GOD EATER:救雷の神鳴   作:ひょうたんふくろう

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【再来】一度去ったものが再び来ること。または、再びこの世に生まれ出ること。生まれ変わり。


120 再雷:Lightning Returns

 

「あんま離されないように! 余計なアラガミはこの際無視でいい!」

 

「うんっ!」

 

 ──ル゛ゥ゛ゥ゛ォ゛ォ゛ォ゛ァ゛ァ゛ァ゛!

 

 チハルとキョウヤは──アラガミを食い千切りながら走る蒼い神機兵の後を、必死になって追いかけていた。

 

 壊れたはずの神機兵が青くなり、暴走しているという異常事態。加えて、作戦本部との通信が繋がらなくなるという、割とよくある異常事態。ただでさえ混沌としていて状況が目まぐるしく動いているというのに、明らかな想定外に加えて自分たちの状況を把握することさえできないとなれば、取れる手段はそう多くはなかった。

 

「さっきの通信を聞く限り、たぶんほかのみんなのところ──神機兵のほとんどが暴走している! でもって、アラガミを食うのに夢中になってるってことは、必然的にティターニアに向かうことになるはずだ!」

 

 今のところ、暴走した蒼い神機兵はアラガミだけを襲っている。命令して動かすことはどう見ても無理そうだが、幸いなことに人間(じぶんたち)を襲う気配は見せない。であれば、アラガミを襲って襲って襲い続けて──それを繰り返すうちには、自然とティターニアのもとへ向かうことになる。だって、ティターニアに近づけば近づくほど、より強力なアラガミがたくさん犇めいているのだから。

 

 もとより、最初から目的はティターニアなのだ。キョウヤ達も含めて、この任務に参加している全員がティターニアを目指しているのである。ティターニアを討伐するのはもちろん、撤退をする場合においても仲間との合流はもはや必至であり、作戦本部との連絡が取れない以上……当初の目的通りに行動するのがこの場における最善なのである。

 

「ちっくしょう、速いなあいつ……!」

 

「あ、あんなカサカサした動きなのになんで……!?」

 

 あと、単純に。

 

 蒼い神機兵から離されると、キョウヤたちの命が危ない。ティターニアによる超強化が施された寄生体が連携して襲い掛かってきたら、もはやキョウヤたちでは抵抗のしようがない。今この場において確実にコクーンメイデン寄生体を倒せるのは、あの狂ったように暴れる神機兵しかいないのだ。

 

 

 ──ル゛ァ゛ア゛ア゛ッ!!

 

 ──ギャアアアアアア!?

 

 

 ぶちぶち、ぎちぎちと音を立てながら神機兵はデミウルゴスの体を貪り食っている。手刀で首を刎ね、手足をもいでから、その体に牙を突き立てている。普通のアラガミと比べて口が小さいせいか、何度も何度もかじりついていて……そのせいで、なんだかとてもデミウルゴスがかわいそうなことになっていないこともなかった。

 

「……ルーちゃんみたいだよね」

 

「アラガミならだいたいこんなもんだろ……まぁ、気になることはあるが」

 

「気になること?」

 

「──赤い雨が、降ってない」

 

「あ」

 

 通信が切れる前、確かにヒバリは赤乱雲が発生していると言っていた。すぐにでも赤い雨が降り出してもおかしくない状態であると確かに言っていたのに、いまだに赤い雨は降っていない。

 

 悪い意味で予想が外れることはあっても、良い意味で予想が外れることなんてありえないこの極東において、【絶対に赤い雨が降る】というその予報が外れるのは、どう考えてもおかしいことである。

 

 そして。

 

「赤い雨が降っていないだけなら、まぁ百歩譲ってわからなくもない……が」

 

 

 ──カァァァァン!!

