GOD EATER:救雷の神鳴   作:ひょうたんふくろう

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【信頼】 信じて頼ること。

【twist】 糾う、撚り合わせる。曲げる、捻る。曲解する。予期せぬ展開、どんでん返し。
【will】 意志。


125 信雷:Twisting Will

 

「まだ行けるか、ロミオ!?」

 

「当然!」

 

 コクーンメイデン寄生体の群れを前にして──ジュリウスは焦っていた。

 

 どれだけ倒しても、敵は一向に減る気配がない。もとよりティターニアに近づけば近づくほど敵は増えるという推測はしていたが、それにしたって数が多い。これだけの数のアラガミを一度に相手にするだなんて初めての経験だし、それが極東のアラガミともなれば、どう考えても苦戦は必至だ。

 

 

 ──ル゛ォ゛ォ゛ァ゛ァ゛ァ゛!!

 

 

「どうしちゃったんだろうな、あの神機兵。味方っぽいのはいいんだけどさ……」

 

「……」

 

 どう見ても暴走している蒼い神機兵。多少なりとはいえ神機兵開発に関わっていたジュリウスは──いいや、ジュリウスでなくとも周知の事実だが、ともかく本来の神機兵にあそこまでの機能はない。そりゃあ、少し前まではシユウやコンゴウを倒せるかどうかの実力しかなかった神機兵がヴァジュラを瞬殺することには驚いたが、しかしだからと言って、千切れた腕が生えたり、アラガミのコアを捕喰したり……そんな機能なんてついているはずがない。それは明らかに、既存の科学技術のそれを超えてしまっている。

 

「……どうしたんだよ、ジュリウス? あんまあの蒼い神機兵から離れるとヤバいだろ? ぼーっとしてたら置いてかれるぞ」

 

「……ああ、そうだな」

 

 ロミオに声をかけられてなお、ジュリウスはどこかぼんやりとしながら今の状況を振り返る。

 

 

 ──なんで、神機兵は暴走した?

 

 

 単純な疑問。いったいどうして、今になって神機兵がいきなり暴走しだしたのか。それも、想定された動きに対して少し違う挙動を示した──なんて、生易しいものじゃない。バグやプログラムミスでこんなことが起こるはずがなく、どう考えても物理的にありえない事象を起こしている。

 

 となれば。

 

 現実的に、考えられるのは。

 

「何かが……誰かが、意図的に引き起こしたのか?」

 

 それはありえない──と、ジュリウスは自身の考えを否定する。九条でもラケルでもない第三者──例えば榊がこの暴走事件の黒幕である可能性は決してゼロではないだろう。榊ほどの切れ者であれば、誰にも気づかれることなくフライアのシステムに介入し、暴走を引き起こすように神機兵のプログラムを書きかえることだって不可能ではないはずだ。

 

 しかしそうであったとしても、神機兵をここまで変質させられるとは思えない。もしそんなことができる技術力があるのであれば、わざわざ暴走だなんて回りくどい手段をとる必要はない。それこそその技術力で自分たち専用の神機兵を造ればいいだけの話だし、そんなことをするメリットも、この状況下でそうするメリットも思いつかない。

 

「……」

 

 どうして、やったのか。

 どうやって、やったのか。

 誰が、やったのか。

 

 この三つが重要で──そして不可解なことに、今の状況は決して悪くはない。かなり不安要素はあるが、一応はジュリウスたちにとって良い方向に物事は動いている。

 

 そう──自分たちが理解できない、得体のしれない何かの思惑に踊らされているような気がするのに、その意図も、正体も、何もかもがわからない。それが何より、ジュリウスにとっては不安に思えてならないのだ。

 

 

 

「──おいっ! ジュリウス!?」

 

「──え?」

 

 

 考えごとをしていたのが、いけなかったのだろうか。

 

 気づけば、目の前に──いいや、目の前からおよそ20m離れたところにラーヴァナがいる。その背中にはコクーンメイデンが二体突き刺さっていて、そしてコクーンメイデンの頭も、ラーヴァナの砲塔も、そのすべてがジュリウスに向けられていた。

 

 

(……しまった!)

