「うるっさぁぁぁぁぁいッ!!」
「へぶゥッ!?」
グレムの顔面にめり込んだ九条の額。顔面のど真ん中の、まさしく鼻の辺りに当たったのだろう。あまりにも予想外の一撃にグレムは身を守ることもできず、赤いしずくの放物線を描きながらしりもちをついた。
「わ、私を見くびるなあっ! 私にだって、技術者としての誇りがあるっ!」
「な、な……!?」
「神機兵は! もう誰も傷つかないために造ったんだ! これ以上可哀想な思いをする子供を生まないために……! 誰かを助けるために力をふるう、【人にやさしい】兵器なんだ! 今使わずしていつ使う!?」
「く、九条……」
「私が造ったものを! そのために造ったものを! 私の好きなように……本来の目的通りに使って何が悪い!?」
「金を出したのは俺だろうがああああああ!!」
がばりと跳び起きたグレムが、猛然と九条につかみかかる。息を荒くした九条もまた、その華奢で不健康そうな体には似合わない勢いをもって、グレムの胸倉をつかみ返した。
「金しか出してないだろうがぁぁぁ!! 金だけあっても神機兵は造れないだろぉ!? 悔しかったら私以外のやつに神機兵を作らせてみろ! できるものならなあ!」
「金がなきゃ何も出来ないだろうがぁぁぁ!! お前みたいなやつがその力を発揮できる環境を整えたのは俺だぞッ!! お前ひとりじゃ何もできないだろうがあああ!!」
お互いがお互いの胸倉を締め上げている、ある種の拮抗状態。グレムの鼻からは鼻血がどばどばと流れ落ちているし、そして九条の口の端からも、決して少なくない量の血が流れ出ている。お互いの胸元は既に真っ赤に染まっていて、そして当然のことながら、そんな胸元を掴んでいる手もお互いの血で染まっていた。
そして。
「なにやってんだよアンタらッ!!」
「い……いい加減にしてッ!!」
そんな二人を止めに入ったのは……ようやく冷静さを取り戻した、ケイイチとレイナであった。
「ほら! 離れて!」
「九条博士も! 落ち着いて!」
「ああン!? 神機使い風情が! 俺を誰だと思ってやがる!」
「知らねえよ! でもなあ! 仮にも偉い人が、部下を殴っちゃダメだろ!? 二発目はどう頑張っても言い訳できないぞ!? いいのか、割とマジの査問会行きだぞ!?」
「……ッ!!」
さすがに査問会行きはマズいと思ったのだろうか。あるいは、これ以上立場が悪くなる要素は少しでも排除したいと思ったのか。それとももっと単純に──神機使いに後ろから羽交い絞めにされて、力で振りほどくのは無理だと実力で突き付けられたからか。
ともかく、グレムはケイイチの言葉にほんの少しだけ冷静さを取り戻し……そして、振り上げようとしていた拳を下ろした。
「……チッ! やめればいいんだろう! ほら、さっさと離せ!」
「九条博士も……! ほら……!」
「ふゥゥ……! ふゥゥ……!」
グレムがケイイチに引き離されたのとほぼ同時に、レイナによって抑えられていた九条は……とてもあの弱弱しい人間だったとは思えないほど、鋭い瞳でグレムを睨みつけている。親の仇を見ているというよりかは、追い詰められているネズミのようなそれではあるが──しかし、そこには確かに折れることのない確固たる意志の光が宿っていた。
「チッ……!」
その瞳に、どこか背筋がぞくりとして。
抑えきれないほどの苛立ちの中に、ほんの少しとはいえ言葉にできない何かを感じ取って。
そしてグレムは──忌々しそうに部屋を見渡してから、吐き捨てるようにして言葉を放った。
「……上官に対する暴力行為については、不問としよう。どういう形であれ、こちらもやったことだ。これについては、水に流してやる」
先に手を出したのはそっちじゃん──と呟いたケイイチを思いっきり睨みつけて、グレムは続けた。
「だが、命令違反については覚悟しておけ。お前の研究室も、この部屋も……見納めになるだろう。ラケルくんとレアくんに、別れの挨拶を済ませておくことだな」
たったそれだけ言って、グレムはくるりと背を向ける。リッカがどこからか持ち出してきたティッシュを半ばひったくるようにして受け取り、そして来た時と同じくらい大きな足音を立てながら去っていった。
