GOD EATER:救雷の神鳴   作:ひょうたんふくろう

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【疾風迅雷】 猛烈な風と激しい雷。行動が素早いさま、あるいは事態が急激に変わること。


115 疾風迅雷(ミッションコード:7410NS064)

 

【疾風迅雷】

 

◇ミッションコード

 7410NS064

 

◇ミッション目的

 ティターニアの討伐。

 

◇ミッション概要

 ティターニアおよびフラックメイデンは特異点として完成しつつあり、ティターニアによる終末捕喰が始まろうとしている。ブラッドおよび極東支部は終末捕喰を防ぐため、ティターニアへの多方面同時攻撃を行う電撃戦を決行する。

 ティターニアへの接近に際し、コクーンメイデン寄生体およびフラックメイデンの砲撃による妨害が予想される。疾風の如く迅速にこれを突破し、ティターニアの喉笛に「意志」の牙を突き立てろ。暴食の女王を玉座より引きずりおろし、ヒトの終焉を防げ。

 

◇ミッション参加者

 

・雨宮ペア(配置:東)

 雨宮リンドウ(少尉/クレイドル)

 ソーマ・シックザール(少尉/クレイドル)

 

・藤木ペア(配置:北)

 藤木コウタ(少尉/クレイドルおよび第一部隊/第一部隊隊長)

 アリサ・イリーニチナ・アミエーラ(少尉/クレイドル)

 

・真壁ペア:(配置:西北西)

 真壁ハルオミ(少尉/第四部隊/第四部隊隊長)

 台場カノン(上等兵/第四部隊)

 

・片桐ペア(配置:南)

 片桐キョウヤ(上等兵)

 桜田チハル(上等兵)

 

・シュトラスブルクペア(配置:西南西)

 エミール・フォン・シュトラスブルク(上等兵/第一部隊)

 エリナ・デア=フォーゲルヴァイデ(上等兵/第一部隊)

 

・ヴィスコンティペア(配置:西)

 ジュリウス・ヴィスコンティ(大尉/ブラッド/隊長)

 ロミオ・レオーニ(上等兵/ブラッド)

 

・神威ペア(配置:北北東)

 神威ヒロ(上等兵/ブラッド/副隊長)

 シエル・アランソン(上等兵/ブラッド)

 

・マクレインペア(配置:南南西)

 ギルバート・マクレイン(曹長/ブラッド)

 香月ナナ(上等兵/ブラッド)

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

 

『──作戦開始時刻まで、残り10分。全ての班が指定のポイントに到達していることを確認済み。……各班、最後の確認をお願いいたします』

 

 耳元の通信機から聞こえてきたアナウンス。ヒバリの声にはかつてないほどの緊張感があり、今回のミッションがどれだけ重大なものであるのかを突きつけてくる。話している内容自体はいつもとほとんどかわらないのに……その通信を聞いた誰もが、そのことを心のどこかで予感していた。

 

「忘れ物は無いな、チハル?」

 

「……うん」

 

 あったとしても、もうどうにもならない。そんな身も蓋もない言葉を心の中だけに留めて、チハルは傍らに立つキョウヤに相槌を打つ。黒蛛病に感染しているはずのキョウヤは、しかしそうであることを全く感じさせないいつも通りの雰囲気で、そして普段とは違うデザインの手袋(グローブ)を着けている。それは紛れもなく肌の露出を極力抑えるための措置であり、そしてもしチハルがもう少しだけ注意深くキョウヤのことを見ていたなら、服の下に全身タイツに近いスパンデックスの特性スーツを着用していることに気づけただろう。

 

「……いいか、チハル」

 

「……」

 

「八班のうち、どこかひとつだけでもティターニアに到達できればいい……って建前だが、ぶっちゃけ本命はリンドウさんやジュリウスさんの班だろう。少なくとも俺たちやエミールのとこはそこまでの期待はされていない」

 

「……だから、リンドウさんたちの助けになるようにできる限りティターニアにプレッシャーをかけられる動きを意識する、だよね」

 

