【神来】 神が乗り移ったかのように、突然、霊妙な感興を得ること。または、神の力が宿っているように見えること。
「…………あはッ♪」
なんか様子がおかしいぞ──というのが、キョウヤが抱いた印象であった。
もう何度目かもわからない絶体絶命のピンチに、あのルーが助けに来てくれた。それも、今までと同じ姿で、そして今までの記憶を保持した状態で。こうしてアホ面を晒しながらチハルとじゃれつく姿を見れば、それはどう考えても疑いようがない。
そう、ここまではいいことづくめだ。ちょっと背後のほうがめちゃくちゃ気になるけれども……当初の懸念はすべて払拭されている。
ただし。
「……ち、チハル?」
「……そっかぁ。そういうことかぁ!」
なんか、
「お、おい……お前、本当に大丈夫なんだよな?」
「──うん。大丈夫。それよりもアラガミ倒さないと」
「お、おう……。まぁでもなんだ、どのみち俺たちじゃ足手まといだ。ちと悔しいが、ここはルーに任せて少し退くぞ」
接触禁忌種が七体。今の自分たちではどう頑張っても倒せない相手。しかしながら、ルーであれば間違いなく勝てるだろう。
こいつらを圧倒できるルーと一緒に戦えば、自分たちでも少しくらいは役に立てる……かもしれないが、逆にそのせいでルーが本気を出せない可能性もある。ルーが全力で暴れられるようにするならば、どう考えても自分たちは退いていたほうがいい。
それはいたって、当然の考えだ。百人いれば百人が、同じことを考えただろう。全力で暴れるルーの足手まといにならない神機使いなんて、この極東でも数人くらいしかいない。
そんなの、誰にでもわかることだ。
そのはず、なのに。
「……んーん。私、倒しちゃうよ」
「……は?」
「とりあえず、スサノオやっちゃうね。アレなら簡単だから……ルーちゃんは他のをよろしく!」
──ルゥ!?
あのルーでさえ、驚いたような声を上げて。
そしてチハルは──キョウヤが静止する声を上げる間もなく、スサノオに向かって走り出した。
「ばっ……!? お前、何やってんだよ!?」
あえて語るまでもなく。
チハルとキョウヤの実力は、正直言ってどっこいどっこいといったところだろう。戦術知識やサポートの面ではチハルのほうに分があるが、こと単純な戦闘能力だけに絞ってみれば、キョウヤのほうが上回っているといっていい。そのキョウヤでさえもスサノオになんて敵うはずがないのだから──たった一人でスサノオに立ち向かうというそれは、キョウヤ達にとっては自殺行為に等しいことだ。
「早く戻れ! 無茶しないでルーに任せるぞ!」
「──ううん、大丈夫」
──シィィ……!
スサノオが、上体を軽くひねる。その両腕にあるハサミを、ほんの少しだけ引いた。
「──
──!?
スサノオが放つ必殺の一撃を。
チハルは速度を一切緩めないまま、ほんのわずかに体を反らすことで避けていた。
「……は?」
勢い余ったその攻撃は、地面に大きなクレーターを作る。寄生による超強化が施されているからか、離れてみているキョウヤのほうにさえもその衝撃がびりびりと伝わってくるほどの威力だ。まともに食らえば人としての形を保てるかどうかも怪しく、仮にガードができたとしても……おそらく、神機ごと粉々にされて、見るも無残な姿になってしまったことだろう。
そんな攻撃を。
たかが上等兵でしかないチハルは──何でもないことのように避けたのだ。
──シァァァ……ッ!
「ふふ……っ!」
避けて。
避けて。
避けて避けて避けて。
死を覚悟せざるを得ないほどの、超威力のハサミの高速連打。そんな攻撃を、チハルは涼しい顔をして避けている。先ほどまでだったら、反応することすらできなかったはずの攻撃なのに──離れて見ている、動体視力に優れるキョウヤでさえも何とかギリギリ目で追うことがやっとの攻撃なのに、チハルは余裕綽々で……それこそ、踊っているかのような優雅な動きで捌いているのだ。
そして。
──シャアアアアアッ!
「──
ぐるん、とスサノオが大きく体をひねる。はっきりとわかるほどの、大技の兆候。
次の瞬間、全身を回転させるようにして放たれた剣状の尾による必殺の一撃を。
──がぁん!