 

 

 戦場で、余計なことに気を取られる。それがどれだけ致命的なことであるのかは、もはや語るまでもない。ジュリウスがそのことに後悔する間にもラーヴァナの砲塔にはどんどんオラクルが集っていき、目視で確認できるほどのオラクル光が戦場に輝きだす。

 

 そして。

 

 

「させるかああああ!!」

 

 

 ロミオが叫ぶ。神機を構えて、ラーヴァナの砲撃を止めようと突っ込む……も、どう考えても時間が足りない。たったの数歩では彼我の距離を埋めるにはあまりにも心もとなく、そしてロミオ自身、すぐにそれに気づいたのだろう。すでに動いてしまった体を止めることはできず──せめてもの反抗として、悔しそうな瞳でラーヴァナをにらみつけた。

 

 

 ──!?

 

 

 力強く輝いていたラーヴァナの砲塔の光が、みるみる小さくなって。

 

 

 

「──隙あり」

 

「どりゃあああああ!!」

 

 ──ギャアアアアア!?

 

 

 

 ラーヴァナの砲塔が爆発して、そしてラーヴァナの頭が思いっきり叩き潰された。

 

 そして次の瞬間には──タァン、タァンと乾いた音が二回続いて、コクーンメイデンの頭が吹っ飛んでいく。それでもなおまだ生きていた──太陽核を暴走させて最後の抵抗をしようとしたラーヴァナは、轟、と大きく風を切る音ともに胴体ごとぺしゃんこに潰された。

 

「──っしゃあ! どんなもんよ!」

 

「──警戒は怠らないで。俺たちが思っている以上に、ここは危ないみたいだ」

 

 今更語るまでもないが、ラーヴァナは第一種接触禁忌種──つまり、普通の神機使いであれば戦闘をすることすら許されないほど強力なアラガミだ。極東の神機使いでも戦闘資格を有する人間は少なく、接触禁忌種との戦闘資格を有する神機使いであっても、普通はもっと大人数で、綿密な作戦を立ててから討伐に臨むものである。

 

 加えて言えば、このラーヴァナはコクーンメイデン寄生体だ。つまり、終末捕喰やティターニアの《統制》の影響を受け、普通のラーヴァナよりもずっと強くなっているのである。身体能力も感知機能も、戦闘センスすら通常の個体とは比べ物にならないほど強力な個体のはずなのである。

 

 それを──突如として、この戦場に乱入してきたこの二人は。

 

 まるでそれが当然だと言わんばかりに、あっさりと倒して見せたのだ。

 

「わかってるってば! ……大丈夫、こいつはもう動かないよ!」

 

「ならよかった……お怪我はありませんか、お二人とも」

 

 いつの間にか、視界の端で神機──スナイパーライフルを構えていた若い男の神機使いが、ジュリウスに優しく笑いかける。少し離れたところでは、見るからに重そうなハンマー──どうやらあんな見た目でバスターブレードであるらしい──を担いだ若い女の神機使いがロミオに駆け寄っていた。

 

「あなた方は……?」

 

 黄色いヘッドバンドを着けた男の神機使いは、人のよさそうな笑みを浮かべてジュリウスの問いに答えた。

 

「俺はイタリア支部所属のフェデリコ・カルーゾです。榊博士から今回の事件を聞いて応援に来ました」

 

「同じく、ドイツ支部所属のアネット・ケーニッヒです! 一応言っておきますけど、私のコレはブーストハンマーじゃなくてバスターなので!」

 

 イタリア支部にドイツ支部。この極東からはざっくり10,000kmも離れている支部からの応援。騒ぎを聞いて駆けつけるにしても、移動だけで相応の時間がかかる距離。ちょっとした応援要請で気軽に来てもらえるはずがないのは明白で、おまけにこの二人は、極東の今の状況を知ってなお応援に来てくれたのだという。

 

「い、いったいどうして……? もちろん、助太刀はありがたいのだが……」

 

 ジュリウスの当然の疑問に対して、妙に足腰がしっかりした青い服の神機使い──アネット・ケーニッヒが、笑って答えた。

 

