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ようやくここまで書き切れた……!
後はエピローグが2.3話でアビドス編完結でございます!!
先生が目的地に辿り着く。シャーレの権限で捕捉した、アビドスや『
そこに辿り着くと、先生は一番遅かったのが自分であることを知る。
アビドス対策委員会とゲヘナ風紀委員会の3人は既に合流していた。加えて、便利屋68の姿もある。
「……」
「……」
「……」
会話をしている雰囲気は見られない。こちらに背を向けているので、その表情は窺えないが、全員が同じ場所を見ていることは理解できた。
嫌な予感がする。車から降り、彼女達の元へ向かった。
そしてその光景を目撃する。同時に、何故彼女達がここで棒立ちをしていたのか理解できた。
「……信じられないでしょう」
先生はその光景に、よほど間抜けな顔をしていたのだろう。
ヒナが横目で、そう語り掛けた。
今迄、キヴォトスでの戦闘は何度も目撃してきたが、ここまで記憶に残るものはない。
まるで天災だった。
戦場を中心に衝撃で風が生じ、砂埃が舞っている。
ここから離れた距離で行われているのに、絶え間なく続く金属の音や爆発音が鼓膜を激しく揺さぶった。
それを引き起こしているのは、黒服の部屋で見た巨大な機体……ビナーと『顔無し』だ。
確かに彼は常人より力を持っていた。それは知っている。
だが、ここまでではない。
恐らく全員が頷くであろうことを、ヒナは言う。
「初めて見たわ。自分の何倍もの大きさの体躯を持つ機体を、殴り伏せる人なんて」
ヒナは自然と、初めて彼と戦った時のことを思い出していた。
もしあの時、今の彼と戦っていたら……そこまで考え、頭を振る。
そんな恐ろしい想像は、したくない。
ホシノが形の良い眉を寄せて言った。
「多分『顔無し』君、自分に何かしたよ。方法は分からないけど、走る速度も腕力も格段に上がってる」
「ん……。その証拠に、走る時の一歩一歩の距離が大きくなってる。足場の悪い砂漠を当然のように駆けて、ましてや速度を上げ続ける
なんて……普通できない」
アコが溜息を吐く。
そう、あそこにいる一体と一人は普通じゃないのだ。
「流石にあれを見て、飛び込もうとする者はいません。様子を観察しつつ、先生の到着を待ち指示を仰ぐ。私たちの選んだ選択はそれでした」
『私達もです……何せあの大きなロボットの近くには、常に『顔無し』さんがいますから』
ヒフミは無力さを感じているのだろう。彼女が出したのは、いつもとはかけ離れた沈んだ声だ。
飛び込む必要はないものの、榴弾砲では『顔無し』を巻き込む可能性もある。
それを考慮すると、心優しいヒフミが何も出来ないのは当然だった。
(せめて、広範囲でなく一点であの機体を狙えれば……)
そこで先生はハッとする。
視線の先には、便利屋68のアルの姿があった。狙撃手である彼女なら、この距離からあの機体のみを撃つことが出来るのではないかと。
その考えを否定したのはカヨコだった。先生の一連の動きを見て、大体察したのだろう。
「ごめん、先生。既に社長が狙撃をするって話も出たんだけどね……まず距離的に無理。あれは多分、意図的に『顔無し』がそうさせている」
「……きっと私達を巻き込まないため、だろうね〜……」
ムツキの呟きに、アルは頷いた。
「そうね……あいつ、初めて会った時から何も変わっていないわ。負担を全部背負って……っ私達が傷付くのを許してくれないのよ」
俯くアルの肩を、先生は摩る。その悔しさは痛いほど分かった。
だが同時に、『顔無し』の気持ちも分かる。
きっと自分があの機体と対等にやり合える立場だったら、彼と同じ選択をした。
そして自分なら、横槍を入れられたくない。それにより、標的が自分以外になるのが恐ろしいからだ。
だから先生は、静かに言った。『顔無し』の意思を尊重した。
「今は、『顔無し』を信じよう……!」
それが表すのは、この場で待機することだ。
何人かが先生に顔を向けた。正気を問うようなそんな顔をして。無線機から、ヒフミの息を呑む音も聞こえた。
