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誤字報告も助かっております!!
あと10話以内で完結かもしれません。
このままフルスロットルで走り抜けたいものです。
それと読者の皆様はお気付きかもしれませんが、前話に挿絵を加えました。
もっとホシノを、可愛く描きたかったなァ……!!
絵が上手くなりたいので、誰かファンアートをください(直球)
ごめんなさい、ごめんなさい、と。
両掌と膝と額を地面につけ、壊れた機械のようにホシノは謝罪の言葉を繰り返している。
その姿は、対策委員会の部室で見せている自堕落なそれとはかけ離れていた。
触れてしまえば砂のように崩れてしまいそうな程、今のホシノは弱々しい。
「ホシノ先輩……」
それ故、ホシノの一番近くにいるノノミは今の彼女に触れることを躊躇した。
先生や他の対策委員会のメンバーも同様だ。ただホシノの姿を見ていることしか出来ない。
彼女達が向ける視線に、軽蔑や侮蔑といった悪感情はなかった。
全員がただ、ホシノの心を案じている。
そんな場に似合わない、笑い声が響き渡った。
カイザー理事だ。その場から動きそうにないホシノに目を向ける。
「クククク! 一人、使い物にならなくなったようだな……いい機会だ、このまま君達全員に消えてもらうか?」
「……それは、意味を分かって言ってるの?」
先生がカイザー理事を睨みつける。
大人である自分の目の前で、堂々と言い放ったのだ。生徒である彼女達を……殺すと。
そんなこと、許せるはずがない。
先生の鋭い視線に身を動かすことなく、カイザーは口を開く。
「当然だ。目的を邪魔する者達が、容易く潰せる状況にある。そんな機会を、みすみす逃すと思うかね?」
カイザー理事は今の状況に酔いしれていた。自分が危機に陥ることなど、一ミリも考えていないように見える。
それはそうだ。要因は二つある。
まず一つ。
対策委員会、そして先生にとって手を出せない『
洗脳しているため、相手が手を出せなくても一方的に攻撃が出来る。
二つ目。
小鳥遊ホシノの欠落。彼女は対策委員会の最年長であり、攻守共に可能な優れた戦力である。
そんな彼女が動けない今、対策委員会の戦力は通常より格段に下がっていた。ホシノを守りながら彼女達は戦わなければならない。
カイザー理事が『顔無し』に顔を向ける。
「さあ、初仕事だ斑目ユウ。……あの副生徒会長を殺せ、私に対する忠誠を見せてみろ」
「何が忠誠よ! 勝手に操ってるだけじゃない!!」
セリカはカイザー理事に続き、『顔無し』にも視線を向けた。
怒るような縋るような、そんな表情をしている。
「『顔無し』、あんたそんなことしたら、一生……! 一生許さないんだからね……!! だから、早く戻ってきてよ……!!!!」
「フンッ。無駄なことを……今の斑目ユウに、自分の意思など」
セリカの激昂と希望を、カイザー理事は鼻で笑い飛ばした。
自分の意思などない。そう、彼は確かにそう言おうとした。
だが、それは中断される。
ガツッ!!!! ボトン
鈍器で硬いものを殴る音。そして、何かが落ちる音が響いた。
ジジッ、バチチと火花が散る。その発生源は、カイザー理事の片方の肩からだった。
「………は?」
ある筈の片腕がない。そしてそれは、地面に落ちている。
それを認識し、カイザー理事から間抜けな声が出た。
では誰がやったのか。
決まっている。腕の凹み具合から、切ったというより殴って潰した感じだ。金属の機体をそのようにする、馬鹿力を持つ者等限られている。
カイザー理事の顔が、ゆっくりとそちらに向けられた。
「何だ。見た目の割に脆いんだな」
「ッッッ斑目ユウゥゥゥゥ!!!!!!」
拍子抜けだ。
そう言わんばかりの表情で、金属棒を肩に担ぐ『顔無し』がそこにはいた。
自分に牙を向けたこと。機体に対する評価。それに付随する表情。
全てが気に入らない。カイザー理事は怒りを露わにして、『顔無し』に迫る。
その片手が迫るのは……『顔無し』の細い首筋だ。
「そりゃ悪手だろう」
「ぬぐっ……! ぐぐぐ……!!!」
だが届かない。
『顔無し』は迫るカイザー理事の腕を掴んで、地面に押し付けるように力を加えた。
カイザー理事はいとも容易く、地面に両膝を付けられた。
苦しげに、こちらを見下ろす『顔無し』に対して口を開く。
「な、何故だ……! どうして、洗脳した筈じゃ……!!!」
「どうしても何も。お前、自分で言ってたろ。思い返してみろよ、その洗脳装置の仕組みと、その効果が除外される相手を」
─名前を呼ぶことで周波を起こし、操作したい者に干渉することが出来る。
