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今後ともよろしくお願いいたします!
そういえばこの小説、掲載してから三年経過してるみたいです。
今年の終わりも近付いてます。時の流れ早くないですか???
大気を揺らす、唸るような音が後方から聞こえてきた。段々と近付いていることが分かる。
恐らく爆発を起こした主だ。
先生が自分の頬に手を添え、何か言ったこと。
それより重要なことができた。
斑目はむっとした表情で、近付いてくる車に目を向ける。
「あら★ やっぱり先生でしたか!」
「大当たりでしたわね。ご機嫌よう。ここで何を……」
件の車は斑目達のすぐ横に停車した。
声をかけてきたのは運転席と助手席にいる二人の少女だ。
先生達を見ると口元に手を当てる。
それぞれの仕草に違いが出ていた。
「……まあ★」
運転席にいる少女は、好奇心に満ちた目で大袈裟な仕草を。
「……これはもしや、お邪魔してしまいましたか?」
助手席にいる少女は微かに目を見開くだけの、上品な仕草だ。
彼女の赤い瞳が、白い肌と長い銀髪によって強調された。
そこで先生は今の自分達の状態を思い出す。
路上で押し倒される先生である自分。押し倒している斑目は男子生徒だ。
慌てて、先生は顔の前で両手を振る。
「違うの! これはこの子が庇ってくれただけで、やましいことは何も!」
「……この人達、お知り合いですか? 先生」
斑目が先生の上から退き、手を伸ばしつつそう言った。
反応からお互いが知り合っていることは分かる。
だがそれにしたって、あの爆発は危ない。確認も含めての問いだった。
斑目の手を取り、立ち上がる先生。
その問いに答えようとしたが必要なかった。
「あ、あれ⁉ あんた達、確かこの間戦った……⁉」
「あら、あの水族館を襲撃した……」
コハルとハナコが零した言葉に斑目が反応を示す。
「……それじゃあ彼女達が」
「うん。美食研究会の子達。運転席に乗っている子がアカリ、助手席に乗っている子がハルナだよ」
「…………成程」
斑目は目の前の少女達が何者なのか完全に理解する。
以前ハスミより美食研究会の情報を聞いており、そのハチャメチャぶりは知らされていた。
彼女達なら特に抵抗なくやってもおかしくない。
先生の付近で起きた爆発はそう納得することにした。
ハルナ達は誤解に気付いたらしい。先生に笑顔を向けた。
「お二人で逢引していたわけではなかったのですね。失礼いたしました」
「考えてみれば、全く忍んでいませんでしたね★」
「それでしたら皆さんはここで何を?」
誤解が解けたことに安心しつつ、先生は助手席に近付きハルナにこれまでの経緯を話す。
ハルナは車に予め乗せてあった地図を手元に、先生に確認する。
「……成程。状況は概ね理解しました。とにかくこの場所に行かねばならないのですね?」
「うん」
「事情は分かりましたが、タイミングが悪かったですね……この辺りは今、それなりに大きな騒動になっていまして」
「温泉開発部が市街地のど真ん中をドカン★と爆発させたとかで、とにかく滅茶苦茶な状態なんです」
「爆発大好きですか貴女達」
美食研究会は不味い料理を出されたら、その飲食店を爆破する。
今初めて聞いた温泉開発部は、市街地のど真ん中を爆発させたらしい。
名前から温泉を湧き出させるためと推測はできる。
だが斑目の中で温泉=大きなドリルで掘り起こすイメージだ。
なのに爆発。斑目は遠い目をした。
ハルナは上品にくすくす笑う。
「まあ、そのせいで風紀委員会も慌ただしく動いている状況というわけです。そのお陰で機に乗じて、私達もこうして風紀委員会の牢屋から抜け出せました。ふふっ♪」
「そうですね。それに非常事態ということもあって、またしてもその場に偶然居合わせた給食部のフウカさんが、部の車を快く貸してくれましたし★」