 

 

 キョウヤの顔が、蒼い稲光で照らされた。

 

「……さっきからひっきりなしに落ちている、この蒼い雷はなんなんだ? 赤い雨どころか普通の雨も降っていないのに、どうして雷なんて落ちている?」

 

「……」

 

 この蒼い雷は、どう考えても普通の自然現象ではない。ヒバリのあの時の通信をそのまま信じるとすれば──あの時のレーダーが捉えたのは、赤い雨ではなくこの蒼い雷なのだろう。その本質は赤い雨と大して変わらない可能性が大いにあり、つまりはオラクル起因のなんかヤバい代物である可能性が非常に高いのだ。

 

「あの神機兵もなんか蒼い雷バチバチやってるからな。まったくの無関係じゃないんだろうが……」

 

「必ずしも良いことだとも、判断できないのか……」

 

 そして、そんな蒼い雷とよく似た蒼い雷をまとっている以上、あの蒼い神機兵をそのまま信じるわけにはいかない。今はまだアラガミだけを襲ってくれているが、いつその標的が人間になるのかなんて誰にも分らないのだから。

 

「なんらかのオラクル的な現象が発生しているのは間違いないんだ。雲がほとんどないのに雷だけ落ちるなんてありえないんだからな……くそっ、本部との通信さえできればいろいろわかるかもしれないのに」

 

 つながらない通信。

 暴走した蒼い神機兵。

 明らかに異常な、蒼い雷。

 

 ティターニアの討伐をする以前に、不安要素が三つもある。つながらない通信についてはいつものことと言えないこともないが、残り二つについてはどういう形であれ放置するのは問題だ。これが自分たちにとってプラスとなる要素であれば問題ないのだが、もしそうでなかったとしたら──それこそ、本当にすべてが終わってしまいかねない。

 

 

 ──ル゛ゥ゛ゥ゛ゥ゛ォ゛ォ゛ォ゛ッ゛ッ゛!!

 

 ──カァァァァン!!

 

 

 神機兵の咆哮。それに負けないくらいに強く轟く雷鳴。蒼い稲光が何度もこの戦場を照らし、無残に喰い荒らされたアラガミの死骸に濃い影を作る。

 

 そして、稲光に紛れるようにして遠くに見えるフラックメイデンからオラクル光が瞬いている。稲光のせいでずいぶんとわかりにくいが、どうやら今までよりもずっと短いスパンで何度もオラクル弾を撃っているらしい。

 

 フラックメイデンを超えたさらに奥のほうの空でも蒼い雷光が輝いているところを見ると、やはりというか、この現象はかなり広い範囲で発生しているらしかった。

 

「……食べ終わったみたいだね」

 

「だな。この調子なら、かなりティターニアに近づけそうだ……この感じだと、残りは5~6kmくらいだと思うが」

 

 まず間違いなく、進めば進むほどアラガミは強くなる。強くなるどころか、数が加速度的に増えていく。加えて言えば、フラックメイデンからの砲撃も増えることだろう。自分たちのところは脅威度が低いとみなされているからか、あまり砲撃は飛んできていないが、いよいよもってその距離がなくなってくれば、ティターニアもなりふり構わず砲撃してくることは想像に難くない。

 

 ただ、近づけば近づくほど──ほかの仲間と合流できる可能性は上がる。不安要素も大きいとはいえ、別の神機兵とも合流できるだろう。

 

 ──なんて、考えていたのがいけなかったのだろうか。

 

「……げっ」

 

「いい加減、ワンパターンすぎてうんざりしてくるぜ……」

 

 

 ──シャァァ……!

 ──ウウウ……ッ!

 ──ガァァ……ッ!

 

 

 セクメトが二体。ハガンコンゴウが二体。ディアウス・ピターが一体に、スサノオが二体。そのすべてが接触禁忌種で、そしてそのすべてにコクーンメイデンが寄生している。

 

 あえて語るまでもなく、本来であればチハル達は戦闘すら許可されないほどの強敵である。超強化されているうえにこれらが連携して襲い掛かってくるともなれば、もはやたかが上等兵でしかない神機使いの生存は絶望的と言っていい。

 

「やべーヤツのフルコースかよ……」

 

「……キョウヤくん、もっと嫌な話していい?」

 

「……」

 

「私がMIAになったときの、その」

 

「ああ……あの時の七体をさらにヤバくしたやつってか」

 

 数か月前の、チハルがMIAになったときに襲い掛かってきたアラガミ。その時は、シユウとコンゴウ、そしてボルグ・カムランがそれぞれ二体で、そしてヴァジュラが一体だった。今キョウヤ達の目の前にいるアラガミは、その時のアラガミの神属はそのままに、接触禁忌種にしたものなのである。

 

「いやでもあの神機兵なら──」

 

 

 ──ル゛ッ

 

 

 キョウヤ達のすぐ近く。ほんの二メートルほど先に、神機兵の頭がぽーんと転がってきた。

 

 

 ──ガァァァ……!!

