憑依in実験体のアビドス生徒   作:改名

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既に1月後半ですが。
あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします!

天井で臨戦ヒマリをお迎えしました。
次はリオを迎える所存であります。(覚悟完了)


9.水着パーティー

 

 

 

 

 

 

 

 

 合宿所の体育館の中で、斑目は今された話を頭の中で纏めていた。

 午前中ではあるが、悪天候とそれによる停電のため、館内は薄暗い。

 

 しかし、そんなことは関係なかった。見えるものは見える。

 斑目はなるべく目の前に広がる異常な光景を見ないように、言った。

 

 

 

「……つまり皆さんが水着なのは、干していた服も着ていた服も、洗濯していた服も着れなくなった結果、そうなったと」

「はい、そういうことです♡」

「その流れで今から水着パーティが始まると」

「はい。きっと楽しいですよ♡ パジャマパーティーならぬ水着パーティー」

「ちょっと! 私、まだ認めてないんだから!」

 

 

 

 コハルの怒りを表すように、雷鳴が響いた。

 数秒だけ稲光に照らされ、スクール水着を着た少女達の生足が見える。

 

 この場に集う、斑目以外の補習授業部は全員スクール水着を纏っていた。

 

 別に彼女達が露出狂なわけではない。

 不幸が連続したのだ。

 

 今日の天候は雷雨だった。

 

 朝、まずハナコが洗濯物が外に干したままだと気付いたところから始まる。

 彼女達は急いで回収に向かったが、間に合わなかった。

 

 着ていた服は濡れ、洗濯機に入っていた服も停電により、取り出せなくなったのだ。

 その結果、彼女達はスクール水着になったのである。

 

 

 

「それにしても、お一人だけいつもと同じ恰好なんて、寂しくありませんか?」

「脱ぎませんよ?」

「あら、残念♡」

 

 

 

 ハナコの視線の先には、ジト目を向ける斑目の姿があった。その服装はいつも通りだ。

 これには理由があった。

 

 彼からすれば、同居しているホシノと一緒に服を洗濯するのと、まだ出会って間もない彼女達と洗濯を共にするのは違う。

 

 そのため斑目は、合宿が始まってから女子とは分けて洗濯をしていたのだ。

 同じような理由で、自室で洗濯物を干していたため、斑目の洗濯物に損害はなかった。

 

 斑目は溜息を吐く。

 停電になり、誰の姿も見当たらないので探してみたらこの奇妙なパーティーに遭遇した。

 酷く場違いな気がするが、それで一人だけ離れるのもどうかと思ったので、体育館に居残ることにする。

 

 

 

「……まあ、寒かったら言ってください。その時はワイシャツでよければ貸しますから」

 

 

 

 斑目のワイシャツは今着ているものも含め、あと3着あった。

 水着の彼女達は今のところ大丈夫そうだが、大事な試験が控えている。

 

 体調不良にでもなったりしたら大変だ。

 

 後頭部を小さく掻く斑目に、ヒフミと先生の表情が喜色に染まる。

 

 

 

「ユウさん……!」

「斑目君がデレた!」

「デレてません!」

 

 

 

 斑目がそう言って顔を背けるが、耳のところは真っ赤だった。

 ハナコは恥ずかしそうに身を捩らせる。

 

 

 

「ではユウさん。私、寒くなってきたのでそのズボンを首に♡」

「ワイシャツって言いましたよね⁉」

「そんな……ユウさんの素肌に密着した、まだ体温が残ったワイシャツを着るなんて……女という性を受けた者として、そんなはしたない真似……っ」

「男物のズボンをマフラーのようにつけるほうがはしたない気がします僕!」

「そうよ! というか、水着パーティーそのものがはしたないでしょ⁉」

 

 

 

 コハルの主張に、ハナコはゆっくりと首を振った。

 

 

 

