「は……MIA……?」
耳に飛び込んできたその単語が信じられなくて、キョウヤは呆然としてその言葉を繰り返した。
「じょ、冗談キツいっすよヒバリさん……あ、アレですか? 俺も入隊二周年だから……サプライズのドッキリってやつですか?」
「……キョウヤ、さん」
悲しそうに目を伏せたまま、ヒバリは再び事実だけを告げた。
「違います──本日発令された新人指導のミッションにて、チハルさんがMIAとなりました」
「……嘘、だろ」
最初はタチの悪い冗談だと思っていた──いいや、そうであってほしいと願っていたキョウヤであっても。ヒバリのこの表情と、なによりこのアナグラの特有の雰囲気を見てしまえば、それが嘘でも何でもないということがわかってしまう。
「ど……どういうことだよ!? たかがグボロ一匹にあいつが手こずるはずないだろ!?」
「強い通信障害が発生していたため詳細は分かりませんが……作戦エリアに想定外のアラガミが複数侵入したようです」
「はぁ? そんなの、よくあることじゃ──」
「シユウとコンゴウがそれぞれ二体、ヴァジュラが一体、荷電性ボルグ・カムランが二体……そのすべてがミッションランク6相当と思われる上位個体であると推測されています」
「「!?」」
キョウヤだけでなく、一緒に話を聞いていたコウタたちまでもが息をのんだ。
「ランク6って……そんなの、ベテラン勢や隊長格が部隊を組んでようやくやりあえる相手だぞ……!?」
「一体だけでも損傷なしに倒すのは難しいのに……なんで、そんなのが同時に」
ランク6相当のアラガミ。今のキョウヤじゃどう頑張っても勝てっこない。相手が一体だけであるなら、部隊を組んで挑めば何とかなるかもしれないが……少なくとも、新人を連れた状態で、それも複数を同時に相手取るなんて正気の沙汰ではない。たとえ逃げに徹したとしても、どうしようもない。
「……加えて、未知のアラガミの乱入まで推察されています」
「そんな……」
もう、キョウヤにはヒバリの声は聞こえていない。誰かのつぶやきもすべて、ノイズとして響くだけだ。
「……」
どう考えても絶望的な状況。しかしそんな中で、少し不可解な点がある。
「なぁ……ケイイチ、レイナ」
「「っ!」」
低く、重く、おどろおどろしい声。ヒバリやエリナまでもがびくっと震えたことに、キョウヤは気づいていない。
「そんなにヤバい相手がいたってのに……お前らは、どうやって」
中堅のチハルじゃどうにもならない相手がいたというのに。いったいどうして、新人二人は多少の負傷を負いながらも無事にアナグラへ戻れているのか。
「そ、れは……」
「チハ、ルさんが……足止め、を……! 自分が囮になるから、情報を持ち帰れ、と……!」
「──あァ!?」
アナグラに大きく響いた、獣の如き怒声。
気づけばキョウヤはケイイチの胸倉を抉るように掴み、万力の如き力で締め上げていた。
「てめェらあいつを見捨てて逃げたのか!?」
「……っ!!」
「目ェ逸らすんじゃねえ! てめえ、もう一回言ってみ──!?」
空気を切り裂く鋭い音。それとほぼ同時に、目の前がチカチカするほどの衝撃がキョウヤを襲った。
「──バカ野郎」
目の前に広がる無骨な配管や配線──すなわち、アナグラの天井。尻と背中に強烈な痛み。そしてそれ以上に、ジンジンと熱を持ったように痛む頬。
この時になってようやく、キョウヤは自身があおむけになって倒れていることに──誰かに殴り倒されたことに気付いた。
「落ち着け……ってのは無理な話だろうが。……あいつらが、望んでそうしたように見えるか?」
「ハル、さん……」
腕を取られて、無理やり立たされて。
改めて、二人の顔をよく見てみれば。
「……っ!」
二人とも、泣いている。
歯を食いしばって……自らの無力を呪うようにして泣いている。悔しさと後悔と、何もできない自分に底知れない怒りを抱きながら、泣く資格なんてないと自分を責め立てながら、涙を止められずにいる。
「あの二人は、あの娘が生かしたんだ。あの娘が頑張ったから、あの二人が今ここに居るんだ。だから……あの娘の覚悟を、お前が否定しないでやってくれ」
「……すみま、せん。今のは俺が……完全に、俺が悪かった」
「言う相手を間違えてるぜ?」
「……すまん、二人とも。俺が……俺が悪かった」
