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Xで見ました。
あと40日で今年が終わるそうです。
……え、嘘だよな?
「先生ー。先生ー?」
大声とまではいかない程の声量で、斑目は先生を呼び続けていた。
合宿所の中を巡回したが先生の姿は見当たらない。となると、外にいる筈。
そう目星をつけ、斑目は合宿所を出た。
「どこに行ったんだろう。皆待ってるのに……」
斑目は数十分前の教室の光景を思い出す。
いつも通り、補習授業部の全員が着席をしていた。
だが先生の姿が見当たらなかったのだ。
合宿が始まって以来、先生が遅刻をしてきたことは一度もない。
それ故、教室の中では普段とは少し異なる光景が見られた。
「んん……?」
(そういえば、今朝から先生の姿が見当たらないような……一体どこに……?)
コハルは、先生が普段立っている教卓の後ろと教室の入り口を交互に見ている。
先生がいつくるのか気になっている様子だ。
コハル程ではないが、ヒフミも時折、教室の入り口の扉を見ていた。
「よし」
「……」
アズサは準備が出来たとばかりに鼻から空気を出し、ハナコはいつものように微笑みを浮かべている。
ここは平常運行だった。
だがヒフミとコハルは違う。
今から自習をしたとして、きっと先生の不在が気になり勉強に身が入らない。
斑目はそう思い、席を立った。
ヒフミが見上げてくる。
「ユウさん?」
「僕、先生を探してきます」
そう言って、斑目は教室から出たのだった。
あれから数十分経過したが、まだ斑目は先生と会えていない。
だが外に出てすぐのことだった。
プールから出てくる先生を見つけた。
その後ろには、見覚えのない少女を伴っている。
純白な服を着た、長い桃色の髪の毛をした少女だ。
状況が理解できないが、斑目は取り敢えず声を掛けた。
「先生! こんなところで何やってるんですか? 皆待ってますよ!」
「もう。いいところで水を差すのは誰」
不満げな溜息を少女は吐いた。
少し眉頭を寄せながら、声を掛けた斑目に顔を向ける。
「……え」
その眼は大きくなり、瞳は収縮した。
小さかったからだろう。先生と斑目はその少女の掠れた声を聞くことはなかった。
異変に気付くこともなく、先生は自身の腕時計を見て叫び声をあげる。
「本当だもうこんな時間⁉ 早く戻らないと!」
「先生⁉」
そのまま慌てたように合宿所の中に走っていった。
探しにきて、見つけたと思ったら置いて行かれるとは。
斑目は後頭部を掻いた。
「仕方のない人だな。もう」
「……ねぇ」
「はい?」
声を掛けられ、顔を上げた斑目は息を呑む。
「むぐっ……⁉」
顔を両手で掴まれると同時に、目の前に少女の大きな瞳がこちらを射抜いていた。
お互いの吐息が当たる程の距離。その少女は可愛らしい顔立ちをしている。
にも拘らず、斑目の心が脈打つことはなかった。
「……何をやってるの? 悠」
その瞳に光が灯っていなかったからだ。
ただこちらを見て、問いかけている。その声は凍えそうなほど、重く低い声だった。
訳が分からない。
突然襲う恐怖に負けず、斑目は声を出す。
「貴女、誰ですか……っ。どうして、僕の名前を……」
そこまで言うと、顔の側面からかかる負荷が強くなった。
少女の力が増しているようだ。能面だった表情に、憎悪が浮かび上がってくる。
「ふざけてるのかな? その口調。あ、記憶喪失のふり? そうやって別人のふりをして、知らんぷりをするつもりなんだ」
「っ……何、言って」
「! 君がアリウスから姿を消さなければ、あの子達もセイアちゃんを殺さなかった! アリウスの子達言ってたよ、『もう間平さんはいない。止めてくれる人はいなくなった』って! 君があそこを去らなければ、セイアちゃんは死なないで、あの子達も止まれたんだよ、間平悠!!」