一方で、九条は。
「は、はは……終わった……」
先ほどまでの猛然とした勢いはどこへやら。なんだか数十年ほど老け込んだのではないかと思えるほど消沈した様子で、ぺたりと座り込んでしまっていた。
「あ、あああ……! 終わったぁ……! もう、ダメだあ……!」
グレムを相手に啖呵を切った男の姿だと、信じる人間がいるだろうか。これがフェンリル有数の技術者の姿だと、信じる人間がいるだろうか。
どこからどう見てもうらぶれた冴えない中年にしか見えないその男に──静かにほほ笑んだラケルが、優しく声をかけた。
「──そんなことを仰らないで、九条博士」
「え……?」
静かで、穏やかで、優しげで、慈愛に満ちた──とても安らかなほほえみ。見ているだけで周りに幸せを振りまくような、暖かい日だまりを思わせるほどの幸福な笑みを浮かべて、ラケルは九条に語り掛けた。
「ほら……口の端が切れています。おでこの方も、ちょっと腫れているみたい。とりあえずの応急処置ですが、あとでちゃんと医務室にいってくださいね?」
「え、あ……その、ハンカチは」
す、と腕を伸ばしてラケルは九条の口の端を……今もなお滴るその血を自前のハンカチで拭いている。いかにも高級そうな、少しいい匂いのする立派なハンカチが赤く染みていき、そしてラケルはそのことを全く惜しむ様子を見せなかった。
「──親として、あなたに感謝を。技術者として、あなたに尊敬を。あなたのその勇気ある行いのおかげで、きっと……すべてがうまく行く」
「──同じ言葉を、贈らせてもらおう。……正直なところ、あなたがこうまでして助けてくれるとは思っていなかった。本当に……本当に、ありがとう」
「わ、私も……私が言うのもおかしいかもしれませんが。……見直しましたよ、九条博士!」
ラケル、榊、そしてレアの言葉。
三人のその言葉に、感極まったのだろうか。九条は、ぽろりと涙を流した。
「はは……すべてが終わったら、その時はトイレ掃除でもお茶くみでも良いので、雇ってください……」
「あなたほどの人間であれば、もっと活躍できる場所があります。この極東支部の、特別技術顧問として受け入れることを約束しよう」
「あらやだ、榊博士ったら……九条博士ほどの人間を、そう簡単に私たちのフライアから手放したりなんてしませんよ……」
「……なあレイナ、ちょっと思ったんだけど……なんかこう、ズレてない?」
「しっ! せっかく榊博士もラケル博士もいい感じにまとめているんだから、蒸し返さないの!」
ようやく落ち着いたのだろうか、どこか照れ臭そうにしながら九条は立ち上がる。赤く染まったハンカチは、ラケルがそのまま懐に仕舞い込んだ。新しいものを弁償する──という九条のその申し出をやんわりと断って、そして改めて、とてもうれしそうにラケルはにっこりと笑った。
「九条博士」
「は、はいっ!」
「どういう形であれ、神機兵は動きました──ならば、私たちが今できる全力を尽くしましょう」
「え……ええ! それはもちろん!」
「──フランさん。神機兵のオペレートはできますね? さすがに500体すべてを監視するのは不可能なので、最もアラガミ反応に囲まれているものをピックアップし、バックアップできる体制に入ってください。もちろん、私と九条博士もフォローします」
「お任せください!」
「……その、フランさんが神機兵のオペレートをする分、神機使いの皆さんのフォローが出来なくなってしまいますが」
「いいえ! こんなにも多くの増援が向かってくれたおかげで、明らかにアラガミたちの勢いも、ティターニアの砲撃の頻度も落ちています! これなら私一人でも、十分です!」
「まあ、頼もしい」
オペレーターの二人から帰ってきた、力強い言葉。その言葉に気分を良くしたラケルは、どこか楽しそうにオープンチャンネルで言葉を紡いだ。
「──神機使いの皆さんにご連絡です。聞こえていたかもしれませんが……あと数分ほどで、神機兵の増援が到着します。どうかそれまで、頑張ってくださいな」
▲▽▲▽▲▽▲▽
『──来た! 神機兵!』
最初にその連絡をしてくれたのは──ナナであった。
