憑依in実験体のアビドス生徒   作:改名

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アイドルアヤネとセリカが可愛すぎた。
どっちも顔が良くてセクシー。
ありがとう……! 運営さんありがとう……!!!!



2.アリウススクワッド

 

 

 

 

 

 さて、と通信が切れた端末をしまう。

 

 間平が今いるのは、廃墟と化した街だ。

 

 ガラス張りのビル等が立ち並ぶ近代的な都市ではない。コンクリートで作られた建造物がよく目に付く、灰色の街だった。

 

 

 

「どうしたものかな」

 

 

 

 遮蔽物として利用させてもらってる、半壊した建物に背中を預けながらそう呟く。

 背後には複数人の気配があった。襲撃者である彼女達だろう。

 

 

 

「……やれ」

 

「了解」

 

 

 

 短い言葉が交わされた後、重く響くような音がした。

 

 

 

「げ」

 

 

 

 今の間平にとって厄介なものだ。即座に遮蔽物から離れる。

 

 

 

 ドゴン!!

 ガラガラガラ

 

 

 

 先程いたところが爆ぜた。

 それが欠片となって地面に落ちる音を聞きつつ、襲撃者達に対して並行するように走る。

 

 弾に当たらぬよう、低姿勢を維持しつつ、踵で地面を蹴り加速した。

 反対側の建物に逃げ込む際、こちらに発砲を続ける襲撃者の方に目を向けた。

 

 

 

「っやはり速い! ヒヨリ!!」

 

「ふぇぇ〜! 駄目です、照準が定まりませ〜ん!!!」

 

 

 

 発砲する、大胆に腹部を露出しているマスクの少女。

 泣き言を言いつつ、照準を合わせようとする狙撃手の少女。

 

 

 

「ごめん。後少しで終わる」

 

「……」

 

 

 

 対空ミサイルに次弾を装填する、首と両腕に包帯を巻いた黒マスクの少女。

 顔面を覆うマスクを被った薄い紫髪の少女。

 

 

 全員の姿を確認できた。それだけでも良しとする。

 

 

 一旦、間平が逃げ込んだ建物は住宅だ。

 玄関の鍵を掛け、なるべく入り口から離れた場所で座り込み、対策を講じる。

 

 こちらに発砲を続けていた少女の姿が、脳内に浮かんだ。

 

 

 

(リーダーは間違いなく、あの腹を出した奴だろうな)

 

 

 

 遮蔽物に隠れていた間平に対し、対空ミサイルを打ち込むこと。

 そして逃げる自分に対し、狙撃銃で狙うこと。

 

 二つともあの少女が指示していたことだ。

 それに対し、疑う様子なく指示を聞かれていたことから、彼女がリーダーだと考えていい。

 

 

 

(ありゃ多分、接近戦も強い。立ち振る舞いが違った。銃撃の精度も良い。加えて、全員に言えることだが俺を撃つことに抵抗がないときた)

 

(……厄介だね、どうも。少なくともこの、全盛期とは程遠い身体でやる相手じゃない)

 

 

 

 

 ……とはいえ、だ。

 

 

 契約ではある。

 あるのだが、今の役目は黒服を含むゲマトリアの護衛役だ。

 

 もしこの襲撃が、間平を信用できないことを動機とする黒服以外のゲマトリアによるものだとしたら。

 

 ここでの逃走は、その判断が間違っていなかったことの証明となる。

 発起人である黒服の立場も、悪くなるだろう。

 

 

 

「……はぁ」

 

 

 

 間平が溜息を吐く。

 

 

 

「……勝手に呼び戻しはしたが、あいつは俺の個人的な願いを守ってたし」

 

 

 

 後頭部を掻きながら、立ち上がった。

 台所に向かい、辺りを物色していると包丁を見つける。

 

 

 

「先生の危険を減らす契約を俺と結んでくれた」

 

 

 

 それを手に取り、軽く腕を傷付けた。

 以前程ではないが素早く再生するのを確認する。

 

 幸い、この他にも家の中には武器に出来そうなものがあった。

 

 

 