斑目の耳は少女……ミカの両手によって閉ざされ、殆ど何をいっているのか聞き取れなかった。
だが確実に斑目には分かったことがあった。
それはミカは自分を誰かと勘違いしているということだ。
最後にミカが、怒りを叩きつけるように叫んだ名前。それだけが聞き取れた。
一番大きな声だったからだろう。だから、斑目は言った。
「ちが、う……!」
「は……まだそうやって」
「僕は、間平悠なんて名前じゃない。僕は、アビドス高等学校の斑目ユウだ……!」
その一言で、ミカの動きが止まる。
間平と一度話題にしたことがあった、アビドスの男子生徒。
自分の何倍もの大きさの機械に殴り合いで勝ち、大怪我もすぐに治る。
そして頭を撃ち抜かれ倒れた数日後、普通に高校に通う姿が目撃された。
目の前の少年が、彼だというのか。
「うそ……別人っ? でも」
顔は間平そのものだ。少し頼りなく見えるが、それは表情の問題。
表情筋が働かなく、ぶっきらぼうな口調になれば、間平と言える。
まじまじと斑目の顔を見て、ミカは気付いた。額より上に視線が固定される。
斑目は、彼に持っていないものを持っていた。
「ヘイロー……じゃあ、本当に、君は」
「……少なくとも、貴女とは初対面です」
「ご、ごめん。私、勘違いしちゃった……本当にごめんね。あはは……私、何やってんだろ」
ミカの腕が力を無くす。斑目の肩にぶつかってから、だらんと垂れる。
……目の前の少年は間平じゃなかった。
憎い相手でありながら、微かに残る希望とも言える存在ではなかったのだ。
……アリウスを止められる術はもう考え付かない。
やはり、やり抜くしかないのだ。
それでもまだ、後ろ髪を引っ張られているような感覚の自分が嫌だった。
ミカは表情を歪める。自分を嘲るように。
「ばかみたいだね。こんなことしても、意味なんてないのに。そもそもの原因は、私なのにね」
そう呟き、この場を去っていった。
斑目は小さくなっていくその背中を、ただ見ることしかできなかった。
一体彼女は、自分を誰と勘違いしたのだろう。
何に対して、怒っていたのか。悲しんでいたのか。
斑目は何一つ分からなかった。
斑目は合宿所に戻り、廊下を歩いていた。
教室の中は騒がしい。壁を介しても音が漏れていた。
だが悪い意味ではなさそうで、喜びを分かち合っているような雰囲気だ。
何か良いことでもあったのだろうか。
水を差さないよう、斑目は教室の後ろ側の扉をゆっくり開けて入る。
「あ、斑目君。おかえり。遅かったね?」
「……先生の走りが速過ぎるんですよ」
「ごめんごめん。せっかく探しに来てくれたのに、置いて行っちゃったね」
先生と話していた少女とトラブルになりかけました。
そんなこと言えるわけがない。斑目は濁すことにし、先生も追及はしてこなかった。
「おかえりなさい、ユウさん!」
「嬉しそうですね、ヒフミさん。何かあったんですか?」
「はい! 黒板を見てください」
ヒフミは輝くような笑顔で、黒板に両手の指先を向ける。
『第二次補習授業部模試、結果──』と書かれた下には、いつも通り補習授業部の点数がある。
合格者はヒフミ一人だけ。点数は64点だ。
ここまではいつも通りだが、不合格者の点数に変化が見られた。
「わ……! 皆、点数が良くなってる!」
「そうなんです!」
アズサは58点。コハルは49点だ。
今までの点数を見てきた斑目からしたら、心が動く成果だった。
彼女達もここまで頑張ったのだから、自分も今までの分を取り戻そう。
斑目は拳を強く握った。
しかし、あるものを見てその目が丸くなる。
ハナコの点数だ。
「……ハナコさん?」
「あら、何ですかユウさん」
「……点数、8点なんですけど」
「数列として考えたら、あと3回受ければ合格圏内に届く筈です♪」