だが先生の様子を見て、彼女達は苦しげに顔を伏せる。
「……ッ!!」
先生は唇を強く噛み、そこからは血が流れていた。
この場の全員が同じ気持ちなのだ。悔しさと無力感で、ただ彼女達は目の前で起こる戦闘を見守る。
踏み込みによる急接近からの、『顔無し』の金属棒による殴打でビナーが吹っ飛ばされる。
体勢を崩した状態のまま、巨体が砂漠を滑った。
追撃をさせぬよう、悪あがきのように砂埃を立たせ『顔無し』の視界を潰そうとするビナー。
「悪いな。砂遊びはもううんざりなんだ」
だが棒を振り回して、風の矛と化した『顔無し』によりそれは裂かれる。
視界が開けた瞬間、『顔無し』が見たものは。
「これは、ヤバそうだな」
ビナーの口のように開けられた箇所の先にある、瞳のような部位に光が収束してる光景だった。
直感が働き、『顔無し』は顔を逸らして棒を差し出す。
「ッッッ!!!!」
瞬間、右の胸部から肩を経て、腕までが焼き焦がされた。その熱と痛みに、『顔無し』は歯を食いしばる。
その光景を双眼鏡を通じて、先生達も目撃していた。
彼女達だけじゃない。ヒフミも、トリニティの生徒達もだ。
半身が消し飛ばされ、苦痛に歪む彼の顔。
そこに飛び散る赤い血に、悲鳴を上げる者もいた。
「ひっ……!!!」
「も、もろに喰らった……!!!」
対して、『顔無し』はそこまで取り乱していなかった。
この負傷はマシな方だから。
もし顔を動かさなければ、顔面ごと消し飛ばされていただろう。それと比べればマシだった。
バランスが狂い体勢が崩れるが、武器を手放すわけにはいかない。
光線を受けても形を保っている、頑丈な金属棒を転がりながら逆の手で回収する。
(流石、キヴォトス一固い金属。これがなけりゃ詰んでた……!)
攻撃手段を失えば勝ち目はない。その強度に感謝した。
残っている方の掌の皮膚が溶け、金属棒と一体化する。常に痛みが伴うが、手汗で滑ることはないと考えると都合が良い。
この上に再生した片手を重ねれば、先程までのように全力で殴れる。
トリニティの生徒達といるヒフミは、『顔無し』の特性を初めて見た。そのため、双眼鏡を目にやりながら声を震わせる。
「う、腕が、生えた……??」
その衝撃が大き過ぎて、ヒフミは世界が無音になったかのように感じた。
彼女の背後にいるトリニティ生達は、双眼鏡から目を外し、互いに頷きあう。吐き気と顔の血の気が引く感覚を、我慢するように。
この作戦後、自分達がすべき行為が一致した。
「……この件、ティーパーティーに報告しましょう」
「ええ。アビドスに、あんな生徒がいたなんて……!!!」
即ち、危険因子の報告である。
視覚に気を割いていたこと、距離があったこと。
これらの理由でヒフミは、背後で交わされる彼女達の会話に気付けなかった……。
一方、ゲヘナの反応はトリニティと比べて薄い。
せいぜい顔を顰めるだけだ。ヒナを除いた3人は、既にそれを目撃しているのが大きいだろう。
初めて『顔無し』の身体が欠損から修復される様子を見たヒナも、ただ溜息を溢すだけだった。
「話には聞いていたけど、凄まじいわね」
「身体は再生します。走る速度、腕力共にずば抜けています……絶対に戦いたくない相手ですね、本当に」
「あいつを相手に出来んの、感情がないロボットかサイコパスだけだろ」
「正に、今の状況ですね」
感情がある限り、『顔無し』に攻撃を与え続けることは難しい。何故なら罪悪感といった、自分の動きを縛る感情が生じるためだ。
だがロボットにはそれがない。故に『顔無し』の相手としては適した相手と言える。
一体どちらが勝つのか。チナツは固唾を飲んだ。
光線を出すのに、時間が必要なこと。それに『顔無し』は気付く。
継続的な痛みを堪えつつ迫る『顔無し』に対し、ビナーは動きを止めたままだったからだ。
そこを見逃さない。
フルスイングで殴り飛ばし、一度距離を取らせる。
一層激しくなる痛みに、『顔無し』は溜息を吐いた。
(身体の中の痛みが終わらないな……。光線のせいか? 燃えた組織を、再生する組織が覆おうとしている感じだ)
