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誤字報告も助かっております!!
えー私、決めました。
今まで私は、毎日少しずつ投稿のためにチマチマと執筆していたのですが、仕事の疲れやら何やらでぶっちゃけスローペースだったんですね。
そしてこの土日で気付きました。あれ? 土日使って書いた方が早いんじゃねェ? と。
というわけで、今後、土・日・月辺りに定期更新を目指します。
よろしくお願いいたします!!
無音。
今のこの場の状況を示す言葉は、戦場とはかけ離れたものだった。
ゲヘナの風紀委員会の動きは完全に止まっている。
「「「……!!」」」
前線に出ている風紀委員は、『
「? 指示がこないね」
「銃声もしない。え、もう制圧したの? 早くない?」
後方で待機している風紀委員は、距離が幸いしてかその光景を見ることはなかった。
無線越しにアコの指示もないため、待機するに留まっている。漂うのは前線とは違い、楽観的な空気だった。
「うーん……どうする。ちょっと出て、合流してみる?」
「いやいや。勝手に動いたら、行政官からお叱りがとんでくるって」
脳裏に反省文! と叫ぶアコの姿が浮かび、風紀委員会の一人が苦笑いを浮かべた。
「それもそうだね。……よし、日頃から働いてるし今日ぐらい……いいと思わない?」
ニヤリと笑う彼女に、その仲間達は「賛成〜」と頷く。
他の部隊も多少の違いはあれど、似たような選択をした。
結果、彼女達は前線で起きている光景を見ずに済んだ。
『攻撃をやめなさい! そのまま待機です!!』
「りょ、了解……!」
前線の部隊にアコは指示を飛ばす。
いつものような落ち着いた様子ではない、腹の奥から自然と出た大きな声だった。万が一でも、『顔無し』に攻撃を行う者が現れないように。
前線に出ている風紀委員会は、その迫力に呑まれ返事をした。
その声は、少し嬉しそうでもある。それは安心によるものだ。
もう目の前の彼を撃たなくていい。
傷付けなくていい。
あのような光景を見なくて済む。
彼女達が武器を下ろしたのは、自分の意思による力が強かった。
「……ふぅ」
無数の銃器を下ろす音を聞き、アコは無線を切ってから安心したように息を吐く。部下に自分の情けない声を聞かせたくなかった。
「ここから、どうしましょうか……」
そう言って組んだ両手に額を置く。
ひとまず事態の悪化は防げた。何もしなければ、パニックに陥った前線の者が再度発砲していたかもしれない。
それはダメだ。自分も含め、目撃しているゲヘナの風紀委員の精神に更に大きな傷跡を残すことになる。
「和解……? ……いえ、あり得ないですね。先に手を出したのは私達です。そんなの、首を縦に振ってくれるわけがないじゃないですか……」
砲弾による不意打ち。今は身体に跡はないが、恐らく致命傷を与えている。簡単に和解できるとは思えない。
しかしだ。『顔無し』の様子を見ると、先程から大してこちらに敵意を抱いていないことが分かる。
そのことに、アコは希望を見出した。
「……まずは謝罪と、話をしてみましょう」
それをきっかけに、何か解決の糸口が見つかるかもしれない。
会話で彼が抱いている問題などを探る。解決出来るようなものであれば、和解を求めるために差し出すことを考えた。
アコは深呼吸を行う。そして、再び『顔無し』達の前にホログラムとして現れた。
目を伏せるアコの姿を見て、『顔無し』は少しだけ目を見開く。先程までの態度からは考えられない姿だった。
「……ちょっと刺激が強過ぎたか?」
『……ええ。全身の血が抜かれたようでした』
ハッ。こっちは文字通り、全身の血を抜いたようなもんだったけどな。
そう『顔無し』は軽口を叩こうとしたが、改めて変化を感じるアコの声の調子と表情を見て、やめた。
よく見れば、未だに前線の風紀委員会も涙を流したり、謝罪を繰り返したりしている。
無抵抗で、身長が小さい少女達のそんな姿を見れば、流石に思うところはあった。
「……あー。悪かった。まさかここまで効くなんて思わなかったよ」
『っ……いえ、先に仕掛けたのは私達です。お気になさらないでください』
本当ですよッ! というか逆に、あんなのを見てトラウマにならない方がおかしいでしょう!? 度が過ぎてますッ!! おあいこ、いや貴方の非が大きいですからね、もっと謝ってください!!!
