憑依in実験体のアビドス生徒   作:改名

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ようやくここまで書き切れた……!
後はエピローグが2.3話でアビドス編完結でございます!!


51.決着

 

 

 

 

 

 先生が目的地に辿り着く。シャーレの権限で捕捉した、アビドスや『顔無し(ノーネーム)』の姿が見えた、最後の位置だ。

 

 そこに辿り着くと、先生は一番遅かったのが自分であることを知る。

 

 アビドス対策委員会とゲヘナ風紀委員会の3人は既に合流していた。加えて、便利屋68の姿もある。

 

 

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

 

 

 会話をしている雰囲気は見られない。こちらに背を向けているので、その表情は窺えないが、全員が同じ場所を見ていることは理解できた。

 

 嫌な予感がする。車から降り、彼女達の元へ向かった。

 そしてその光景を目撃する。同時に、何故彼女達がここで棒立ちをしていたのか理解できた。

 

 

 

「……信じられないでしょう」

 

 

 

 先生はその光景に、よほど間抜けな顔をしていたのだろう。

 ヒナが横目で、そう語り掛けた。

 

 今迄、キヴォトスでの戦闘は何度も目撃してきたが、ここまで記憶に残るものはない。

 

 

 

 まるで天災だった。

 

 

 

 戦場を中心に衝撃で風が生じ、砂埃が舞っている。

 ここから離れた距離で行われているのに、絶え間なく続く金属の音や爆発音が鼓膜を激しく揺さぶった。

 

 それを引き起こしているのは、黒服の部屋で見た巨大な機体……ビナーと『顔無し』だ。

 

 

 確かに彼は常人より力を持っていた。それは知っている。

 だが、ここまでではない。

 

 

 

 恐らく全員が頷くであろうことを、ヒナは言う。

 

 

 

「初めて見たわ。自分の何倍もの大きさの体躯を持つ機体を、殴り伏せる人なんて」

 

 

 

 ヒナは自然と、初めて彼と戦った時のことを思い出していた。

 もしあの時、今の彼と戦っていたら……そこまで考え、頭を振る。

 

 そんな恐ろしい想像は、したくない。

 

 ホシノが形の良い眉を寄せて言った。

 

 

 

「多分『顔無し』君、自分に何かしたよ。方法は分からないけど、走る速度も腕力も格段に上がってる」

 

「ん……。その証拠に、走る時の一歩一歩の距離が大きくなってる。足場の悪い砂漠を当然のように駆けて、ましてや速度を上げ続ける

なんて……普通できない」

 

 

 

 アコが溜息を吐く。

 そう、あそこにいる一体と一人は普通じゃないのだ。

 

 

 

「流石にあれを見て、飛び込もうとする者はいません。様子を観察しつつ、先生の到着を待ち指示を仰ぐ。私たちの選んだ選択はそれでした」

 

『私達もです……何せあの大きなロボットの近くには、常に『顔無し』さんがいますから』

 

 

 

 ヒフミは無力さを感じているのだろう。彼女が出したのは、いつもとはかけ離れた沈んだ声だ。

 

 飛び込む必要はないものの、榴弾砲では『顔無し』を巻き込む可能性もある。

 それを考慮すると、心優しいヒフミが何も出来ないのは当然だった。

 

 

 

(せめて、広範囲でなく一点であの機体を狙えれば……)

 

 

 

 そこで先生はハッとする。

 

 視線の先には、便利屋68のアルの姿があった。狙撃手である彼女なら、この距離からあの機体のみを撃つことが出来るのではないかと。

 

 その考えを否定したのはカヨコだった。先生の一連の動きを見て、大体察したのだろう。

 

 

 

「ごめん、先生。既に社長が狙撃をするって話も出たんだけどね……まず距離的に無理。あれは多分、意図的に『顔無し』がそうさせている」

 

「……きっと私達を巻き込まないため、だろうね〜……」

 

 

 

 ムツキの呟きに、アルは頷いた。

 

 

 

