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今回と次回、『顔無し』の正体が明かされる回となります。黒服と『顔無し』の対談を二話にわたってしてしまいそう。まあ、全話が可愛い女の子二人の話だったから多少はね?
もう少しでアビドスとの物語が終わりそうです。曇らせは次の次の回から始まる予定ですので、よろしくお願いいたします!
『
行き先はカイザーローンだ。アビドス高等学校の借金返済先であり、そのお金を横流ししていた、悪徳金融業者。
そこに乗り込むつもりだった。アビドスから手を引かせるために。
「……よし、気付かれてないな」
歩いていても、周囲に正体がバレて通報される気配はない。
下着と違い、男物の私服の購入はハードルが低かったようで、今迄のお返しの一つとして、便利屋68が動きやすく、全身と顔を隠せる衣服を見繕ってくれたのだ。
加えて指名手配されているのは、いつもの全身を覆う黒いレインコートのような衣服と仮面の姿である。
先生と写真を撮ることもなかったため、使われているのは絵だ。
この二つが上手く噛み合い、『顔無し』の特定を薄めているのかもしれない。好機である。
地図によると、カイザーローンがある建物まであと少しだ。背中に当たる棒の存在感が大きくなっているように感じられた。
「カイザーローンまであと少し。責任者を引き摺り出せればいいが……」
「そこに行かれても、貴方の目当てはいませんよ」
「っ」
何者かとすれ違った際に、そう言われる。
背丈は『顔無し』より大きい。服装はスーツで、声からして男性だ。
まるで全てを知ってるかのような言動。反射的に『顔無し』は振り返る。
「ククク、貴方とはずっとお会いしたいと思っていました……『顔無し』さん」
「……はっ」
その人物は『顔無し』の反応を見越していたようだ。
ただ身体をこちらに向けて立っている。ヒビ割れている、人ではないその顔は確かに笑っていた。
目の前の男と同様に、『顔無し』も小さく笑う。
初対面であったが、その存在は知っていた。成程、これは分かりやすい。
「お前が黒服か」
「ええ。『顔無し』さん、私は貴方に興味がある。私が知る限りの情報と引き換えに、お話をさせて頂きたいのですが」
悩む時間はなかった。圧倒的に自分には情報が足りない。
『顔無し』は頷き、黒服と共に街路から姿を消すのだった。
「どうぞ、ご自由にお掛けください」
「お言葉に甘えて」
『顔無し』は黒いソファに腰を下ろして、対面に座る黒服に目を向ける。
ここはアビドス付近に建つ高層ビルの一室だ。その証拠に、窓の景色は廃れた街と金色の砂の海が広がっていた。
「他にも部屋はあるのですが、後に話す内容からこちらが適していると思いましてね」
この景色が必要になる話があるのだろうか。
疑問に思い、まず『顔無し』はそのことから聞くことにした。
「今でいい」
「クク、分かりました。それでは『顔無し』さん、私に付いてきてください」
黒服は大きな窓の前まで移動する。『顔無し』が来ると、望遠鏡を手渡してきた。
「あちらの方角を見てください。工場のような建築物が目に入る筈です」
黒服の指した方向に目を向ける。
工場のような施設の周りには有刺鉄線が張り巡らされており、穏やかな雰囲気ではなかった。
そこに描かれているマークに、『顔無し』は顔を顰める。
正直、鬱陶しく思った。
「……またカイザーか」
「ええ。カイザーPMC。カイザー系列の民間軍事会社ですね。あそこに、貴方の言う責任者、カイザーPMC理事がいます」
「それはまた、大層な肩書きだな」
カイザーPMC理事。アビドス高等学校が借金をしている相手。
そいつを何とかすれば、対策委員会は普通の生活を送れるようになる……。
取り敢えず敵は分かった。
『顔無し』は黒服に目を向けた。
「随分と詳しいようだけど、そいつ、お前の知り合いか?」