「……」
斑目は頭を抱えた。
最初の試験が2点、次の模試が4点、今回は8点。見事に2の倍数で成長している。
こんなところで遊び心を発揮しなくていい。
そう突っ込みたかった。
「ま、まあまあ。この調子なら、思ったより早く目標に届くかもしれない。そう考えましょう! ユウさん」
「そうですね……」
「必ずや任務を成功させて、あの可愛いやつを受け取ってみせる。それが、私がここにいる理由であり戦う目的だ」
「アズサちゃん⁉ 私達がここにいる理由は試験と勉強であって、目的は落第を免れることですよ⁉」
ヒフミの訂正に、アズサは顎を親指と人差し指で挟む。
そして一つ頷いた。
「そんなこともあったな。ついでにそれもやっておこう」
「『ついで』が本題ですよ、アズサさん……」
「モモフレンズファンとしては嬉しくもあるのですが……」
ヒフミは困り顔だ。
そんな時、チャイムの音が聞こえる。
教室にいる一同が動きを止めた。
「あら、どなたかいらっしゃったみたいですね?」
「そうですね。この合宿所に、どんな用事で」
「し、失礼いたします……!」
「あら、この声は……」
ハナコは来訪者に心当たりがあるようだ。
斑目が顔を向ける。
「お友達ですか? ハナコさん」
「まあ、見ず知らずの他人ではないですね」
そんな二人の会話を、アズサは聞いていない。
「侵入者か。大丈夫、準備はできてる」
「アズサちゃん、準備って……?」
斑目は嫌な予感がした。
夜中に、当たらなかったとはいえヘルメットを投げられ、心臓が縮んだことを思い出す。
あの時みたいに、何か試すんじゃないだろうかと。
「待ってください、アズサさん。侵入者じゃなくて、ハナコさんのお知り合い」
ドカァァーーーン!
凄まじい爆音に斑目の声はかき消される。
直後、きゃああーーー⁉ という悲鳴が轟いた。
「ハナコさんのお知り合いの人ーーーーー⁉」
「ブービートラップ。誰かの侵入を感知したら起動するようにしてある」
トラップの数は一つだけではないらしい。
「こ、これは一体……? え、あ、こっちにも……⁉」
戦場のような爆撃が鳴り続ける。
それと一緒に、少女の悲鳴も。
なんてこともないようにアズサは言った。
「逃げても無駄だ。逃げる方向を予測して、その先にもちゃんと仕掛けてある」
「アズサちゃん⁉」
「……僕にもコツを教えてください」
「ユウさん⁉」
自分と同じ反応をすると思った斑目の、教えを乞うというまさかの行動。
ヒフミは驚きを隠せなかった。
爆音で脳が揺れ、頭がおかしくなってしまったのか。
さっきまではまともなことを言っていたのに。
「ここは注意するところですよね⁉」
「でも……うち、まだ偶にヘルメット団とかが乗り込んでくるので……」
「うっ……」
ちゃんと正当な理由があった。
アビドスの事情をある程度知っているヒフミからしたら、その言い分は理解できるものだ。
だがヒフミは負けなかった。
講義を始めようとするアズサと斑目に身を寄せる。
「それは後でです! 今は来客の方のところに‼」
「は、はい」
「わかった」
その迫力に、斑目とアズサはこくりと頷くのだった。
合宿所の入り口には黒煙が上がっていた。
爆発してからあまり時間が経ってないからだろう。
しばらくすると黒い煙は薄くなり、人影を映し出した。
尻餅をついて咳をしているようだ。身体が小刻みに動いている。
「けほっ……けほっけほっ……」
煙が完全に晴れると、そこには一人の少女がいた。
シスターなのだろう。彼女は黒い修道服に身を包んでいた。
頭に被る黒いベールからは、猫耳のようなものが確認できる。
ヒフミは慌てて、シスターの少女に駆け寄った。
「だ、大丈夫ですか……⁉ け、怪我とかは……?」