「そうね……あいつ、初めて会った時から何も変わっていないわ。負担を全部背負って……っ私達が傷付くのを許してくれないのよ」

 

 

 

 俯くアルの肩を、先生は摩る。その悔しさは痛いほど分かった。

 

 だが同時に、『顔無し』の気持ちも分かる。

 きっと自分があの機体と対等にやり合える立場だったら、彼と同じ選択をした。

 

 そして自分なら、横槍を入れられたくない。それにより、標的が自分以外になるのが恐ろしいからだ。

 だから先生は、静かに言った。『顔無し』の意思を尊重した。

 

 

 

「今は、『顔無し』を信じよう……!」

 

 

 

 それが表すのは、この場で待機することだ。

 

 何人かが先生に顔を向けた。正気を問うようなそんな顔をして。無線機から、ヒフミの息を呑む音も聞こえた。

 

 だが先生の様子を見て、彼女達は苦しげに顔を伏せる。

 

 

 

「……ッ!!」

 

 

 

 先生は唇を強く噛み、そこからは血が流れていた。

 この場の全員が同じ気持ちなのだ。悔しさと無力感で、ただ彼女達は目の前で起こる戦闘を見守る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 踏み込みによる急接近からの、『顔無し』の金属棒による殴打でビナーが吹っ飛ばされる。

 体勢を崩した状態のまま、巨体が砂漠を滑った。

 

 追撃をさせぬよう、悪あがきのように砂埃を立たせ『顔無し』の視界を潰そうとするビナー。

 

 

 

「悪いな。砂遊びはもううんざりなんだ」

 

 

 

 だが棒を振り回して、風の矛と化した『顔無し』によりそれは裂かれる。

 視界が開けた瞬間、『顔無し』が見たものは。

 

 

 

「これは、ヤバそうだな」

 

 

 

 ビナーの口のように開けられた箇所の先にある、瞳のような部位に光が収束してる光景だった。

 直感が働き、『顔無し』は顔を逸らして棒を差し出す。

 

 

 

「ッッッ!!!!」

 

 

 

 瞬間、右の胸部から肩を経て、腕までが焼き焦がされた。その熱と痛みに、『顔無し』は歯を食いしばる。

 

 その光景を双眼鏡を通じて、先生達も目撃していた。

 彼女達だけじゃない。ヒフミも、トリニティの生徒達もだ。

 

 

 

 半身が消し飛ばされ、苦痛に歪む彼の顔。

 そこに飛び散る赤い血に、悲鳴を上げる者もいた。

 

 

 

「ひっ……!!!」

 

「も、もろに喰らった……!!!」

 

 

 

 対して、『顔無し』はそこまで取り乱していなかった。

 

 この負傷はマシな方だから。

 もし顔を動かさなければ、顔面ごと消し飛ばされていただろう。それと比べればマシだった。

 

 バランスが狂い体勢が崩れるが、武器を手放すわけにはいかない。

 

 

 

 光線を受けても形を保っている、頑丈な金属棒を転がりながら逆の手で回収する。

 

 

 

(流石、キヴォトス一固い金属。これがなけりゃ詰んでた……!)

 

 

 

 攻撃手段を失えば勝ち目はない。その強度に感謝した。

 残っている方の掌の皮膚が溶け、金属棒と一体化する。常に痛みが伴うが、手汗で滑ることはないと考えると都合が良い。

 

 この上に再生した片手を重ねれば、先程までのように全力で殴れる。

 

 

 

 

 トリニティの生徒達といるヒフミは、『顔無し』の特性を初めて見た。そのため、双眼鏡を目にやりながら声を震わせる。

 

 

 

「う、腕が、生えた……??」

 

 

 

 その衝撃が大き過ぎて、ヒフミは世界が無音になったかのように感じた。

 彼女の背後にいるトリニティ生達は、双眼鏡から目を外し、互いに頷きあう。吐き気と顔の血の気が引く感覚を、我慢するように。

 

