憑依in実験体のアビドス生徒   作:改名

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明日からいきなり寒くなるみたいですね……。
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3.会議

 

 

 

 

 

 

 

 

 銃器を向けられる音がした。

 新手か、と間平は腹部に刺さったままの金属棒を引き抜く。

 

 その人物に顔を向けた。

 残念ながら予想は外れる結果となる。

 

 そこにいたのは仮面で顔全体を覆う、薄紫髪の少女だった。

 間平を襲撃してきたうちの1人だ。

 

 

 

「……4人いたな、そういえば」

 

「……」

 

 

 

 既に無力化した3人と違い積極的に攻撃を行ってこなかったため、印象は薄い。

 

 そんな彼女が今になって、自分に銃を向けている。

 恐らく仲間が危ないと思ったからだ。

 

 この少女は積極的に挑んでこなかった。目前で繰り広げられる激戦に、足手纏いになると感じたのだろうか。

 そんな彼女が今、仲間のために、単身でこちらに挑もうとしている。

 

 その事実に、間平の呼吸が数秒間止まった。

 

 

 

(……あれから時間は経っていない筈なのに、妙に懐かしく感じるな)

 

 

 

 間平の脳裏に、共に過ごした少女達の姿が映る。

 

 アビドス対策委員会。便利屋68。

 彼女達もきっと、仲間のためならこうしただろう。

 

 ……少しだけ、間平の口角が上がった気がした。

 そして彼は金属棒を肩に担いだ。もう戦う気はないと言わんばかりに。

 

 

 

「? ……」

 

 

 

 困惑しているのか。彼に影響を受け、戦う気をなくしたのか。

 少女はゆっくり銃を下ろして、首を傾げる。

 

 

 

「もう勝負はついたも同然だ。これ以上やるつもりはない。俺は帰るから、仲間が動けるようになるまで待つなり好きにしな」

 

「……」

 

「手話……喋れないのか、お前」

 

 

 

 銃から両手を離し、少女は手話を行った。

 お礼とも、何かを聞きたいようにも思える。

 

 間平は後頭部を掻いた。

 

 

 

「あー……悪いな。道徳の教科書で一覧表を見たことはあるが、何を伝えたいのか全く分からん」

 

「……」

 

 

 

 少女は顎に手を置き、考えるような仕草を見せる。

 今度は手話ではなく、ジェスチャーを選んだようだ。

 

 自分自身に向けて、2回指差す少女。

 

 

 

「何だ? こっちを見ろって?」

 

 

 

 間平の問いに少女は頷くと、ジェスチャーを続けた。

 気絶しているサオリを指差してから、真下に銃を向けて発砲する素振りを見せる。

 

 間平はそれを見届け、一つ溜息を吐いた。

 傍から見れば、妹の遊びに付き合っている兄のようだ。そして肝心の内容についてだが。

 

 

 

(……成程)

 

 

 

 大体、少女が何を言いたいのかを察した。

 間平が頷いて見せると、彼女は素振りをやめる。

 

 

 

 仕留めないのか。

 

 

 

 恐らくそう聞きたいのだろう。

 そう判断した上で、間平は言った。

 

 

 

「そんなことしねェよ。お前ら子供だろ。マダムってのに命じられてやったみたいだしな」

 

 

 

 間平はアリウス・スクワッドの会話を聞いている。

 

 それ故、目的が自分の身柄であること、その指示をしたマダムと呼ばれる人物が日常的な体罰を彼女達に与えてることも把握していた。

 

 後頭部を掻き、一人呟く。

 

 

 

「……しっかし、ゲマトリアにも面倒臭い奴がいるもんだ」

 

 

 

 ゲマトリアのメンバーによる嫌がらせ。もしくは自分が仲間になるのに相応しいのかの見極め。

 浮かんだ今回の襲撃の理由はその2つで、間平は後者が有力だと思っていた。

 

