GOD EATER:救雷の神鳴   作:ひょうたんふくろう

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【伝来】 伝わってくること。代々受け継ぐこと。


129 伝雷:Wild Revelry

 

「会いたかったです──ユウ!」

 

「僕もだよ──アリサ」

 

「おいおいユウ……親友を忘れてないかぁ?」

 

「忘れるわけないだろ──コウタ」

 

 クレイドル所属、前第一部隊隊長の神薙ユウは、にこやかに笑って友人たちと旧交を温める。周りのアラガミたちがそんな三人に攻撃を加えないのは、三人が語り合いながらも油断なく神機を構えているからか、それともユウの実力を本能で理解しているからか。

 

 あるいは、もしかすると──三人がそろった瞬間に、得体のしれない化け物がさらにおぞましい何かに変わってしまったように思えたからかもしれない。

 

『ゆ、ユウさん!? 戻ってたんですか?』

 

「ヒバリさん? ……あれ、連絡届いてませんでした? 僕もツバキさんと同じヘリコプターに乗ってたんですけど」

 

『え……』

 

「あー……あまり近づくとティターニアに狙われるし、あと、二人の後方にアラガミがそこそこいたから。だから、結構手前のほうで飛び降りたんですよね」

 

『ティターニアの攻撃範囲外に降りて、そこからアラガミを殲滅しながら追いついたんです……?』

 

 ヘリコプターで近づきすぎると、ティターニアに狙われるから。それに、コウタとアリサの周囲にあまりにもアラガミが群がっていたから。だから、ユウはそこそこ離れたところに着陸して……そして、アラガミをなぎ倒しながらここまでやってきたのだという。

 

 そう──ルーのジャミングのように見えたあのレーダーの挙動は。

 

 ジャミングでもなんでもなく──ユウが、凄まじい勢いでアラガミを屠っていただけにすぎなかったのだ。

 

『あの、その……神薙中尉以外にも、識別不能の神機使いの反応がいくつも……』

 

『榊博士……? 言ってることが違いませんか……? この任務には、あの16人しか参加できないって話でしたよね……?』

 

 困惑を隠せていないフランの声に、非難している……というわけではないが、どこか怒っているような、あるいは不満そうなラケルの声。

 

 そんな二人の声に対して、榊は普段と全く変わらない様子で当然のように答えた。

 

 

 

『ははは……通信障害かな? こんなの、極東じゃよくあることなのだよ』

 

 

 

 新たにレーダーで確認できた、いくつもの識別不明の神機使いの反応。それを榊は──通信障害であると、あっけらかんと言い放ったのだ。

 

『な、なんて白々しい……!』

 

『…………真面目に答えてくれませんか?』

 

『……極東の神機使いは参加できないと言ったが、ほかの支部の神機使いであれば話は別だ。ただ、状況が状況な上に彼らの都合もある。応援を呼び掛けても……来れるかどうか、確証がなかった』

 

『……』

 

『あとは……その、かなりの無茶(・・・・・・)を通している者もいる。……どうか、これ以上は察してほしい』

 

『…………まぁ、いいでしょう』

 

 どういう形であれ、今は応援が来てくれたというその事実こそが重要なのだ。軍規や(しがらみ)なんて、今はそんなの関係ない。そういうのはすべて、何もかもが終わってから──偉い人が苦労すればいいだけの話なのである。

 

「よ、よくわかんないけどさ! 俺たち、暴れていいんだよね!?」

 

『うむ──我々もまた、社会性を持つ生物のひとつだ。群れる力はやつらの専売特許ではないことを、知らしめてやろう』

 

 ほかでもない榊からのお墨付き。本来はこの場にいるはずのないユウとの、久しぶりの共同任務。

 

 たったこれだけで──アリサの中にもコウタの中にも、かつてないほどの希望があふれてくる。ユウと一緒に戦えるというその事実だけで、どんな困難だって乗り越えていけるという確信があふれてくるのだ。

 

「よっしゃあ! 一緒に戦うのは久しぶりだな、相棒!」

 

「ちょ、ちょっと!? なんですかその友情アピールは……! 私も一緒だってこと、忘れないでくださいよ!?」

 

「えー……だって俺たち、同期入隊だし? 同じ日に神機使いになって、同じ部隊に配属されたマジの相棒だし?」

 

「わっ、私だって! 私だって、ユウと同じ新型神機だったもん……!」

 

「まぁまぁ、二人とも……三人一緒で戦うってことでいいじゃないか。俺にとっては二人とも……いいや、アナグラの全員がかけがえのない大切な仲間なんだから」

 

