憑依in実験体のアビドス生徒   作:改名

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前回の後書きで「次回は補修授業部編!」と言いましたね。
あれは嘘になりました。ごめんなさい。
次回が終わったら、本当に補修授業部編に移行いたします。

間平がどうなったのかをね……書きたかったんだ。


エピローグ 記憶と後悔①

 

 

 

 

 

 アリウス自治区に轟音が響く。

 呼応するように大地と空気が震えた。その時自治区にいた者達の身体を、例外なく揺らす。

 

 こんなことは初めてだった。

 そのような事態であるにも関わらず、動くことはない。

 

 

 

(一体、何が起きている......⁉)

 

 

 

 アリウス・スクワッドのリーダーとして、サオリがその選択を取る筈がなかった。

 すぐさま震源地に向かう。廃墟と化した街の屋敷が崩れ落ち、砂埃を立たせていたのは目撃済だ。

 

  

 

「何だ何だ?」

「襲撃か⁉」

「応戦しないとっ」

 

 

 

 慌てて、武器の点検や戦闘準備を行う生徒達を尻目に、サオリは先へと進んでいく。

 しばらくすると3人分の走る足音が聞こえてきた。それはどんどん近付いてくる。

 

 他の足音は聞こえない。ならその者達が誰かは明らかだ。

 サオリは一つ溜息を吐いた。

 

 

 

「この体たらく。一番乗りは私達になりそうだ」

「そうだねリーダー。......武器の点検くらい済ませとけばいいのに」

「何かあったら、私達だけでしばらく戦わないといけないんでしょうか......戦うんでしょうねぇ」

「......」

 

 

 

 足音の主は、ミサキ・ヒヨリ・アツコの3人だ。

 既に装備を整えた状態であった。彼女達もあの轟音を聞いて駆け付けたようだ。

 

 

 

「あ、でもまだ間平さん。間平さんが既に駆け付けて、対処してくれている可能性も......」

「そうなっていたら、こっちも楽で助かるけど」

 

 

 

 肩を落としていたヒヨリだが、間平の存在を思い出し頬を緩ませた。

 その様子に呆れつつも、同意を示すミサキ。

 

 

 

「......?」

 

 

 

 間平。

 その単語を聞き、アツコは言いようのない不安に襲われる。こんなことは初めてだ。

 

 胸の内に黒い靄がかかり、それがずっと離れないで気持ち悪い。

 何か、取り返しのつかない事態になってしまうような。そんな気がした。

 

 

 

(どうして今、この思い出が浮かぶんだろう......)

 

 

 

 にも拘らず、進む足に相反するように彼女の脳は......過去の情景へと逆行する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「子供の作り方を教えてほしい......?」

 

 

 

 心なしか、鉄面皮な間平の目尻が少し痙攣しているように思えた。

 気にした様子なく、アツコはこくりと頷く。その仮面の下では、小さく笑みを浮かべる悪い女の子がいた。

 

 というのもこの場にいるのは、間平とアツコだけではない。

 サオリ・ミサキ・ヒヨリもいる。彼女達を視界に収めてから、間平が言った。

 

 

 

「ここでか?」

「何? 私達は邪魔者?」

「子供......確かにどうやって生まれてくるんでしょう」

 

 

 

 ミサキは彼に対する反抗心だろう。ヒヨリは単純に気になったようで、その場から離れようとしなかった。

 

 場の空気が、子供の作り方について話をする流れになっている。

 それを何となく感じ取り、間平は後頭部を掻いた。

 

 一旦、包み隠さず話す自分の姿を想像してみる。

 

 

 

『そりゃあな。セッ』

 

 

 

(殺すぞ)

 

 

 

 言えるわけがない。瞬時に想像の中の自分を消し去る。

 

 一番楽な回答ではあるのだが、大人としてどうかと思った。

 子供を作る方法を話すには、どうしても彼女達の身体的特徴に触れる必要がある。

 

 教えてほしいと言われたからとはいえ。

 全てを詳細に教えられるわけじゃないとはいえだ。

 

 

 異性である自分が、その特徴を本人達の前で話すべきではない。

 学生時代、既に女子は教室、男子は図書室に移動し、同性の大人より性教育を授かる形式だった間平からすれば、その結論に至るのは当たり前のことだった。

 

 

 表情が抜け落ちているとはいえ、彼には葛藤を生じさせる心はある。

 

 

 

(さて、どうするべきかな......)