 その場合、逃亡は自身を誘った黒服の首を絞めることになる。それは避けたかった。

 何故なら彼との契約は、先生に迫る危険を減らす役割がある。

 

 また、未だ複雑な気分ではあるが、契約の機会を作ってくれた黒服に恩があるのも事実。

 そんな彼の期待に、逃亡という形で返すのはカッコ悪い。そう思ったから、戦うことを選んだ。

 

 

  

「嫌がらせが襲撃の目的とは……組織である以上、足を引っ張る存在がいるのはどこも変わりないのかねェ」

 

 

 

 そう言う間平の起伏のない表情に変化が見られたのか、少女が首を傾けた。

 

 

 

「?」

 

「ああ、いや。何でもない。こっちの話だ」

 

 

 

 会話を切り捨てるように、間平は背を向ける。

 そしてぶっきらぼうに手を上げた。

 

 

 

「またな。今日は帰る」

 

「……」

 

 

 

 『またな』。

 その言葉に違和感を覚えながらも、少女は遠ざかる間平の背中に対して、小さく手を振った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 間平は黒服の端末に連絡を入れる。

 黒服に指定された場所に着いたのだ。そこは廃墟と化したマンションだった。

 

 見た目はおんぼろだが、入ってみると新築同然だ。照明がフロントの大理石を照らしていることから、電気も通っていることが分かる。

 

 拠点。つまり今日からここに住めということなのだろう。一人で住むには随分な大きさだが。

 

 間平は到着の連絡をするため、黒服の端末に通信を試みた。すぐに繋がる。

 

 

 

『クク。間平さん、無事到着されたようですね』

 

「ああ。ちょっと服が汚れたけどな」

 

『襲撃も些事なトラブルでしたか……流石は間平さんだ』

 

「些事ねェ。そう言われると微妙だな」

 

 

 

 実際、普通の人間なら致命傷になるような手段を用いた勝利だ。それも複数回。

 この身体でなければ、服が汚れただけなんて軽い結果で終わらなかった。

 

 

 

「あ、そうだ」

 

『?』

 

 

 

 身体に関することで気になる点がある。

 端末に目をやりながら、間平は言った。呆れてるような、そんな声色だ。

 

 

 

「この身体、痛覚がないぞ。俺を呼ぶ前にお前、何か手を加えたろ」

 

『ククク……お気づきになられましたか。痛みで動きが鈍ることもなく、常に桁外れの速度で肉体を運用できる。貴方はその前提を条件に、真価を発すると思いまして』

 

「当然のように斑目の身体を弄びやがって……今更ではあるけどよ」

 

 

 

 複雑ではあるが、黒服の言うことは一理ある。

 痛みがないことで動作に支障が出なかったのは事実だ。それに戦いやすかった。

 

 やはり痛覚がない状態で戦っていた期間が長かったからか、自分はこっちの方がしっくりくる。

 

 人間として既に、自分は終わっているのかもしれない。

 まあそれも今更の話だ。

 

 

 

「取り敢えず今日は疲れたから寝る。明日からは鍛え直しだな」

 

『それはそれは……頼もしい』

 

「あと黒服。鍛えることと関連して1つ、お前に頼みがある」 

 

『何でしょう?』

 

 

 

 間平が言葉を発する。

 

 

 

 

 

「────」

 

 

 

 

 その一言に、まず黒服は正気を疑った。

 黙りこくる彼に、間平は声を掛ける。

 

 

 

「どうした。通信状態悪いのか?」

 

『……いえ。すいません。驚きのあまり言葉が出ず……』

 

 

 

 そう言ってから、しばらく黒服は黙り込んだ。

 何とか間平の頼みを咀嚼し、答える。

 

 

 

『可能だとは思います。しかし……間平さんは良いのですか? 彼女は』

 

 

 

 口に出さずとも、その続きは予測できた。

 した上で、間平は言う。

 

 

 

「分かってる。だがやっぱり、対人戦は定期的にしたい。そのために必要なことだ。以前の俺に近付きやすくなるし、お前にとっても嬉しいことだろ?」

 