確かに車のボンネットには黒文字で『給食』と書かれた白いステッカーが貼られている。
食べ物に関する部活同士、仲が良いのかと斑目は思った。
その時、トランクから物音がする。
「んんっ⁉ んーっ! んーーーっ!」
「新しく買ったばかりの車を貸してくれるなんて……これぞ美しい友情というやつですね★」
「んんっ! んっ、んんんんっ!!」
すんっと斑目の表情が抜け落ちた。
自身の推測が誤りであること。それを早々に気付いてしまった。
ハナコは苦笑いを浮かべる。
「……その友情のお相手、縛られたままトランクに積まれてません?」
「問題ありませんわ、フウカさんはこういったことに慣れていますから」
「……させたの間違いでは?」
「もはや専門家といっても過言ではありませんね★」
「嬉しくない専門家だ……」
斑目は姿も知らない、トランクにいるフウカに同情した。
トランクに近付いてみる。そこには猿轡を口に加えたツインテールの少女がいた。
背丈は小さめだ。
両手を拘束されており、芋虫のように身体を動かしている。
斑目の存在に気付くと動きを止め、助けを求めるような視線を向けてきた。
「ん! ん!」
「勿論外します。まずは猿轡から外しますね」
「……ぷはっ。あ、ありがとう。えっと」
「ユウです。斑目ユウ」
一瞬だけ視線を合わし、フウカの両手に手を伸ばす斑目。
拘束を解こうとしていることが分かったからか、嬉しそうにフウカは表情を綻ばせた。
「ユウさんね。私は愛清フウカ。好きな方で呼んで」
「分かりました。フウカさん、今、手の拘束も解いてるのでもう少し待ってください」
「助かるわ。本当に……」
美食研究会から抗議の声が掛からない。
そのことが気になり、フウカの拘束を解きつつ斑目はあちらの様子を窺う。
『ハルナ、アカリ! 今どこ⁉ こっちも包囲網を破ったけど、合流できそう⁉』
『ぎゃーーーー! 風紀委員会がまだ追いかけてきている!』
「ジュンコさん。脱出作戦は取消です」
『えっ、何で⁉』
「ふふっ、あのときのお礼ということで。先生とトリニティの皆さんのことは、私達が責任をもってご案内しますわ」
どうやら美食研究会が試験会場まで案内してくれるようだ。
そうすると確実にこの車は用いる。斑目はフウカの拘束を解く手を早めた。
このままじゃフウカがトランクのあちこちに身体をぶつけることになりそうだ。
「よしっ。解けた……!」
フウカの拘束が解けたと同時に、アカリがこの場にいる全員に聞こえる声で言った。
「それではとにかく乗ってください!」
「ありがとう、よろしくね」
「え、えっと……それではよろしくお願いします……?」
先生や補習授業部が車に乗り込んでくる。
車が数回揺れ、フウカは諦めた目で近くの掴めるところを掴んだ。
「ふふ。鼻でしか息できなかったり、そこら中に身体をぶつけるよりマシね」
「……心中お察しします」
「ありがとう。ユウさんもどこか掴んでおいたほうがいいわよ……」
「ちゃんと掴まっていてくださいね★ 出発です!」
フウカの助言に重ねるようにアカリが言った。
エンジン音が大きく鳴り、車が走り出す。
後方に大きく身体が引っ張られるようだった。
確かに掴んでいないと振り落とされそうだ。
掴める箇所を探し、見つける。斑目はフウカと同じように強くそこを掴むのだった。
斑目にとってアクション映画は好きな部類だ。
派手で見応えがあり、主人公がピンチに陥ることはあれど最後は必ず悪を打倒してくれる。
その期待にしっかりと応え、爽快な勝利を飾って物語が締まるのが大半だ。
だから斑目は安心して観ることができた。
それは娯楽を消費する立場だから為せたことだ。
当事者になれば安心する余裕などない。
今、斑目は給食部の車に乗りながらそんな当たり前を実感していた。
「うわあぁぁぁぁぁっ⁉」
目と鼻の先で大きな爆発が起こる。
その前方にはバイクに跨るヒフミがいた。コハルもそこに同乗している。
