憑依in実験体のアビドス生徒   作:改名

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今回からエデン条約編に続く、プロローグ的なのが始まります。
それが終わったら遂にエデン条約編です! 本編です!
大変お待たせしまい、申し訳ございません……!



それではどうぞ。


プロローグ
1.ゲマトリア


 

 

 

 水槽から空気が抜ける音がする。

 それと同時に漏れ出るのは、大量の液体だ。

 

 まるで滝のようだった。

 黒服は慌てる様子なく、爪先で地面を軽く蹴って後ろに移動する。

 

 

 中にいた少年は一緒に流れてこない。

 水が全て抜けきった頃、床へと降り立った。

 

 

 

「手段は分かった。要するに、俺の名前を介して、呼び戻したわけね」

 

 

 

 それで? と少年……間平悠は黒服の前に立つ。

 瞳に感情は宿っていないものの、見上げる彼の表情は決して穏やかとは言えない。

 

 

 

「何か弁明は?」

 

「ククク。ご機嫌斜めなようですね。ご安心ください……その身体に元々命などありません。出来たばかりですので、以前より能力は落ちていますが……貴方のために作った器でしかない」

 

 

 

 間平は自身の身体を見下ろす。

 確かに、最盛期と比べて筋力量が落ちている。浴室で斑目になった時の身体と良い勝負だった。

 

 

 

「人生を奪ってしまった、と考えているならそれは見当違いです」

 

 

 

 肩に軽い感触。黒服が間平の肩に手を置いたのだ。

 まるで親が聞き分けのない子供を諭すように。

 

 

 

「寧ろ貴方のお陰で人になった。そう考えればいいのではないでしょうか?」

 

「そもそも最初から生み出すなって話だ。相変わらずモラルがないな」

 

 

 

 鬱陶しそうに黒服の手を叩き落とす。

 そして口から吐き出されたのは、溜息だ。

 

 泣きながらこちらに手を伸ばす斑目を見送った。

 その手を避け、斑目の姿が消えたのを確認した後、崩れゆく世界の中で何らかの力に引っ張られたことを思い出す。

 

 てっきりそれは、あの世へと続くものだと思った。

 役目を果たしたのだ。もうここに、帰ってくるつもりなどなかったというのに……。

 

 

 

「あいつらに遺言みたいなの残したの、お前も知ってんだろ……全く」

 

「……成程成程。どんな顔を見せればいいか分からない、と。ええ、ええ、気持ちはお察しいたします」

 

「あん?」

 

 

 

 呼び戻した本人が、何をいけしゃあしゃあと。

 言葉に出さずとも、黒服に向けられる死んだ目がそう言っていた。

 

 だが黒服は気にしていない様子だ。

 

 

 

「ですがご安心を、間平さん。私は貴方を、彼女達の前には出さないつもりです」

 

 

 

 間平は特段驚かなかった。

 つまり自分を連れて、堂々と先生達の前に出ることはないということだろう。

 

 ここが地下なのか、地上にある建物なのかは未だ定かではないのだが。

 

 

 

「まあ妥当な選択だな。俺にとっても、お前にとっても」

 

 

 

 黒服はきっと向けられるヘイトが強くなるだろう。

 間平はそんなものを向けられることはないだろうが、彼自身が望んでいない。

 

 目の前であんな死に方をした以上、のこのこと先生達の前に再び現れるのは、心情的に難しかった。

 

 それと同時に少し安心する。

 黒服と共に外に出ることがないということは、先生達と敵対行為をしなくて済む。

 

 その心に、傷を付けることはないだろう。

 

 

 

「俺は死人同然だ。死人に口無し、あいつらに関わるのは野暮ってもんだ」

 

 

 

 間平がそう言うと、彼の目の前にいた黒服が声を漏らした。

 

 

 

「っ……これは驚きました。間平さん、こちらで口内を見てみてください」

 

「お前の口どこだよ」

 

「いえ。私のではなく、貴方の」

 

 

 

 黒服から手鏡を差し出されたので、間平は受け取った。

 言われた通り口腔を見てみれば、そこには見慣れたものがある。

 

 

 舌先を囲う、ヘイローだ。

 

 

 黒服の反応から、先程まではなかったことが分かる。

 それを見て、ほんの少し間平の目尻が下がった。訝しんでるような、そういう目だ。

 

 

 

(以前と比べてヘイローの存在感が薄い……。完全に顕現していない感じだ。理由があるとすれば……この身体か)

 

 

 

 黒服はこの身体を、出来たばかりの身体だと言っていた。

 