「ああ。……ま、それって結局ティターニアに接近するってことになるわけだが。何が言いたいかって言うと、つまり……」

 

「……わかってる。言わなくても……わかってる、から」

 

 こんなときでも。

 

 いいや、こんなときだからこそだろうか。

 

 今までずっと、気づいていたのに全然実感していなかったキョウヤのその気遣いに、チハルは自分のことがどうしようもなく恨めしくなった。

 

「ならいいんだけどよ……あんま、気負い過ぎるなよ」

 

「……」

 

「たとえ俺らが討ち漏らそうとも、後ろにゃ神機兵が控えている。俺らがティターニアに近づけなくても、他の誰かが絶対になんとかしてくれる」

 

「……だね」

 

 だから、自分たちはただ暴れまわるだけで良い。それだけで十分作戦に貢献できるのだから、それだけに集中すればいい。そのうえで、余裕があるならティターニアへ接近してその圧力を高めてやればいい──と、キョウヤは何でもないことのように笑って言った。

 

「とはいえ、目標くらいはあってもいいか……ここがティターニアから20kmの地点だろ? 10kmから攻撃されはじめて、第一次威力偵察では7kmの地点まで近づけているわけだから……まぁ、俺らもそれくらいを目指そうか」

 

 そして、キョウヤはポケットから──青いバンダナを取り出した。

 

「それは……」

 

「頭に着けるのはダサいけど、腕に巻くくらいならやってやらないこともない」

 

 もうずいぶん前にチハルがキョウヤに渡した青いバンダナ。バンダナが大好きなチハルが、相棒にもその良さを理解してほしいと……お揃いで任務に出られたなら素敵だろうと思って渡したバンダナ。

 

 せっかく渡したバンダナを、キョウヤは今まで着けてくれなかった。何とか無理矢理押し付けたはいいものの、それを着けている姿なんて──そう、【スプリング・フェスティバル】のときくらいしか見ていない。

 

 そんなキョウヤが、自分からその青いバンダナを着けようとしているのだ。

 

「……私も腕に巻こうかな」

 

「……いや、お前はいつも通り頭にしとけよ。そっちの方がいつものお前って感じがする」

 

「……頭に巻いてほしいの?」

 

「……お前こそ、お揃いが良いのか?」

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

 目と目が合って、そして数秒の沈黙。

 

 折れたのは、キョウヤの方であった。

 

「……わかったよ。頭に巻いてやる」

 

「……ありがと!」

 

 こういうのは柄じゃない……とボヤきながらも、キョウヤはしゅるしゅるとそのバンダナを頭に巻いていく。ちょうど、額の所もすっかりと覆えるような、いたってオーソドックスなバンダナの使い方だ。チハルのそれと比べると、ハチマキのように見えないことも無い仕上がりになっているが、十分に【お揃い】と言える範疇だろう。

 

 

 

『──作戦開始まで、残り1分』

 

 

 

 再び流れてきたアナウンス。泣いても笑っても、あと60秒で始まってしまう。

 

 ここまできてなお未だ現実味が無いのは、ある種の現実逃避のためか。それともキョウヤがバンダナを着けてくれたからか。もしかしたらその両方かもしれない……なんて思いながら、チハルは自分の頭の赤いバンダナにそっと触れた。

 

「キョウヤくん」

 

「あん?」

 

 相棒の晴れ姿──青いバンダナを着けたキョウヤをしっかりその瞳に焼き付けてから、チハルは精いっぱいの笑みを浮かべた。

 

「……無茶しないでよね!」

 

「こっちのセリフだ」

 

 

 

『──作戦開始時刻です! 各班、ティターニアへの接近を始めてください! ……どうか、ご武運を!』

 

 

 

 【疾風迅雷】。世界の命運をかけた任務が、始まった。

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

 

「──いたぞ! 見えてるな!?」

 

「──うんっ!」

 

 最初にそれに気づいたのは、やはりいつもの通り遠方を確認することがクセになっているキョウヤであった。

 

「ボルグ・カムランとマルドゥーク! ありゃあ……コクーンメイデン寄生体だ!」

 

 ティターニアまであと17kmの地点。寄生体が(ひし)めいている10km圏内よりまだだいぶ距離があるが、おそらくはぐれ(・・・)か何かだろう。ボルグ・カムランもマルドゥークもその胴体部にコクーンメイデンが突き刺さっており、そして双方ともにどちらかと言えば白っぽい色合いをしているはずのアラガミなのに、寄生の影響を受けたのか全身に黒蛛病のそれによく似た黒い紋様が浮かび上がっている。

 

 ──アアアアア!!