「私たち……三年前に、新人研修で極東(ここ)にいたんですよ。榊博士やリンドウさんには……ううん、アリサさんやコウタさんにも! アナグラのみんなには、めっっちゃお世話になりまして……!」

 

「あの時、何度命を助けてもらったかわかりません。研修が終わった後も、ここで教わったことのおかげで生き延びることができた。だから今度は、俺たちが助ける番なんですよ」

 

 たとえ来るなと言われても、無理やり来てたと思いますよ──なんて、当たり前のようにフェデリコが笑う。相変わらず、極東(こっち)は大変なことばかり起きてるね──なんて、当たり前のようにアネットが笑う。

 

 その様子を見て。

 

 ああ、この二人は新人の時からヤバい事態に巻き込まれ過ぎて、感覚がおかしくなってしまったんだ──と、ロミオは本能で察してしまった。

 

「さて。榊博士からは、どういうふうに動いても構わないと伺っていますが……お二人はブラッドですよね? 良ければ、俺たちもお二人について行ってもいいですか?」

 

 極東上がりの──新人の時から極東で鍛えられた二人が部隊に加わる。これほど心強い味方なんてそうそうなく、ジュリウスとしても非常にありがたい申し出。

 

 しかしながら、懸念がないわけでもなかった。

 

「大変ありがたいが……本当に良いのだろうか? 敵の中には感応種も交じっている。おまけに数も尋常じゃない。対抗手段を持たない神機使いでは、相当危険なことに──」

 

「ああ、それなら大丈夫です! 私たちは──防衛班で鍛えられたんですよ!」

 

「守る戦いも、乱戦も。リソースが少ない状態での長期戦闘も──全て、得意分野です。……というか、こっちでの戦いのほとんどがそうだったというか」

 

「えっ」

 

「で、でもさ……感応種は? 乱戦は大丈夫でも、感応種はヤバいだろ?」

 

「ああ、神機が使えなくなるやつ? ……それも大丈夫! 神機が使えない状況での立ち回りもばっちりだから! そーゆーの、割とよくあることだったので!」

 

「えっ」

 

「あと、俺は潜在的なオラクル活性化能力が高いらしくて。感応波を発する相手でも、戦闘力はある程度維持できるんです」

 

 乱戦も、戦力差がある場合も、長期戦闘も──そして、神機が使えない状況であっても。どんな状況であろうと、問題なく対応できるとその二人ははっきりと宣言した。普通の神機使いであれば……いいや、ジュリウスであっても御免被りたいこの状況下においても、それが当然のことであるように、救いの手を差し伸べてくれたのだ。

 

「あとね、正直……思い出の場所をここまでめちゃくちゃされたことに、だいぶ怒っているの。だから──」

 

「三年前は、助けられてばかりであまりお役に立てなかったから──」

 

 明るく笑っていたアネットも。

 

 朗らかに笑っていたフェデリコも。

 

 ──闘争本能をむき出しにして、獰猛な笑みを浮かべた。

 

 

 ──カァァァン!!

 

 

 蒼い雷が、戦場を明るく照らす。

 

 

「──《ベルリンの壊し屋》の恐ろしさを、教えてやる!」

 

「──今回は、派手に暴れようかと」

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

 

「あははははッ! いいねェ、もっとブチ込んであげる!」

 

「おいカノン! 前に出過ぎだ! ちょっと下がれ!」

 

 ──こりゃあ、結構ヤバいかもな。

 

 派手に銃を乱射するカノンの隙を埋めるように、ハルオミもまたコクーンメイデン寄生体に銃撃を叩き込む。この任務が始まってからそれなりの量のアラガミを倒し、そこそこティターニアにも近づけているはずなのに……どういうわけか、物事が上手く進んでいるという感覚がほとんどしない。倒しても倒してもアラガミは沸いてくるし、おまけに明らかに倒れにくく、強くもなっているとなれば……はっきり言って、嫌な予感しかしないのだ。

 

「……」

 

 おそらく。

 

 自分とカノンがティターニアと直接対峙する可能性は限りなく低いだろう。今はまだなんとかアラガミを倒せているが、この調子だとそう遠くないうちに戦闘を継続するのが難しくなる。単純に気力や体力が尽きかけているのはもちろん、アラガミを討伐する時間が先ほどよりも明らかに長くなっている──つまり、そのうち倒せないアラガミが出てくることは想像に難くない。

 

 

 ──ル゛ォ゛ォ゛ァ゛ァ゛ァ゛ッ!!