体の側面で、背負うようにして構えた盾で受け止めて。
「ぬぉぉりゃあああああーっ!」
斜め下から振り上げるような──尋常じゃないオラクルをまとった強力なフルスウィングで迎撃した。
──ガァ……ァ、ァ……。
「……は?」
それは、キョウヤが今まで見た中で最も強力な一撃であった。ブラッドアーツのチャージクラッシュよりも、あのリンドウやソーマの攻撃よりも明らかに威力が高い。どんなバレットでもここまでの威力は出せないだろうし、もし自分とコウタが全力で集中砲火を行ったとしても、これほどまでの威力を出すことは不可能だろう。
その証拠に──チハルのその一撃は、スサノオの尾を完全に断ち切っている。
そればかりか……それだけでは威力が殺しきれず、
「……ふう」
どう、とスサノオの巨体が倒れ伏せる。ぴく、ぴく……とその足が痙攣するように震え、やがては縮こまったまま動かなくなった。
──あえて語るまでもなく、ほとんど即死であった。
「お前……」
「うーん……もう少し動きを最適化できそうだけど。なんかちょっと感覚とズレがあるなあ……」
「いや……どうなってんだよ!? なんでお前、あんなふうに動けるんだよ!?」
思わずチハルに駆け寄り、そしてキョウヤは半ば怒鳴るようにして疑問をぶつける。
先ほどのチハルの動き。どう考えても、自分が知っている相棒のそれではない。少なくともキョウヤの知っているチハルは、自分と違って回避よりもガードすることを優先するタイプだ。大体の場合は安全を取ってそのタワーシールドをどっしりと構えていて、あんなふうにおちょくるように攻撃を避けることなんて……それこそ、よほどの格下を相手にしたときとか、あるいは新人にお手本の動きを見せる時くらいしかない。間違っても、こんな時にそんなことをするような人間じゃないのだ。
「まるで動きを先読みしているみたいだったぞ……? そう、まるで……」
「……」
「──ユウさんや、ルーみたいな動きだった」
「……かもね」
アラガミの動きを完全に見切った動き。相手のわずかな行動の
キョウヤが初めてその動きを見たのは、当時第一部隊の隊長であった神薙ユウと一緒に任務に出かけた時だった。その時ユウは、膨大な戦闘経験と天性の戦闘センスがもたらした結果として……アラガミのほんの少しの動きを見ただけで、その動きを完全に見切るというとんでもない技術を見せてくれたのである。
もちろん、こんな芸当は一朝一夕で身につくものではない。だからきっと、可能性があるとするならば。
「まさかお前……ルーと同じように、感応現象で相手の動きがわかるようになったのか?」
もうひとつの……ルーの動き。その強力な感応能力をもって相手の意志を直接読み取ることで、その攻撃が起きる前に回避行動をとるという、反則みたいな裏技。これがあるからこそ、ルーは戦闘経験がほとんど無かった時でも、相手の動きが事前にわかっているかのような動きをすることができた……とされている。
対する、チハルの答えは。
「うーん……そうだけど、そうじゃないというか……」
何ともまあ、煮え切らないものであった。
「感応現象で動きが分かった……? あってるけどあってないような……なんて言えばいいんだろ?」
「……よし、それについては今はいい。お前もうまく説明できないんだよな?」
「……うん」
「じゃあ……あのブラッドアーツは何なんだ? 接触禁忌種を一撃で真っ二つなんて……明らかにおかしいぞ」
馬鹿げた威力のブラッドアーツ。この目で見なければ、きっとキョウヤだって信じられなかったことだろう。もしこれをやったのがリンドウやソーマであったとしても、きっと何かの間違いだ、いくらなんでも人間にここまでふざけた威力の攻撃なんてできるはずがない──と、新手の冗談か何かにと思ったはずだ。
そんなでたらめなブラッドアーツを、チハルは確かに使って見せたのだ。それも、偶然やまぐれなんかでは決してない。あのスサノオを打ち倒すための手段として──自らの意志をもって、使って見せたのである。
「──あれは、【ラストリベンジャー】っていうブラッドアーツだよ」
「……ほお」
「一応、パリングアッパーの流れを汲むブラッドアーツになるのかな。ほら、盾を構えて打ち返す……っていうのは、パリングアッパーでしょ?」
「いや……そりゃ、動きだけ見たらそうかもだけどさ。そんなのロミオもハルさんも使ってなかったよな? ヒロだって……使ってなかったよな?」
「……」
「というかお前、パリングアッパー自体ほとんど使わないだろ。お前の体格じゃ、盾で敵が完全に見えなくなっちまうって……下手したら、力負けしかねないって……お前、自分でそう言ってたじゃないか」
「……そうだね」