 ──グゥゥ……!!

 

 

「わぁ……カリギュラが二体もいる……。紅いのも、蒼いのも……」

 

「神機兵の首をすっ飛ばしやがったのかよ……!?」

 

 

 ──ル゛ゥ゛ゥ゛ゥ゛……ッ!!

 

 

「……頭、生えてきたね」

 

「よくみりゃ手足も生え直っ……あの一瞬で、頭どころか手足も切り落とされてたのか!?」

 

 結果的に回復されたとはいえ、あの暴走した神機兵を一瞬で無力化することができるほどの戦闘能力を有した二体のカリギュラ。少なくとも、今までのアラガミのように簡単に倒せる相手ではないだろう。というか、下手をしたら完全に再起不能になるまで叩きのめされる可能性すらあるわけで。

 

「あのヤバいカリギュラたちは、神機兵に任せるしかない……! 俺たちがあんなのと戦ったら、一瞬でミンチだぞ!」

 

「で、でも……じゃあ、こっちの七体と戦うの……!?」

 

「やるしかない……! なるべくド派手に、ほかの神機兵に気づいてもらえるように立ち回ればあるいは……!」

 

 神機を構えたキョウヤは──自らを鼓舞するようにして、大きく大きく吠えた。

 

「ひゃっはァァァッ!! てめェら全員ハチの巣にしてやるッッ!!」

 

 アサルトの、それも連鎖複製弾を乱射しながらの突撃。放たれた弾が標的に着弾する度に、そこを起点に新たなる銃撃が発生する。ディアウス・ピターの鼻面に当たったそれはセクメトの翼に当たり、そしてスサノオに寄生するコクーンメイデンに当たりそうになったところで、そのハサミによって防がれた。

 

「……っ!」

 

 キョウヤの動きにほんの少しだけ遅れて、チハルも動き出す。狙いは完全にキョウヤに注意を引き付けられているハガンコンゴウだ。一応は中型アラガミに分類されるから、コクーンメイデンが突き刺さったその姿はとてもアンバランスで──要は、弱点であるコクーンメイデンを比較的狙いやすい。

 

「おりゃあ!」

 

 ──!

 

 渾身の一振り。全体重を乗せたその一撃は、しかしその剛腕に防がれる。返ってきた手応えは思っていた以上に重く、そして硬い。一応は生物であるはずなのに、まるで鋼鉄の塊を切りつけたかのよう。

 

「くっ!」

 

 なんでこんな鉄みたいにガチガチなのに、人間の腕みたいに振り回せるんだろう──と、チハルは頭上を切り裂く風を感じながらぼんやりと考える。ハガンコンゴウの右フックはたとえガードが間に合ったとしても吹っ飛ばされてしまうほど強力なものだが、幸いにしてチハルは非常に小柄な体格だ。だから、こうして懐に潜り込むほうが却って安全で……そして、懐に入り込めたということは。

 

「ぬぉりゃあああーっ!!」

 

 ──ッッ!?

 

 腹部への一撃。あいにく弱点であるコクーンメイデンへの攻撃ではないが、しかし間違いなくモロに入った。普通のコンゴウだったら真っ二つになるほどの威力。たとえ相手がハガンコンゴウであったとしても、しばらくは動けなくなるほどの強烈な一撃。

 

 そのはず、だったのに。

 

 いや、あるいは──強烈な一撃であることに違いはなかったのだろう。

 

 ただ、単純に。

 

 ──ウウ……ッ!!