 

 

「……せめてこいつが、こっちの指示を聞いてくれればよかったんだが」

 

 ほんの少し前からいきなり暴れだした、蒼い神機兵。どう見ても暴走しているが、しかし一応はこちらの味方であるらしい。四足歩行のカサカサとした薄気味悪い……否、獣染みた動きで目につくアラガミに襲い掛かり、そしてなんとも不可解なことに突如として現れた顎を使ってアラガミのコアを喰い漁るという理解しがたい挙動をしているが、人間(こちら)を襲うそぶりは一切見せていない。

 

 アラガミを殲滅するという意味では、間違いなく頼りになるのだが……。

 

 

 ──ル゛ァ゛ァ゛ァ゛ッ!!

 

「きゃははははッ!!」

 

 ──ギャアアアアア!?

 

 

「全然言うこと聞いてくれないんだよなあ……ッ!!」

 

 単純に、暴れているだけ。消耗しにくい陣形での行動だとか、自分やカノンと役割をスイッチして小休止の時間を稼いでもらうだとか、あるいは相手の弱点を探るべく牽制多めで攻撃してもらうとか……そういうのは無理。一個人(?)の戦闘力としては優秀でも、大規模作戦のメンバーとしては限りなく扱いにくいことこの上なかった。

 

「きゃあっ!?」

 

「カノン!?」

 

「い、いたた……」

 

「マジでいったん退け! ほら、オラクル補給しないとダメだろ!」

 

 銃撃の隙をついた、敵の攻撃。怯んだカノンをかばう様にハルオミは神機を展開し、そしてカノンを後ろへと引きずり倒す。

 

 敵は思った以上に強い。このまま進めば、ゴールにたどり着く前に限界が見えてしまう。そうであるならば、ティターニアの討伐という目標を少し変更して、徹底的に嫌がらせに徹するのも手ではある……が、蒼い神機兵の制御なんてできそうにない。そして、下手に蒼い神機兵から離れると、戦況としては一気に悪くなってしまう。

 

(……)

 

 このまま突き進むか。

 それとも、もう少しばかり頭を悩ませて知恵を絞るか。

 

 若干胃が痛くなってきたぞ──とハルオミが心の中で愚痴を零したところで。

 

 

 

「とおりゃああーっ!!」

 

「!?」

 

 

 

 完全に予想外の場所から放たれたオラクル弾が、ハルオミたちを襲おうとしていたアラガミに炸裂する。意識の外からの不意打ちは、さすがにかなり堪えたのだろう。そのコクーンメイデン寄生体はあたりを警戒するようにして、用心深くハルオミたちから距離を取った。

 

「あら……思っていたよりも理性的なのね……」

 

「極東は激戦区であるとは聞いていたけれど……まさか、ここまでなんて」

 

 ハルオミたちの隣に立つ、新しい影。

 

 新たに戦場に加わったその人たちのことを──ハルオミは、知っている。

 

「……キャリー!? それに、カミーユも! イネスまで!」

 

 チェックのミニスカとニーハイが特徴的な、少し幼げな顔立ちの神機使い……キャリー・ユー。

 厚手のブルゾンと丈夫そうなズボンに身を包んだ、やや目つきの鋭い神機使い……カミーユ・ランブラン。

 胸元も足も開放的な格好をした、綺麗なブロンドの長髪をたなびかせる神機使い……イネス・アルメイダ。

 

 こんなところにいるはずのない三人が──神機を構えて、ハルオミたちの隣に立っていた。

 

「え……こちらの方たちは……?」

 

「あ、ああ……三人とも、俺の知り合いなんだが……」

 

 果たして本当に知り合いなんだろうか──と、カノンはいぶかしそうにハルオミを見上げる。そしてそんなカノンに気づいたのだろうか、三人は神機を油断なく構えたまま、カノンに語り掛けた。

 

