憑依in実験体のアビドス生徒   作:改名

68 / 94
皆様!
感想、お気に入り登録、高評価ありがとうございます!
大変励みになっております! 今後もモチベーションとなりますので、よろしくお願い致します!

誤字報告も助かっております!!



前話にて落ち込んでいた私ですが、皆様の感想欄での応援や高評価を得て、元気を取り戻しました。本当にありがとうございます。

アビドス編が完結するまで、絶対に更新停止しないし作品も削除致しません!!!! 私の作品を好きだと言ってくれる人達のためにも、私は書き続けます!!!

よろしくお願いします!!


50.『顔無し』の秘策

 

 

 

 

 

 時間は『顔無し(ノーネーム)』が黒服に指定された場所で、ビナーと遭遇したところまで遡る。

 

 金属音と共に、火花が飛び散った。

 ビナーの尾による攻撃を振り上げで相殺した『顔無し』だったが、間髪入れずにミサイルが飛んでくる。

 

 

 

「っと」

 

 

 

 後方に跳ぶことで着弾を回避し、ミサイルによって生じた砂埃を振り払った。傷口に砂が入り込み、『顔を顰めて』血液ごと手で落とす。

 

 そして、晴れた空の下にいる自分の何倍もある大きさのビナーを見上げた。

 

 

 

「ハッ……固いなお前。おまけに速い。その図体で、愚図じゃないのが面白い」

 

 

 

 垂れる汗を腕で拭い、そう軽口を叩く。

 が、正直笑っていられる状況ではない。

 

 戦況は拮抗しているように見えるが、ビナーが優勢だ。

 『顔無し』が有効打を決められていないのに対し、ビナーは徐々に『顔無し』の身体に傷を増やしていた。

 

 勿論、再生するため動きが落ちることなどはないが、彼にも体力がある。

 完全な不死身なら問題ないが、動きが落ちたことで舌を囲うヘイローを壊されれば、『顔無し』に待つのは死だった。

 

 

 

(さらに厄介なのは……この身体だ)

 

 

 

 心境としては複雑だ。

 嬉しい気持ちはある。だがせめて、もう少し遅ければよかったのに。

 

 

 というのも、今彼の身体は……正常に戻りつつあった。

 

 

 つまり痛覚も感情も、斑目が実験を受ける以前の状態に近付いている。仮に斑目が戻ったとしても、周囲に異物と思われず溶け込めるぐらいには。

 

 実際、彼の瞳には光が戻りつつあり、鉄面皮は剥がれ落ちている。

 痛みも受け入れ、それに見合う表情をしていた。

 

 

 

(……まるで、遅効性の毒だな)

 

 

 

 ……その原因は分かってる。

 彼の脳内に、今まで関わってきた者達の姿が浮かぶ。

 

 特に色濃く映ったのは、先生、アビドス対策委員会、ヒフミ、便利屋68の姿だった。

 

 

 

「恨むぞ……お前達」

 

 

 

 恨み言を溢す。

 だがその顔は悪感情で歪んでるわけではなく、優しく緩んでいた。

 

 溜息と一緒に出すような、そんな声だった。

 

 

 

「お前達と会わなければ、もっと上手くやれたのに……」

 

 

 

 斑目の鉄面皮と痛覚への耐性。

 

 それは斑目が地上からかけ離れた、冷たい地下にある部屋で、一人で、気が遠くなる程の痛みを与え続けられたため、後天的に付与された。

 

 それは『顔無し』にも引き継がれる。

 

 

 いや、引き継がれていた。

 

 

 今は違う。温かい心を持つ先生や生徒達との交流を経て、その冷め切った心は溶かされた。今の彼の身体は、筋力と再生力を除けばただの人間だ。

 

 故に、痛みに対する耐性は弱まっている。

 

 

 

「ま、だから何だって話だけどな」

 

 

 

 それを言い訳に、関わってきた者達を傷付けるわけにはいかない。

 

 『顔無し』は棒を構えた。いつ、どんな攻撃にも対応できるように。

 その瞬間、背後の遥か遠くから轟音が聞こえた。

 

 

 

「ッ」

 

 

 

 聞き覚えがある音だ。身体の内まで響くような轟音。背後を見ると、数本の砂煙が立ち昇っていた。

 榴弾砲。それが放たれたらしい。

 