「協力者でした」
「へぇ……協力者を随分と簡単に売るもんだ」
黒服が少し黙る。
「彼は私の実験を台無しにした。ちょっとした仕返しです」
「……お前が斑目にした実験ね。台無しって?」
黒服が一度顎に手を置いた。
「そうですね。今迄の経緯と共に、お答えします」
『顔無し』の問いに、黒服は話し始める。
斑目の肩の傷。理事の勝手な行動と、それによる斑目が負った精神的ダメージについて。
洗脳により自分の部下にしようとしたこと。その輸送中、斑目が脱走したこと。
そして、自殺したことを。
自分が知らなかった一連の流れを聞き終え、『顔無し』は溜息を吐く。
「おっっっっもい」
2回目だと分かってはいるが、斑目のアビドスに対する気持ちの大きさに驚いた。
ホシノに付けられた傷に対する依存。洗脳されることへの選択肢。何もかもが普通じゃないように感じた。
日記に付着した血や、『あの傷のように』の正体を知り、『顔無し』は呟く。
「ノートの血、それだったのか。ていうか脆弱な身体に散弾銃撃つとか、何やってんだよ委員長……着弾点ズレてたら普通に致命傷になり得たぞ……気持ちはまあ、理解できるっちゃできるけどさ」
経緯としてはまず斑目が体調を崩した。そんな彼にユメはお粥を振る舞おうと外に出て、その道中に亡くなったようだ。
ホシノは斑目が体調を崩さなければ、こんなことにはならなかったと彼を追い出した。
彼女の気持ちは理解はできるが、それでもやり過ぎだ。
『顔無し』は溜息を吐く。
「その結果、斑目の願いが叶ったんだから皮肉だよな」
「? どういうことです?」
「ん? ……ああ、知らないのかお前」
んあ、と『顔無し』は舌を出す。よく分からない『これ』を作り出した要因であろう者がいるのだ、聞いておくのも悪くない。
その先端にあるものを見て、黒服は驚きを隠せずにいた。
「ヘイロー……!? いや、それよりこの気配は……!!」
黒服が『顔無し』の舌先にあるヘイローに手を伸ばそうとする。
「ッ」
その瞬間に、『普段とは桁違いのスピードと力』で『顔無し』の手が黒服の腕を掴んだ。
服に皺ができ、ミチミチと音が鳴るほどの強さだった。
『顔無し』はそれに気付き、手を離す。黒服はぷらぷらと腕を振った。
「ッククク、失礼。つい」
「……いや、気にすんな。これ触れるから、扱いに気を付けろ。壊れたらどうなるか分からんからな」
「ほう……触れる。ええ、ええ。勿論。実感しましたから」
黒服に舌先のヘイローを指で撫でられる。
感覚が繋がっているのか、何故か自分の身体がくすぐったく感じた。
妙な感覚だ。
何となくそれが嫌だったので、先程の現象について振り返る。
(あの時、自分でも分かる程にいつもと比べ物にならない力が出た。ヘイローを触られそうになったから? ……あの感覚を常に出せるようになれば、もっと楽に戦えそうだな)
『顔無し』が思考を終えると同時に、黒服も手を離した。
「ク、ククク。ユウさん、貴方は本当に私を驚かせてくれる」
「斑目じゃねェよ。俺は『顔無し』だ」
「いえ」
黒服は首を振る。そして、『顔無し』の舌先のヘイローを指差した。
「ここにいますよ、ユウさんは。休眠に近い状態のようではありますが」
「……は?」
掠れたような声が『顔無し』から発せられる。
斑目がまだ死んでいない。魂だけではあるが、この世に存在している。その事実に驚きと、それ以上の喜びが含まれていた。
(じゃあやっぱり、あの時に俺の身体を止めたのは……)
ホシノに初めて『斑目』と呼ばれた時のことを思い出す。
自分とは違う意志を感じ、身体が止まった。あれはやはり、斑目の意思が残っていたからだ。
黒服は興奮気味に考察を述べ始める。
「ヘイローは本来、実体を持ちえない。ユウさんの意思が形として残った? では何故、生前ヘイローが現れなかったのか。まだ神秘が馴染む過程だった? 何故、舌に現れる? 何故何故何故何故何故?」