 勝機はある。これらを組み合わせれば。

 

 

 

 間平は外へ向け、歩を進めた。

 先生といた時の自分は想像していなかったことだろう。

 

 

 

 最終的には彼女のためでもある。

 黒服との契約には、先生に訪れる危機を未然に減らす性質も含まれているからだ。

 

 

 

 とはいえまさか……黒服のために戦う日がくるとは。

 だがまあ、彼がこちらにとって利のあることをしたのも事実だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その行動に対する答えが敵前逃亡は、ダサいよな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 細かく考えるのはやめだ。

 そう、情報が入り混じる思考を両断した。

 

 移動を終えた間平の視界には既に、襲撃者達の姿が目に入っている。

 

 彼女らは背中合わせで行動しており、飛び出せばその内の一人に見つかることは確定していた。

 その瞬間、4対1が始まる。厄介な状況に変わりはないが、それを作った襲撃者達を間平は素直に称賛した。

 

 

 

(流石。そう簡単に、不意打ちはさせてくれないか)

 

 

 

 それだけで彼女達の結束力の強さが分かる。恐らくずっとあのままだ。

 今迄のような、寄せ集めやヘルメット団とはわけが違う。間違いなく、対策委員会や便利屋68のような実力者だ。

 

 故に別の場所で一人ずつ、戦闘不能にしていくのは不可能に近い。

 

 

 

 

 ならばどうするか。

 いつも通り、こちらの得意分野。

 

 

 

 

「っあ、あの人が来ました! って何か装備してます⁉」

 

「家のドアと金属の棒……⁉」

 

 

 

 

 

 接近戦(インファイト)に持ち込むだけだ。

 

 

 

 走る間平の片手には、逃げ込んだ住居の玄関ドアがあった。スチール製の。

 ドアノブを持ち手に引き剥がし、盾として持ってきたのだ。

 

 もう片方の手。そこには金属で出来た棒が握られている。

 ゴミ捨て場でカラスに漁られないよう、ブルーシートの重りとして使われているあれだ。

 

 リーダーの少女が、ドアに覆われていない間平の身体の箇所を目掛け、連射を始める。

 

 

 

「こいつ……っ!」

 

 

 

 だが止まらない。

 弾丸は間平が振り回すドアに当たっている。

 

 一向に穴は空かず、音を響かせるだけだ。

 

 

 

「リーダー。無駄だよ」

 

 

 

 まだ距離的にはこちらに被害は及ばない。

 首と両腕の包帯が目立つ少女は、間平と自分達との距離を確認してそう考えたようだ。

 

 そして彼目掛け、対空ミサイルを放つ。

 真っ直ぐに飛んで行ったそれは……ドアを盾にする間平に直撃した。

 

 

 

 ドゴォォォン!!

 

 

 

 激しい爆発音と共に、熱気が彼女達の髪を揺らす。

 とてつもない威力だ。あれが直撃して、生きているとは思えない。

 

 リーダーである少女が、包帯の少女に目を向ける。

 

 

 

「……ミサキ」

 

「あいつ、只者じゃない。ドアを手首の動きだけで回して、弾を四方八方に弾いてた」

 

 

 

 ミサキと呼ばれた少女は、リーダーに顔を向ける。

 

 

 

「でも、これは流石に無理だったみたいだね」

 

「……油断するな。任務の説明時、マダムが話していただろう」

 

「再生能力のこと? ……傷どころじゃ済まないでしょ、あれなら」

 

 

 

 そして、着弾地点を見た。

 未だに立ち昇る黒煙は晴れていない。そこに影が現れないことからも、ミサキは間平を倒したと判断する。

 

 地面に小さな影が一瞬だけ見えたが、気にすることではない。恐らく吹き飛んだドアの破片か何かだろう。

 

 それよりも視界の端の方が気になる。そこには左右に揺れる水色の髪があった。

 狙撃手の少女だ。

 

 流石に鬱陶しく思ったのか、溜息を吐いてミサキはそちらに目を向けた。

 

 

 

「だからそんなオロオロしなくていいと思うけど。ヒヨリ」 

 

