

(だから便利屋達は……! ということは、私達は一回彼を……!!!)

 

 

 気分が悪くなり、アコは口を押さえる。

 画面越しで指揮する人間がこうなのだ。

 

 

「うあ……ご、ごめんなさいっ! ごめんなさい……!!」

 

「も、もう駄目。撃てない。撃てないよォ……!!」

 

 

 現場で、しかも戦闘に参加している風紀委員会はこれ以上の罪悪感を抱く。

 ゆっくりとこちらに向かってくる『顔無し』に、照準が合わせられない。

 

 例え再生するとはいえ、彼の身体を傷付ける度胸を彼女達は持ち合わせていなかった。

 一触即発寸前だったアビドスの砂漠は、いつの間にか静かになっている。既に戦いなんて出来る空気ではなかった。

 

 

 

 そんな中。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 

 サクサクサク。

 

 

「……」

 

 

 ザフッ。ザフッ。ザフッ。

 

 

 

 

 

 二つの小さな足音が、その静かな戦場に近付いている。

 邂逅の時は近い。

 

 

 

 




一曜日ずつズレていて悲しい……!!
仕事をしてる時間が多すぎるんじゃー!!
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