 斑目を元に作られているのは一目瞭然だが、『顔無し(ノーネーム)』だった時より少し細い身体から、自殺直前の斑目の身体と判断して良い。

 

 故に身体に宿る神秘も総量は変わらない筈だ。

 なのに薄いのは、『顔無し』の時より神秘が身体に馴染んでいないからだと考えられる。

 

 完全にヘイローが顕現していない理由を、間平はそう推測した。

 

 

 

(特段気にする必要はなさそうだな。触れるし、しばらく経てば、また前みたいになるだろ)

 

 

 

 ヘイローは変わらず、物理的に触れられるらしい。

 自然と、初めて発現した時が思い出された。

 

 

 

「……最初の頃はなかったな。それで先生も困惑して……今となっては懐かしい話だ」

 

「……以前は、身体の内に眠るユウさんの意思に反応してヘイローは発現しました。しかし今その身体にあるのは、間平さんの魂だけです。それなのに、何故こんなことが……?」

 

「そこまで不思議がることじゃない」

 

 

 

 興味深げに観察する黒服と違い、間平は驚いた様子を見せない。大体の察しがついているようだ。

 

 黒服は黙って、顎に手を置きこちらに目を向けている。

 続きを促されているのだと判断し、間平は口を開いた。

 

 

 

「生霊って概念もあるからな。人が誰かを強く憎んだ時、その相手の元に自分の生霊が現れるんだと。生前、本当にあったか分からない心霊ドラマの短編集なもんでもあったよ」

 

「成程……そういうことですか」

 

 

 

 黒服は納得したように頷く。そして答え合わせをするように、間平に目を向けた。

 

 

 

「今回の場合、対象は間平さん自身。感情は憎しみというより、一種の強迫観念。『死人に口無し』、『彼女達の前で死んだ自分が、戻るべきではない』という、強い感情が生霊……もう一つの魂を生み出した……」

 

「そいつがヘイローになったんだろ。多分だけどな」

 

 

 

 黒服の仮説を否定しない辺り、本人も同様に考えているようだ。

 

 しかし、自分の感情を改めて他者に口に出されるのが複雑だったのか。後頭部を掻きながら、どこかぶっきらぼうな様子でそう言った。

 

 それに対し、黒服は笑みをこぼす。

 

 

 

「ククク……! やはり貴方は、私を驚かせてくれる。こうも簡単にヘイローを発現させるとは」

 

「これに至っては偶然だ。感心されるようなことじゃない。お前が前に話した、斑目のケースを無意識に真似たのかもしれないしっ」

 

 

 

 な、とは言い切れず。

 

 そこで間平が小さいくしゃみをした。

 当然だ。彼は今までずっと裸なのだから。

 

 寒さを感じてもおかしくない頃合いだった。

 黒服は笑い声を抑えながら、部屋の入り口へと向かう。

 

 

 

「これは失礼いたしました、服を持ってきます。着替え終わったら、部屋の外にいますのでお呼びください」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何故私が、貴方を再びこのキヴォトスに呼んだのか、説明させて頂きます」

 

 

 

 そう言い残し、黒服はこの部屋から立ち去るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『色彩』?」

 

 

 

 間平は黒のスーツに身を包んでいる。

 そして隣を歩く黒服の、『色彩』という存在を聞いたことあるか、との問いに対して、そう返した。

 

 確認するように間平が言う。

 

 

 

「……勿論、それは『彩り』を表すものじゃないよな?」

 

「ええ。全くの別物と思ってくだされば」

 

 

 

 今二人は地上に向かっていた。

 ここは地下施設だ。主に黒服が、実験や研究を行うだけの。

 

 故に生活をすることは難しく、それを可能とする別のアジトに移動する必要があった。

 

 その道中、黒服の口から目的が話されていた。彼の所属している、ゲマトリアについてもだ。

 色彩について、黒服はこう締め括った。

 

 

 

「平たく言ってしまえば、私達ゲマトリアの敵……といったところでしょうか。ただ到来するだけの不吉な光、目的も疎通も出来ない不可解な概念……間平さんには、アレから私達を守って頂きたい」

 

 

 

 間平は少し考え込む。そしてゲマトリアの目的と黒服の依頼を結びつけて、口を開いた。

 

 

 

「仮に俺がそれを呑んだとして、お前らのスタンスが変わることは?」

 

「残念ながらありません。先程お話ししたように、目的としているのは真理と秘義を追求することです。その結果に辿り着けるのなら、犠牲が出ても致し方ない」

 

 

 

 つまり子供……生徒をこれからも容赦なく利用するということだ。

 間平は溜息を吐いた。後頭部を掻いて。

 