「だ、だって……。マダムは生け捕りを望まれてましたよね? けどあの人、きっと死んじゃってます。罰として痛いことをされるんでしょうか……」

 

 

 

 嫌ですね……。でもこれが人生なんですよね……。

 ヒヨリと呼ばれた少女は、ドンヨリとした空気を発生させる。ミサキは溜息を吐いた。

 

 

 

「可能なら、でしょ。マダムの口振り的に仲間が武器を手にしたから、自分の物にしたい。そうならないなら、武器を奪う。それだけだと思うよ」

 

 

 

 自分達が今ここにいる理由である、大人の姿が浮かぶ。

 彼女……ベアトリーチェは今の状況が面白くないのか、組んだ腕を人差し指が一定のリズムで叩いていた。

 

 

 

『私の仲間が最近雇った者がいます。中々厄介な能力で、致命傷でも数秒で再生を可能とするようです。そこでアリウス・スクワッド……貴女達に命じます』

 

『その者を襲撃し、私の下に連れてきなさい。……ああ、抵抗が激しければ排除しても構いません。仲間に強力な武器があるとなると、相反した時厄介ですから』

 

 

 

 リーダーの少女もそのことを思い出したらしい。そして難しい顔を浮かべる。

 その大人は、最初に自身の下に連れてくることを言った。その次だ、排除せよと述べていたのは。

 

 となると、一番彼女が望んでいるのは生け捕りだと考えられる。

 しかしそれをストレートに伝えると、ヒヨリが余計に暗くなることが想像できた。

 

 なので、やんわりと言う。

 

 

 

「ミサキの言う通りだ、ヒヨリ。それにもしお前の想像通りのことが起こったとしても、罰なら私が受ける……」

 

「……水臭いよサオリ。連帯責任って言葉もあるでしょ」

 

「わ、私も痛いのは嫌ですけど……サオリ姉さんだけが痛い思いをするのは、もっと嫌ですっ。が、我慢して私も罰を受けますぅ……!」

 

「……」

 

 

 

 リーダーの少女はサオリというらしい。そして慕われているようだ。

 発言を聞いた他のメンバーが彼女を囲む。サオリだけに責任を負わせないという、強い意志が見られた。

 

 それは一言も発していない薄紫髪の少女も同じなようだ。手話で抗議をしていた。

 

 

 

「ミサキ、ヒヨリ、姫……」

 

 

 

 サオリは胸に熱いものを覚える。

 だがそれと同時に、彼女達に罰を受けさせたくないという気持ちも強くなった。

 

 そんな時だ。

 

 

 声が、聞こえた。

 

 

 

「お前らも訳ありか……ここはまともな大人が少ないな、本当に」

 

 

 

 四人が同時にその方向を見た。姫と呼ばれた少女は見えないが、それ以外の全員が驚愕の表情を浮かべている。

 

 当然だ。

 

 

 

「いや、ゲマトリアに常識を求める方が間違っているか」

 

 

 

 そこには、消し飛んだはずの間平が何食わぬ顔で立っていた。

 サオリは目の前の光景が信じられない。思わず、口が開く。

 

 

 

「何故……」

 

「あん?」

 

「直撃した筈だ。どうやって……⁉」

 

 

 

 間平は表情を動かさないまま金属の棒を担いだ。

 

 

 

「ああ、そう見えてたか。安心した」

 

「何……っ?」

 

 

 

 サオリが眉を顰める。間平は後頭部を掻いて、黙ったままだ。

 

 そんなの答えるまでもなかった。

 どうせ、すぐに落ちてくる。

 

 

 

 ガァン! 