 そう言って、ユウは改めて神機を構えなおす。目の前に蠢くのは、無数のコクーンメイデン寄生体。似たような奴は何体も倒してきているが──よりティターニアに近い個体ほど、そして倒せば倒すほど強力になるということは聞き及んでいる。

 

 それでも。

 

「ああ──お前と一緒なら、負ける気がしない!」

 

「ええ──派手に暴れてやりましょう!」

 

 久しぶりの、三人での戦い。

 

 ユウも、コウタも、アリサも。

 

 ──三人一緒であれば、なんだってできる気がした。

 

 

「──行こうか」

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

 

「──そこ」

 

 ──ギャアアアアア!?

 

 それは、まさに蹂躙と呼ぶにふさわしい光景であった。

 

 大量のアラガミの群れに、ユウは一切ひるむことなく神機を構えて突っ込んでいく。ボルグ・カムラン寄生体の尾針の突き刺し攻撃を半身を逸らすだけで躱し、伸びきった尾をそのまま神機の一振りで断ち切った。ぶつん、という小気味よい音が聞こえた瞬間にはボルグ・カムラン寄生体に肉薄しており、そしてそのまま──

 

「弱点が露出してるってのは、かえってやりやすいかもね」

 

 ──アアアアアア!?

 

 目にもとまらぬ一閃で、コアであるコクーンメイデンを真っ二つに切り裂く。たったそれだけで、ボルグ・カムラン寄生体は動かなくなってしまった。

 

「──まだまだいくよ」

 

 グボロ・グボロ寄生体。デミウルゴス寄生体。ウコンバサラ寄生体。ガルム寄生体。襲い掛かってくる多種多様なアラガミを、ユウは持ち前の才覚(センス)のままに切り捨てていく。相手のほんのわずかな動きからその行動を先読みして──アラガミのほうからユウに斬られにかかっているのではないかと錯覚するほど鮮やかに、その悉くを打ち倒していた。

 

 ──グァァァァァ!?

 

 ──ギィィィィ!?

 

 ──ギャアアアア!?

 

 戦場に響く断末魔の叫び。ユウの神機が閃くたびに、血飛沫のような何かと同時にそんな悲鳴が響き渡る。聞いていて耳をふさぎたくなるほど惨たらしいその叫びは、いつまでたっても止まらない。

 

「俺らがいることも忘れんなよぉ!」

 

「ユウだけに良い格好なんて、させませんから!」

 

 もちろん、コウタやアリサも負けてはいない。的確に寄生体のコアを狙い撃ち、そして爆炎に紛れて相手のコアを切り裂いていく。アリサを狙うアラガミがいればコウタがそれを阻止し、コウタを狙うアラガミがいればアリサがそれを阻止する……と、動きに無駄も隙もない。

 

「まだまだぁ!」

 

 ──ギャアアアア!?

 

 今までとの違いは、ユウがいるかいないか──たった、それだけ。それだけのはずなのに、この三人のアラガミ殲滅速度は明らかに先ほどの五倍以上にはなっている。常に誰かがアラガミを倒し、常に誰かが誰かのフォローを入れる……という、三人連携のお手本のような動きが出来上がっていた。

 

「──!」

 

「援護します!」

 

 阿吽の呼吸。もはやアイコンタクトすら必要とせず、ユウの思ったところにアリサの援護射撃が入る。煙から飛び出してヤクシャ・ラージャ寄生体の顔面を両断すれば、その時にはすでに──ユウの攻撃の後隙を埋めるように、コウタの銃撃が周囲のアラガミに叩き込まれていた。

 

 

 ──やっぱり、本当に戦いやすい。

 

 

 それはきっと、三人ともが感じたことなのだろう。新人の頃から、ほとんどずっと一緒に神機使いとしてこの極東の戦場を生き抜いてきたのだ。お互いの動きは手に取るようにわかるし、もし自分が何らかのミスをしても──自分の想定の範囲外でも、自分の想定を超えた理想の動きをしてくれるという確信が三人にはあった。

 

「なんだか楽しくなってくるなあ!」

 

「ちょっと! 不謹慎ですよ!」

 

「ははは……! でも、わかるよ!」

 

 本来であれば、絶体絶命の状況。すぐにでも救援を呼ぶか、撤退を選ぶべき状況。

 

 それなのに──戦うことが、すごく楽しい。心と心が通じ合うこの瞬間が、たまらなく心地よい。自分たちが全力で暴れられるというその事実が、心をどこまでも昂らせる。

 

 そう、これはユウたち三人にとっては夢のような時間であり。

 

 ──アアアアアアア!?

