憑依in実験体のアビドス生徒   作:改名

58 / 94
皆様!
感想、お気に入り登録、高評価ありがとうございます!
大変励みになっております! 今後もよろしくお願い致します!
誤字報告も助かっております!!

今回と次回、『顔無し』の正体が明かされる回となります。黒服と『顔無し』の対談を二話にわたってしてしまいそう。まあ、全話が可愛い女の子二人の話だったから多少はね? 

もう少しでアビドスとの物語が終わりそうです。曇らせは次の次の回から始まる予定ですので、よろしくお願いいたします!


41.黒との邂逅(前編)

 

 

 

 

 『顔無し(ノーネーム)』はキヴォトスの地図を開きながら歩いている。

 行き先はカイザーローンだ。アビドス高等学校の借金返済先であり、そのお金を横流ししていた、悪徳金融業者。

 

 そこに乗り込むつもりだった。アビドスから手を引かせるために。

 

 

「……よし、気付かれてないな」

 

 

 歩いていても、周囲に正体がバレて通報される気配はない。

 

 下着と違い、男物の私服の購入はハードルが低かったようで、今迄のお返しの一つとして、便利屋68が動きやすく、全身と顔を隠せる衣服を見繕ってくれたのだ。

 

 加えて指名手配されているのは、いつもの全身を覆う黒いレインコートのような衣服と仮面の姿である。

 先生と写真を撮ることもなかったため、使われているのは絵だ。

 

 この二つが上手く噛み合い、『顔無し』の特定を薄めているのかもしれない。好機である。

 地図によると、カイザーローンがある建物まであと少しだ。背中に当たる棒の存在感が大きくなっているように感じられた。

 

 

「カイザーローンまであと少し。責任者を引き摺り出せればいいが……」

 

「そこに行かれても、貴方の目当てはいませんよ」

 

「っ」

 

 

 何者かとすれ違った際に、そう言われる。

 背丈は『顔無し』より大きい。服装はスーツで、声からして男性だ。

 

 まるで全てを知ってるかのような言動。反射的に『顔無し』は振り返る。

 

 

「ククク、貴方とはずっとお会いしたいと思っていました……『顔無し』さん」

 

「……はっ」

 

 

 その人物は『顔無し』の反応を見越していたようだ。

 ただ身体をこちらに向けて立っている。ヒビ割れている、人ではないその顔は確かに笑っていた。

 

 目の前の男と同様に、『顔無し』も小さく笑う。

 初対面であったが、その存在は知っていた。成程、これは分かりやすい。

 

 

 

 

 

「お前が黒服か」

 

「ええ。『顔無し』さん、私は貴方に興味がある。私が知る限りの情報と引き換えに、お話をさせて頂きたいのですが」

 

 

 悩む時間はなかった。圧倒的に自分には情報が足りない。

 『顔無し』は頷き、黒服と共に街路から姿を消すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「どうぞ、ご自由にお掛けください」

 

「お言葉に甘えて」

 

 

 『顔無し』は黒いソファに腰を下ろして、対面に座る黒服に目を向ける。

 ここはアビドス付近に建つ高層ビルの一室だ。その証拠に、窓の景色は廃れた街と金色の砂の海が広がっていた。

 

 

「他にも部屋はあるのですが、後に話す内容からこちらが適していると思いましてね」

 

 

 この景色が必要になる話があるのだろうか。

 疑問に思い、まず『顔無し』はそのことから聞くことにした。

 

 

「今でいい」

 

「クク、分かりました。それでは『顔無し』さん、私に付いてきてください」

 

 

 黒服は大きな窓の前まで移動する。『顔無し』が来ると、望遠鏡を手渡してきた。

 

 

「あちらの方角を見てください。工場のような建築物が目に入る筈です」

 

 

 黒服の指した方向に目を向ける。

 工場のような施設の周りには有刺鉄線が張り巡らされており、穏やかな雰囲気ではなかった。

 

 そこに描かれているマークに、『顔無し』は顔を顰める。

 正直、鬱陶しく思った。

 

 

「……またカイザーか」

 

「ええ。カイザーPMC。カイザー系列の民間軍事会社ですね。あそこに、貴方の言う責任者、カイザーPMC理事がいます」

 

「それはまた、大層な肩書きだな」

 

 

 カイザーPMC理事。アビドス高等学校が借金をしている相手。

 そいつを何とかすれば、対策委員会は普通の生活を送れるようになる……。

 

 取り敢えず敵は分かった。

 『顔無し』は黒服に目を向けた。

 

 

