GOD EATER:救雷の神鳴   作:ひょうたんふくろう

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1 目覚め

 

 一番最初に思ったのは、「あ、なんかちょっと猛烈にコンビニで立ち食いしたいな」……なんて、そんなありふれたことだった。

 

 ちょっとしたホットスナックか、あるいはアイスにでもするか。割とがっつりと食べたい気分で、いっそのことを本能の赴くままに好きなものを全部買っちゃえ……とぼんやり思ったところで、私は非常に重大なことに気付いてしまった。

 

 うん、周りにコンビニが無い──コンビニどころか、無事な建物が無い。瓦礫や残骸ばかりで見るからに荒廃している。

 

 そしてお金がない──お金どころか財布も服も靴も無くて、完全な全裸である。

 

 もっと酷いことに──記憶もない。自分が誰なのか、どうしてここにいるのか、そう言った一切合切が分からない。

 

 ──ルゥゥ……。

 

 で、だ。

 

 全裸で記憶がないだけなら、酒を飲みすぎてやらかしたんだろうって言えないこともない。ここが見るからに廃墟であることを鑑みれば、なにかヤバい組織に拉致られて金も服も巻き上げられた挙句、ヤバい場所に捨てられた……なんて見方もできないことはないだろう。

 

 しかし、幸か不幸か……その可能性は一切ないと断言することができてしまった。

 

 ──ルゥゥ……?

 

 自分の喉元から聞こえてきた、野太く重厚な割にはどことなく情けなさを孕んだ獣の鳴き声。

 

 そう、私は……人間ですらなくなってしまっていた。

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

 日もとっぷりと暮れたところで、改めて今日の出来事を振り返ってみようと思う。

 

 結論から言うと──どうやらここは、ゴッドイーターの世界であるらしい。

 

 ゴッドイーター。すごくざっくり言えば、アラガミという事実上不死の化け物が蔓延る荒廃した近未来で、アラガミに唯一武力で対抗できる存在──ゴッドイーターが活躍する姿を描いたいわゆるハンティングゲームだ。

 

 世界観の設定的にはもはや人類滅亡まで秒読みで、一部の特権階級を除けば天災の被災者か外国のスラムかといった暮らしぶりであり、住む場所にも食べるものにも困っている。そこらに蔓延るアラガミは極めて凶暴で凶悪であり、毎日元気に人類をぱっくりむしゃむしゃと貪っている。今日を生き延びても明日また生き延びられるかは誰にもわからない。アラガミに唯一対抗できるゴッドイーターも絶対数が少ないから、もはや焼け石に水状態。

 

 正直明るい未来なんてまるで想像ができないけれど……ゲームの雰囲気としては比較的明るい方で、設定程の悲惨さはあまり感じなかったりする。

 

 プレイヤーの分身たる主人公は立ちふさがるアラガミをバッタバッタとなぎ倒し、金も素材もカンストレベルで稼いでいた。天災級のアラガミをソロのノーダメで何百匹の単位で狩り、技の練習台としてアラガミの大群を鼻歌交じりでなぎ倒すこともあった。アラガミからみればまさしく死神の如き存在と言って良いだろう。

 

 どこも食料や資材が足りないという割には、歓迎会をやったりファッションに気を使う余裕があったり……と、これはゴッドイーターという特権階級であることも関係しているのであろうが、ともかく悲惨な設定をうっかり忘れてしまうほどには、ゲーム上では和やかで明るい雰囲気であった。

 

 尤も、それはあくまで熟練のプレイヤーの話であって、(アラガミが)神速、(アラガミが)連撃、(アラガミの)狩りはここまで進化した──と揶揄される程度には難しいゲームだったっけ。最初の方はあまりにもアラガミ側が理不尽すぎて、投げ出す人も多かったという話も聞く。 

 

 少し脱線してしまったが、私がここをゴッドイーターの世界だと判断したのにはいくつか理由がある。普通だったらゲームの世界(?)に入り込んでしまうだなんてそんな荒唐無稽な話は信じないが、証拠がいくつもでてきてしまってはしょうがない。

 

 まず一つ。この瓦礫だらけの荒廃した廃墟……ここが、黎明の亡都とそっくりであったこと。画面の向こうで何度も見た景色とそっくりで、周囲を探索すればするほどその判断が間違っていないことを裏付けてくる。

 

 次に……私自身のこの姿。うん、人間じゃあないってのは最初からわかりきっていたけれど、私ってばアラガミだったんだよね。

 