 

 ──キィィィィ!!

 

 そして、本来であれば群れることのない二体が、連れ立ってチハルたちに襲い掛かってくる。マルドゥークは火球をそのまま撃ち出してきて、ボルグ・カムランは山なりに針を撃ち込んできて……と、まるで逃げ道を潰すかのような連携だ。

 

 が、もちろん。

 

 チハルたちも、黙ってそれを受け入れるはずがない。

 

「おりゃあ!」

 

 左右に避けるのではなく、あえて突っ込む。面前に迫る火球に対し、体の小ささを活かして下に滑り込むようにして避けたチハルは、マルドゥークの鼻面に思い切り神機を叩きつけた。

 

 ──ッッ!?

 

「こンのぉ!」

 

 一撃を入れて怯んだところに、さらなる追撃。懐に潜り込むようにして思い切り神機を叩きつければ、マルドゥークと言えども少なくないダメージを負う。いくら体の小さいチハルと言えど、神機使いの膂力は成人男性のそれを凌駕するし、振るっているのはルーの素材を使って作られたバスターブレードだ。単純な一撃の重さで言えば、神機使いの中でもトップクラスと言っていい。

 

 そして。

 

「油断したなァ!」

 

 ──ドォン!

 

 そんなチハルの攻撃を嫌って飛び退いたマルドゥークに……キョウヤの銃撃が炸裂する。その弾丸はマルドゥークに寄生しているコクーンメイデンを、見事に捉えていた。

 

 ──……。

 

 貫通して突き出ていたコクーンメイデンの頭。そんな頭が、銃撃によって見事に吹き飛んでいる。爆発四散していると表現しても良い。頭があった場所からは灰色の煙が立ち込めており、その断面からは少し焦げたオラクル片がぼたぼたと零れ落ちていた。

 

 そして──まだ体の一部しか傷を負っていないはずのマルドゥークが、まるで電池切れを起こした機械のようにピクリとも動かなくなった。

 

「ひゃっはァ! やっぱリンドウさんたちが言ってた通りだ! こいつらは寄生しているコクーンメイデンを吹っ飛ばすだけでくたばるぞッ!」

 

 少なくとも、キョウヤの銃撃であれば一撃で倒せる。

 

 加えて。

 

 ──ィィィィ……ィィィ!?

 

 マルドゥークに攻撃していたチハルの背後を取っていたボルグ・カムラン。見上げるほどの巨体であるにも関わらずそいつは大きく跳んでいて、マルドゥークごとチハルのことを押しつぶそうとしていたらしい。

 

「……あ」

 

 ただし、跳びあがった直後に──空中にいてまるで無防備なところに、マルドゥークの傷口から放たれたオラクル弾が叩き込まれる。完全に油断していたのだろうか、両手の盾で防御することも間にあっていない。まるで最初から示し合わせていたかのように、そのオラクル弾はボルグ・カムランの胴体から突き出ているコクーンメイデンを捉えていた。

 

「チハル!」

 

「……うんっ!」

 

 弱点に攻撃を受けて怯んでいるアラガミ。そんな大きな隙を見逃すほど、この極東の神機使いは甘くない。一瞬で状況を把握したチハルは、神機を構える腕に力を込めて……制御を失って落ち行くその巨体に飛び掛かった。

 

「おりゃああああ!!」

 

 ──ギャアアアアア!?