ふるふると首を横に振るケイイチとレイナ。その姿を見て、キョウヤの心に例えようのない罪悪感が生まれた。
「いえ……っ! 俺が、もっと強ければ……! チハルさんに、あんな選択をさせずに……!」
「わ、わたっ! わたしも……っ! 何も、何もできなかった……っ!」
「あー、待て待て待て。まぁなんだ、俺が言うのもおかしな話だが……お互いここはいったん水に流してくれ。それよりも今はもっと大事なことがあるだろう?」
わざとらしくキョウヤたちの間に割って入り、殊更に大きな声を上げて。ハルオミは、キョウヤに言い聞かせるようにして語り掛けた。
「さっきヒバリが言った通り、想定外の強力なアラガミが徘徊している。だから──」
「そうだ、救援! 今すぐ助けに行かないと──!」
「落ち着け。……お前は連れていけない」
「なんで!?」
「言ったろ、強力なアラガミだって。……桜田チハルの救援任務はミッションランク7と判断された。今のお前の階級じゃミッションに参加できない」
「そんな……!」
今のキョウヤの階級では、ソロで参加できるのがランク3までで、部隊として参加できるのがランク5までとなっている。もちろん非常事態においてはそんな制限なんて関係なしに駆り出されることもあるのだが、ともかく今この瞬間においては「チハルの救出に向かえない」というその事実だけが全てだ。
「今アナグラにいて参加資格があるのは俺とコウタしかいない。でもって、俺もコウタも遠距離攻撃がメインだ。そうでなくとも、二人で七体が居座る現場に向かうことはできない」
ハルオミとコウタ。二人ともこの極東でキャリアを積んだ隊長格という、申し分のない実力を持っている。しかし、それほどまでに実力のある人間でなければこのミッションに参加できないということであり、そして当然のことながら、そんな実力者がそう何人もいるわけがない。
加えて言えば、コウタは旧型神機使い──銃撃しかできない。ハルオミは第二世代神機使いだが、銃型の旧型神機から乗り換えたこともあり、戦法としては銃撃がメインだ。相手が一体や二体ならともかく、複数体との乱戦が想定される中で、切り結ぶ前衛が不足しているというのは致命的である。
「じゃあどうするんです……!? まさか、見捨てるってわけじゃないですよね……!?」
「それこそまさかだ。……そもそも、なんで俺達がこのエントランスに集まっていたと思う?」
「え……」
「──不幸中の幸いってわけじゃないが。今まさに、このミッションへの参加資格がある神機使いがこのアナグラに向かっている所だ。それも歴代神機使いでも五本の指に入るほどの実力者が二人もな」
「あ……! まさか、それって……!」
何かに気付いたように声を上げたコウタ。まさにその瞬間、タイミングを見計らったかのように──専用通路のゲートが開く。
「──よう、なんだか大変なことになっているらしいな?」
「……緊急事態なんだろ、さっさと行くぞ」
コウタと同じ、オリーブの葉をくわえたフェンリルのエムブレムを背負った白金の上着。
飄々とした雰囲気の男は右腕に金のガントレットを装着していて、そして寡黙な雰囲気の褐色肌の男は、上着とよく似たプラチナブロンドの髪をしていた。
「リンドウさん! ソーマも! 帰ってきたんだ!」
元第一部隊隊長、現クレイドル所属──雨宮リンドウ。
元第一部隊、現クレイドル所属の【始まりのゴッドイーター】──ソーマ・シックザール。
最も長いキャリアを持ちながら、今なお最前線で戦い続ける歴代でも最高峰の実力を持つ神機使いが、キョウヤの前に立っていた。
ハルさんが第一世代の神機から乗り換えて第二世代の神機になったのはNORNにも記載されていますが、そもそもその第一世代の神機が剣だったのか銃だったのかは探しても見つかりませんでした。
2071年1月に「フェンリル極東支部において初の新型神機使い」である主人公が入隊していますが、同年8月以降(?)にて、グラスゴー支部のケイトさんが殉職した際にハルさんはバスターブレードを使っています。この時すでにケイトさんは第二世代神機使いなので、ハルさんも新型神機である可能性はなくはないです。
ゲームにおいてやたらとクリティカルのスナイプをしてくれるイメージが強かったので、ここでは元々銃型神機(スナイパー)を使っていたとしています。