 この作戦後、自分達がすべき行為が一致した。

 

 

 

「……この件、ティーパーティーに報告しましょう」

 

「ええ。アビドスに、あんな生徒がいたなんて……!!!」

 

 

 

 即ち、危険因子の報告である。

 

 視覚に気を割いていたこと、距離があったこと。

 これらの理由でヒフミは、背後で交わされる彼女達の会話に気付けなかった……。

 

 

 

 一方、ゲヘナの反応はトリニティと比べて薄い。

 せいぜい顔を顰めるだけだ。ヒナを除いた3人は、既にそれを目撃しているのが大きいだろう。

 

 初めて『顔無し』の身体が欠損から修復される様子を見たヒナも、ただ溜息を溢すだけだった。

 

 

 

「話には聞いていたけど、凄まじいわね」

 

「身体は再生します。走る速度、腕力共にずば抜けています……絶対に戦いたくない相手ですね、本当に」

 

「あいつを相手に出来んの、感情がないロボットかサイコパスだけだろ」

 

「正に、今の状況ですね」

 

 

 

 

 感情がある限り、『顔無し』に攻撃を与え続けることは難しい。何故なら罪悪感といった、自分の動きを縛る感情が生じるためだ。

 

 だがロボットにはそれがない。故に『顔無し』の相手としては適した相手と言える。

 

 一体どちらが勝つのか。チナツは固唾を飲んだ。

 

 

 

 

 

 光線を出すのに、時間が必要なこと。それに『顔無し』は気付く。

 継続的な痛みを堪えつつ迫る『顔無し』に対し、ビナーは動きを止めたままだったからだ。

 

 そこを見逃さない。

 フルスイングで殴り飛ばし、一度距離を取らせる。

 

 一層激しくなる痛みに、『顔無し』は溜息を吐いた。

 

 

 

(身体の中の痛みが終わらないな……。光線のせいか? 燃えた組織を、再生する組織が覆おうとしている感じだ)

 

 

 

 光線により、『顔無し』の抉られた箇所は既に回復している。

 だが外側はそうでも、内部にダメージが残っていた。

 

 痛覚が蘇った今。

 長期的な痛みが生じれば、『顔無し』の動きは落ちる。それ故、一度ビナーを遠くへ飛ばし、時間を設けることにしたのだ。

 

 痛みが落ち着いてくる。内部が通常通りに戻ったようだ。

 『顔無し』は痛みがなくなった箇所を、手で触れた。

 

 

 

(……結構完治まで長かった。あの光線、厄介だな。出来れば2度と食らいたくねェ)

 

(とはいえ戦う以上、またくるだろうな。何度もこの嫌らしい痛みを味わうのは流石にキツい。出来れば早めに仕留めたい)

 

(となると、やっぱり装甲を殴るだけじゃ駄目だな。一か八か……あの頭部に飛び込んで、弱点っぽい瞳を狙う)

 

 

 

「次に賭けて、終わらせる」

 

 

 

 次の攻防で『顔無し』は決着をつけるつもりだ。

 真っ直ぐにビナーの下へ走る。

 

 飛んでくるミサイルを弾き飛ばしながら、距離を詰めた。

 そして高く跳躍し、ビナーの口内を目指す。

 

 

 

「! またあれだ……!!」

 

 

 

 先生の周囲が騒ついた。

 

 ビナーがそれを黙って受け入れるわけがない。

 口の中の瞳のような部位で、光の収束が始まった。このままいけば、以前の二の舞だ。

 

 光線に当たれば勢いを殺され、恐らく『顔無し』は目的の場所へと至れないだろう。

 だが、危機が迫る『顔無し』の表情を見て、アヤネが呆然と呟いた。

 

 

 

「先輩、笑ってる……?」

 

 

 

 同じくその表情を確認した、セリカとノノミが叫ぶ。

 

 

 

「まさか、誘ったの!?」

 

「でも、あの距離じゃ当たっちゃいます……!!」

 

 

 