 

 力任せの一撃。チハルが振るったそのバスターブレードは、吸い込まれるようにしてコクーンメイデンに叩き込まれる。ボルグ・カムランの落下の勢いも相まって、コクーンメイデン寄生体はもはや元がそれであったことがわからないくらいに潰れ……それでなお威力は消えず、ボルグ・カムランの胴体は文字通り真っ二つになった。

 

 ──……。

 

 どすん、と大きな衝撃。立ち込める土煙。油断なく神機の装甲を展開して様子をうかがうチハルと、土煙の向こうに追加で十数発ほど銃撃を叩き込むキョウヤ。

 

 ややあってから。

 

「……よし、ぶっ殺した」

 

「……だね!」

 

 土煙が晴れて、物言わぬ残骸となり果てたそれをみて。ようやくチハルたちは張りつめていた緊張の糸を緩めた。

 

「やっぱ攻撃力だけはヤバいみたいだな……見ろよチハル、あっちのでっかい穴。アレ、ボルグ・カムランが最初に飛ばした針でできたやつだぜ」

 

「え……クアドリガのミサイルが直撃したよりも酷いことになってるよ……?」

 

「寄生されて異常強化されてるってことなんだろうな……一方で、弱点がむき出しでそこを叩かれると脆い。なんというか、いろんな意味で極端なんだよなあ……」

 

「キョウヤくんなら、銃撃で割と簡単に倒せるってことだよね……ところで、さっきのボルグ・カムランを撃ったのは」

 

「マルドゥークに撃ち込んだ、ブラッドバレットの連鎖複製弾だな。着弾したところからさらに弾が出るっていう優れものだ。基本的にはアラガミ反応の大きい方に向かっていくから……つまり、コクーンメイデン(コア)をそのまま狙い撃てる」

 

「……いつの間にそんなの使えるようになってたの? ブラッドバレットって、シエルちゃんとコウタさんくらいしか使ってないと思ってたけど」

 

「だって……」

 

 どこか気恥ずかしそうに目をそらしながら、キョウヤはつぶやいた。

 

「連鎖複製弾自体が、銃撃の腕に関係ないやつだから好みじゃなかったんだけどよぉ……ブラッドバレットがシエルとヒロがイチャついた結果生まれたものだって聞いてから、余計に使いづらくなったというか……」

 

「…………」

 

「でも、背に腹は代えられねえ。どう考えてもこいつは今回の乱戦で活躍するんだから、使わない理由はないわな」

 

「……だね」

 

 今はまだ二体だけだったが、今後はさらに多くのアラガミと同時に戦闘をすることになるのはほぼ間違いない。相手の攻撃力が非常に高く、それでいて弱点がほぼ露出しているのであれば、なるべくこちらの手数も増やして速攻で決着をつけるのが最も合理的な動きだろう。だからこそ、キョウヤは普段なら絶対に使わない──ホーミング弾や連鎖複製弾といったバレットも持ち込んできているのだ。

 

「いいか、チハル。基本的には俺が銃で仕留める。最悪一発で仕留められなくても、コクーンメイデンにブチ込めばそれなり以上の隙ができる。だから」

 

「一撃で倒せなかった奴は、怯んでいる隙に私が止めを刺す。私の攻撃なら、よほどのことが無い限り仕留め損ねることは無い。もしも、私が接近できないほど手ごわい相手だったとしたら……」

 

「その時は、俺が銃で援護してそいつの動きを止める……ってな。この動きを徹底してれば、まぁまず大丈夫だろう。普通だったら格上の相手でも、寄生体なら俺たちでも倒せるってわけだ」

 

「……最強だね、私たち」

 

「……ああ、そうだな」

 

 たった二体。されど二体。普通の神機使いだったら苦戦することは必至であるマルドゥークを、この短時間で討伐した。まだまだ先は長いけれど、ほんの少しだけ前進できたのは間違いなく、そしてこれは今のチハルたちにしかできないことだ。

 

「……行こう」

 

「……うん」

 

 最後にちらりと、アラガミだった残骸を伺い見てから。

 

 チハルとキョウヤは、ティターニアの下へ向かって駆け出した。

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