音の大きさと比例するように、炎と黒煙が混ざった巨大な波がヒフミ達に迫っていた。
「ヒフミさん! 右に‼」
その先端の一つが大きくうねる。
直感で、斑目はそれがヒフミ達に迫ることを予感した。
ヒフミは悲鳴に似た斑目の声に反応し、右にアクセルを切る。
ぶ厚い火柱がコハルの耳のすぐ横を通った。
「きゃあ⁉ あっっつい!」
「コハルちゃん大丈夫ですか⁉」
「な、何とか。二人のお陰ね……」
目の前でバイクに乗る二人が炎に包まることは防げたが、斑目の脈打つ心臓は未だ緩まない。
まだ状況は好転していないからだ。今のようなことは今後も起こりうる。
それを見逃さないよう目に当たる熱気を我慢して、斑目はヒフミ達とその後方を視界に入れ続けた。
ヒフミが叫ぶ。微かに涙が頬を伝っていた。
「何ですか何なんですか⁉ 一体どうしてこんなことに⁉」
「ヒフミ揺らさないで! 照準が合わないからっ!」
「わ、私が揺らしているんじゃありません! じ、地面がさっきから揺れっぱなしで……!」
「ヒフミさん! 今度は左に‼」
「また爆発ですかぁっ⁉」
ヒフミが左にアクセルを切り、またも爆発に巻き込まれるのを避ける。
状況に合わない黄色い声が響いた。
「トリニティのあなた、バイクの運転上手だね!」
「良いじゃん良いじゃん! がんばれー‼」
「呑気ですか⁉」
「いえいっぱいいっぱいなんですけどぉ⁉」
斑目とヒフミの声がはもる。
そんな中、フウカが若干引いた目で隣にいる斑目を見た。
多少表情が強張っているのは、絶叫アトラクションよろしくな車の揺れと速度と後方の爆発によるものだろう。
「確かにあの子も凄いけど、火の手の行先を瞬時に予測できるユウさんも相当じゃない……?」
「人は見かけによりませんね」
ハルナが零した言葉を拾う者はいない。
爆発により生じる火の手。それは容易に読めるものではない。
小さな初動を見逃さない動体視力。
そして動体視力だけでは補えない、火の手の行先を予測する能力が必要だ。
前者はともかく、後者を得るには経験が必要になる。
(どうやら、ただ守られる器ではない様子……本人がそれに気付いているかは怪しいところですが)
ハルナは斑目に対しての認識を改めた。
そしてバックミラーを見て、楽しそうに呟く。
「あら。参加者が増えたようですわ」
それを間近で見たコハルは叫んだ。
「な、何でショベルカーにブルドーザーまできてるの⁉」
「ど、どうしてゲヘナの温泉開発部にまで追われているんですかぁ⁉」
「やばっ、風紀委員会もきた!」
「あ、アズサちゃん達、無事だといいですけど……っ」
ヒフミの発言に、斑目にも不安が募る。
アズサとハナコは今、陽動のために別行動をしていた。
発案者はアズサだ。
この車に補習授業部全員が乗れるわけではないし、陽動を行うのは理に適ってはいる。
だが追手が減る様子はなく、寧ろ増えているのが現状だ。
連絡もこない。既にやられてしまっているかも。そう考えないよう頭を振った。
『こちらチームブラボー。チームアルファ、応答せよ』
「あ、アズサちゃん⁉ 無事だったんですね!」
『名前を言われると隠語を使った意味がない……それはそれとして、ごめん。無事とは言えない。陽動作戦は失敗した、こっちは包囲されている』
「はいぃ⁉」
『前方には火炎放射器を持った温泉開発部、後方はやたら強いツインテールの風紀委員。退路を塞がれた。ハナコと私は何とか自力で逃げるから、後で落ち合おう。幸運を祈る』
斑目には無線機からするアズサの声は聞こえなかった。
だがヒフミの反応から良い状況とは思えない。
こちらと同様に崖っぷちな状況であると解釈した。
事態は悪化していく一方だ。
どうすればいい。
緊張からか、斑目は手汗で掴んでいるところの摩擦が減っていく感覚がした。
「っあ……」
「ユウさん⁉」
それがいけなかったのだろう。
大きく車体が揺れ、その拍子に斑目の両手が空いた。