─勿論、その人物じゃない者の名前なら、その限りではないがね。
言われるがまま、その発言を思い返した。
簡単に答えに辿り着く。カイザー理事は取り乱したように、首を振るう。
「まさか……っ。そ、そんな馬鹿な……!」
「……気付いたか。俺は
その言葉にホシノが微かに動くが、誰もそれに気付かない。
彼女達の視線は、『顔無し』とカイザー理事に向けられているためだ。
カイザー理事は憎悪を隠さず、『顔無し』を睨む。
「あの反応は、演技だったのか……!!!」
「まあな。あれだけ斑目の名前を強調した後に命令したんだ……何となく装置の仕組みと効果は察したよ。いい演技だったろ? お陰で膝が汚れちまった」
今のお前のようにな。そう言って、『顔無し』はカイザー理事を見下ろす。
カイザー理事は両膝を付いている状態だ。
だから、容易に『顔無し』は自分の片足をその頭に乗せることが出来た。
自分がこの後、どうなるか分かったのだろう。
カイザー理事の話す速度が上がった。
「こ、このまま私を殺すのか!? そんなことをしてみろ、ただじゃ済まない! お前だけじゃなく、アビドスやシャーレの先生もだ! だから……!!」
「何もせず見逃せって? んな上手い話があるかよ」
「ぬぐっ……!」
踏みつける力が強まる。
カイザー理事の額が地面につき、まるで強制的に土下座をされているようだった。
とはいえ片腕はなく、もう片方も自由を奪われているため、歪な形ではあるが。
しかし、カイザー理事にとっては屈辱以外の何物でもなかった。
「背中見せた瞬間、またお前は狙ってくるだろ。それに……あいつらのこと、殺そうとしたよな?」
「ッ……!!」
『顔無し』の顔はカイザー理事からは見えない。
だがその低くなった声は、如実に彼の怒りを表している。
『先輩……』
「『顔無し』……」
対策委員会や先生は、その表情がしっかりと見えていた。
いつもと変わらない、鉄面皮のような表情。しかし、確かな違いがある。
二つの眉頭の距離が近付いていた。それだけで、彼がカイザー理事に対し良くない感情を抱いていることが分かる。
先程まで命の危機が迫り、息をするのも苦しかった。
だがその事実が……その感情を消し去る。自分達を想ってくれているのだと、先生達は嬉しくなった。
(……って、駄目だ私! 喜ぶのは後、このままじゃ『顔無し』が犯罪者に……!!!)
しかし今の状況を思い出し、先生は首を振る。
そして、大きく息を吸った。
「『顔無し』駄目! 殺しちゃ……!」
「殺さねェよ先生。いや、この場合殺すってより破壊だと思うけど」
『顔無し』が呆れたように言う。
「第三者から見たらだ。攻め込んだのはこっち。さらにこいつを破壊したとあっちゃ、言い逃れ出来ないだろ」
「フ、フフフ。状況は分かってるようだな。なら、その足を」
「それはそれとして眠ってもらうけどな」
「ブッッ!!?」
『顔無し』は地面を、カイザー理事の頭部を介して踏みつける。
顔面を強く叩きつけられ、その金属が歪む音を聞いてカイザー理事は気絶した。
それを確認した後、『顔無し』は先生達の前に来る。居心地悪そうに、後頭部を掻きながら。
「いや……悪いな先生。お前達。しんどい思いさせた」
「本当よ! どうして操られたフリなんて……!」
「納得のいく説明、お願いできますか?」
セリカは目尻に涙を浮かべ、ノノミは怒ったように眉頭を寄せていた。
『顔無し』が洗脳されたと思い、胸の中はグチャグチャだったことを思い返す。
仲間だった彼が殺しにくるかもしれないという恐怖。
そんな彼を、自分達が殺さなければならないという恐怖。
にも関わらず、その洗脳が演技だったとなれば不満の一つも言いたかった。
『顔無し』は彼女達の言葉を受け止める。
「ああ……分かってる。とはいえ、ゆっくり話してる時間はない。俺の目的、洗脳されたフリをした理由。移動しながら話す」
『……でしたら、私が車で迎えに行きます。それなら落ち着いて話せますよね?』
「そうだな。頼む」
アヤネも今回の『顔無し』の行動には思うことがあったのか、その声は固い。
落ち着いて話せるのはいいことだ。『顔無し』は特に嫌な反応を見せず、アヤネの提案を受け入れる。
彼女との会話を終えた『顔無し』は、地面に膝をつけたままのホシノの下へ向かった。
ホシノは顔を上げる。その表情は暗いままだ。
そしてポツリと呟いた。
「……斑目じゃなかったんだ」
「……ああ」
俺は俺だ。斑目ユウじゃない。
『顔無し』した発言を聞いた時から、覚悟はしていた。
だが実際に本人の口で、もう一度言われると心にくる。