『顔無し』の言葉にそう叫びたかったが、我慢した。
いつものアコならそのまま口に出していただろう。
だが自分のやるべきことを常に念頭に置いていたため、そうはならなかった。あくまで目的は和解である。
それには『タイムリミット』もあるため、スムーズに事を進める必要があった。
「……本当だよ。お陰でラーメンも『作って』食えなかった。折角、よさげな建物も見つけたのに」
『顔無し』がそう言う。
背後から彼を追い、ようやく追いついた先生とアビドス対策委員会の面々は、その言葉に目を丸くする。
「は? ちょっと『顔無し』、何言って」
セリカが声を上げるが、『顔無し』の背部の腰に目が留まり、動きを止めた。
片手を数回開き、最後に強く握り締める。何かのサインだということが分かった。
そしてこの状況下である。何となくその意味を察した対策委員会は先生を見上げた。
「……うん」
先生は頷く。そして唇に力を入れた。
口を挟んじゃダメ。そう口に出さず伝えた。
数回開かれた手は、話すことを意味している。
最後にそれが強く握られたことから、禁止を意味することは容易に想像できた。
「……(さて、上手く引っかかってくれるかな?)」
『顔無し』は黙って、アコの発言を待つ。
『ましてや他の学園自治区の付近なのだから、きちんとその辺りは注意するのが当然でしょう?』
彼はずっとこれを気に掛けていた。
しかし今迄のアコなら、そんなことどうでもいいという態度を取っていただろう。
だが今は違った。彼女は加害者であり、自分は被害者。彼女は許しを乞う立場にいて、自分はそれを受け入れるか否かの判断できる立場にいる。
加えて余裕を無くしている今、追及のチャンスだと思い、『顔無し』はそれを切り出したのだ。
彼女は、『顔無し』の望み通りに口を動かす。
『それは、申し訳ございません……無人地帯とはいえ、度が過ぎた行為でした』
無人地帯。
興味深い内容に、『顔無し』はあえて復唱する。
「無人地帯……ね。アビドスの自治区じゃないのか? ここは。さっきも、『付近』なんて曖昧な言葉を使ってたよな?」
『……? ここの土地はカイザーが保有している、立退済みの無人地帯でしょう。『顔無し』さんもそれを知っていたから、あの建物を無断で使っていたのでは……?』
後ろにいる先生達が息を呑む音が聞こえた。
この場所が既にアビドスの手から離れていると、対策委員会も知らなかったことがその反応から分かる。
知りたいことは知れた。『顔無し』はアコに向けて、口を開く。
「いいや、知らなかった。貴重な情報、ありがとよ」
『……!』
アコの表情がほんの少し歪んだ。悔しそうに見える。
ゆっくりと、『顔無し』は心の中で溜息を吐いた。
(分かりやすい……。それ程、焦ってるってことか……?)