「フランさん」
「はい! 神機兵S-γ19がナナさんたちの下に到着! 数百メートル離れたところでS-γ18、S-γ20が小型アラガミを蹴散らしながらティターニアへと接近中! こちらの二体も応援に回しますか?」
「いえ、それには及びません」
モニターの表示が切り替わる。S-γ19と識別番号が振られた神機兵のメインカメラの映像だろう。映像の端には神機を構えたナナがおり、その中央には……肩口からコクーンメイデンを生やした禍々しいヴァジュラが映っている。
『ど、どうすればいいの……? その、任せちゃっても大丈夫なやつ……?』
──ア。
「…………は?」
それは、ほんの一瞬の話であった。
ナナのその不安そうな言葉に、フランが答えようとした瞬間……モニターの画面が激しくブレた。ノイズか何かで映像が乱れたのではないかと思えるほどのそれは、しかし異常でもなんでもなく、通信に影響があったわけでも、そしてもちろん、カメラに問題があったわけでもない。
ただ、純然たる事実として──次にまともに映ったのは、顔をそむけたくなるほど陥没したヴァジュラの頭であったのだ。
「え……えっ?」
「な、何が起きたんです……?」
あまりのことに、思わず漏れてしまったフランとヒバリの言葉。
それに答えたのは──現地でその光景を見ていたギルであった。
『う……嘘だろ、おい……』
「ギルさん……!? な、何があったんですか……!?」
『じ、神機兵が……』
「神機兵が!?」
『神機兵が……一瞬でヴァジュラをぶっ殺しやがった!』
カメラの映像がブレたのは、神機兵が凄まじい速さで動いたから。ヴァジュラの頭が陥没しているのは、神機兵がその勢いのままヴァジュラの顔面を大剣で打ち付けたから。ついでに文字通り機械としての精密な動きで、肩口に生えていたコクーンメイデンもしっかり叩き潰している。
故に、コアを失った寄生体ヴァジュラは動かなくなった。本当に、たったそれだけのことなのだ。
「よし……よぉし! いい調子だ!」
未だに額を赤く腫らしたままの九条が、立ち上がってガッツポーズをとる。そうこうしている間にも、神機兵に様々なアラガミが群がっていき……そしてその悉くを、神機兵はあっという間に蹴散らしていた。
「──ウコンバサラ、グボロ・グボロ、クアドリガ……そのすべての反応の消失を確認! 神機兵S-γ19の損傷は0.5%以下! これならオラクル細胞の自己再生ですぐに修復します!」
『おいおいおいおい……! どうなってんだよこいつは……!? 神機兵ってのは、シユウにおちょくられるくらいのでくの坊だったはずだぞ……!?』
『う、うまく動けばコンゴウを一撃で倒せたりとかもしてたけど……! でも、これは!』
いつの間にか切り替わっているモニターの映像。状況確認用に飛ばしているドローンのものと、そして時折、ナナやギルのボディカメラのそれに切り替わっているが、ともかく戦場を映し出すそのカメラには、すさまじい勢いでアラガミたちを屠っていく神機兵が映っている。
「サリエル撃破! ボルグ・カムラン撃破! シユウ撃破!」
『ひゃあああ……!? おっきいやつも、飛んでるやつも関係ない……!? すごく、すっごく強い……!?』
『なんだよこの化け物染みた強さは……!? 神機兵ってのは、連携して初めてその実力が発揮できるんじゃなかったのか!?』
モニターに映るオレンジ色のプロット──アラガミ反応が、すさまじい勢いで消えていく。すでにギルたちの周囲200mには目立ったアラガミ反応は無い。どうせあと数分のうちにはまたアラガミが押し寄せてくるのだろうが、先ほどまではむしろ押し返されていたことを考えると、この状況はまさしく奇跡のようなものである。
『──こちらキョウヤ! こっちにも神機兵が来た! なんかめっちゃ暴れまくってアラガミどもをぶっ殺しまくってる! ヤバくねえかこれ!?』
『──こちらコウタ! 神機兵めっちゃ強い! これウチにも百体くらいほしいんだけど! 予算まだ余ってたりする!? お願いしたら友達価格で譲ってくれないかな!?』