斑目だと思ったら、斑目じゃなくて、洗脳という最悪な形で斑目だと知らされたと思ったら、やはり斑目ではなかった。
「そっか……はは、もうよく分かんないや」
それが正直な気持ちだ。ホシノは力なく笑う。精神的に疲弊していた。
やはり斑目は、もういないのだと知った。
悪霊だと思っていた男は、そうではないことを知った。
喪失感と罪悪感が心の中に渦巻く。だが目の前の彼を見ていると、今迄の自分の行いが蘇ってきた。
後者が心を占める割合が大きくなる。
「分かんないけど……ずっと私達のために、戦ってくれていたんだね」
「なのに私は、君を追い立てた。斑目の姿をしただけの君を、悪い大人の口車に乗せられて……!」
「本当に……っごめん」
『顔無し』は首を振った。
「謝るのは俺だ。委員長」
「俺はお前達を完全に信じ切れなかった。このことを話すことで、アビドスの戦力の低下を恐れて、先延ばしにした」
「その結果、お前と後輩達にしんどい思いをさせた。これから多分、もっとしんどい思いをさせる。結果的に一番最悪な方法で、真実を伝えることになる」
「もっと最初のうちに明かしておけば、ここまで拗れることはなかったかもしれないのに……悪かった」
そう言って、『顔無し』を頭を下げる。
ホシノは背伸びをして、その額を押した。自然と彼の頭が上がる。
不思議そうにこちらを見る『顔無し』に、ホシノは首を振った。そして力なく笑う。
「ううん。ならやっぱり、悪いのは私だよ」
「だってノノミちゃん達は斑目を知らない。それで戦力の低下を恐れるってことは……私が君を不安にさせたんだよね? まあ……自分で言うのもあれだけど、斑目のこと引きずっていたし」
「ならさ。君が打ち明けやすい環境を作れなかった、私に非があるよ。やっぱり」
「……そうか」
『顔無し』とホシノはお互いを見たまま、しばらく黙った。
多分、口を開けばいつまでも謝り合いが始まる。だからここで、一旦切るべきなのだ。
『時間は限られているのだから』。『顔無し』はホシノから視線を外す。
「歩こう。いつまでもここで立ち往生しているわけにはいかない。あいつの部下が来るかもしれないからな」
「……うん、そうだね。ここを離れて、アヤネちゃんと合流しようか」
そこから二人の間に会話はなかった。
ただ並んで、先頭を進むだけだ。先生と他の対策委員会は心配するような目を向けながら、二人に付いていくのだった。
「……事。カイザー理事!」
「! ぐぐ……」
カイザー理事が苦しげな声を上げつつ、身を起こした。
開いた視界には、カイザーPMCの兵士達がいる。
「申し訳ございません。召集に時間がかかりました」
「兵を召集したところで、当たるべき襲撃犯がいないんじゃ意味がないだろう……!」
悔しげにカイザー理事は片方の拳を地面に叩き付ける。
そこでようやく、兵士達はカイザー理事の片腕がなくなっていることに気付いた。
すぐさまカイザー理事を囲う兵士達。
「損傷が酷い……! すぐに手当を!」
「道を空けろ! 理事の腕も持ってこい!!」
そのままカイザーPMCの建築物の中に入っていく。先程、『顔無し』がカイザー理事に呼ばれて出てきたところだ。
兵士達に連れられ、カイザー理事は医務室に連れて行かれる。その際、理事室が視界に入った。
「……?」
見慣れている扉の筈なのに、どこか違和感を感じる。
見えないが、まるで室内に第三者の手が加えられたような、そんな予感がした。
「……ッ」
「カイザー理事!? どうしましたか!?」
すぐに確かめなければならない気がして、治療そっちのけで理事室へ向かう。兵士達が慌てているが、知ったことではなかった。
扉の前まで走り、立ち止まる。
「クソ!!」
疑惑は確信に変わった。
自動ドアが作動しない。室内には電源ボタン等がある。それに細工を施されたのだ。
それならばとカイザー理事は手動で扉を開けることを試みる。
しかし部屋の中で何かが引っかかっているのか、開けられない。
「カイザー理事! 部屋に繋がる排気口も塞がれております!!」
「何とかして早く開けろ!! 嫌な予感がする……!!!」
刻一刻と過ぎる時間が憎らしく感じる。
カイザー理事にとってこの部屋は大事な場所だ。世間に知られたくない情報を保持している場所でもある。
そこに他人が入った形跡と、『時間稼ぎのように』自分達を入れまいと細工されているのだ。
心当たりは一人しかいない。カイザー理事は、声を震わせる。
「一体何を企んでいる……! 『顔無し』ゥ……!!!!」
その問いに答える者は、ここにはいない。
明かされるのは……ここではない、砂漠を走る車の中である。
アビドス編終わったらどうしようかなぁ……