 

 

(先生がやってくれたのか……? いや、PMCの連中の可能性もある。加勢に……いや、駄目だ。それじゃあこいつに、先生達が)

 

 

 

 音だけでは判断できなかった。トリニティかゲヘナ風紀委員の可能性もあるが、同様に兵器を有するカイザーPMCの可能性もある。

 

 後者だった場合の想像をしてしまい、『顔無し』は先生達の安否を心配した。そのため、ビナーへの注意を疎かにしてしまう。

 

 

 それがいけなかった。

 

 

 

「ッしくった……!」

 

 

 

 ザウッと砂の音を鳴らし、ビナーが『顔無し』の横を通り過ぎる。

 彼を眼中にしていない様子で、一直線に轟音が鳴った場所へ進んだ。

 

 目の前の存在より、五月蝿い連中を潰すことを優先したらしい。

 

 『顔無し』も駆け出す。

 胴体の辺りに並べたが、頭のところに並ぶことができない。

 

 胴を殴ったところで影響は薄いように思える。力技による方向転換、もしくはスケープゴートになるには、頭を殴り存在感を示さなければならない。

 

 

 

(くそ……!)

 

 

 

 だが、追いつけなかった。

 

 徐々に前方の豆粒が人影へ、人影から人物へ、距離が近づくにつれて明らかになっていく。

 

 

 

(委員長……!!!)

 

 

 

 そこにいたのは、アビドス対策委員会だった。

 先生は……いないらしい。少し安心した。

 

 対策委員会の前には、倒れた巨大な機体とカイザーPMCの兵士と兵器が並んでいる。

 

 榴弾砲は味方のものだったようだ。しかし彼女達の危機に変わりはない。

 

 この速度であと数十メートル進まれると、軌道はきっと変えられないだろう。さらに、対策委員会がこちらに気付く様子はない。

 

 

 そうなれば、彼女達はひとたまりもないだろう。この砂漠で力尽きることになる。

 

 アビドス対策委員会の、危機だ。

 死なせてしまう。亡くしてしまう。

 

 斑目の居場所を。

 

 

 

「させねェよ!!!!」

 

 

 

 ブチブチと、足の筋繊維が千切れる音がする。

 

 

 それがどうした。関係ない。

 急加速で一気にビナーの頭部の側面へ迫った『顔無し』の振り払いが、直撃する。

 

 

 ビナーの直進は崩され、少し逸れてカイザーPMCを巻き込んで吹き飛ばされた。

 追撃のため、『顔無し』は棒を回転させながら駆ける。足の筋繊維は既に回復していた。

 

 『顔無し』に気付いたビナーは、ミサイルを飛ばす。最も邪魔な存在は彼だと理解したようだった。

 

 

 

「願ってもねェ」

 

 

 

 ミサイル攻撃を跳躍で躱す。

 そこを狙い撃つように、ビナーが跳躍した。巨大な体躯が宙に浮かび、頭の先には……『顔無し』がいる。

 

 蛇のような構造をバネのように活かした、超高速の頭突きだ。穿つべく、それが『顔無し』に迫る。

 口角を最大限に上げ、獰猛な笑みを浮かべた『顔無し』がその金属棒を振り下ろした。

 

 

 

「飛んで火に入る夏の虫ってな!!」

 

 

 

 渾身の力が加わったそれは、ビナーの頭頂部を捉える。

 

 

 ゴゥゥゥン!!! という音と共に、ビナーは砂埃を立たせて地上に叩き伏せられる。一方『顔無し』は縦に回転しながら、着地した。

 

 

 ビナーがむくりと起き上がると、身を起こし『顔無し』を見下ろす。

 だが、攻撃はしてこない。様子を伺うような、警戒しているような、そんな挙動のように感じられた。

 

 先程は確かに追い詰めていた筈だ。

 なのに、何故立場が逆転されつつあるのだ、と。

 

 

 対して、『顔無し』は口角を上げる。

 

 

 黒服にヘイローを触られそうになった時に出た、あの出力。

 そして先程までの一連の出力。不明だったその規則性が、何となく理解できた。

 

 

 

(命の危機……だろうな、多分)

 

 

 

 火事場の馬鹿力、とも言える。

 