 身を翻しても当たり、着地点はズレる。

 避けずに当たれば勢いが殺され、同様に着地点がズレる。

 

 

 だから、『顔無し』はその行動を取った。

 

 

 光線が発射されるギリギリまで、ビナーの動きを観察する。

 

 そして発射されると同時に、自分のどこに当たるかを予測した。

 今度は腹部の真ん中にくるようだ。

 

 『顔無し』は勢いを殺さぬよう、棒を自身の腹に当てて。

 

 

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

 

 

 

 突き刺した。貫通させたまま、円を書く。

 吐血し、口の端から血が流れ落ちるが、構わずにビナーの口元へ『顔無し』の身体は吸い込まれていく。

 

 

 光線が『顔無し』の腹部を通り抜けた。

 

 

 今度は内部に痛みは感じなかった。くり抜いた部分だけが焼け、それが堺の役目を果たしたからだ。

 

 

 

「成程……っ。当たる箇所の範囲に穴を空けておけば、勢いが殺されることはないね……!」

 

 

 

 カヨコの表情は険しい。

 

 『顔無し』の棒は先が尖っておらず、それを突き刺し、そのまま円を作る痛みは計り知れない。カヨコの表情が歪むのも無理はなかった。

 

 対して、『顔無し』の口角は上がっている。

 腹部の修復は既に終えており、目標はすぐ目の前にあった。

 

 満ち足りた気分だ。

 

 

「じゃあな。楽しかったよ」

 

 

 

 そして、金属棒をビナーの口内にある瞳のような器官に突き刺した。

 重力に従うように、ビナーは地上へと身を落とす。

 

 

 それだけでは終われない。

 

 

 棒を突き刺したまま、『顔無し』はビナーの尾へと走る。

 彼の筋力とキヴォトス一固い金属に、ビナーを構成する金属は勝てなかった。

 

 長く深い切り傷は再起不能の要因となり、ビナーの瞳に灯っていた光は消える。

 

 

 その光景は、先生達も見届けていた。

 セリカが身体を震わせながら、周囲に問いかける。

 

 興奮からか顔は赤く染まり、目尻には涙が浮かんでいた。

 嬉しくて仕方ない様子だ。

 

 

 

「ね、ねぇ……! これって……!!!」

 

 

 

 その問いに対する返答は決まっていた。

 同じように頷く者、安堵するように息を吐く者がいることから、全員がそうなのだろう。

 

 代表して、先生が言った。

 セリカと同じように涙を浮かべながら、頷いて笑顔で。

 

 

 

「うんっ。『顔無し』の勝ちだよ……!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『顔無し』は自分の記憶を頼りに、対策委員会がいた場所へと足を進めていた。

 だが、その必要はなかったようだ。

 

 

 

「これはまた、大人数でのお迎えだな」

 

 

 

 アビドスとゲヘナの面々。そして先生が小走りで向かってきている。

 『顔無し』は手を振り、フッと笑って見せた。

 

 それを見た全員が固まる。

 光を灯さない目に仕事しない表情筋がデフォルトだった。

 

 故にその微笑みの衝撃は大きい。

 

 

 

「え? えっ!? 何今の、幻!?」

 

「『顔無し』が……凄く綺麗な笑みを……!?」

 

「お前ら容赦ないな」

 

 

 

 アルと先生の反応に、『顔無し』は後頭部を掻く。

 一応お前らの影響なんだけどな……と続けようとしたが、余計に騒がしくなりそうなのでやめておいた。

 

 

 

「今迄が異常だったんだ、在るべき姿に戻っただけさ……な? 委員長」

 

「うん……今のは私がよく知る、斑目の表情だった」

 

 

 

 寂しそうにホシノは言う。

 

 だからこそ複雑だった。斑目に『顔無し』が近付くにつれ、違いがはっきりと分からされる。

 

 

 

「そんな顔するな。カイザーは何とかしたし、後は斑目を元に戻すだけだ。方法を探していこう、俺も協力する」

 

 

 