 

 

(ま、そりゃそうか。寧ろすんなりと、スタンスを変えますって言われた方が信用できねェ)

 

 

 

 黒服達の行為は褒められたものではない。

 

 しかし組織としての在り方に対し、自身の行動を重ねている点に関しては評価できる。

 

 こういう者は、約束事もしっかりと守るものだ。

 要点の誤魔化しや歪みを認識さえすれば、強力な信頼関係を築けるだろう。

 

 間平は目を瞑り、口を開いた。

 

 

 

「いいぜ」

 

「おや?」

 

「その代わり、条件が二つある」

 

 

 

 向けられた二本指に対して、黒服は笑みをこぼす。

 

 

 

「クク。生徒に手を出すな、というのは先ほど言った通り」

 

「ああ。分かってる」

 

 

 

 切り捨てるように間平が言った。

 

 ……それは先生の役目だ。彼女ならきっと、生徒を守ってくれるだろう。これからも、アビドスの生徒達を救ったように。

 

 なら間平に出来ることは何か。

 

 

 

 先生自身に向けられる危機を少しでも防ぐことだ。

 

 

 

 それが、もう二度と彼女の前に姿を見せられない身にして、彼女の敵対組織に身を置いている自分が出来ることだと思った。

 

 

 

「先生と戦うのは良い。お前達の目的はあいつと相反するものだ、敵対もするだろうさ。それに対して、目的を諦めろとは言わねェ」

 

「……」

 

「だが命までは奪ろうとするな。自発的にそれをするのは論外だぞ。あいつと関わってる生徒達は悲しむし、その顔を想像するだけで嫌になる……それに、俺もあいつには死んでほしくない」

 

 

 

 間平は内心で舌を打つ。

 

 絶対に殺すな、ではないので、これでは偶然殺してしまったという言い分が成り立ってしまう。

 

 かといって、絶対に殺すなという条件を呑ませるのはきっと難しい。

 恐らくゲマトリアにとって、それは間平という戦力が手に入るだけでは釣り合わない条件だ。

 

 だからこのように、妥協するしかない。

 先生とその時傍にいる生徒を、信じるしかないのだ。

 

 

 

「ふむ」

 

 

 

 黒服は特に異議を持たなかったようで、続きを促す。

 

 

 

「……良いでしょう。二つ目は?」

 

「もしお前達ゲマトリアの誰かがこれを破った場合、この契約は取り消しとなる。呑めるか?」

 

「……」

 

 

 黒服は顎に手を添えた。

 

 

 

①こちらから先生に手を出さない。殺害しない。しかし、彼女が障害となった時は敵対可能。

 

②上の①を破った場合、この契約は破棄される

 

 

 

 提示された条件を並べ、考えてみる。

 ……特に問題はない条件だ。

 

 

 

 そもそも自分は先生に対し、興味を抱いている。

 

 自ずからその対象を潰すことはしない。

 二つ目の条件については、他のメンバーに言い含めれば問題はない筈だ。

 

 黒服は間平が着替えていた時のことを思い出す。

 

 

 

(間平さんを仲間に引き入れる利点として、ビナーとの戦闘を見せた際、感触は良かった)

 

 

 

 その際、黒服はここではない場所にあるゲマトリアの会合の場で、自身の研究結果の開示と、間平を仲間にする提案をしていた。

 

 説得の材料として持ち出したのが、ビナーとの戦闘記録だった。

 

 単身で自身の何倍もある機体を倒す筋力、それが織りなす速度、そして次元を超えた再生能力。

 

 

 マエストロ、ゴルコンダとデカルコマニーは好感触を示していた。

 

 ベアトリーチェはよく分からない。だがそれを目の当たりにし、口を挟まず、最後まで見入っていたことから悪くはない評価だと思う。

 

 

 

(そんな彼というカードが、私達が先生を積極的に殺害しようとすることで失ってしまう。そう伝えれば、問題はないでしょう……)

 

 

 

「クックック……その条件を呑みましょう。間平悠さん」

 

「おーけー。交渉成立だ、ゲマトリアの黒服」

 

 

 

 黒服と間平が手を握った。これで契約は為される。

 

 端末を渡され、間平は黒服との連絡が可能になった。

 光通信を行う端末から、光という共通点で、間平は再度色彩に意識が向けられる。

 

 

 

「しかし光か……。現段階では、その色彩ってのを完全に倒すのは無理そうだな。出来て、お前達が逃げる時間稼ぎくらいか?」

 

「十分です。頼りにしてますよ、間平さん」

 

 

 