「ども! 私、シンガポール支部所属のキャリー・ユーです! 私、バガラリーが大好きで、一度でいいから極東に来てみたくって……だから、少し前に休暇を利用してこっちにやってきたの! ハルさんとはその時に知り合ったんだ!」

 

 ああ、知り合ったんじゃなくてナンパされたんだろうな──と、カノンは確信した。

 

「ホントだったら、とっくにシンガポール(あっち)に帰ってる頃合いなんだけどね。帰りの途中で、こっちがなんかすんごいことになってるって連絡を聞いて。慌てて向こうから神機を送ってもらいつつ、とんぼ返りしたってかんじ!」

 

 ボーナスも出るって聞いたから、参加しないわけにはいかないよね──と、キャリーはにっこりと笑った。

 

「私はマルセイユ支部所属のカミーユ・ランブランよ。少し前に、欧州からの物資輸送の護衛任務を受けてこっちにきて……そこで、ハルにナンパされたの」

 

「何やってるんですか、ハルさん……?」

 

 じとっとしたカノンの視線を、ハルオミはあいまいに笑ってごまかした。

 

「……で、帰りは極東発の物資輸送の護衛任務で戻る予定だったのだけれど。この騒ぎで護衛任務そのものが無くなっちゃって……暇になっちゃったし、ハルも参加しているって聞いたから」

 

 あんまり騒ぎが長引くと、次の仕事に障りかねないし──と、カミーユは優しくカノンに笑いかけた。

 

「私はリオ・デ・ジャネイロ支部所属のイネス・アルメイダです。ハルと会ったのは二年前……お互い、ロシア支部にいた時にナンパされたの」

 

「…………ハルさん?」

 

 じとっとしたカノンの視線を、ハルオミは再度あいまいに笑ってごまかした。

 

「……こっちには、ちょっとした別件の視察でたまたま訪れていたの。アラガミの討伐をする予定ではなかったのだけれど……ここまで事態が大きくなっていたら、ね」

 

 果たしてそれは、いったい何の視察なんだ──という言葉を、カノンはぐっとこらえる。下手に藪を突いたら、とんでもない大蛇が出てきそうな気配をひしひしと感じたというか。さすがに刃傷沙汰にはならないだろうが、それに近しい何かが起こるのではないかと、そう思えてならなかったのだ。

 

「ま、まぁなんだ。力強い味方が三人も来てくれて本当にうれしいよ。正直、俺たちだけじゃいい加減限界でな」

 

「……あら? もしかしてまだ、気づいていないのかしら?」

 

 耳元の通信機をとんとんとリズミカルに叩きながら、イネスがどこかからかうように笑った。

 

「──この蒼い神機兵、ほかの場所だとそれなりに制御されているみたい。ここのもそのうちまともに動くようになるんじゃないかしら?」

 

「えっ……そうなんですか!?」

 

「マジかあ……というかイネス、まさか通信が──!?」

 

「それと」

 

 

 

 ──カァァァン!!

 

 

 蒼い雷が、戦場を明るく照らす。

 

 

「──助けに来たのは、私たちだけじゃないわ」

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

 

「……! ……!」

 

 なんだアレは。

 

 もしかして自分は、頭がおかしくなってしまったのか。

 

 アラガミの咆哮が響き渡り、そして血煙の舞うこの戦場にて。シエル・アランソンは──自分が今見ている光景が、夢か幻か何かであるようにしか思えなかった。

 

「シエル!? どうし、た、の……!?」

 

 自分の様子がおかしいと、一緒に戦っていたヒロも気づいたのだろう。目の前に迫っていたアラガミを一刀のもとに切り伏せたヒロは、シエルの視線の先へ──シエルが見てしまったものを見て、同じように表情を強張らせた。

 

「……! ……!」

 

「え……なに、あれ」

 

「さ、さぁ……?」

 

 長い耳。

 

 ツギハギの体。

 

 妙に大きく──そして、ふかふかした質感の赤い腕輪に、左胸には心臓のアップリケ。

 

「……! ……!」

 

 ──ギャアアアアア!?

 ──グゥゥゥゥ!?