 ホシノの背を優しく叩いた後、『顔無し』は先生に顔を向けた。

 

 何とかしたが、黒幕の身柄を押さえてはいない。また何か企まれると面倒なため、早急な対応が必要だろう。

 

 

 

「取り敢えず、あの理事の身柄を確保しないとな。あいつ、どこにいる?」

 

「あんたが引き連れた蛇に巻き込まれてたわ。後は知らない」

 

「マジか……。これ、殺人罪に適用されるか?」

 

 

 

 セリカの一言に、『顔無し』の頰が痙攣した。

 やらかしたと言わんばかりの表情だ。

 

 その反応がおかしく、ムツキは笑っている。シロコも内心嗜虐心の赴くままに、『顔無し』に迫った。

 

 

 

「一瞬で色々な兵器が廃材になってた。それに埋まってるか、その一部になってるかも……!」

 

「シロコちゃん。脅さない、脅さない」

 

「あの理事さんはきっと大丈夫ですよー。他より頑丈な機体に乗ってましたし☆」

 

「あはは。まずは現場に行ってみましょうか……」

 

 

 

 ここで話していても、埒が開かない。

 そう思ったアヤネの提案で、一同はアビドスがカイザーPMCと接敵した場所へ向かおうとした。

 

 

 

 彼女達に付いて行こうとした時、『顔無し』の鼓膜が音を拾う。

 砂が巨大な何かと擦れるような、そんな音だ。

 

 

 

(嘘だろ……!)

 

 

 

 その出先を察し、『顔無し』は振り向いた。

 機能停止した筈の、ビナーが復帰している。その動きはぎこちないものの、見覚えがあるものだった。

 

 光線が放たれる挙動だ。問題はそれだけじゃない。

 

 

 ビナーが顔を向ける角度から見て、標的は自分ではなかった。

 

 

 

 生徒達の中心を歩く、先生だ。

 

 

 

 彼女が唯一の大人だからか、自分に敗北を味わせた『顔無し』への復讐か。ビナーは確かに、先生を標的にしていた。

 

 

 『顔無し』は駆け出す。

 談笑をする彼女達に声を掛けたところで、恐らく間に合わない。

 

 反応したと同時に、先生の身体に穴が空くことになるだろう。

 

 この時、先生がシッテムの箱を持っていることは抜けており、彼にとって残された選択はこれしかなかった。

 

 

 

「きゃっ!!?」

 

「先生!!?」

 

 

 

 背後から強い衝撃が先生を襲う。

 自分が押されたのだと気付き、横向きで倒れた後、先生はその押した人物を見上げる。

 

 『顔無し』が手を突き出し、空中に浮遊していた。

 

 

「『顔無し』……?」

 

 

 呆然とした顔で先生が彼の名前を呼ぶ。

 

 彼は笑っていた。

 最期に見せる自分の顔で、一番トラウマになりにくいと思ったから。

 

 そして最期に何を伝えるべきか、候補が走馬灯のように素早く流れる。

 

 

 

 後は任せた。

 楽しかった。

 さよなら。

 

 

 全部、素直に伝えたいことだ。

 だがどれも呪いになりそうだった。

 

 

 

 なら、今の気持ちを伝えよう。願いを伝えよう。

 

 

 

 脆い身体で、透き通るものの危険な世界で生きていく彼女に、エールを込めて。

 

 

 

「先生」

 

 

 

 

 

 

 

 

「長生きしろよ」

 

 

 

 

 

 言い終えると同時に、後頭部に走る痛みと共に『顔無し』は意識を失った。

 

 頭部の鼻から額にかけた箇所を失った『顔無し』。

 そこから飛び散る血液。

 

 自身の顔にかかるその液体と、身体に降ってきた欠損した彼の肉体の重み。

 

 

 

 

「いやあああああああああああ!!!!!!!」

 

 

 

 

 認識したくないそれらを全て理解し、自分のものとは思えない絶叫を聞きながら、先生の視界は闇に染まるのだった。

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