 

 

 

 突如、固い物が地面に落ちる音がした。ヒヨリが身体をびくつかせる。

 出処は、間平の背後だ。

 

 

 そこに落ちたのは、原形より小さく、歪んだ形になったスチール製のドア。

 

 

 サオリは気付く。間平が今、ここにいる理由を。

 

 

 

「まさか、さっきのは直撃したのではなく……っ」

 

「ああ。寸前でドアを少し倒した。それで爆風を拾って、上空に行っただけだ」

 

 

 

 ドアを倒すことで、対空ミサイルの弾は地面と挟まれる。

 その間で爆発が起これば、間平が乗ったドアは上空に飛ばされ、地上には巨大な爆炎だけが残ることになった。

 

 例え上空からの影が現れたとしても、破片か何かだと思い気にしない。

 だがその位置で落下して影が大きくなっていけば、流石に誰もが上を向く。

 

 

 

「そうならないよう、上空でドアをさらに高く、お前達から遠ざけるように投げたってわけだな。後は俺自身もその位置から離れて、今に至るってわけさ」

 

 

 

 四人の意識は既に間平に向けられている。

 彼が無事であるという驚きもそうだが、会話が挟まれたことにより、既に戦闘時の集中力は維持できていなかった。

 

 着地時にイカれた足は治っている。

 間平にとっては好機。つまり。

 

 

 

「会話はここまでにして」

 

 

 

 そう言った間平の姿が消えた。

 

 

 

 

 

 

「取り敢えず無力化させてもらうぞ」

 

「ひぃっ⁉」

 

 

 

 反撃の時だ。

 少し離れた場所にいた間平が、サオリ達を抜いて目前に現れたので、ヒヨリが叫び声を上げた。

 

 

 

「ッ⁉」

 

「はや……!」

 

 

 

 その声でようやく、サオリ達が振り返り間平の姿を捉えた。

 だが照準を向け終えていない。

 

 ヒヨリも反射で自身の銃口を向けるものの、集中が欠け、その動きに追いつけていなかった。

 よってヒヨリの行動は無意味なものとして終わる。

 

 

 

「させねェよ」

 

 

 

 銃身を片腕で押され、照準は簡単に逸らされた。

 両手を挙げ、腹部ががら空きになったところを間平は見逃さない。

 

 斬り払うように、棒を振りヒヨリの胴を打ち抜く。

 

 

 

「うぅっ……⁉」

 

  

 

 空気が破裂するような音と共に、ヒヨリの身体がくの字に折れ曲がった。

 流し目でその様子を見る間平。内心、この身体でも戦えそうなことに安心する。

 

 

 

(本来気絶する程の力で、動きが止まる程度か……正直、物足りなさを感じるな。また鍛え直しか)

 

 

 

 というのも、今の間平の力は『顔無し』だった頃と比べて少ない。

 

 当時は基本となる改造により底上げされた筋肉量に加え、さらに間平自身が実戦やトレーニングで培った筋肉が加算されていた。

 

 しかし今は、改造により底上げされた筋肉だけだ。当然、その出力は落ちている。

 この戦いが終わったら最優先で取り組む事項の決定だけ行い、間平は追撃に出た。

 

 

 

「うぇ⁉ ひ、引き寄せられますぅぅ⁉ まさかキスってやつですか~~~⁉ ま、まさかこんな形ですることにぃぃ」

 

「安心しろ、ぶつけるのは額同士だ」

 

「安心できません~~~⁉」

 

 

 

 ヒヨリの首に巻かれている白い布を引き寄せる。

 涙目で大声を上げながら、ヒヨリの顔が迫ってきた。傍から見れば案外余裕があるように見えるが、当の本人は必死である。

 

 だが頭突きの運命からは避けられず。

 

 額に強い衝撃。しっかり踏ん張ってされた頭突きだからか、ヒヨリは目を回してしまった。

 そのまま彼女の後ろ襟を掴み、間平はある人物を見る。

 

 

 

「ちょっと。冗談でしょ……!」

 

 

 

 その視線の先にいたのは、ミサキだ。

 嫌な予感がするも、反撃は出来ない。ヒヨリが間平の手元にいるのもそうだが、ここで撃てば自分達も巻き込まれる。

 

 

 

「受け取れ」

 

「……あ、無理これ避けられなっっ」

 

 

 

 避けようとするも、その動きよりさらに速い弾となったヒヨリが、ミサキの腹の辺りに吸い込まれた。

 ヒヨリが地面に対し平行に投げられたため、着弾時、立つミサキとで十字の形となる。

 