「そんなことはありません。今の時間こそ、正に合宿の花。そうは思いませんか?」

「どういうことよ?」

「みんな寄り添って、お互いの深い部分をさらけ出し合う……雨も降っている上に停電で何も見えませんし、雰囲気は最高です!」

 

 

 

 ハナコの言う通り、字面だけ見ると青春って感じがする。

 しかし纏っているものがスクール水着ということが致命的なのだ。

 

 それを指摘しようとコハルが口を開いたときだった。

 

 

 

「確かに合宿の定番って感じがしますね」

「ふむ。そういうものなのか」

「ヒフミ⁉ アズサ⁉」

 

 

 

 納得したように、ヒフミとアズサが小さく頷いた。

 裏切られたような顔をするコハルに、ハナコが言う。

 

 

 

「コハルちゃん。別にこのまま絡みつきあうわけじゃありません。ただの話題も何でもありのお喋りということで♡」

「いや、だから……っ」

「ふふ♡ 私こういうこと、すっごくしてみたかったんですよね。なので、ちょっとテンションが上がっていると言いますか……」

「う……!」

 

 

 

 ハナコは嬉しそうに身体を揺らしていた。

 照れ笑いをする彼女に、コハルは発しようとしていた否定の言葉を飲み込む。

 

 ハナコは本当に楽しみにしているようだった。

 いつもの冗談の延長ではなく。本当に。

 

 だから、コハルは深いため息を吐く。

 

 

 

「……今回だけ。いい⁉ 今回だけだから!」

「コハルちゃん、ありがとうございますっ♡」

「ん-!」

「ハナコ、本当に楽しそうだね」

 

 

 

 ハナコに抱き倒されるコハルを見届け、先生が言った。

 確かに斑目達からは後頭部しか見えないが、ハナコの声は楽しそうだ。

 

 コハルも元気そうに、ハナコの股の下で足をばたつかせている。

 その顔には大きな双丘が乗っかっているので、声は聞こえない。

 

 

 

「気持ちは分かる。私も何なら、補習授業部に入って以来ずっとそういう気持ちだ」

「あら、そうなんですか?」

 

 

 

 アズサもここでの生活を楽しんでいる。

 それを知ったハナコが身を起こし、振り向いてきた。そのままコハルの上から退く。

 

 解放されたコハルの手足が力なく床に落ちた。

 酸欠なのか、ハナコの胸の感触によるものか分からないが、紅潮した顔で荒い息を繰り返している。

 

 

 

「うん。何かを学ぶということも、みんなでご飯を食べることも、洗濯も掃除も、その一つ一つが楽しい」

「あら……♡」

「水着は泳ぐときにだけ着るものだと思っていたのに、こんな活用方法があるなんてことも初めて知った。知らなかったことを知れるというのは、楽しいことだ」

「アズサさん、水着に関しては以前の知識のままでいいと思いますよ」

「でもユウ。水着は動きやすいし、通気性も良い。ハナコがこれを着て学校を歩いたというのも納得がいく」

「そうですよね、だから言ったじゃないですかコハルちゃん」

 

 

 

 コハルががばりと起き上がる。

 

 

 

「いやそれで外を歩くのは犯罪だから! 納得しちゃ駄目! 公然淫猥罪だよ⁉」

「コハルと一緒に勉強するのも楽しい」

「っ⁉ きゅ、急になに⁉ 何でそんな恥ずかしいことを⁉」

 

 

 

 アズサにそう言われ、コハルは動きを止めた。声は上擦っている。

 まるでリモコンと調子の悪いテレビのようだ。

 

 一連のやり取りを見ていたヒフミが言った。

 

 

 

「アズサちゃん……最初はあまり表情の変化も読み取れなくて心配でしたが……良かったですっ」

「! もちろんヒフミもだ。本当にいつも世話になっている、ありがとう」

「ア、アズサちゃん!」

 

 

 

 うわーん! とがばりとヒフミがアズサに抱き着く。

 斑目の脳裏には、すぐに後輩に抱き着くホシノの姿が浮かぶんだ。

 