「随分と詳しいようだけど、そいつ、お前の知り合いか?」

 

「協力者でした」

 

「へぇ……協力者を随分と簡単に売るもんだ」

 

 

 黒服が少し黙る。

 

 

「彼は私の実験を台無しにした。ちょっとした仕返しです」

 

「……お前が斑目にした実験ね。台無しって?」

 

 

 黒服が一度顎に手を置いた。

 

 

「そうですね。今迄の経緯と共に、お答えします」

 

 

 『顔無し』の問いに、黒服は話し始める。

 

 斑目の肩の傷。理事の勝手な行動と、それによる斑目が負った精神的ダメージについて。

 洗脳により自分の部下にしようとしたこと。その輸送中、斑目が脱走したこと。

 

 そして、自殺したことを。

 自分が知らなかった一連の流れを聞き終え、『顔無し』は溜息を吐く。

 

 

 

 

「おっっっっもい」

 

 

 

 

 2回目だと分かってはいるが、斑目のアビドスに対する気持ちの大きさに驚いた。

 ホシノに付けられた傷に対する依存。洗脳されることへの選択肢。何もかもが普通じゃないように感じた。

 

 日記に付着した血や、『あの傷のように』の正体を知り、『顔無し』は呟く。

 

 

「ノートの血、それだったのか。ていうか脆弱な身体に散弾銃撃つとか、何やってんだよ委員長……着弾点ズレてたら普通に致命傷になり得たぞ……気持ちはまあ、理解できるっちゃできるけどさ」

 

 

 経緯としてはまず斑目が体調を崩した。そんな彼にユメはお粥を振る舞おうと外に出て、その道中に亡くなったようだ。

 ホシノは斑目が体調を崩さなければ、こんなことにはならなかったと彼を追い出した。

 

 彼女の気持ちは理解はできるが、それでもやり過ぎだ。

 『顔無し』は溜息を吐く。

 

 

「その結果、斑目の願いが叶ったんだから皮肉だよな」

 

「? どういうことです?」

 

「ん? ……ああ、知らないのかお前」

 

 

 んあ、と『顔無し』は舌を出す。よく分からない『これ』を作り出した要因であろう者がいるのだ、聞いておくのも悪くない。

 

 その先端にあるものを見て、黒服は驚きを隠せずにいた。

 

 

「ヘイロー……!? いや、それよりこの気配は……!!」

 

 

 黒服が『顔無し』の舌先にあるヘイローに手を伸ばそうとする。

 

 

「ッ」

 

 

 その瞬間に、『普段とは桁違いのスピードと力』で『顔無し』の手が黒服の腕を掴んだ。

 服に皺ができ、ミチミチと音が鳴るほどの強さだった。

 

 『顔無し』はそれに気付き、手を離す。黒服はぷらぷらと腕を振った。

 

 

「ッククク、失礼。つい」

 

「……いや、気にすんな。これ触れるから、扱いに気を付けろ。壊れたらどうなるか分からんからな」

 

「ほう……触れる。ええ、ええ。勿論。実感しましたから」

 

 

 黒服に舌先のヘイローを指で撫でられる。

 感覚が繋がっているのか、何故か自分の身体がくすぐったく感じた。

 

 妙な感覚だ。

 何となくそれが嫌だったので、先程の現象について振り返る。

 

 

(あの時、自分でも分かる程にいつもと比べ物にならない力が出た。ヘイローを触られそうになったから? ……あの感覚を常に出せるようになれば、もっと楽に戦えそうだな)

 

 

 『顔無し』が思考を終えると同時に、黒服も手を離した。

 

 

「ク、ククク。ユウさん、貴方は本当に私を驚かせてくれる」

 

「斑目じゃねェよ。俺は『顔無し』だ」

 

「いえ」

 

 

 黒服は首を振る。そして、『顔無し』の舌先のヘイローを指差した。

 

 

 

 

「ここにいますよ、ユウさんは。休眠に近い状態のようではありますが」

 

「……は?」

 

 

 

 

 掠れたような声が『顔無し』から発せられる。

 

 斑目がまだ死んでいない。魂だけではあるが、この世に存在している。その事実に驚きと、それ以上の喜びが含まれていた。

 

 

(じゃあやっぱり、あの時に俺の身体を止めたのは……)

 

 

 ホシノに初めて『斑目』と呼ばれた時のことを思い出す。

 自分とは違う意志を感じ、身体が止まった。あれはやはり、斑目の意思が残っていたからだ。

 

 黒服は興奮気味に考察を述べ始める。

 

 