 そのままミサキを下敷きに、二人は10メートル程地面を滑った。

 

 

 

「ひぃぃぃ。お、お腹と頭が痛いです~……!」

 

「私も苦しいよ……!」

 

 

 

 ヒヨリは未だに続く痛みにより、動けない。

 

 ミサキは腹に受けた衝撃による痛み。それを強くするヒヨリの体重。それと普通にその重みから、立つのが困難な状態になった。

 

 しばらく戦闘に戻るのは困難だろう。

 だが念には念をだ。その内に厄介だった二人の武器を、遠方に投げ飛ばした。

 

 

 

 ダダダッ!!

 

 

 

「……っと。まだやるか?」

 

「くそ……!」

 

 

 

 そこを狙われるも、全ての弾を四方に弾く。

 指だけで金属棒を回し、その回転速度で即席の盾を生み出したのだ。

 

 当然のように行われるそれに、追いかけてきたサオリは舌打ちをした。

 表情には出ていないものの、間平も同様だ。

 

 

 

(傷が目立ってきた……。くそ、以前使ってた棒の感覚で酷使し過ぎたか)

 

 

 

 今ので間平の持つ金属棒には、弾丸によって作られた傷が出来ている。

 

 戦いを長引かせる程に消耗は生じ、最終的に今回のような対策は取れなくなることが想像できた。

 

 

 なら早めに決着を付けるべきだろう。

 

 

 間平は隠していた、もう一つの武器を取り出した。

 それを反対の手にある棒と同様に、何の構えもなく握っている。

 

 サオリがその手にあるものに目を向け、呟いた。

 

 

 

「……包丁か」

 

「ああ。人に向けて使うことになるとは思わなかった」

 

「ふっ……だろうな」

 

 

 

 サオリはそう言って笑った。

 

 持ち方で分かる。経験がある身から言わせれば、間平の持ち方はなっていない。

 

 身体能力は確かに恐ろしい。速度もだ。

 

 だが今迄の動きは、その2点をフル活用しただけに過ぎない。

 馬鹿正直な攻撃で、フェイント等はなかった。

 

 

 

 つまり動きに慣れてしまえば、読みやすい。

 

 

 

 サオリの目がスっと細まる。

 間平の動きに慣れるため、臨戦態勢に入ったようだ。

 

 そのためにサオリは彼の手足の動き。その初動に注視する。

 

 

 

(膨らみは、特にない。スタングレネードや煙幕といった、小細工も使えないだろう……好都合だ)

 

 

 

 だけでなく、彼が纏うスーツにも意識を向けた。

 といっても何か隠されてるものはないと判断し、間平の手足に意識を戻したのだが。

 

 間平はそれを見て、無機質な感じがするものの口角を少しだけ上げてみせた。

 

 

 

「……気合十分か。上等だ、こっちもやり応えがある」

 

「……」

 

「そんじゃ、いくぞ」

 

(ッくる……!)

 

 

 

 動いたのは、間平の左足。

 その踵が着地した直後、彼が勢いよく迫る。

 

 棒を逆手に持ち替え、振り上げた。サオリはバックステップでそれを避ける。

 そのまま照準を定めた。間平は勢いよく屈み、発砲された弾丸を避け、片膝をついたまま腰を中心に踵で半径を描く。

 

 

 

「大した反射速度だ……!」

 

「蹴りは褒めてくれないのか?」

 

 

 

 半径の範囲には、サオリの銃が入っていた。

 踵で蹴られた銃に持っていかれる形で、彼女の身体が揺れる。まるでヒヨリの時のように。

 

 好機だった。

 

 

 

「ああ」

 

 

 

 間平の問いかけにサオリが答える。

 背を向けつつあるその顔は、不敵に笑っていた。

 

 

 

「その後の動きが単調になるからな」

 

「ッ成程。勉強になる」

 

 

 

 追撃をしようとした間平の身体がぐらつく。

 

 サオリは加えられた力に逆らわず、寧ろ利用した。そのまま流れるように回転し、迫る間平の下肢を何発もの銃弾でズタズタにしたのだ。

 