 ──ギャアアアアア!?

 

 そして、アラガミたちにとっては──文字通りの、悪夢のような時間であった。

 

「何体倒したあ!?」

 

「たくさん、かな!」

 

「もう! 適当ばっかり!」

 

 倒して倒して、どんどん突き進んで。

 

 自分たちでもどれだけ倒したのか、どれだけ進んだのかもわからなくなって。

 

 もう、何もかも忘れてこの時間を永遠に楽しみたい──なんて、思い始めたころに。

 

 

 ──グゥゥ……ッ!

 

「お」

 

 骨格からして、ハンニバル神属。ただしそいつの顔立ちは、ハンニバルとは似ても似つかない。竜や爬虫類というよりかは武骨な兜か鬼の形相を思わせる相貌であり、そして全身が黄金に輝く鱗で包まれている。

 

「──ま、倒せば関係ないか」

 

「あっ!?」

 

 新種か、はたまた堕天種か。

 

 いずれにせよ、速攻で倒せば問題ないとユウは判断した。

 

 ──普段のユウであれば、視界の端でアリサとコウタが自分を止めようとしたことに気づけただろう。

 

「待って、ユウ──!」

 

 アリサが銃を構える──も、少しだけ遅い。

 

 ──ガアアアアアア!!

 

「な、ん──!?」

 

 そいつの咆哮と同時に、ユウを襲う違和感。まるでこの瞬間だけ重力が三割増しになったかのように、体が重い。普段は軽々と振るうことができるはずの神機がとんでもなく重く感じられて、めまいかあるいは倦怠感か、ともかくはっきりとわかるほどに体に不調が表れている。

 

 

 

 ──カァァァン!!

 

 蒼い雷が、戦場を明るく照らす。

 

 

 

《ブラッドアーツじゃないと倒せないぞ!》

 

《おねがい……! せめて、リンクバーストを!》

 

 

 

「──!?」

 

 突如として頭に響く声。どくん、と高まる心臓の鼓動。

 

 そして、自分でもわからない──初めて感じる、オラクルの高まり。

 

 

「──うぉぉぉぉぉッ!!」

 

 

 気づけば、ユウは。

 

 巨大な──超高密度のオラクルの刃が纏った神機で、そのアラガミを真っ二つにしていた。

 

 ──…………。

 

 右半身と左半身での、文字通りの真っ二つ。悲鳴を上げることなくアラガミとしての活動を停止したそれは、その両断面からびちゃびちゃとオラクル塊を零していく。少し遅れてずしん、とその巨体が完全に地面に倒れ伏せると──その両手足は、反射でぴくぴくと小さく痙攣していた。

 

 ──ちょうど、切断面が地面にべったりとくっつく形になったらしい。瞬きを三回繰り返すうちには、じわじわと地面が赤く染まっていく。

 

「な、なんだったんだ今のは……?」

 

「それは、こっちのセリフですよ……!」

 

 怒ってますよ──と全身のすべてで表現するアリサを見て、ユウは大人しくすべての非を受け入れることにした。

 

「あれはスパルタカスですよ!? なんでそのまま突っ込むんですか!?」

 

「へ、へえ……そ、そんなアラガミがいたんだ……?」

 

「ええ! ハンニバル神属の感応種が現れたから、そっちも気を付けて……って、メールで送ったじゃないですか! 読んでないとは言わせませんよ!」

 

「げ」

 

 言われてみれば、そんなアラガミの話を聞いた気がする──と、ユウは過去の自分の迂闊さを呪いたくなった。

 

「感応種は神機を封じるって……! ブラッドかブラッドアーツを使える人間じゃないと倒せないって、知ってますよね!?」

 

「う……」

 

《なんだよお前、せっかく俺らが送った感応種の情報、見てなかったのか?》

 

「そ、そういうわけじゃないんだけど……でも、なんか今回は上手く倒せ──」

 

「へえ……!?」

 

 ぴき、とアリサのこめかみに青筋が立っている。顔には満面の笑みを浮かべているのに、アリサがどうしようもなくブチ切れていることを、ユウは本能で感じ取った。

 

「ええ、そうでしょうとも! ……どうして! どうして、ブラッドアーツが使えるようになってるって教えてくれなかったんですか!?」

 

「えっ」

 

「……えっ?」

 

《マジかこいつ》

 

 一瞬固まる空気。ユウはユウで何を言われたのかがわかっていないし、アリサはアリサで、内緒にされたことに対する悲しみやら何やらが変に空回りして、状況に追いつけていない。唯一わかっているのは、お互いに何か致命的にかみ合っていないぞ──という、それだけだ。