『まあ……そうですね』

 

「それに1度失敗したことを繰り返す馬鹿ではないだろ、そいつも」

 

 

 

 黒服は考え込んだ。

 正直、何ともいえない。寧ろ余計に固執してくる可能性もある。

 

 だが間平が以前の……全盛期の実力に戻るのが早まるのは、自分にとっては喜ばしい。

 黒服は小さく頷いた。

 

 

 

『……分かりました。提案してみましょう。結果は明日に連絡いたします』

 

「助かる。ありがとな」

 

 

 

 これから睡眠をとる自分に気を遣ったのだろう。

 黒服に礼を述べて、間平は身体を洗い、ベッドに横になるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「失礼。間平さんから連絡がありましたので、退席を」

 

「ほう。例の少年からか。襲撃されていたようだが、大丈夫だったのか?」

 

「ええ。マエストロ。たった今、襲撃者を撃退したと報告がありました」

 

 

 

 会議室に戻った黒服に、四人分の視線が集まる。

 先程まで会議をしていたが、連絡があったため退席していた彼が戻ってきたためだ。

 

 

 双頭のマネキン人形のような姿をした、タキシードを身に纏っているマエストロ。

 

 首がなく、コートを纏いステッキを持ったデカルコマニー。

 その手に持たれた、写真に写っている後ろ向きのシルクハットを被った男の姿をした、ゴルコンダ。

 

 黒い長髪に、赤い肌をした女性。白いドレスを身に纏っているベアトリーチェ。

 

 

 

「一人でアリウス自治区の精鋭をか。それは凄まじいな」

 

 

 

 マエストロが感嘆の声を上げる。デカルコマニーとゴルコンダも同様のようだ。

 

 

 

「ええ。道理でビナーも倒せるわけです。私は以前から申してる通り、彼の加入を歓迎します」

 

「そういうこった!」

 

「さて。襲撃を企てた貴下はこの結果をどう思う? ベアトリーチェ」

 

 

 

 この場にいる全員は、既に襲撃を指示した者がベアトリーチェであることを把握している。

 会議の出だしに、間平との通話を終えた黒服が彼女に対し苦言を呈したからだ。

 

 間平が見て零した襲撃犯の武器で、黒服は襲撃をしているのがベアトリーチェの指示によるものだと見破った。  

 彼女もそれを素直に認める。

 

 というより、開き直ったといった方がいいかもしれない。

 

 

 

『私は何も間違ったことはしていません。今後身を預けるのに適しているかどうか。先に組織に属する者として、その力を量るのは当然の権利では?』

 

『それにビナーを倒したのでしょう。それ程の腕があるのなら、苦言を呈する必要はない筈です。あの動画が全て事実でしたら、ですけど』

 

 

 

 これには黒服も黙った。沈黙が会議室を覆う。

 そんな時、黒服の端末が鳴り、退出して今に至った。

 

 

 

「……そうですね。ええ。彼女達を倒したのなら身を預けてもいいと思いますよ。ご自由になさってください」

 

「クク。ベアトリーチェも納得して頂けたようで何よりです」

 

 

 

 素っ気ない態度で言うベアトリーチェに、黒服は笑みを浮かべる。

 さて、ここからが本題だ。黒服は彼女に向けて、言葉を継ぐ。

 

 

 

「実は間平さんは、まだ万全の状態ではありません。ビナー戦の時を100とするなら、今は精々45といったところでしょう」

 

「それが何です?」

 

 

 

 ベアトリーチェの声が固くなった。態度にヒビが入ったように見える。

 

 彼女は自然な様子を振舞っていた。

 

 だが支配するアリウス・スクワッドが負けたことをこの場で明かされたことに加え、彼女達を負かした彼が全力ではないことを知らされたからだろう。

 

 

 

「実は先程、間平さんからこの襲撃を企てた者……つまり貴女宛てに提案をしたいことがあると言われましてね、ベアトリーチェ」

 