 先程のコハルとハナコにしろ、女子はこれくらいのスキンシップは当たり前なのかもしれない。

 ……今彼女達は水着姿なので、柔らかい身体が形を変えるのがすぐに分かる。

 男子である斑目にとっては、気まずいのだが。

 

 だがそんな理由で邪魔するのも野暮というものだ。

 斑目は静かに座り、待つことにするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あらあら♡ それはアビドスの皆さんが悪いですね」

 

 

 

 一旦場が収まり、一同は会話に花を咲かせていた。

 そして今は、斑目の小さな不満に耳を傾けている。

 

 慰めるように視線を向けてくるハナコに、体育座りの斑目は少し眉を下げた。

 

 

 

「心配してくれるのは嬉しいんですけど……僕、一応17歳ですよ? 皆、過保護すぎます」

 

 

 

 ここに至った経緯はある。

 

 トリニティのアクアリウムで、幻の魚こと【ゴールデンマグロ】が展示されているプチ情報。

 潰れたアミューズメントパークが、夜になると騒がしい音が聞こえるという怪談チックな話題。

 キヴォトスのどこかの無法地帯では、水着姿で覆面を被っている犯罪集団がいるらしいという話題。

 

 今迄出た話題で、斑目は常に聞き手だった。

 犯罪集団の話のときに、ヒフミと先生が微妙な表情をしていたことに気付いたが、その理由を聞くのは憚られた。

 

 そこでハナコが言ったのだ。ユウさんのことも教えてくださいと。

 結果、アビドスの生活と小さな愚痴が飛び出たわけである。

 

 

 

「確かに過保護ね……。同級生ならまだしも、後輩からもなんて」

「ユウが心配なのは分かる。人間型の男子生徒だからな。しかし、戦いから遠ざけていては、いざという時困るのはユウだ」

 

 

 

 コハルとアズサも斑目の悩みに共感した。

 

 常に同級生であるホシノだけでなく、一つ年下のシロコとノノミ、更にはその下のセリカとアヤネも、何かと斑目を危険から遠ざけようとするらしい。

 

 戦いは勿論、少し重いものの運搬や、壊れた天井や壁の修理等、一向に手伝わせてくれない。

 してもらってばかりで、何かを与えたことはないと思う。

 斑目からしたら、男子として先輩として、不甲斐ないと感じるのも無理はないだろう。

 

 

 

「あうぅ……ホシノさん達はユウさんが大切だから、傷付いてほしくないだけです。確かに……やり過ぎな気はしますけど、気持ちは分かります」

「そうだよ。斑目君は私と同じで、身体が皆みたいに頑丈じゃないんだよ? そんな自ら戦いに行かなくてもいいんじゃないかな?」

 

 

 

 先生とヒフミは事情を知っているので、そう言うだけに留めた。

 どちらかというと、その心はアビドスに寄っている。

 

  

 

『先生』

 

 

 

 斑目の顔をした男が笑った。

 かつて見た光景を思い出し、先生は唇をかむ。

 

 

 

『長生きしろよ』

 

 

 

 それが最期の言葉だった。言葉も交わせず、ただ聞いただけ。

 ヒフミはその言葉も聞けず、ただ彼が撃たれる光景だけを見せられた。

 

 もう、あんな目に遭ってほしくない。

 

 それに自分達は、斑目を『彼』に託された身だ。

 もし斑目に何かあったら、どんな顔をして生きればいいのだろう。

 

 

 

「まあ、それが若さって感じではあるんだけども!」

「もう、先生もまだお若いじゃないですか」

 

 

 

 場所が場所であるからか、ほんの少しだけだった。

 先生とヒフミが、その表情に陰を見せたのは。

 

 すぐに気持ちを切り替え、元の明るい二人に戻る。

 

 

 

「……」

 

 

 

 ハナコはそんな二人をただ見ていた。

 誰かが彼女に視線を向ける。その時には、既にいつもの笑みを浮かべる彼女の姿があった。

 