急に態度が変わったこと。素直に謝罪を行うようになったこと。
そして今の、微細な表情の変化。まるで失敗した、と悔しがっているようだった。
これらのことから、『顔無し』はアコの望みを大体察する。
(和解だろうな、多分。こいつが求めているのは……別に怒ってるわけじゃねェのに)
態度が変わったのは、これ以上自分に対する印象をマイナスにしないためだ。
最後の悔しそうな表情は、和解に繋がったかもしれない情報をその前に開示してしまったことに対するものだったのだろう。
それに見合う成果は貰った。なので、『顔無し』はその望みを叶えることにした。
「だから、これで和解にしよう。いいよな?」
『へ……?』
アコがパチクリと目を瞬かせる。
「お前らの砲撃、射撃。それをあえて避けなかった、俺の作戦による被害。それらを帳消しにしようってわけだ」
『え……いや、えっと……本当に、よろしいのですか?』
恐る恐る尋ねるアコに、『顔無し』は首肯した。
「ああ。さっきの情報の他にも、良いことを教えてくれたからな。お前は」
心臓に致命的なダメージを受けても再生が可能であること。
柴関ラーメンでは推測だったが、風紀委員会の銃撃でそれが確定した。
お陰で今後、無茶できる範囲が広がる。
そう思ってると、強く尻を蹴られた。結構な衝撃に、歯を食いしばりながら後ろを見る。
そこにはムツキが足を高く上げた状態から、下ろす最中だった。蹴ったのだろう。
「っ……。ムツキか、スカートの中見えるぞ」
「ふんだ。すぐ下げたから見えませーん。べっ」
それだけ言って、ムツキは俺から顔を逸らした。そのまま歩き去っていく。
追いかけてきたのであろう、アルが呼び掛けた。
「あれ、ちょ、ちょっとムツキ!? どこに行くのよ……!?」
「帰る。風紀委員会はもうあのザマだし、私達が出る幕なくなーい?」
「……そうだね。消化不良な感じはするけど」
カヨコもムツキに同意する。
右往左往するアルとハルカに、『顔無し』は言った。
「二人の言う通りだ、俺達の心配はいらない。寧ろ、自分の身を心配した方がいいかもしれないぞ」
「へ?」
「この場に風紀委員長が来ないとも言い切れないだろ」
「ヒッ!? た、確かに……!」
そう言うとアルも身を翻し、先を歩くムツキを追いかける。ハルカもそれに続く。
唯一カヨコだけは、足を止めて『顔無し』に顔を向けていた。その表情は、少し怒っているようにも見える。
「ムツキがあんなに怒ることは滅多にない。それだけは覚えておいて」
「……そうだな」
最後まで顔をこちらに向けることはなかった。
それだけ怒っていることが分かる。『顔無し』は素直に頷いた。
「『顔無し』。一つアドバイスしといてあげる」
「どんなに身体が人間離れしていても、人間性まで捨てたら終わりだよ。一人一人離れて行って……最後に待つのは孤独だけ。覚えておくんだね」
カヨコが両手をポケットに突っ込み、立ち去っていく。『顔無し』は返事を返さなかった。
そんな様子の彼を見て、先生は不安に思ったのかその腕を強く握った。
「大丈夫だよ……私はずっと、『顔無し』の傍にいるから」
「いや……それは先生としてダメだろ。まあでも、ありがとな」
そう言って、『顔無し』は光を灯さない目で笑った。
まるで作り物の笑顔だ。だがこのような反応を返してくれるだけ、まだ人間性は失ってない。
先生は安心したように、心の中で息を吐いた。
だが彼女は知らない。『顔無し』の心中を。
(先生には気を遣わせちまったな……『最後に待つのは孤独だけ』……か)
(問題ねェよ。最終的に俺が一人になるのは、変わらないんだからな)
ここに立つのは、最終的に自分であるべきではない。
『顔無し』の目的は、変わっていないのだ。
『ああ!!!?』
突然、アコが大きな声を上げた。その声量に、『顔無し』達全員がそちらに目を向ける。
「何だよいきなり、大声出して」
『そ、そうでした。私達も撤退しなくては、委員長が帰ってくる前に……!』