『──こちらハルオミ! 神機兵がアラガミを引き受けてくれるおかげでだいぶ進みやすくなった! この隙に一気に距離を詰める!』
そして、あちこちから入ってくる通信。そのどれもが神機兵の活躍を讃えるものであり、そしてそれに呼応するかのようにして、モニター端に表示されている地図上ではオレンジ色のプロットが消失していく。先ほどまでの劣勢がまるで嘘かのように、今までの遅れを取り戻すかのように……神機兵と神機使いを示すその反応が、ティターニアへと確実に迫っていた。
「……神機兵S-γ19、このまま先行して露払いを行います! ギルさんたちも続いてください!」
『そ、それはわかったけどよ……! いったいどうなってる!? 神機兵はここまで強くはなかったはずだ!』
『そ、そうだよ……! これじゃあまるで、アナグラのベテラン神機使いみたいだよ……!?』
「──その通り! まさしくこれは、極東の技術と経験の賜物と言っていいでしょう!」
興奮冷めやらぬ様子で、九条は喜々として語りだした。
「このアナグラから提供してもらった、アラガミの行動データ! その膨大な量と質といったら! これを解析して学習させるだけで、神機兵は何倍も強くなった!」
極東からもたらされた、アラガミの行動データ。九条はこれを解析にかけ、アラガミのありとあらゆる動きや挙動……すなわち、アラガミの行動原理そのものを神機兵に学習させた。もちろん、アラガミの行動原理の学習は極東に来る前から行っていたことではあるが、極東からもたらされるそれはあまりに膨大な量で、そして様々な視点、観点でのものが存分に含まれている──つまり、学習用データとしての質が非常に高い。
そのため、極東のデータを学習させただけで……今までの学習が遊びか何かだったと思えてしまうほど、神機兵は強く、賢くなったのだ。
「キミたちがルーくんの研究を行っている間、私はこれだけに着手していた……! いやまぁ、キミたちがいないためにこれしかできなかったとも言いますが、ともかく! 十分すぎるほどの量の上質なデータに十分な時間! 神機兵がさらなる進化をするには十分すぎる! さらに!」
──ギャアアアアア!?
──ガァァアァァア!?
──キィィィィ!?
画面越しに伝わってくる、アラガミの断末魔の叫び。九条が語っている今この瞬間にも、恐ろしい勢いでアラガミたちが駆逐されていく。
「──この極東の神機使いたちの戦闘データ! これを戦闘AIに学習させることで、躯体スペックの限界以上の戦闘能力を神機兵は手に入れることができたのです! 単なる機械では再現できない、柔軟な判断と発想、そして応用力! 極東の神機使いたちが培ってきたすべてを、私の神機兵は継承しているッ!」
ただ剣を振るうのではない。
ただ銃を撃つのではない。
戦闘術として、最適化された動きで剣を振るう。戦略として、最適化された動きで銃を撃つ。そして、武術や理論と言った全てを超越した──この極東と言う地獄を生き抜く神機使いだからこそ身につく、一種独特の言葉にできないその【何か】さえも、この神機兵は会得している。
『──こちらリンドウ。こっちにも神機兵が来てくれたが……こりゃヤバいな。ちっとばかし自信を無くしちまうぜ』
「……リンドウくん? キミがそこまで言うほどのものなのかい?」
『ああ。単純な攻撃力はもちろん、アラガミの動きを完全に見切っているってのが何よりヤバい。動きに一切の無駄が無いし……先読みがすごすぎて、アラガミの方が切られにきたり、撃たれにきているって言ったほうがしっくりくる』
「なんと……」
『他所の支部なら間違いなくエースになれる実力だな。アナグラでも……ここまでちゃんとした動きができるのはタツミたちくらいだろ。あの中にキャリア10年のベテランが入っているって言われても、俺ァ信じるぜ』
「そうでしょう、そうでしょう! 無論、ここまでの動きができるようになれたのはほかでもないアナグラの皆さんの協力があってこそ! 本来であれば、神機兵同士が連携した際の動きもお見せしたいのですが……」
現状では、それは叶わない。だって、連携するまでも無くアラガミを倒せているから。その真の実力を見せたくとも、それを見せられるだけの相手がいないのだ。