 何とか転ばずに耐えたものの、自らの首を差し出すように、間平はサオリの前に膝をついた。

 そんな彼の額に、彼女は銃口を向けた。

 

 

 

「終わりだな。諦めろ」

 

 

 

 チェックメイト。

 そんな一文字が過ぎる。

 

 だがそれは、間平には適用されない。

 

 

 

「やなこった」

 

 

 

 顔を上げ、間平はそう言った。

 そして持っていた包丁を、自身の首に突き刺し、掻っ切る。

 

 

 

「なっ!?」

 

 

 

 腕に生暖かい液体がかかり、目の前が赤一色になったことでサオリはようやくそれが血であると認識した。

 

 勢いよく吹き出す血。しかも近距離。

 避けることも阻むことも出来ず、視界が赤く染まる。

 

 

 

(自殺? いや、違う……!)

 

 

 

 強く目を瞑り、血液を押し出して腕で拭う。

 その可能性は即座に切り捨てた。発砲音が鳴り響く。

 

 

 しかし、弾丸が人を貫く音がしない。

 何かが転がる音がする。そちらに発砲を続けるが、固い地面と当たる音だけを響かせた。

 

 もう、今は当たることはないだろう……。

 予想通りだ。

 

 

 

『中々厄介な能力で、致命傷でも数秒で再生を可能とするようです』

 

 

 

 自身に命令を下した、ベアトリーチェの発言を思い出す。

 サオリは奥噛みした。

 

 

 

(目潰し……! それも、自分の血液でッ)

 

 

 

 ……狂ってる。

 素直にサオリはそう思った。

 

 再生能力を持つからといい、躊躇なく自分の喉を掻き切る。

 しかもただの、目くらましという手段のために。

 

 まるで痛覚も、恐怖も持ち合わせていないようだ。

 

 

 

(いや……)

 

 

 

 ようだ、ではない。

 

 何故今更になって気付いたのだろう。

 サオリは今迄の間平の様子を思い返した。

 

 

 

『ッ成程。勉強になった』

 

『やなこった』

 

 

 

 無数の銃弾に下肢を貫かれた時も、首を掻き切る直前も。

 その表情に恐怖も、歪みもなかった。

 

 サオリの背に、冷たいものが伝う。

 

 

 自分が何と戦っているのか、分からなくなった。

 ……だが。

 

 

 

「ッマダムも無茶を言う。痛覚もない存在を生け捕りなど……!」

 

 

 

 気圧されそうになったものの、サオリは戦闘を続行する意思を固めた。

 馬鹿正直な攻撃というのは撤回する。小細工を使えないというのもだ。

 

 

 

(あの身体と精神性……例え武器がなくとも、その再生能力を活かした常軌を逸した攻撃をしてくるだろうな)

 

 

 

 だから包丁には注意が必要だ。

 それが彼に向けられた時は特に。目潰しの初動となるから。

 

 視界が回復してきた。涙が異物を押し出してくれたようだ。

 少し水で滲んだ景色が映る。そして迫る、小さな物体。

 

 

 

(手首ッ! だがこれは当たっても、大したことない!)

 

 

 

 銃身で受ける。少し両腕に衝撃が走っただけだ。

 本命は。

 

 

 

「お前自身だろう!!!」

 

「正解。これで終わらせよう」

 

「望むところだ……!」

 

 

 

 こちらに走り込んできた間平と、サオリは相対する。

 血の目潰しをする隙など与えない。

 

 気付かれないよう、サオリは足元にそれを落とす。

 

 

 瞬間、二人を白が包み込んだ。

 間平は舌打ちする。

 

 

「煙幕……っ」

 

(ああ、そうだ。小細工を使うのは、お前だけじゃない)

 

 

 

 間平は完全に視界が白に覆われた。

 対して煙幕を使えるサオリは当然、その対処法を持っている。

 

 サーモグラフィーを装着して、間平の姿を見つけた。

 こうして体温を通すと、自分達と変わらないようだ。それはサオリを安心させた。

 