 黒服の時は、命同然であるヘイローを突然触られそうになった。

 この時、『顔無し』自身はまだヘイローの破壊=死であると認識していない。しかし身体が危機を察知し、反射的に黒服の腕を掴んだ。

 

 対して先程は、対策委員会の命に危機が迫っていた。

 彼女達が死ぬのは、自分にとっても斑目にとっても認められない。

 

 それが目の前で起ころうとしていた。その危機に対処すべく、肉体の出力が上がったのだ。

 

 これさえあれば、『顔無し』は自分の何倍もの大きさと物量で迫るビナーと渡り合えるだろう。

 

 

 

(……けど、今からまたあの力を出せるかっていうと、微妙な感じだ)

 

 

 

 だが対策委員会の無事を認識してから時間が経過した今、『顔無し』の心音は平常になりつつある。危機感を抱いていないのだ。

 故にその出力は落ちている。『顔無し』は体感的に理解していた。

 

 

 

 このまま戦えば、負ける。

 だから『顔無し』は、この方法に賭けることにした。

 

 ゆっくりと、彼の口が開かれる。

 

 

 

「……俺の身体は特別でな。人外のスーツ野郎に改造されて、並外れた再生力と筋力を持ち合わせている」

 

「加えてそこそこの反射神経、100は超える戦闘の経験で培った直感で、死ににくさには自信があるんだ。例外はあるがな」

 

 

 

 その言葉を確かめるように、ビナーはミサイルを数発飛ばす。

 

 『顔無し』は焦る様子を見せず、一つ打ち返した。それがビリヤードのように他のミサイルを巻き込んで、上空で爆発する。

 

 

 

「落ち着けよ、話は最後まで聞けって」

 

「その例外ってのは、だ。ほれ…………今見せた、これが俺の命そのものでな。普通のヘイローと違って、ちゃんと物理的干渉を受けてる。つまりこれを破壊さえすれば、俺は即お陀仏ってわけだ」

 

 

 

 

 『顔無し』が浮かべる表情。

 自分が死ぬ方法を話しているとは思えない、不敵な笑みだった。

 

 何も知らない者が見れば、強大な敵を相手に気が狂ったと思うだろう。

 だが、そうではない。

 

 

 

 

 

「クックック……」

 

 

 

 

 

 一連の光景をドローンを介して見ていた、黒服は笑う。

 まるで賞賛するように、成程と繰り返し頷いた。

 

 

 

「自らの弱点を晒すことで、意図的に永続する危機を作り出し、強制的に能力を底上げしましたか」

 

 

 

 黒服も自身の腕を握られた経験と、ビナーと『顔無し』の戦闘を見て、彼の能力の向上が、危機に由来するものだと見抜いていた。

 

 

 故に、『顔無し』の行動の意図も理解する。

 

 

 彼がしたことは自己暗示に近い。

 

 自らの弱点を開示することによって、常に死の意識を持つ。

 

 舌の先にあるヘイローを壊されたら死ぬ。その当たり前を再認識することで、常に危機感を抱き、目の前の敵を潰すまで火事場の馬鹿力を発揮し続けられるというわけだ。

 

 

 

「常人なら、そんな状況では寧ろ恐怖で満足のいく動きが出来ない。しかし……『顔無し』さんは違う。その恐怖を、力とすることができる」

 

 

 

 彼が欲しい。

 

 自身の口角が上がるのを黒服は自覚した。

 

 その戦闘能力。折れない意志。目的のためなら、人間性を捨てられる勢い。

 どれも価値あるものだ。『今後のためにも』。是非引き込みたい。

 

 だがそれは時期尚早というもの。

 本格的なスカウトは……彼がビナーを打ち倒した後だ。

 

 

 

 

 

「ククッ。ええ、ええ、本当に楽しみです。クククク……!!!」

 

 

 

 

 黒服はモニターに映る『顔無し』を見ながら、笑い続けるのだった。




ごめんなさい。
見ての通り、今回は彼女達に躍動を見ていただくことは出来ませんでした。前回のノーネームの力の理由と、黒服の反応でキリがよくなってしまいまして……。

大体、読むのに疲れないかなと思い4,000〜5000文字で一話区切ってるんですけど、もっと増やしても大丈夫そうですかねェ……?


とはいえ次回は、彼女達の反応とクライマックス。
その次がエピローグ(予定)です。最後までお付き合い頂けたら嬉しいです!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。