光線により、『顔無し』の抉られた箇所は既に回復している。
だが外側はそうでも、内部にダメージが残っていた。
痛覚が蘇った今。
長期的な痛みが生じれば、『顔無し』の動きは落ちる。それ故、一度ビナーを遠くへ飛ばし、時間を設けることにしたのだ。
痛みが落ち着いてくる。内部が通常通りに戻ったようだ。
『顔無し』は痛みがなくなった箇所を、手で触れた。
(……結構完治まで長かった。あの光線、厄介だな。出来れば2度と食らいたくねェ)
(とはいえ戦う以上、またくるだろうな。何度もこの嫌らしい痛みを味わうのは流石にキツい。出来れば早めに仕留めたい)
(となると、やっぱり装甲を殴るだけじゃ駄目だな。一か八か……あの頭部に飛び込んで、弱点っぽい瞳を狙う)
「次に賭けて、終わらせる」
次の攻防で『顔無し』は決着をつけるつもりだ。
真っ直ぐにビナーの下へ走る。
飛んでくるミサイルを弾き飛ばしながら、距離を詰めた。
そして高く跳躍し、ビナーの口内を目指す。
「! またあれだ……!!」
先生の周囲が騒ついた。
ビナーがそれを黙って受け入れるわけがない。
口の中の瞳のような部位で、光の収束が始まった。このままいけば、以前の二の舞だ。
光線に当たれば勢いを殺され、恐らく『顔無し』は目的の場所へと至れないだろう。
だが、危機が迫る『顔無し』の表情を見て、アヤネが呆然と呟いた。
「先輩、笑ってる……?」
同じくその表情を確認した、セリカとノノミが叫ぶ。
「まさか、誘ったの!?」
「でも、あの距離じゃ当たっちゃいます……!!」
身を翻しても当たり、着地点はズレる。
避けずに当たれば勢いが殺され、同様に着地点がズレる。
だから、『顔無し』はその行動を取った。
光線が発射されるギリギリまで、ビナーの動きを観察する。
そして発射されると同時に、自分のどこに当たるかを予測した。
今度は腹部の真ん中にくるようだ。
『顔無し』は勢いを殺さぬよう、棒を自身の腹に当てて。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
突き刺した。貫通させたまま、円を書く。
吐血し、口の端から血が流れ落ちるが、構わずにビナーの口元へ『顔無し』の身体は吸い込まれていく。
光線が『顔無し』の腹部を通り抜けた。
今度は内部に痛みは感じなかった。くり抜いた部分だけが焼け、それが堺の役目を果たしたからだ。
「成程……っ。当たる箇所の範囲に穴を空けておけば、勢いが殺されることはないね……!」
カヨコの表情は険しい。
『顔無し』の棒は先が尖っておらず、それを突き刺し、そのまま円を作る痛みは計り知れない。カヨコの表情が歪むのも無理はなかった。
対して、『顔無し』の口角は上がっている。
腹部の修復は既に終えており、目標はすぐ目の前にあった。
満ち足りた気分だ。
「じゃあな。楽しかったよ」
そして、金属棒をビナーの口内にある瞳のような器官に突き刺した。
重力に従うように、ビナーは地上へと身を落とす。
それだけでは終われない。
棒を突き刺したまま、『顔無し』はビナーの尾へと走る。
彼の筋力とキヴォトス一固い金属に、ビナーを構成する金属は勝てなかった。
長く深い切り傷は再起不能の要因となり、ビナーの瞳に灯っていた光は消える。
その光景は、先生達も見届けていた。
セリカが身体を震わせながら、周囲に問いかける。
興奮からか顔は赤く染まり、目尻には涙が浮かんでいた。
嬉しくて仕方ない様子だ。
「ね、ねぇ……! これって……!!!」
その問いに対する返答は決まっていた。
同じように頷く者、安堵するように息を吐く者がいることから、全員がそうなのだろう。
代表して、先生が言った。
セリカと同じように涙を浮かべながら、頷いて笑顔で。
「うんっ。『顔無し』の勝ちだよ……!!!!」
『顔無し』は自分の記憶を頼りに、対策委員会がいた場所へと足を進めていた。
だが、その必要はなかったようだ。
「これはまた、大人数でのお迎えだな」
アビドスとゲヘナの面々。そして先生が小走りで向かってきている。