「うわ、壊れたレコードみたいになりやがった」
「『顔無し』さん、ヘイローが現れたのはいつ頃ですか?」
くの字に体を曲げ、こちらに顔を寄せる黒服。
『顔無し』は引き気味に答える。
「あ? あー……確か、委員長に斑目って呼ばれた翌日に現れたな」
あの時の衝撃は今でも思い出せた。
先生の部屋に入り、異常事態だとヘイローを見せたものだ。
ヘイローを得たことで身体が頑丈になったか自傷し、普通に傷が付いた。そのことも黒服に明かす。
自分より、こういうことに関して黒服の方が詳しい筈だ。
「……成程」
「委員長に反応した……いや、それはないか。だとしたら全力で身体の主導権を取り戻そうとする筈だ」
「いいえ。『顔無し』さんの推理は合ってると思いますよ」
「マジか」
まさかの肯定に、『顔無し』は声を漏らす。
黒服は、ここからは私の推測ですが……と口を開いた。
「恐らく自殺を図った後、ユウさんは仮死状態になった。脳も心臓も一度停止したのでしょう。そして再生し終える直前に、『顔無し』さんがその身体に入ったことで優先順位が『顔無し』さん>斑目さんとなった」
「彼はそれを望んでいた。生きる意思などなかったのでしょう。しかしホシノさんが貴方に対し、『斑目』と発したことでそれを否定しようとした。故に身体が動きを止めた」
「しかし自分は自殺を図り、自らの多量の血と引き換えに、貴方を呼び出したことを思い出し、『死人に口無し』と引っ込んだ。その現れとして、舌を封じるように実体化したヘイローが現れた」
何となく理解は出来る。黒服はこちらに視線を向けた。
「『顔無し』さん。ヘイローが現れてから、他に変わった点はありませんか? 体の強靭さは変わらないようですが」
「強いて言うなら、死ににくくなったことだな。心臓と肺を潰されたことがあったが、仮死状態にもならないで生き返ったぞ」
「成程。どうやらヘイローが発現するまでの再生能力は、あれでも不完全だったようですね。実際、ユウさんは仮死状態になっています。脳や心臓を破壊されれば、死に至っていた。しかし時間の経過で投入した神秘が馴染み、ヘイローとして完全に顕現した結果、限りなく不死に近い体質を手に入れたのでしょう」
限りなく不死に近い体質。それはつまり、不死ではないということだ。
『顔無し』は問い掛けた。メリットがあるということは、必ずデメリットもあるはずだ。
「ヘイローを壊されれば、どうなる?」
「ククッ……ヘイローが破壊されれば、生命活動は停止するでしょう。ユウさんも一緒にね。またその不死性は、ヘイローが発現している場合に限られている」
「……結構なハンデだな」
つまりヘイロー発現前と違い、一撃で即死の急所が出来上がってしまったというわけだ。そこを破壊されれば、自分だけでなく斑目も確実に死に至る。
それだけではない。黒服の話で、謎が一つ解けた。
(鼻血が止まらなかったのは、睡眠でヘイローが消えていたからか。つまり今後、睡眠中に狙われたら普通に死ぬ。委員長達と違って、強靭さは待ち合わせていないからな)
今後注意すべきは舌先のヘイローと、麻酔弾等の気を失わせる代物。
それ以外の負傷は何とかなるので、気にしない方向でいくことにした。
「知りたいことは大体知れた。今度はそっちの用事に応えるよ」
「ククッ。ではお言葉に甘えて。こんなに早くお話しできるとは、やはり手を打っておいて正解でした」
そう言って、黒服が取り出したのは見覚えがあるオカルト本。
見たのは確か、斑目の部屋の中だ。表紙だけで、その中身は見ていない。
「こちらをホシノさんが見つければ、貴方を孤立させられない。そのため拝借しておきました」
黒服がその本のあるページを『顔無し』に見せる。
彼は少しだけ目を見開き、黒服を睨んだ。
部屋の中を緊張感が漂う。二人の話は、まだ終わりそうにない。