「ああ……独断専行だもんな、今回のこれ」
自分達の自治区ではない場所で、砲撃による建築物の破壊から始まり、他学区と戦闘を行いました。
簡単に報告できることではない。
しかも身体と精神を負傷した者も出ている。何らかの処分が下されるのは明白だった。手が動かなくなる程の反省文を書かされるかもしれない。
相手が許しているからと、勝手な行動を許すヒナではないのだ。
アコは急いで、部下に撤退を指示しようとする。そんな時だった。
ザザッ
ノイズが走る音の後に、気怠けだが透き通るような声が響いた。
『アコ』
『……え? ヒ、ヒ、ヒナ委員長!?』
アコの慌てよう。それに機械越しとはいえ、一度聞いた声を忘れるわけがない。
『顔無し』は頷く。
「本物だな」
「それじゃあ、あの通話の主が……」
「委員長ってことは、風紀委員会のトップ……!」
一度『顔無し』と風紀委員長がやり合ったことは、この場の全員がアルを経由して柴関ラーメンで聞いていた。
そんな彼が言うのなら、通話の相手は間違いなく風紀委員会のトップなのだろう。
先生達は、アコとヒナのやり取りを見守ることにした。
『い、い、委員長がどうしてこんな時間に……?』
『アコ、今どこ?』
『わ、私ですか? 私は……そ、その……えっと……ゲ、ゲヘナ近郊の市内の辺りです! 風紀委員のメンバーとパトロールを……』
流石にそれは無理がある。
アコ以外の全員がそう思った。
カヨコには看破されたが、本当の目的を上手く隠していた者と同一人物とは思えない。
本当にパニックになると、上手く頭が回らないようだ。
『そ、それより委員長はどうしてこんな時間に……出張中だったのでは?』
『さっき帰ってきた』
『そ、そうでしたか……! その、私、今すぐ迅速に処理しなくてはいけない用事がありまして……後ほどまたご連絡いたします! い、今はちょっと立て込んでいまして……!!』
『立て込んでる……? パトロール中なのに珍しい。何かあったの?』
あ、もうこれは駄目だな。『顔無し』はそう思った。
アコが嘘を貫き通すことは難しいだろう。ヒナが不審に思っていることが、機械越しでも分かった。
その追及に、アコは言葉を詰まらせる。
『え? そ、その……それは……』
「他の学園の自治区で、委員会のメンバーを独断で運用しないといけないようなことが?」
機械越しではない。
肉声で、ヒナの声が聞こえる。
「あ」
『え? ……えっ?』
『顔無し』は小さな人影を見つけ、反応した。
その人影がこちらに向かってくる。アコもその姿を確認したのだろう、ホログラムに映るその表情は間抜けなものだった。
「っ!?」
「え、あれ!?」
「!?」
対策委員会の面々も驚いていたが、それをアコの絶叫が掻き消す。
『ええええ!!!?』
それを尻目に、先生は『顔無し』に問い掛けた。
「あの子が、風紀委員長?」
信じられない様子だ。
小さい身体と、妖精のように可憐な雰囲気を持ち合わせていることから、そのように思ってしまうのだろう。
「ああ。見た目に惑わされるなよ? 打撃も強いし、耐久力も凄まじい。武器も見てみろ、暴力って感じがするだろ?」
「う、うん……」
身長に不釣り合いなヒナの機関銃を見て、先生はそう答えた。
巨大な銃器から発せられる、圧を感じ取ったのかもしれない。
「……」
『そ、その……これは、素行の悪い生徒達を捕まえようと……』
一方、アコはヒナ本人が発する圧にしどろもどろになっていた。
そんな状態で発せられる言い訳が、ヒナに通じるわけがなく。
「便利屋68のこと? どこにいるの? 今はシャーレとアビドスと、対峙してるように見えるけど」
「……」
便利屋68は既にこの場から去ったのは、アコも確認していた。
その際、引き留めるか一緒に戻っていればと後悔する。
『え、えっと……委員長、全て説明いたします』
ヒナはゆっくりと辺りを見渡した。
「……」
(……バレたか?)