『顔無し』は手を振り、フッと笑って見せた。
それを見た全員が固まる。
光を灯さない目に仕事しない表情筋がデフォルトだった。
故にその微笑みの衝撃は大きい。
「え? えっ!? 何今の、幻!?」
「『顔無し』が……凄く綺麗な笑みを……!?」
「お前ら容赦ないな」
アルと先生の反応に、『顔無し』は後頭部を掻く。
一応お前らの影響なんだけどな……と続けようとしたが、余計に騒がしくなりそうなのでやめておいた。
「今迄が異常だったんだ、在るべき姿に戻っただけさ……な? 委員長」
「うん……今のは私がよく知る、斑目の表情だった」
寂しそうにホシノは言う。
だからこそ複雑だった。斑目に『顔無し』が近付くにつれ、違いがはっきりと分からされる。
「そんな顔するな。カイザーは何とかしたし、後は斑目を元に戻すだけだ。方法を探していこう、俺も協力する」
ホシノの背を優しく叩いた後、『顔無し』は先生に顔を向けた。
何とかしたが、黒幕の身柄を押さえてはいない。また何か企まれると面倒なため、早急な対応が必要だろう。
「取り敢えず、あの理事の身柄を確保しないとな。あいつ、どこにいる?」
「あんたが引き連れた蛇に巻き込まれてたわ。後は知らない」
「マジか……。これ、殺人罪に適用されるか?」
セリカの一言に、『顔無し』の頰が痙攣した。
やらかしたと言わんばかりの表情だ。
その反応がおかしく、ムツキは笑っている。シロコも内心嗜虐心の赴くままに、『顔無し』に迫った。
「一瞬で色々な兵器が廃材になってた。それに埋まってるか、その一部になってるかも……!」
「シロコちゃん。脅さない、脅さない」
「あの理事さんはきっと大丈夫ですよー。他より頑丈な機体に乗ってましたし☆」
「あはは。まずは現場に行ってみましょうか……」
ここで話していても、埒が開かない。
そう思ったアヤネの提案で、一同はアビドスがカイザーPMCと接敵した場所へ向かおうとした。
彼女達に付いて行こうとした時、『顔無し』の鼓膜が音を拾う。
砂が巨大な何かと擦れるような、そんな音だ。
(嘘だろ……!)
その出先を察し、『顔無し』は振り向いた。
機能停止した筈の、ビナーが復帰している。その動きはぎこちないものの、見覚えがあるものだった。
光線が放たれる挙動だ。問題はそれだけじゃない。
ビナーが顔を向ける角度から見て、標的は自分ではなかった。
生徒達の中心を歩く、先生だ。
彼女が唯一の大人だからか、自分に敗北を味わせた『顔無し』への復讐か。ビナーは確かに、先生を標的にしていた。
『顔無し』は駆け出す。
談笑をする彼女達に声を掛けたところで、恐らく間に合わない。
反応したと同時に、先生の身体に穴が空くことになるだろう。
この時、先生がシッテムの箱を持っていることは抜けており、彼にとって残された選択はこれしかなかった。
「きゃっ!!?」
「先生!!?」
背後から強い衝撃が先生を襲う。
自分が押されたのだと気付き、横向きで倒れた後、先生はその押した人物を見上げる。
『顔無し』が手を突き出し、空中に浮遊していた。
「『顔無し』……?」
呆然とした顔で先生が彼の名前を呼ぶ。
彼は笑っていた。
最期に見せる自分の顔で、一番トラウマになりにくいと思ったから。
そして最期に何を伝えるべきか、候補が走馬灯のように素早く流れる。
後は任せた。
楽しかった。
さよなら。
全部、素直に伝えたいことだ。
だがどれも呪いになりそうだった。
なら、今の気持ちを伝えよう。願いを伝えよう。
脆い身体で、透き通るものの危険な世界で生きていく彼女に、エールを込めて。
「先生」
「長生きしろよ」
言い終えると同時に、後頭部に走る痛みと共に『顔無し』は意識を失った。
頭部の鼻から額にかけた箇所を失った『顔無し』。
そこから飛び散る血液。
自身の顔にかかるその液体と、身体に降ってきた欠損した彼の肉体の重み。
「いやあああああああああああ!!!!!!!」
認識したくないそれらを全て理解し、自分のものとは思えない絶叫を聞きながら、先生の視界は闇に染まるのだった。