 得体の知れない物より、同類だと知れる方がずっといい。

 そして恐らく彼なら……。

 

 

 

 辺りに一陣の風が吹いた。

 それは白い煙とその発生源ごと、遠くへと追いやる。

 

 

 間平だ。

 しっかりと地面を踏んだまま、金属棒を握り、薙ぎ払った体勢でいる。

 

 晴れた視界の中に、サオリの姿はない。

 

 

 

「そうくると思っていた」

 

 

 

 彼女は間平の背後にいた。

 

 スチール製のドアを片手で持ち、振り回す怪力。

 もし自分が同様の力を持ち、煙に包まれたら、力ずくでそれを解決するだろう。

 

 

 

「マジか」

 

 

 

 それは彼も同じだと思った。

 だから背後に回り込んだのだ。煙が晴れて、すぐに見つからないために。

 

 

 タタタタッ!!!

 

 

 間平の両足首を撃ち抜く。簡単に彼は両膝を付いた。

 後は制圧するだけだ。足は潰しているので、振り返っての攻撃はできない。

 

 膝で振り返り攻撃が出来たとしても、足で地面を踏んでいる状態より、速度は遅くなるだろう。

 一度捌いて、組み伏せればいいだけだ。

 

 

 

(死ににくいと言うなら、自由を奪えばいい。背後から地面に伏せさせ、後頭部の辺りに力を加えていれば、いかに怪力であろうと起き上がれない筈だ)

 

 

 

 そしてマダムに身柄を捕らえたことを報告。

 援軍を求めれば、間平を欲しがる彼女は応じてくれる筈だ。

  

 冷静に考えてみれば、簡単なことだった。

 

 

 

「これで、終わらせる……!!!」

 

 

 

 間平に動きはない。

 

 任務の終わりが見えたからか。

 勝利を確信したサオリが、組み伏せるべく間平に迫る。

 

 

 

 それは悪手だった。

 

 

 

 

「がっ……!!?」

 

 

 

 サオリの脳が揺さぶられる。

 

 強い衝撃だ。

 その威力に口の端からは唾液が垂れ、瞳は震えている。

 

 恐らく数秒後には、意識が無くなっているだろう。

 

 

 何故だ。

 

 

 薄れゆく意識の中、疑問だけがサオリの脳を巡っていた。

 

 間平の足を封じ、両膝を着かせ。

 その状態から繰り出す攻撃など対応できると思っていたのに、何故。

 

 

 

(……そういえば、顎が痛くて、生暖かい)

 

 

 

 触れるとジンジンと痛む顎。

 そこでようやく、ここを攻撃されたことを理解した。それにより脳が揺らされたのだ。

 

 だが、この液体は何だ。

 触れて目の前に翳す。それは赤い血液だった。

 

 

 

(そう、か……そういうこと、か)

 

 

 

 

 サオリは目を細める。

 重力に従い、落ちていく後頭部。

 

 その途中で見たものは、先が赤く染まった金属の棒だ。

 先端からはまだ、赤い水滴が垂れている。

 

 成程と納得した。

 それなら確かに、振り向かなくても素早く攻撃できる。

 

 

 

「自分の身体ごと、やるとはな……」

 

「そこまでしなくちゃ勝てなかった。全く……」

 

 

 

 仰向けで倒れたサオリに、間平はそう言った。

 もう彼女は気絶している。それでも言わずにはいられなかった。

 

 間平は読んでいた。

 自分の再生能力を知れば、まずは足を壊し、押し倒して無力化してくるだろうと。

 

 だから足を壊された際、油断を誘うため、諦めたかのように動きを止めた。

 

 そして駆け出す音を聞いた瞬間、数秒後にサオリの顎がある場所を予測。そこ目掛け、自身の身体を貫いて金属棒による突きを仕掛けたのだ。

 

 

 

 間平は後頭部を掻いて、サオリを見下ろす。

 その表情は、ほんの少し穏やかだ。

 

 

 

「間違いなく強敵だったよ、お前達は」

 

 

 

 そう、称賛の言葉を浴びせるのだった。

 

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