 

 

 

 悩む間平。そこに影が覆う。

 見上げてみれば、サオリが立ち上がりこちらを見下ろしていた。

 

 

 

「こい」

「ああ」

 

 

 

 くい、と彼女は顔を他所の方角に向ける。間平は瞬時に頷いた。

 直感で仲間だと悟ったのだ。そして二人はその場から離れていく。

 

 ミサキとヒヨリは遠ざかるサオリ達の背中に対し、顔を見合わせる。

 

 

 

「何あの二人」

「さ、さぁ? 何でしょうね......」

 

 

 

 困惑する二人。そしてこちらの様子を時折窺いながら、作戦を立てるように背中を向けて話すサオリと間平。

 目の前に広がる光景は、まるで平和な家族そのもの。いつまでも続いてほしいと思える。

 

 心地よい感情を抱きながら、仮面の下でアツコは微笑んだ。

 

 

 

(ふふ。サッちゃんと間平、どんな説明をしてくれるのかな?)

 

 

 

 その顔は知っている者の顔だった。

 まるでサンタクロースの正体を知っていながら、両親にサンタクロースについて尋ね、どういう答えをするのか楽しむ子供だ。

 

 ……小悪魔。今のアツコはそう表現するに相応しい。

 

 幼さと色気を両立する妖しい笑みで、彼女はサオリと間平を見つめるのだった。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方。

 その観察の対象となっているサオリと間平は、小さな声で話し合いをしていた。

 

 

 

「とりあえず、お前は『理解している側』だって認識でいいか」

「ああ。その認識で構わない」

 

 

 

 間平の問いかけにサオリは頷く。

 だが念には念をだ。続けて間平は言った。

 

 

 

「これで子供は畑で生まれるだの、コウノトリが運んでくるなんてのは無しだぞ?」

「安心しろ。ちゃんと分かっている。信用できないなら、今この場で手順を全て話してもいい」

「やめろ。俺をどんな鬼畜男にするつもりだ」

 

 

 

 公衆の面前ではないとはいえ、辱めといっても過言ではない所業である。それをやらせるのは勘弁願いたい。

 間平は降参したように、軽く両手を上げた。

 

 

 

「分かった。疑って悪かったよ。本題に入ってくれ」

「話が早くて助かる。間平......何とかして、姫の質問をはぐらかしてもらえないか」

 

 

 

 つまり、子供の作り方に対する正確な回答を控えてほしいということだ。

 

 間平にとっては願ってもない言葉である。

 彼が首を横に振るわけがなく、静かに首肯した。

 

 

 

「安心しろ。最初からそのつもりだ」

「っ......すまない。恩に着る」

「? 何だってそんな命の恩人に向けるような顔を......」

 

 

 

 間平はサオリの反応に首を傾げる。その反応が内容に見合わない大きさだったためだ。

 溜息を吐きつつ彼は口を開く。

 

 

 

「それに、これは俺のためでもあるんだしな」

「お前のため?」

 

 

 

 ああ、と間平は頷いた。

 アツコの方に視線を寄越し、サオリに尋ねる。

 

 

 

「顔は見たことないが、多分アツコが最年少だろ? 背丈とか雰囲気から察するに」

「? ああ。15歳だ」

「……15歳の少女に性知識を教える男なんて、絵面がやばいだろ。俺の名誉を守るためでもあるってこった」

「だから気にするな、か......お前がそう言うなら、そうさせてもらおう」

 

 

 

 アツコの年齢が想定より幼かった。内心驚くが、間平はそれを表に出さない。

 そのためサオリは間平の内心のブレに気付くことはない。薄く笑うのみだ。

 

 それが本当に安心しているようにも見えた。

 

 

 

「……余計なお世話かもしれないけどな、サオリ」

 

 

 

 先程の反応も然り、少し大げさなように思える。間平は後頭部を掻きながら言った。

 少しだけ今後が心配になったのだ。

 

  

 

「姫と呼んでいるとはいえ、アツコに対して少し過保護過ぎないか? 抵抗がある話題だが、いずれ教えなきゃいけない時もくるだろ。覚悟くらいはしておいた方がいいと思うぞ」

「……そんな覚悟は必要ない。教えるつもりは毛頭ないからな」

 

 

 

 サオリはそう言い切ると、間平を見た。

 その瞳は、鋭い刃物のようだ。強い意志を感じるものだった。

 

 

 

「姫は特別な立場だ。必要のない知識を取り入れるのを防ぐべきだ」

「義務みたいに言うんだな。......本音はそうじゃないだろ。お前のあの時の目は優しいものだった。アツコを思っている目だ。そんなお前が、理由もなくあいつの自由を奪うような真似するわけがない」

「っ」

 

 

 

 間平の言葉は、サオリの胸を強く揺さぶった。

 本当の気持ちを言い当てられた動揺。アツコに対する罪悪感。

 

 そして自分に対して、『アツコを思っている』『優しい』と間平が評価してくれている嬉しさ。

 