「──だいたい、ブラッドアーツにしても威力がおかしすぎる。たしかに必殺技みたいに強力な攻撃だけどさ、だからといって……それだけで片づけられるほどの威力はないはずだ。そんなの、ヒロも、ジュリウスさんも……ブラッドアーツに目覚めた誰も、そこまでの威力は出せていない」
「ああ、それはね……」
今までずっとうんうんと眉間に皺を寄せていたチハルが、キョウヤの目をまっすぐ見つめてつぶやいた。
「──極めし一撃、神々を討つ」
「……は?」
「ブラッドアーツを何度も何度も使って……その一撃を極めれば。いずれそのうち、普通のブラッドアーツとは別に……扱いは難しいけれど、凄まじい威力のブラッドアーツを覚えられるの」
「……それが、ラストリベンジャーだってのか?」
「うん。まぁ、それぞれの武器種ごとにいくつかあるらしいんだけど、ラストリベンジャーの威力はその中でも桁違いに高いらしいよ。で、こういう特別なブラッドアーツを総称して──」
「……」
「──【くろびーえー】って言うんだって」
「……【くろびーえー】?」
「うん。バスターブレードの場合はラストリベンジャーで……盾を構えたほんの一瞬だけ、オラクルをすーっごく活性化させるの! で、活性化させた瞬間に相手の攻撃を受け止めて、それをトリガーに自分の中でオラクルを爆発的に共鳴、増幅させて一気にぶっ放す! うまく言葉じゃ説明できないけど……その一瞬だけにすべてを賭けるから、チャージクラッシュとは比較にならない威力になるの!」
超活性化させた状態で、超密度のオラクルをまとった状態で攻撃を受け止めるから、どんな攻撃でも大体受け止められる。そして、それほどまでに高めたオラクルを一気に放出させて攻撃するから、信じられないような威力となる。
それこそが、ラストリベンジャーというブラッドアーツの本質なのだ──と、チハルは語った。
「まぁ、理屈はなんとなくわかったけどよぉ……ほんの一瞬オラクルを高めただけで、そこまでうまくいくのか……?」
「あー……さん、ふれーむ? えっと……アレをうまく発動させられるの、0.1秒くらいだけなんだよね。その一瞬を逃したら不発になっちゃう」
「……なるほど、そりゃハイリスクハイリターンなピーキーな技だな」
そんなブラッドアーツの存在を、どういうわけかこの相棒は知っていて。
そしてそんなブラッドアーツを、この相棒は初見の相手に成功させている。
「…………体に問題は、無いんだよな?」
「ん。それはホントに……だいじょぶ」
「……ならいい」
「……ありがと、ね」
どう考えてもおかしくて、明らかに異常な話。普段だったら洗いざらいすべて吐くまで問い質していたであろうキョウヤだったが──しかし、冷静に考えれば悪い変化ではない。経緯も理屈もさっぱりわからないが、スサノオをあしらえるほどの戦闘能力が身についたと考えれば、むしろ良い意味での予想外といえる。
ならば。
「極めし一撃……か」
キョウヤにとっては、それがすべてであった。
☆蛇足的な解説☆
・極めし一撃 神々を討つ
GE2のキャッチコピー。目玉システムであるブラッドアーツのことを指しているのだと思われる。ブラッドアーツにはレベルが存在し、使い込むことで成長して威力や攻撃範囲が増える。なお、成長するに伴いエフェクトもどんどん派手になってカッコよくなる……けれど、そのせいで処理落ちも起きやすくなり、通信プレイ時に全員でブラッドアーツのラッシュを叩き込もうとすると【通信状況が悪いため、ゲームから外されました。リジョインしますか?】とメッセージがでてゲームが中断されるケースが増える。
結果として、多人数プレイ時は『リジョイン出まくるからブラッドアーツは無しで行こうか』……ってなることに多かったんですけど、私の周りだけですかね……?
・黒BA
通常のブラッドアーツとは異なり、アイコンの背景が黒くなっているブラッドアーツ。攻撃倍率が異常なほど高く強力だが、【単純に発動するのが難しい】、【外したら自分が即死する】……などのデメリットがあり、非常に癖が強くて扱いづらい。いわゆるロマン枠として扱われることが多く、覚えるのも割と面倒くさい。
・ラストリベンジャー
バスターブレードの黒BA。いわゆるカウンター攻撃だが、猶予フレームはたったの3fで、相手の攻撃を正面から受け止めないと発動しない。相手の攻撃を完全に無効化するジャストガードよりも受付時間は短い。ハイスピードな三次元的戦闘かつ複数同時討伐が基本のGEにおいて、この発動条件はなかなかに厳しく、そして発動できたとしても必ずしも相手に当たるわけではない。ただし、決まった時の威力&爽快感は最高。ウロヴォロス道場で練習する人が多かったほか、いわゆる自演バレットによって安定発動(自分で自分を誤射(?)し、その誤射をカウンターする)を目指す人たちもいた。