そして『顔無し』に一度目を留める。その時間は数秒だが、目を留めたのは彼だけだった。
『顔無し』もそのことに気付く。襲撃の際、風紀委員会の帽子とネクタイで顔を隠したが、既視感を感じられたのかもしれない。
表情には出さないが、顔を顰めたくなった。
「いや、もういい。だいたい把握した」
「察するに、ゲヘナにとっての不安要素の確認及び排除。そういう政治的な活動の一環ってところね」
『……』
アコは黙って俯く。否定のしようがないからだ。
「でもアコ、私達は風紀委員会であって生徒会じゃない。シャーレ、ティーパーティー、それに連邦生徒会長。そういうのは、『万魔殿』のタヌキ達にでも任せておけばいい」
ヒナはもう一度、『顔無し』に目を向けた。
上半身裸の彼を見て、溜息を吐く。
「……詳しい話は帰ってから。通信を切って校舎で謹慎していなさい、アコ」
『……はい』
アコのホログラムが消えた。
それを見届けて、ヒナの視線は対策委員会に向けられる。
「……久しぶりね」
「ん……どこかで会ったか?」
厳密に言えば、その中にいる『顔無し』だ。
当然、彼は初対面であるかのように振る舞う。自分が過去にしでかしたこともあり、あの時の襲撃犯と同一人物であることはバレたくない。
しかし、ヒナに通じるわけがなく。
「誤魔化しても無駄。顔は隠していたけれど、骨格、声は変えられない。それにこのキヴォトスで人間型の男子生徒は貴方だけ……『斑目ユウ』」
「チッ……やっぱバレるよな」
「あの後、なぜ貴方に既視感を感じたのか調べてみた。そしたら、情報部の昔の資料に貴方が載っていたの。当初は全く危険視されていなかったみたいだけど……」
正直、その資料を見た時ヒナは驚いた。
写真に映る斑目は、弱々しい男そのもの。暴力など一度も振るったことがなさそうで、頼りなく、その分心優しそうな雰囲気だった。
自分が会った彼は、それを反転したような存在。こうして再会すると、ヒナは更にそう思った。
故に、彼女は問う。
「貴方……『誰』なの?」
「……」
『顔無し』はその問いに反応しなかった。
黙秘を受け、ヒナは追及するように続ける。
「正直……私は貴方を斑目ユウとは思えない。その目にしろ、身体の発達にしろ……再生力にしろ。別人が斑目ユウに成り代わっているとしか思えないわ」
ヒナはノーネームの服装と、壊れた柴関ラーメンを見て、一度彼が砲撃を受けたことはすぐに理解した。
そもそも前回、すぐに鼻血が止まったのも確認している。
情報を総括し有り得ないと思いつつ、実際に目の前で起きたことなので現実として受け入れた。
強者ゆえの柔軟な姿勢。そんな彼女の推測に、同意するものが現れる。
「その推測は正しいよ」
小さな足音と共に、はっきりとした声が響いた。
聞き覚えのあるそれに、全員が出所に目を向ける。
「ん……ホシノ先輩」
そこには、片手に散弾銃を持ち、もう片方の手に巨大な盾を持つ……小鳥遊ホシノがいた。
『ホシノ先輩……一体何を……』
アヤネが戸惑った様子を見せる。
それは他の対策委員会のメンバーと先生も同様だった。
何故、ゆっくりとこちらから向かってくるのか。何故、いつでも武器を使えるようにしているのか。
そして何故、様々な負の感情が混ざった瞳を、『顔無し』に向けるのか。
「成程な……」
ただ一人、向けられている張本人である『顔無し』自身は、納得したように呟く。
彼女の制服の両腕部分は、薄い赤に染まっていた。まるで、『水で薄まった赤い液体に浸したように』。
そして盾を持つ手には、見慣れた日記が握られていた。
思い当たる場所は、一つしかない。
『顔無し』が呟く。そのトーンは自然に少し落ちた。
「……入っちまったか。部屋に」
「うん。本当に……嫌な気分だよ。信じたい気持ちと、信じられない気持ちでゴチャゴチャしてる。君が、敵か味方か分からなくなったよ……」
「ホシノ先輩……? どういう」
「ノノミちゃん。皆も。ごめん、少し静かにしててもらえる?」
彼女から発せられる圧に、その場にいた全員が閉口させる。
怠けているが、いざという時は自分達を率先して守ってくれる、優しくて頼れる先輩。それが対策委員会の、ホシノに対する印象だった。
だが今の彼女は違う。目は緩やかなものではない。
その鋭い眼光は、一瞬で目が合った者が気圧されるものだ。
(変わったと一瞬思ったけど……間違いだった。昔と変わっていない……!)
それはヒナも同様だった。彼女だけじゃない、イオリやチナツといったゲヘナの風紀委員全員が、ホシノを強者だと認識する。
「あえてこう呼ばせてもらうね。『顔無し』くん」
これから先、嘘は許さない。
表情がそう言っていた。
「君はどこの誰? 斑目をどうしたの?」
次回!!
『ホシノ、初めてのお家デート(もぬけの殻)』
お楽しみに!!!!