 

「え……ちょ、ちょっと待ってください。ユウ、あなたさっきブラッドアーツ使いましたよね……?」

 

「えっ、アレそうなの?」

 

《いやいや……逆になんだと思ってたんだよ?》

 

「な、なんか今この辺で蒼い雷が落ちたりだとか、不思議なことがいっぱい発生しているって話だから……てっきり、その類なのかなって」

 

《今ので不思議現象が一つ追加された感じかなー》

 

「………………いい加減、突っ込もうと思っていたのですが」

 

 疲れたように、眉間に寄った皺を指でほぐしながら。アリサは──少し離れたところで、口を動かさずに(・・・・・・・)こちらの会話に参加しているコウタを見据えた。

 

「コウタ──あなた、いったいなにやってるんです? それ、どうやってるんです……?」

 

《いやあ……俺にもよくわかんね。なんかさっきいきなりできるようになった感じ? こう、頭に思ったことがそのまま通じるっぽい?》

 

《あっ、ホントだ……なにこれ、すごく不思議な感じがする……》

 

《あああ、もう……! どうしてこう、次から次へとわけのわからないことが……!!》

 

 口を閉じているのに、なぜか通じてしまう会話。耳元の通信機の声が、耳ではなく直接頭に響いているような感じ。言われなければ気づかないほど──いいや、普通に声でやり取りするよりも音声(?)がクリアで、感情が直接心に響くように感じてしまうからこそ、単なる音ではないと気づいてしまうそれ。

 

《ねえ、二人とも。もしかしてなんだけど》

 

「なんです?」

 

《これ、感応現象じゃない?》

 

「えっ、マジ!? これが感応現象なの!? ……あっ」

 

「なんか、感じが結構似ているというか。声に出していないのに気持ちが伝えられるんだとしたら、それくらいしかないかなって」

 

「言われてみれば……でも、第一世代のコウタでは感応現象はできないはずですよ? それに、感応現象を起こすには物理的接触が必要です」

 

「あー……《それなんだけどさあ。アリサ、もしかして自分じゃ気づいていないかんじ?》

 

 突如としてできるようになった、謎の感応現象と思われる何か。近くにいる相手と、意思を直接やり取りできるというテレパシーにも似たその能力を使って、コウタはただ事実を告げた。

 

《お前いま、髪がすっごくふわってなってる》

 

《え……?》

 

《あと、お前がユウをリンクバーストした瞬間……なぜか俺もリンクバーストした。さっきからすごく力が湧いてくるし、よくよく考えてみたら……なんか、オラクル補給もさっきから全然してないのに弾切れにならない。というか、お前もリンクバーストしてない?》

 

《あれっ……!?》

 

 アリサによってリンクバーストされたユウ。それとほぼ同じタイミングでなぜかリンクバーストされたコウタ。そして大変不可解なことに、特に神機の調整もしていないのに、リンクバーストした本人であるアリサもリンクバーストしている。

 

《最初は三人で戦えてテンションが上がってるだけかと思ったんだけど……やっぱ三人とも、リンクバーストしてるよな?》

 

《し、してます……! えっ……いったいどういうこと……!?》

 

「…………まって、二人とも」

 

《気づいたか、ユウ》

 

 三人が三人ともリンクバーストをしている──励起状態になったオラクルが発する燐光のせいで気づかなかったが……ここにきて、ユウは自分たちを繋ぎとめるその存在に気づいてしまった。

 

「なんか俺たち……光の帯で繋がれてない?」

 

「だよな!? 気のせいかもって思ったけど、なんか変な光が出てるよな!?」

 

「えっ」

 

 なぜかブラッドアーツが使えてしまったユウ。

 なぜか感応現象ができるようになってしまったコウタ。

 なぜかその場にいる全員をリンクバーストできるようになってしまったアリサ。

 

 そして──その三人の間には、お互いの体の中心を繋ぎとめるようにして黄金に輝く光の帯が繋がれている。

 

 

「え……なにこれ……」

 

「さあ……?」

 

「また榊博士がなんかやったのかな……?」

 

 

 ──カァァァン!!

 

 

 蒼い雷が、戦場を明るく照らす。

 

 

 ──事態は大きく、動こうとしていた。





・この現象、「コウタがオラクル補給をしていないのに弾切れにならない」ところまでは一応公式設定(?)です。

・それ以外については独自解釈です。

・元ネタの公式設定(?)、気づく人がいるかはわかりませんけれども……。
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