「私だって、ただ無駄に時間をかけていたわけではない……! あの試験運用の時とは比べ物にならないほど強くなっていると、ここで宣言させていただこう!」
「──全方位砲撃を確認! 各員、攻撃に備えてください!」
突如としてけたたましく鳴るアラート。マップ中心の大きな赤いプロットから放たれる、ピンク色の線。青のプロット……つまりは神機兵と、緑のプロットである神機使いに一斉に放射されたそれは、パッと見ただけでも200はくだらない数がある。もちろん、これはあくまでレーダーでしっかり感知できているものだけを捉えているのだから、実際はこの一つの線だけで数十発分の砲撃に相当するのだろう。
そして。
『うぉぉぉぉ!?』
『あっぶね!?』
アラガミが減ってきた分、砲撃に集中する余裕があったのだろうか。先ほどまでよりかは幾分か余裕をもって砲撃を回避した様子が、スピーカ越しに聞こえてくる。
──マップに示される青いプロットはひとつも減っていない。それどころか、ますます勢いを増して赤いプロットに向かって動いていた。
「う……うそ……!? あれだけ密度の濃い砲撃を受けて、神機兵の被害はゼロ……!?」
「え……!? だって、さっきまでは皆さんかなりギリギリで避けてたんですよ……!? 単純に考えて、500体もいれば被害が出る神機兵が絶対少しは出てくるはずなのに……!」
「──これこそが神機兵の真骨頂の一つ! 人間ではどうしたって警告受けてから行動するまでにラグが生まれますが……しかぁし! 神機兵はレーダーシステムと直結している! アラートが発報した瞬間に、然るべき機体が然るべき回避行動を取ることができる!」
攻撃を検知した瞬間に、その必要がある機体だけが瞬時に回避行動を取ることができる。いまがざっくり10km離れていたとして、オラクル砲撃やコクーンメイデン飛翔体が音速の二倍……秒速480mで迫っていたとしても、たっぷり14秒以上も余裕がある。
彼我の距離が5kmだとしたら、7秒の余裕がある。
彼我の距離が3kmだとしたら、4秒の余裕がある。
であれば──人間以上の処理能力と身体能力を有する神機兵が、そんな攻撃になんて当たるはずがない。着弾点すら常にシミュレーションすることで予測ができるのだから、もはや自分から当たりにでも行かない限り、神機兵に攻撃は通らないのだ。
「8組の相手をしていたのに対し、今はほぼ全方位に500もの対象がいる……いきなり負荷が60倍以上にも増えたのですから、ティターニアのキャパシティも圧迫され、攻撃精度が先ほどよりも落ちている、と言うのは認めましょう。しかし、それでも!」
「オラクル砲撃も、コクーンメイデン飛翔体ももはや脅威ではない……。機械としての強みが、そのままティターニアの特性に
「その通り!」
更に付け加えるならば、神機兵を撃退しようとティターニアがリソースを割くほど、神機使いへの攻撃が弱まる。神機兵を狙うよりかは神機使いを狙ったほうがまだしも人類側にダメージを与えられるのに、ただのアラガミでしかないティターニアにはその判断が出来ない。
結果として──神機兵による攻撃は、今この場においてこれ以上ないほど有効な策として機能していた。
『おいおいおい……じゃあなんだよ、つまり今の神機兵は……』
信じられない、と言わんばかりのギルの声。
それが、純然たる事実であった。
『神機使い以上に体が丈夫で、神機使い以上に力があって、神機使いを超えた索敵能力もあって、神機使いを越えた精密な動きと連携ができる……』
『そんな超スペックな
「──その通り! これこそが、私とラケル博士の……いいえ! フライアとアナグラの協力のもとに生まれた神機兵なのです!」
オレンジ色のプロットが、一つ、また一つと消えていく。
青いプロットが、少しずつ少しずつ、赤いプロットに近づいていく。
そして、とうとう。
「──総員に通達! 神機兵W-δ07が、ティターニアまで残り10kmの地点に到達しました! ほかの神機兵も、間もなく到達の見込みです!」
──流れは確かに、変わりつつあった。