フウカが咄嗟に片手を伸ばすが、その手も空振る。
斑目は衝撃に備え、強く目を瞑った。
「ぐあっ」
「ユウさんッ!」
「ヒフミ、一旦切り返して!」
「分かってます!」
すぐ真横で斑目が地面を弾んでいく。
ヒフミとコハルはすぐに彼を追いかけた。
「大丈夫ですか⁉」
「っ……何とか。思ったより痛くなかったです……っ」
「はい嘘! 凄い顰めっ面よ⁉」
「いや、本当に。これは呼吸がしずらいだけで」
防弾チョッキを着ているからかもしれない。痛みはあまりなかった。
不思議に思いながらも、幸運だと斑目は割り切る。
とはいえ一度に多量の二酸化炭素を吐き出すことは避けられなかった。
呼吸を整えながら、ヒフミとコハルから差し出された手を取り、起き上がる。
そのとき。
「ブルドーザーだッ!」
温泉開発部が操縦するブルドーザーが斑目達に迫る。
どんな改造を施したのか、バイクを追走できる程の速度だ。
そのブレード部分に衝突すれば、ヒフミとコハルは意識を失いかねない。
ヘイローはあるが、身体が頑丈ではない斑目は更に重いダメージを負うだろう。
「っ」
「ユウさん、何を⁉」
だが斑目はヒフミとコハルの前に出た。
反射的に腕を押し出し、踵に力を入れる。ヒフミの叫び声が聞こえた。
力で敵わないのは分かっている。
だが意地でもそうせずにはいられなかった。
もう守られるだけなのはごめんだ。
これからくるであろう痛みに叫び声を上げないよう、唇を締めた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ⁉」
……痛みはいつまで経ってもこない。
女子の叫びと共に騒音が響くだけだ。斑目はゆっくりと目を開く。
「これは……」
そこには事故現場があった。
道の端に、先程まで目の前に迫っていたブルドーザーがある。
側面には二台の風紀委員の車両がめり込んでいた。
自分の身を守るために追突してくれたのか。
だが運転席と助手席から顔を出した風紀委員が、斑目の推測を否定した。
「何だ! 急にハンドルが利かなくなったぞ!」
「あっ、車輪がパンクしてる⁉ どうして突然⁉」
風紀委員も戸惑っているようだ。
呆然とする斑目にヒフミが涙を目に浮かべ、顔を寄せてきた。
「無茶しないでください……!」
「つい、咄嗟に……ごめんなさい」
「……取り敢えず今は逃げましょう。お話は夜です!」
ヒフミが視線で示す先には、先生達がいる車が停まっている。
斑目は車に戻る。その姿を見て、先生は安堵の息を吐いた。
「やっぱり連絡しておいて正解だった」
ゲヘナのとあるマンションの屋上。
そこに二人の人影があった。
単眼鏡の先では、斑目が戻った車が走り出していた。
ふう、と短い溜息の後、彼女は黒と白の髪を揺らして振り返る。
「うん。対象は無事、車に戻った。お疲れ様、社長」
「本当よ⁉ 全く冷や冷やさせるわあの子! 『顔無し』のように凄い力を持ってるわけでもないのに全く!」
その視線の先には、狙撃銃を構えた腕を下ろすアルがいた。
ゲヘナに向かう前、先生が連絡をしたのは便利屋68だった。
斑目がゲヘナにいること。そしてトラブルの渦中にいること。
それだけ聞けば、彼女達が動くのには十分だった。
カヨコが苦笑する。
「社長。本当にお母さんみたいなこと言ってる」
「なっ、カヨコまでそんなこと……⁉」
「冗談。さっきの社長は間違いなくアウトローだった。あの局面で、瞬時に風紀委員会の車両のタイヤを撃ち抜いて、あの子に迫るブルドーザーに衝突させるなんてね」
考え、そして迅速に実行できることではない。
カヨコの素直な称賛に、ショックを受けたように白目になっていたアルの表情が引き締まる。
「……誓ったもの。
「……そうだね」
しんみりとした空気に、アルはわざとらしく明るい声を出した。
「さあ、まだ対象は目的地に辿り着いていないわ! 場所を変えて、護衛を続けるわよ!」