 黒服の言葉に嘘はない。

 

 早速、間平は自分達を守ることを考えてくれている。

 

 そして時間稼ぎをする手段も考えついたようだ。

 来る時が訪れても、彼なら何とかしてくれる。そんな安心感があった。

 

 

 

「……今のユウさんとは違って」

 

「待て。斑目がどうかしたのか?」

 

「……私ですら同情してしまう惨状、と言うべきですかね。生きてはいますよ、ビデオカメラも三台届けましたし」

 

 

 

 表情に変わりはない。

 だが、間平はそれを聞いて不安を抱く。

 

 思えば自分は見送っただけだ。

 見送って……そこから先のことは分からない。

 

 

 

 俺という存在がバレていないか。再度壁にぶつかり、挫折していないか。アビドスでの生活を楽しめているか。

 

 

 

「……くそ」

 

 

 

 間平は歯を軋ませる。

 駄目だ。マイナスなことを考えれば考えるほど生まれてきてしまう。

 

 だが見に行くわけにはいかない。

 

 それは自身の存在を認識させてしまう可能性が高まるからだ。

 アビドスに、先生に、アル達に……そして斑目に。

 

 

 

 だから願うしかない。

 彼女達が今、青春を謳歌していることを。

 

 

 

 

 

 無言のままの移動からしばらく経ち、二人は外に出ている。

 しかし黒服がそこで立ち止まった。

 

 

 

「私はもう少しここに残りますので、間平さんは先にこの場所へ向かってください。誰も住んでいない、捨てられた都市の一画。先生達に見つかる可能性はないでしょう」

 

「ああ、助かる」

 

 

 

 黒服にはまだやることがある。

 交渉が上手くいったこと。仲間達にその共有を行うことだ。

 

 遠ざかる間平の背中を見送り、黒服も再度地下へと戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その数時間後、端末に連絡が入る。

 

 間平からだ。聞こえた声は妙に硬い。

 

 

 

『黒服。念のため確認するが、戦闘訓練とか設けたか?』

 

「? いえ、特には」

 

 

 

 突然、何かと思った。その答えはすぐに明かされる。

 

 

 

 ズダダダダダ!!!

 ドッゴーン!! バゴン!!!

 

 

 

 電話越しに弾丸がコンクリートに当たる音やら、爆発音が絶え間なく続いていた。間平が舌を打つ。

 

 

 

『聞いての通りだ。襲撃されてる。俺がさっき出たところと、お前が指定した場所の中間辺りでな』

 

 

 

 だから自分に黙って、黒服が訓練を設けたのかと勘繰った。

 

 寝起きのようなもので、身体を休められると思った矢先にこれだったので、ほんの少し機嫌を損ねたらしい。

 

 だが、反応からこの襲撃に黒服は関与してないと見たようだ。

 

 

 

『ゲマトリアの一人だろうな。嫌がらせか、俺を信用できないのか……お前も大変だな』

 

 

 

 少しだけ彼に向けられる声が柔らかくなった。

 

 直後、電話越しの音が大きくなる。攻撃が激化しているようだ。

 間平はどこか感心したような様子を見せる。

 

 

 

『おっと。こいつは呑気に電話しながらやる相手じゃないみたいだ。一旦切るぞ』

 

 

 

 意識を切り替える間平。休みたい、なんて甘い考えは捨てることにする。

 その状態で戦えば、命がいくつあっても足りない。

 

 狙撃銃と対空ミサイルが特に厄介だな、と溢した間平の声を最後に電話が切れた。

 

 

 

「……ベアトリーチェ」

 

 

 

 黒服は額に手を置く。

 

 ゲマトリアの一人。狙撃銃と対空ミサイル。

 間平の溢したヒントで、今回の襲撃を企てた犯人を黒服は突き止めた。

 

 会合の場での自分の開口は、一番最初に彼女に向くことになるだろう。文句の一つは言いたい気分だ。

 

 

 

 

 

 黒服は溜息を吐くのだった。




やっぱりね。
臨戦ホシノは強いんですよ……(恍惚)




そしてご覧ください。
亜空間タックル様より頂きましたFAです。


【挿絵表示】





すっっっっごくカッコいい!!!!
やっぱりスーツ+戦う男は良いっ!露出が全くないのに色気がある……!

色合いとか表情も好きです。
今の間平の立ち位置を表しているようでね……。

もう先生達がいる、光の差す場所へ帰るつもりはない。
彼女達を守るために、暗い世界に沈むことを選んだ。
そんな覚悟的なのを感じますね。



最後に亜空間タックル様、素敵なFAをありがとうございました!!
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