 

 軽快な動きでショートブレードを振り回し、ばったばったとアラガミをなぎ倒すその存在は。

 

 誰が、どう見ても。

 

 

「──き、キグルミ……? な、なんでキグルミが戦ってるんだ……?」

 

 

 そう、キグルミ。こんな戦場には似つかわしくない、不気味なようでちょっとかわいい、そんなマスコットのような恰好をしたそれが──神機を振り回して、アラガミと戦っている。どう考えても動きにくそうなのに、そこらの神機使いよりもよっぽどキレのある動きで、的確にアラガミを屠っている。

 

 その洗練された動きを見るに、極東の神機使いでもかなり上澄みのほうではないか──と、シエルにはそう思えてならなかった。

 

「待って……待ってくれ。もしかして俺、なんかおかしくなってる……? サリエルの毒とかで頭が混乱している感じ……?」

 

「いいえ……私にも、同じものが見えていますよ」

 

 尋常じゃない強さのキグルミが、神機を振り回してアラガミをなぎ倒している。

 

 ──そんなことを報告したら、どう考えても正気を疑われる。そして悲しいことに、これは紛れもない現実なのだ。

 

「……不鮮明ではありますが、いくらかの応援が来てくれる……と、先ほどそんな通信が入っていました。なので、おそらくあの方も応援だとは思うのですが」

 

「そうなの? でも、なんであの人はキグルミなんだ? 極東の人は派手な格好の人が多かったけど……ああいうのもアリなの?」

 

「どうなんでしょう……? というか、もしかすると極東の人ではないのかも」

 

 少なくとも、シエルは極東に来てからあんなキグルミは見ていない。あれだけ目立つ格好をしていたら、いくらこの極東に派手な人間が多いとはいえ、嫌でも記憶に残る。というか、あんな動きにくそうな格好をしているのにここまで軽快な動きができる──クレイドルや隊長クラスにも引けをとらない実力を持つ神機使いを、見逃すはずがない。

 

「……」

 

「……」

 

 だけれども。

 

 果たして本当に、キグルミなんて着て戦う人間がいるのだろうか。いくらなんでも、それはあまりに荒唐無稽ではないか。これだったら、素肌に直接丈の短い上着を着て、おまけにジッパーもボタンも留めずに戦う人間がいる……なんてトンチキな話のほうがまだ信じられるのではないか。

 

 とはいえ。

 

「……! ……!!」

 

「……めちゃくちゃ強いね」

 

「……ですね」

 

 戦力として、とんでもなく頼りになるのは紛れもない事実。あのキグルミが一緒に戦ってくれるだけで、自分たちへの負担は一気に減った。アラガミの殲滅速度ははっきりとわかるほどに上がっており、このままうまくいけば──ティターニアに一気に詰め寄るのも不可能ではない。

 

「……! ……!」

 

「……おや?」

 

「なんだ……あの人、何かを指している……?」

 

 アラガミと切り結んでいたキグルミが、自分たちのほうを見て──何かを指している。そのお世辞にも長いとは言えないふかふかした腕を使って、しきりに何かを示している。

 

「シエル、お願いできる?」

 

「ええ」

 

 いったい何を指しているのか。

 

 神機──スナイパーについているスコープを、望遠鏡代わりにして覗き込んだシエルは。

 

 

 ──カァァァァン!!

 

 

「きゃっ!?」

 

 スコープを覗き込んだ一瞬の後に落ちた蒼い雷によって、思わずびくりと体を震わせた。

 

「だ、大丈夫!?」

 

「え、ええ……」

 

 目はいまだにチカチカする。けれど、ヒロがそっと肩を支えてくれている。できればもう少しだけこの時間が続けばいいのに──と心のどこかでそう感じながらも、自分のことをどこか俯瞰した様子で眺めるもう一人のシエルは、限りなく冷静にある事実を伝えさせた。

 

「あの、その……ヒロ」

 

「どうしたの?」

 

「……にわかには、信じがたいのですが」

 

 

 ──カァァァァン!!

 

 

 シエルたちからみて一時の方向、およそ80mほど離れた位置にいたアイテールが、蒼い雷によって撃ち抜かれた。

 

 

 ──カァァァァン!!