 喉から漏れる獣の声と明らかに高い視点から、かなりでっかい生き物だろうなとは思っていたけれど……あの大きな湖面に映った自分の姿を見た時、正直自分で自分にビビったもの。

 

 ガルム……いいや、マルドゥークの変異種っていうのが一番近いだろうか? 少なくともベースの骨格はガルム神属だ。

 

 前脚には真っ白のごっついガントレットがあって、首元から肩回りを覆うふっかふかでふっわふわな真っ白のファーと、全身を包む白い毛皮がある。背中にはヴァジュラ種のマントとよく似た青いマントがあるほか、キュウビのそれを彷彿とさせる扇状の大きな尻尾が一本。

 

 そして……狼の顔に、仮面が付いている。額には、青い一本角が生えていた。

 

 湖面にこの姿が映った時、正直死んだと思った。見るからに凶悪そうな化け物で、腕の一振りだけでぶっ殺されると思った。頭の中でいろんな考えが巡る割には体の方は硬直して動けず……湖面に映るそいつが自分自身だと気づくまで、だいぶ時間がかかったような気がする。

 

 そもそもとして、まるで当たり前のように四足歩行をしていたことに疑問を抱くべきだったかもしれない。今更ながら、あまりにも自然に……普通に人間として二足歩行しているのと何ら変わらない気分だった。そういう意味では、おそらく私はすっかりこのアラガミの体に適応してしまっているのだろう。

 

 ともあれ、それが自分の姿だと気づいてからは早かった。

 

 マルドゥークによく似たこの姿に、黎明の亡都そっくりのこの光景。まさかまさかと思いつつ空を見上げてみれば──そこには、緑色に輝く月がある。

 

 そう、緑化した月。ゴッドイーターの無印あるいはバーストのエンディングにて緑化してしまったあの月だ。証拠が三つも揃ってしまったのだから、もはや全てを受け入れるほかない。

 

 ──ルゥゥゥー……ッ!

 

 あの時思わずしてしまった遠吠え。いったいどうしてそんなことをしてしまったのか──今でも、よくわからない。

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

 さて。

 

 アラガミになってしまったものはしょうがないとして、考えるべきはこれからのことだ。

 

 文字通りの弱肉強食なこの世界において、私がするべきことは……まずは、身の安全の確保、ひいては自分の実力の把握だろう。最低限、どの程度のことまでになら対応できるのかって所くらいはわかっておきたい。

 

 日中からずっと地味に気になっているこの空腹感。これを紛らわすためには、捕食活動をしなきゃいけないのだろう。飢餓感──我を忘れて本能で行動してしまいそうになるほどのものじゃなかったのは一安心といったところ。体はアラガミでも心は人間だもの、よだれダラダラな獣になっちゃうのはプライド的に許せない。

 

 で、アラガミである私のご飯と言えば、人間──ではなく、アラガミだ。元の意識が人間だからか、人間を食べようとはまるで思えない。消去法的にアラガミしか食べるものが無いとも言う。世界観的には鉄だろうがマグマだろうが何でも食べられるだろうけど、正直アレらにあまり食欲が刺激されないんだよね。

 

 そして、アラガミを捕食するには……喧嘩を売っていい相手とそうでない相手を見極める必要がある。どんなアラガミなら倒せるのか、どんなアラガミなら逃げるべきなのか、逃げるとしてどれだけの速さで逃げられるのか、スタミナはどれだけ持つのか……などなど、考えなくっちゃいけないことは結構多い。生き死にがかかっているというのなら、なおさら。

 

 まぁ、腐ってもマルドゥークの変異種(仮)だ。中型アラガミくらいまでなら倒せるとは思うけれども……なんせ、元は喧嘩の一つもしたことがない一般人である。身体的なスペックで勝っていても複数匹に囲まれてボコられたら普通に死ぬと思うし。ピルグリム、マジで大変だったからな……。

 

 ともあれ、「やりたいこと」を考えるのはそのあとだ。まずは確実に今日を生き抜く術を身につける。この世界でどういう風に過ごすのかはまだわからないけれども、いずれにせよ強い力を身につけなくっちゃいけない。それもなるべく早く、出来るだけ安全に。

 

 ──ルゥゥ……。

 

 ひとまず今日は……空きっ腹のまま、我慢することにしよう。夜目はけっこう利きそうとはいえ、夜中に行動するのはいささか避けたいところ。幸いにして、アラガミに「住」はいらないし、手前味噌ながら私の尻尾はふっかふか。こんなさびれた廃墟であっても寝床としては十分だ。

 

 ──明日は、おなかいっぱいご飯が食べられますように。

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