「は?」

 

 

 

 黒服の発言に、ベアトリーチェの苛立ちがなくなる。困惑が勝った様子だ。

 それは他の者も同様だった。

 

 

 

「自身を狙った者に対し、非難するわけでもなく提案とは。随分と器量に溢れる方のようだ」

 

「そういうこった!」

 

「して黒服。彼は何と?」

 

 

 

 マエストロの促しに、黒服は答える。

 自分が耳を疑った、彼の発言に重ねるように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『マダムっていう奴に伝えてくれないか。今後、定期的に今日俺を襲わせた部隊と戦わせてほしいってな』……とのことです」

 

 

 

 

 その言葉に、辺りが静まる。

 ゲマトリアのメンバーは先程の黒服と同様に、驚きでそのようになっていた。

 

 最初に復活を果たしたのは、ベアトリーチェだ。

 

 

 

「何故? 理解に苦しみます。それにその頼みを聞いたとして、私に何のメリットが?」

 

「……ああ、成程」

 

 

 

 対照的に、冷静な様子でマエストロが呟く。

 黒服の間平が万全の状態ではないという発言と、彼の頼みを結び付けた。

 

 ベアトリーチェに顔を向ける。

 

 

 

「理解したよ、ベアトリーチェ。彼の行動は、貴下の2つの疑問の答えとなる」

 

「どういうことです?」

 

「恐らく彼はアリウスの精鋭をこのように見ている……成長材料と」

 

「!」

 

「そして貴下……いいや、私達にとってメリットもある。それは彼が、万全の状態に戻ることだ。ビナーを圧倒していた、あの時のな」

 

 

 

 自分の何倍もの大きさの個体を殴り飛ばす力。

 人間の身からは考えられない速度。そして、再生能力。

 

 それは確かに魅力的だ。少なくとも組織にとっては。

 しかしベアトリーチェ個人としては、安易に首を縦に振れない。

 

 

 万全な状態でないのにも関わらず、自身の駒であるアリウス・スクワッドは勝てなかった。それを更に強化させるなど、冗談ではない。

 ゲマトリアの中の武力という点で、黒服が最も優れた状況になるから。

 

 

 

「それは頼もしい。不思議と彼なら、色彩から私達を守ってくれる気がしてきますね」

 

「そういうこった!!」

 

(クッ……!)

 

 

 

 ベアトリーチェが奥噛む。

 状況は彼女にとって、悪くなる一方だ。それでも諦めるつもりはなかった。

 

 その様子を黒服は見ている。

 

 このままでは間平の頼みは通らない。

 だから黒服はベアトリーチェの首を縦に振らせるべく、糸を垂らす。

 

 

 

「ベアトリーチェ。間平さんの提案は、もう一つ貴女にメリットがありますよ」

 

「……何です、それは」

 

「貴女の優秀な生徒なら、戦闘を重ねることで彼の動きを追えるようになるかもしれません。それに加え考えたくはないですが、彼が離反した場合一番私達の中で力を持つ者は……貴方ということになる」

 

「……ふ、ふふふ。成程。確かに、そう考えると私にもメリットはありますね」

 

 

 

 ベアトリーチェは嗤う。

 

 アリウス・スクワッドが間平と拮抗する存在になること。そのまま彼が消えれば、一番武力を持つ者は彼女達を支配する自分になる。

 

 そう全てが上手くいくとは思えないが、少なくとも先程まで抱いていた不愉快な気持ちはない。

 

 ひとしきり嗤った後、顔を上げた。

 

 

 

「いいでしょう。今後定期的に、我が領地に足を踏み入れることを許します。間平とやらに、そう伝えておきなさい黒服」

 

「……クク。ありがとうございます、ベアトリーチェ」

 

 

 

 

 こうして会議が終わる。

 そしてこの数週間後、間平は降り立つのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 アリウス自治区に。




あと2話くらいでプロローグは終わります(予定)
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