 

「ぴんぴんしてるね……! やんなっちゃうなあ、もおっ!」

 

 攻撃したはずなのに、ほとんど堪えた様子を見せていない。表皮が多少傷ついているくらいで、それ以外には傷らしい傷もついていない。ダメージを与えられていないばかりか、切りつけたチハルの手のほうがじんじんとしびれる始末である。

 

 そして悲しいことに、ハガンコンゴウはもう一体いる。チハルはどうにかして、この二体を同時に相手にしないとならない。今この瞬間にも、フリーになっているハガンコンゴウは狡猾にもチハルの背後を取ろうと隙を伺っているわけで、もし万が一にも挟み撃ちなんかされてしまった日には、もう目も当てられない。

 

 だから、チハルはそれだけは回避しようと慎重に後退して──。

 

「……ぬ?」

 

「おっと」

 

 ──同じように後退してきたキョウヤと、背中合わせになった。

 

「……どいてよ、キョウヤくん。私、もっと後ろに下がりたい」

 

「……奇遇だな、俺もだ」

 

 キョウヤの息は明らかに乱れている。あんまりしっかりは見られていないが、おそらくキョウヤのほうでもかなりの激戦を繰り広げていた──ひたすらに銃を乱射して、そしてほんの少しでも攻撃をもらうまいと必死の努力をしていたのだろう。

 

 そして悲しいことに、相手は全くダメージを負った様子を見せない。いや、チハルの奮闘よりかは多少は効いているのかもしれないが……下手に攻撃をしたせいで、なんだか相手がとっても怒っているように見えないこともなかった。

 

「ミスったな……少しでもコクーンメイデンに攻撃できれば、怯むなり逃げるなりしてくれると思ったんだが」

 

「逆に怒らせちゃっただけかぁ……」

 

「……善戦はできてるんだがな。けどやっぱ、素の実力が違いすぎる。俺たちにできるのはせいぜいが時間稼ぎだ」

 

「その時間稼ぎも、いつまでもつかわからない……。神機兵が助けに来てくれる可能性は」

 

「……」

 

 おそらく。

 

 コクーンメイデン寄生体の数自体は減っているのだろう。だけど、その分ティターニアが寄生体を操るための情報処理的リソースに余裕ができてしまっている。さっきまでは倒せていたはずのカリギュラ寄生体にあの神機兵が苦戦しているというのがその証明で、ティターニアが本気になったら──【まずは一か所でも集中して攻撃して頭数を減らす】という考えに行き着いてしまったら、もうその時点でアウトだ。

 

「……」

 

「あーあ……都合が良いんだか悪いんだか。予測が外れるにしてももっとこう……ないのかね?」

 

 ティターニアとフラックメイデンが出現したという、悪いニュース。

 コクーンメイデン寄生体が存在するという、悪いニュース。

 九条が命令を無視して神機兵を動かしてくれたという、良いニュース。

 その神機兵が思った以上に強かったという、良いニュース。

 そして──コクーンメイデン寄生体がそれをはるかに上回るほど強いという悪いニュースに、それをさらに凌駕するほどの実力を持つ暴走した蒼い神機兵という良いのか悪いのかよくわからないニュース。

 

 この任務が始まってから。いいや、この任務が始まる前から、予想だにしていなかったことがあまりにも起きすぎている。今この瞬間でさえも、降るはずの赤い雨が降らず、代わりに蒼い雷が轟いていて……そして、暴走した蒼い神機兵でも敵わないほどコクーンメイデン寄生体が強いという、もはやあまりにも作為的だとしか言いようがない状況だ。

 

 

 ──シャァァ……!

 ──ウウウ……ッ!

 ──ガァァ……ッ!

 

 

「……ま、泣き言なんていってられねェか」

 

 七体のコクーンメイデン寄生体はいまだなお健在。そして、チハルとキョウヤではどう頑張ってもこいつらを倒すことは難しい。もしかしたら、何らかの大きな犠牲を払えば逃げるだけならできる可能性がゼロではないかもしれないが……そんなことをしたところで、何の意味もない。

 

「もぉ……! どうしてこんなに、私たちに理不尽なことばかり起きるのかなあ……っ! せめて少しくらい、こっちに都合のいい奇跡とか起きてもいいじゃん……っ!」

 

「……それ、案外悪くないかもな。ナントカ効果っていって、願いを口に出して行動するとその願いが叶いやすくなるらしいぜ?」

 