 

 

 そこからちょっと離れたところを飛んでいた、セクメトも蒼い雷に撃ちぬかれた。

 

 

 ──カァァァァン!!

 

 

 さらにそこから50mは離れたところにいた──デミウルゴスも、蒼い雷に撃ちぬかれた。

 

 

 ──カァァァァン!!

 

 

 もっと言えば。

 

 蒼い雷が落ちたのは──シエルが見つめた、まさにその場所であった。

 

 

「──なんか、自分の思ったところに蒼い雷が落ちるみたいです……?」

 

「えっ」

 

 

 

 ──カァァァン!!

 

 

 蒼い雷が、戦場を明るく照らす。

 

 

 ──雷光に照らされたキグルミが、可愛くポーズを決めていた。




・アネット・ケーニッヒ
 ドイツ支部所属。三年前に研修として極東支部の第二部隊(防衛班)に所属していた時期がある。
 怪力でドジっ子、シマシマが大好き。攻撃力が高くてタフだがガード範囲は狭い。その割になぜか【器用】を持っているため神機変形が早く、そしてとにかく鈍足。アラガミをホールド状態にしてくれるのはよいものの、鈍足ゆえにはぐれやすく、そしてはぐれるとその場で棒立ちしてしまうこともしばしば。新人だからしょうがないね。また、装備している【激重ハンマー】はハンマーと言いつつも分類としてはバスターブレードとなる。欧州支部では【ベルリンの壊し屋】の異名で呼ばれるほど剛腕で有名……ではあるが、プレイヤーとしては別の異名のほうが有名だと思われる。実は顔グラ、衣装は使いまわしなのでキャラクリエイトで同じ見た目を作れる。

・フェデリコ・カルーゾ
 イタリア支部所属。三年前に研修として極東支部の第三部隊(防衛班)に所属していた時期がある。
 【潜在的なオラクル活性化能力が高く、強い感応波を発する敵と対峙しても一定の戦闘力を維持できるため、新種の討伐実績が多い】というのはNORNにも記載されている公式設定。第二世代の神機使いでありながらも感応種と戦えているというようにしか見えず、実はめちゃくちゃ重要で貴重な個性であるのに、いまいち目立っていないし話題にも上がらないのは、どうにも不憫でならない。新人であった三年前は神機の変形にもたつくなどの指摘があったが、いまや将来の指揮官として期待されるほど立派に成長した。実は顔グラ、衣装は使いまわしなのでキャラクリエイトで同じ見た目を作れる。

・キャリー・ユー
 【聖なる探索 ニーハイの章】にて登場するシンガポール支部所属のお姉さん。本来はオーバーニーと呼ぶべきだが、日本語におけるニーハイとは膝上までの丈のソックスの略称である。その要諦は、ソックスの口ゴムとボトムスの間にできる領域のわずかな輝きであるらしい。めちゃくちゃかわいい。実は顔グラ、衣装は使いまわしなのでキャラクリエイトで同じ見た目を作れる。なお、アバターカードの同行者としては記録されない。

・カミーユ・ランブラン
 【聖なる探索 低露出の章】にて登場するマルセイユ支部所属のお姉さん。想像力とは人間の証。絶妙に隠されたボディラインとかドレープの間から出ている肌など、想像力をかきたてられる。隠されたままってのもまたいいらしい。めちゃくちゃうつくしい。実は顔グラ、衣装は使いまわしなのでキャラクリエイトで同じ見た目を作れる。なお、アバターカードの同行者としては記録されない。

・イネス・アルメイダ
 【聖なる探索 生脚の章】にて登場するリオ・デ・ジャネイロ支部所属のお姉さん。ホンモノに飾りなんていらない。シンプルイズベスト。飾らない脚を見て、そこにみなぎる命の息吹をただ感じればいいらしい。ちなみに生脚どころか上半身の露出具合もすんげえことになっている魅惑のお姉さまである。めちゃくちゃきれい。実は顔グラ、衣装は使いまわしなのでキャラクリエイトで同じ見た目を作れる。なお、アバターカードの同行者としては記録されない。

・キグルミ
 あなた、体験版だけのキャラじゃなかったんですね……!?
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