  

 

 

 

 

 ハナコの形の良い眉が、ほんの少し斜めになっている。

 困った子を叱りつけるような、そんな顔をしていた。

 

 

 

「アズサちゃんはもっと、夜はきちんと眠った方がいいと思いますよ?」

「……うん。今朝は寝坊して迷惑をかけてしまった。慣れない場所で寝坊なんて、これまで殆どなかったのに……」

 

 

 

 その対象はアズサである。

 彼女は肩を丸めた。寝坊をしたことを申し訳なく思っているのだろう。

 

 ……迷惑を掛けられたからではない。

 心配しているから、ハナコが注意していることをまだ気付けていない様子だ。

 

 

 

「もうここは、慣れない場所じゃないからかもしれないな」

「……とにかく、もっとしっかり寝た方がいいです。深夜の見張りは減らしていただいて」

「見張り? 何それ……?」

「ああ、毎晩夜中にちょっと見張りを」

 

 

 

 そこで先生は助け舟を出す。

 

 

 

「ハナコ、アズサのこと凄く心配してたよ」

「そうなのか……?」

 

 

 

 ハナコを見るアズサ。首肯するハナコを見て、それが本当であると理解する。

 

 

 

「……ごめん。実は、見張りは言い訳で……ブービートラップとかを設置していたんだ」

「ブービートラップ……?」

「今の合宿所、結構僕からしたら危ない感じですか?」

「心配しないで、ここに悪意をもって侵入しようとするルートにだけ設置しているから。普通の生活をする上では、安全面に問題はない」

((昨日のマリーさんのことを考えると、そうでもない気がしますが……))

 

 

 

 ヒフミと斑目はそう思ったが、口には出さないことにした。

 ハナコは納得した様子だ。しかしその表情は未だ晴れない。

 

 

 

「なるほど……ですが、それならそれで教えてくれると嬉しいです。どうしても、心配しちゃいますから」

「……そうか。うん、これからは気を付ける。私のせいで、先生と皆が被害を受けるのは望むところじゃないから」

 

 

 

 先生は率直に思ったことを口にする。

 アズサは、どこまでもこの場にいる皆を守ろうとしているだけなのだ。

 

 

 

「アズサは優しいね」

「僕もそう思います。一人でいた僕を気にかけてくれたり、僕達のために見張りをしてくれたり……本当に、アズサさんは優しいですよ」

「なっ……こ、子供扱いしないで、先生。ユウも、顔を上げてっ」

 

 

 

 僅かにその顔が紅潮する。

 だが僅かな時間だった。一度動きを止め、アズサは静かに言う。

 

 

 

「私は別に……そんなのじゃない。だってこの世界は、全てが無意味で、虚しいものだ。だから、もしかしたら……」

 

 

 

 視線を外し、アズサは続けた。

 

 

 

「私はいつか裏切ってしまうかもしれない……みんなのことを、その信頼を、その心を」

 

 

 

 それは、どういうことだろう。

 斑目は口を開こうとした。だが、聞き返すことはできなかった。

 

 

 

「あ、電気が……」

「直ったみたいですね」

「あ、雨もいつの間に……!」

「そうですね。では、もう一度改めて洗濯しましょうか」

 

 

 

 体育館の中に明かりが灯る。

 悪天候もいつの間にか過ぎていた。

 

 今迄の日常。それが戻った感じだ。

 既に先程の話題を蒸し返せる雰囲気ではなかった。

 

 実際、アズサも何事もなかったように笑顔を見せている。 

 

 

 

「うん。じゃあ、第1回水着パーティーはここで閉幕か。2回目も楽しみにしている」

「ないから! こんなの今回で最初で最後だから!」

 

 

 

 足音を鳴らしながら、コハルが体育館の出入り口に向かっていった。

 皆、それに付いていく。

 

 もやもやを抱きながらも、斑目もその後に続くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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