「きょ、今日も平和と、安寧が……けほっ、けほっ……貴方と共に、けほっ、ありますように……」
「まずご自分の安寧を心配してください⁉」
「シスターの鑑だ……」
斑目がぽつりと呟く。
災難な目にたった今、遭遇したにも関わらずだ。
シスターの少女から出たのは非難の言葉ではなく、自分達への平和と安寧を願う言葉だった。
そう口に出してしまうのは仕方ないと言える。
斑目の発言で、ヒフミはあることに気付いた。
「あれ、よく見たらその服装、シスターフッドの……?」
「……やっぱり、マリーちゃんじゃないですか?」
「あ、は、ハナコさん……」
シスターの少女、マリーは尻餅をつきながらハナコの名を呼ぶ。
取り敢えず、黒煙は晴れたにしても合宿所の入り口は談笑をする場ではない。
補習授業部と先生、斑目はマリーを連れて、教室へと戻るのだった。
どこかの廃ビル。
サオリは剣呑な目つきで、耳に当てている無線機を貫く。
「間平の……兄弟だと?」
彼女が復唱した内容に、共に休憩を取っていたアリウス・スクワッドの面々の身体が小さく跳ねる。
その視線の先は、サオリが持つ無線機に統一された。
『兄弟かは分からないけどね。そっくりだった。その子が今、補習授業部にいるの。アズサちゃんがいる部活に』
「っ……バカバカしい。私達には関係のないことだ」
『……そうだよね。勝手に逃げた裏切り者のことなんか、興味ないよねサオリは。ごめんね? 別に作戦を中止してほしいなんて思ってないから安心して。いざ彼を目の前にして、動揺しないように事前報告してあげただけだから』
「余計なお世話だ。切るぞ」
サオリが強く無線機を握り締める。
ぎり、と歯が軋んだ。その矛先はミカだった。
「何も知らない癖に……!」
「……あいつはアリウスじゃない。真実を知らせる必要はないよ」
そうは言うが、ミサキの表情も険しい。
間平は我が身可愛さに逃げたのではない、寧ろその逆だ。
自らの身を擦り減らし、最後まで理不尽に抗っていた。
そんな彼も結局、理不尽には勝てない。
光景としてそれを見せられた記憶は根強く頭に残っている。
(それでも間平は私達のために戦ってくれた。なのに裏切り者扱いされるのは、気分が悪い)
「い、今も私達のために戦っては、くれてますよね……」
ヒヨリはちらりと後ろを見る。
それに釣られて、アリウス・スクワッドの全員の視線が動いた。
その人物は、彼女達の視線に気付き腰を上げる。
サオリは溜息を吐き、呟くように言った。
「……私達のため、かは怪しいがな」
「どうした委員長。もう行くのか?」
「……ああ。行こう(うん。もう休憩も済んだしね~。じゃあ行こうか、顔無し君)」
「了解」
間平は相変わらず、自分達を通して知らない誰かを見ている。
嫉妬ではないと思う……が、何となくそれをサオリ達は気に入らなかった。
今までの記憶が全てなかったことにされたような気分だ。
(……もし、仮に)
(アズサと共にいる男が、間平の家族だとしたら……)
ミカとの会話を思い出し、サオリはそんな想像をした。
自分達は長くて数か月の仲だ。それでもこれ程、胸にしこりのようなものが残っている。
家族の立場で、今の間平を見たとしたら。
もし突然、自分達の幼少期に、誰かが間平と同じように自分達を認識しなくなったら。
他人事ではなく、自分事で考えてみた。
(……耐えられない)
サオリは異変に気付かれぬよう、身体の震えを押さえる。
ないとは思うが、アズサが自分達を裏切れば、間平を連れて制圧にかかる可能性もあるのだ。
そうなった時、ミカが言っていた男は変わり果てた家族を前に呆然とするだろう。
無防備なその身体に、自分は発砲できるのか。
自問自答してみるが、今のサオリではその問いにはっきりとした答えは出せなかった。
不定期と言いつつ、最近なんやかんや月1で更新できてるの嬉しいです