「……」

 

「ましてやお前は、KIA判定から神機なしの状態で生還した奇跡の申し子だ。……おいおいおい、こりゃあマジでなんとかなるんじゃないか?」

 

「……奇跡は、二度も起きないから奇跡っていうんだよ」

 

「バカ言え、ありえないことが起きるっていうそれ自体が奇跡だろうが」

 

 ほれ、言ってみろよ──と、キョウヤがへらへらと笑いながらつぶやく。もちろん、本当に奇跡が起きるとは思っていないのだろう。ただ、それでも何かに縋らずにはいられなかった──こんな軽口でも叩かないと、自分を鼓舞することができなかったというだけだ。

 

「それにほら、状況だって前と同じなんだろ? あの時と同じ種類の、あの時と同じ七体のアラガミだ」

 

「……」

 

「──ダメで元々、減るものでもない。少しでも可能性があるなら……やるだけやろうぜ」

 

「……しょうがないなあ」

 

 チハルは思い出す。

 

 あの時。七体のアラガミに囲まれて──神機を失い、通信手段も失って。おまけに足も痛めて、逃げることすらできなくなって。精も根も尽き果てて、どうしようもない絶望感に包まれて。

 

 あの時確かに、チハルは諦めた。生きることを諦めて、その死の運命を受け入れた。

 

 今はすぐ後ろにキョウヤがいる。だから、一人で死ぬということだけはない。

 

 けれど──あの時と同じくらいには、絶望的な状況だ。

 

 

 

 ──オオオオオ!

 

「……もっと、キョウヤくんのバンダナ姿見たいなあ」

 

「……これが終わったら、いくらでもつけてやるよ」

 

 ハガンコンゴウ二匹が、ゆっくりとこちらに近づいている。

 

 

 

 ──シャアアアア!

 

「……みんなと一緒にお茶会と、ピクニックをしたいなあ。お弁当を広げて、おしゃべりしたいな」

 

「……結局毎回つぶれてるもんな。せっかくだ、高い紅茶も一緒に淹れて……今までできなかった分、派手にやろうぜ」

 

 セクメト二匹が、ゆっくりとこちらに近づいている。

 

 

 

 ──シィィィィ!

 

「みんなと一緒に、帰りたいなあ……これからもずっと、いつも通りに、さぁ……っ!」

 

「……悪い、それだけは叶えてやれそうにない」

 

 スサノオがゆっくりとこちらに近づいてきている。

 

 

 

 ──ガアアアアア!

 

「やだ……っ! やだよぉ……っ! 私まだ、やりたいことがいっぱいある……! みんなと、キョウヤくんと……! これからもずっと、ずっと一緒に……!」

 

「……俺だって、できることならそうしたいよ。俺だってお前と……それに、あいつと一緒に」

 

 鋭い牙を覗かせたディアウス・ピターが、ゆっくりとこちらに近づいてきて。

 

 

 

 ──そしてチハルは、心から(こいねが)った。

 

 

 

「──助けて! 助けてよ……ルーちゃんっ!!」

 

 

 

 

 ──ルゥゥゥゥッッ!!

 

 

 

 

 蒼い稲光。

 

 戦場に響き渡る雷鳴。

 

 そして──心のどこかで待ち望んでいた、聞き覚えのある咆哮。

 

「……え?」

 

「……マジか?」

 

 

 ──ルゥゥゥ……ッ!!

 

 

 蒼い雷光を背景に、大きく吠えたその白いアラガミ。

 

 ヴァジュラのそれによく似た蒼いマント。マルドゥークのそれによく似た白いガントレット。

 

 オオカミを思わせるその顔には仮面があって、その額には──バチバチと雷を迸らせる蒼い角がある。

 

 ──それは、紛れもなく。

 

 

「ルーちゃん!」

 

「ルー!」

 

 ──ルゥゥゥッ!!

 

 

 チハルたちが知っているそのままの姿をしたルーが、蒼い雷鳴を轟かせながら大きく吠える。

 

 

 

 ──その後ろには、まるで臣下であるように何十体ものコクーンメイデン寄生体を引き連れていた。

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