「ヘイローは本来、実体を持ちえない。ユウさんの意思が形として残った? では何故、生前ヘイローが現れなかったのか。まだ神秘が馴染む過程だった? 何故、舌に現れる? 何故何故何故何故何故?」

 

「うわ、壊れたレコードみたいになりやがった」

 

「『顔無し』さん、ヘイローが現れたのはいつ頃ですか?」

 

 

 くの字に体を曲げ、こちらに顔を寄せる黒服。

 『顔無し』は引き気味に答える。

 

 

「あ? あー……確か、委員長に斑目って呼ばれた翌日に現れたな」

 

 

 あの時の衝撃は今でも思い出せた。

 先生の部屋に入り、異常事態だとヘイローを見せたものだ。

 

 ヘイローを得たことで身体が頑丈になったか自傷し、普通に傷が付いた。そのことも黒服に明かす。

 自分より、こういうことに関して黒服の方が詳しい筈だ。

 

 

「……成程」

 

「委員長に反応した……いや、それはないか。だとしたら全力で身体の主導権を取り戻そうとする筈だ」

 

「いいえ。『顔無し』さんの推理は合ってると思いますよ」

 

「マジか」

 

 

 まさかの肯定に、『顔無し』は声を漏らす。

 黒服は、ここからは私の推測ですが……と口を開いた。

 

 

「恐らく自殺を図った後、ユウさんは仮死状態になった。脳も心臓も一度停止したのでしょう。そして再生し終える直前に、『顔無し』さんがその身体に入ったことで優先順位が『顔無し』さん>斑目さんとなった」

 

「彼はそれを望んでいた。生きる意思などなかったのでしょう。しかしホシノさんが貴方に対し、『斑目』と発したことでそれを否定しようとした。故に身体が動きを止めた」

 

「しかし自分は自殺を図り、自らの多量の血と引き換えに、貴方を呼び出したことを思い出し、『死人に口無し』と引っ込んだ。その現れとして、舌を封じるように実体化したヘイローが現れた」

 

 

 何となく理解は出来る。黒服はこちらに視線を向けた。

 

 

「『顔無し』さん。ヘイローが現れてから、他に変わった点はありませんか? 体の強靭さは変わらないようですが」

 

「強いて言うなら、死ににくくなったことだな。心臓と肺を潰されたことがあったが、仮死状態にもならないで生き返ったぞ」

 

「成程。どうやらヘイローが発現するまでの再生能力は、あれでも不完全だったようですね。実際、ユウさんは仮死状態になっています。脳や心臓を破壊されれば、死に至っていた。しかし時間の経過で投入した神秘が馴染み、ヘイローとして完全に顕現した結果、限りなく不死に近い体質を手に入れたのでしょう」

 

 

 限りなく不死に近い体質。それはつまり、不死ではないということだ。

 『顔無し』は問い掛けた。メリットがあるということは、必ずデメリットもあるはずだ。

 

 

「ヘイローを壊されれば、どうなる?」

 

「ククッ……ヘイローが破壊されれば、生命活動は停止するでしょう。ユウさんも一緒にね。またその不死性は、ヘイローが発現している場合に限られている」

 

「……結構なハンデだな」

 

 

 つまりヘイロー発現前と違い、一撃で即死の急所が出来上がってしまったというわけだ。そこを破壊されれば、自分だけでなく斑目も確実に死に至る。

 

 それだけではない。黒服の話で、謎が一つ解けた。

 

 

(鼻血が止まらなかったのは、睡眠でヘイローが消えていたからか。つまり今後、睡眠中に狙われたら普通に死ぬ。委員長達と違って、強靭さは待ち合わせていないからな)

 

 

 今後注意すべきは舌先のヘイローと、麻酔弾等の気を失わせる代物。

 それ以外の負傷は何とかなるので、気にしない方向でいくことにした。

 

 

「知りたいことは大体知れた。今度はそっちの用事に応えるよ」

 

「ククッ。ではお言葉に甘えて。こんなに早くお話しできるとは、やはり手を打っておいて正解でした」

 

 

 そう言って、黒服が取り出したのは見覚えがあるオカルト本。

 見たのは確か、斑目の部屋の中だ。表紙だけで、その中身は見ていない。

 

 

「こちらをホシノさんが見つければ、貴方を孤立させられない。そのため拝借しておきました」

 

 

 黒服がその本のあるページを『顔無し』に見せる。

 彼は少しだけ目を見開き、黒服を睨んだ。

 

 部屋の中を緊張感が漂う。二人の話は、まだ終わりそうにない。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。