 内心が揺れ、つい胸に隠していた言葉が吐かれた。

 

 

 

「っ……教えては、いけないんだ」

 

 

 

 サオリは強く拳を握る。

 その拳からは音が鳴っていた。とてつもない力だ。

 

 血が出てしまうのではないかと思う程だった。その拳に見合う表情でサオリは歯を軋ませる。

 

 

 

「そういう役目を、姫に……アツコにさせるわけにはいかない」

「……またベアトリーチェか」

 

 

 

 サオリの表情と拳に入る力。そういう役目、という単語。

 嫌な予感がした。彼女をこのようにさせるのは、短い経験上ではあるが、ベアトリーチェだけだ。

 

 間平の呟きにサオリは俯く。

 そして彼女から言われたことを話した。

 

 

 

 ある日のこと。サオリはベアトリーチェから呼び出される。

 今後のために、性に関する知識を授けておくと。その身体を有効に使う方法を知識として身につけろと。

 

 何となくロクな知識じゃないと思ったサオリは尋ねる。

 自分だけにして、他の者は巻き込まないでくれと。

 

 ベアトリーチェは珍しく首肯した。その顔は悪辣な笑みを浮かべている。  

 

 

 

『ミサキは身体が細い。骨に少し身が乗った程度の、見栄えのない身体。それに見るのも憚られる無駄な自傷の跡。教える価値もありません』

『ヒヨリもそうですね。胸部と尻は無駄に大きい、それは認めましょう。しかしあれはダメです。肥えている部位も多すぎる。魅力的とは言えません』

『アズサは論外です。あんな小さく平坦な身体、誰が好むというのやら』

 

 

 

 俯いて歯を食いしばるサオリ。

 仲間が当然のように侮辱される。しかし耐えなければならない。

 

 それが彼女達を守ることに繋がるから。

 

 

 

『ですがサオリ、貴女は違う。その身体は私程の美しさはありませんが、まあ及第点と言えるでしょう。いつか必要が出てくるかもしれません、だから知識を授けるのです』

 

 

 

 フォローのつもりはないだろうが、それでもベアトリーチェの評価は全く嬉しくなかった。

 寧ろ次の彼女の言葉で、サオリは絶望を強いられる。

 

 

 

『ああ。もし貴女が音を上げたら、アツコに授けるのも良いですね。少々物足りないですが、彼女の身体も及第点ですし。生きてさえいれば、儀式のための贄に出来ますからね』

 

 

 

 

 

「知識を得る経緯がクソ過ぎる」

 

 

 

 聞き終えた間平がそう舌を打った。

 表情に変化は見られないが、その心の内は炎のように燃えている。

 

 アリウスだけ世界観が違うように思えた。

 ここが学園都市キヴォトスの中だということを忘れそうになる。

 

 

 

(やはり隠して正解だった......)

 

 

 

 その激情をサオリは感じ取っていた。そしてゆっくり息を吐く。

 

 彼女はアツコが最終的に生贄にされること。そこは敢えて伏せて、間平に話した。

 もし話せば、彼はすぐにベアトリーチェのもとへ向かっていたかもしれない。

 

 ......嬉しくはある。そこまで思ってくれているのは。

 しかし怖くもあった。もし間平でも敵わず、失敗してしまえば自分達は余計に苦しむことになるからだ。

 

 だから現状維持に舵を切った。

 それが問題の先延ばしであることを理解しつつも、サオリは進めないでいる。

   

 

 

「どうしたサオリ。辛気臭い顔をして」

「......何でもない。私は元々、こういう顔だ」

 

 

 

 追及されればボロが出そうだ。

 だからサオリは敢えて、眉頭の辺りに力を入れる。険しい表情を作った。

 

 

 

「間平。私は今言った経緯で性に対する知識を得た。音を上げることもなかった」

「......」

「それはアツコを守るためだ。だがここでお前が彼女に教えれば、その行動は水の泡になる。知識を得たアツコは、機会が来たらきっと私の代わりになろうとする......それは避けたい」

「分かってる。さっきは悪かったな......事情も全く知らないのに、していい発言じゃなかった」

 

 

 

 男の比率が限りなく低い、このキヴォトスで必要となる時がくるのか。

 そんな疑問が過りはしたが、口に出さないでおくことにした。

 

 根拠のない希望を見せることになるし、その発言はサオリの覚悟に対する冒涜だ。

 間平に謝罪に対して、サオリは首を振る。

 

 

 

「いいんだ。それじゃあ、そろそろ行こうか」

「ああ」

 

 

 

 そして二人は、アツコ達の元へ戻るのだった。

 思いをより強固にして。

 

 

 

 

  

 

 

 

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