【恩頼】 神や天皇から授かる力や恩恵、加護。みたまのふゆ。
『──あ、アラガミが! アラガミ同士が共食いしている! おまけに……俺たちを攻撃から守るような動きをしてる!』
『──応援に来た連中がブラッドアーツを使ってるぞ!? いったいどうなってんだ!?』
『──で、できました! こちらでも、蒼い雷を任意の場所に落とせました! ちょっとコツは要りますが……でも、誰でもできます! すごい威力ですよコレは!』
『おい! なんか勝手にリンクバーストしたぞ!? おまけにどれだけ銃を撃っても弾切れにならねえ! コレ本当に大丈夫なやつか!?』
『──す、すごい勢いで神機兵が暴れている……! というか、寄生体と神機兵が協力して戦っている……もうどうなってんだよコレ……』
作戦本部に次々に入ってくる、そんな通信。状況はあまりにも目まぐるしく変わっている──というか、もはや混沌の極致にあると言っていい。状況がとんでもない速さで変わっているだけならまだしも、その一つ一つが荒唐無稽でとても信じられないものだというのだからタチが悪かった。
「ヒバリくん……状況の報告を」
「は、はい……」
榊に促されて。ヒバリはただ、事実だけを述べた。
「単純に、味方の数が増えました……。もともとの戦力が16人であったのに対し、新たな神機使いの増援、約500体の蒼い暴走神機兵、そして……こちらの味方であるように振る舞うコクーンメイデン寄生体が、今この瞬間も増え続けています……もう、すでに1000体以上は間違いないです……」
「……」
「加えて、既存戦力の強化も行われているようです。任務に参加している神機使いの全員が常にLv3相当の……いいえ、少なくともLv3以上と思われる神機連結開放状態になり、オラクル切れが起きない状態になっています。ヒロさんと接触していないはずの神機使いもブラッドアーツが使えるようになっていて、感応種との戦闘も可能です。加えて……なぜか全員、蒼い雷を任意の場所に落とせるようになっているみたいです……」
「……」
「本当に、本当にすごい勢いでアラガミたちを倒しています……。全員がリンドウさんやユウさんと同じくらい強くなったと言われても信じられるくらいに……。特にチハルさんは、単独で複数の接触禁忌種を瞬殺しています……」
16人しかいなかったはずの戦力が、1000以上に増えている。相手の戦力そのものを吸収して、今もなお、まだまだ増え続けている。
そんな戦力の一つ一つが、とんでもなく強化されている。常に神機開放状態を保ち、そして蒼い雷という超強力な遠距離攻撃まで自由に使えるようになっている。おまけに──なぜか全員が、本来使えないはずのブラッドアーツを使えるようにまでなっている。
「い……いったい、何が起きているんだ……?」
九条がポツリと漏らした言葉。
それが、この部屋にいるほぼ全員の気持ちであった。
「神機兵の暴走だって……すでにそれだけであり得ないことが起きているのに……。さっきまで敵対していたはずのアラガミが人間を守っている? アラガミ同士で共食いしている? いいや……人間の意志で蒼い雷が落ちるだなんて」
投げやり気味というか、自棄になっているというか。
泣きながら笑っているような、そんな何とも言えない顔で──九条は、自嘲気味に呟いた。
「我々が突き詰めてきた科学は、なんだったんだ……?」
既存の科学ではどう考えても説明できないことが、この一時間弱で立て続けに発生している。人の想像を超えた現象が、今この瞬間も発生し続けている。原因も、理由も──その何もかもが一切不明。この部屋の中にはフェンリル有数の頭脳が集結している……つまり、今この瞬間において最も人類の叡智が集結しているというのに、それでなお今起きていることの正体がつかめない。
それはもはや、科学の敗北と捉えられても仕方のないことであった。
「──一つ一つ、わかるところから考えていきましょうか」
にこりと笑った──しかし、目はあんまり笑っていないラケルが、どこか非難するように榊に語り掛けた。
「まず、はっきりさせてください。先ほどもうかがいましたが、応援に来た神機使いは」
「……彼らについては、私の呼びかけによって集まってくれた者たちとなる。先ほども言った通り、状況が状況のために呼び掛けたところで来てもらえるかどうか、間に合うかどうかはわからなかった。だから──」
「──だから、伝えるのは憚られたと? 下手に希望を持たせるような真似はしたくなかった……というのもわからなくはないですが、しかしだからといって」
「──バックアッププランの検討はする、と言ってあったはずだよ。あまり期待はしないでほしい……とも、付け加えていたけどね」
「…………あ」
あの日──ティターニアの正体やその生態を類推した場にて、榊は確かにそう言っている。社交辞令というか、半ば慣用句のようなものであったために誰もが気にしていなかったが、榊は自身の言葉の通りに、裏で動いていたのだ。
「と、とりあえずそれは別にいいじゃん! それよりもさ!」
場の空気に耐えられなくなったのだろうか。それとも単純に、もっと気になることがあったのだろうか。
ともかく、その奇妙な沈黙を打ち破ったリッカは──半ば叫ぶようにして、その言葉を紡いだ。
「──なんか、ケイイチとレイナちゃんもリンクバーストしてるんだけど!」
ケイイチとレイナ。新兵であるがゆえに今回の任務に参加できず、榊の意向によって作戦本部での待機となっていた二人。結果的にはグレムの暴力行為を止めたり、ラケルを背負って訓練室にいったり──と、それなりの活躍ができたわけだが、そんな二人はどういうわけか……。
「な、なんですかねコレ……?」
「な、なんかいきなりこうなっちゃったんですけど……?」
──どういうわけか、リンクバーストしている。神機こそ手にしていないものの、オラクルの活性化に伴う燐光を体から発しており、少なくとも通常とは異なる何かしらの変化が起きているのは間違いない。
「捕喰もしてない、強制開放剤も摂取していないのにリンクバーストなんて……! 百歩譲って戦場のみんなだったらありえるかもだけど! どうして、作戦本部にいる二人がこうなるのさ……!」
「……」
「しかも!」
「うぉっ!?」
リッカは、半ば無理やりケイイチの手を握った。
《聞こえるか、ケイイチ? どうもこのテレパシーみたいなやつ、結構な距離でもつながるっぽいんだが。慣れれば相手先を指定したり、オープンチャンネルみたいに全体に呼び掛けとかできるみたいだぜ》
《あー、それが、その……》
《──聞こえるよ! 第一世代どころか、神機使いでもない私でも!》
《……えっ!? リッカさん!? なんで!?》
《こっちが聞きたいよ! あああ、もう……! 本当に何が起きてるのさ……!》
何が何だかわからない。ただ、事実だけを述べるのであれば──ケイイチとレイナがなぜか突然いきなりリンクバーストし、そして謎の感応現象と思われるテレパシーのやり取りが可能になって……そんなケイイチにリッカが触れると、リッカまでもがテレパシーに介入できるようになった。
言葉にすれば、そこまで難しいことではない……のだが、それだけに余計に、わけがわからなかった。
「神機使い同士が距離を無視して感応現象するのなら、まだわかるよ……! でも、どうして私まで……!? いくら神機使いに触れているって言っても、そんなのありえない……!」
「あの、その……ついでと言っては何なのですが、システムのほうにも異常が出ています……。先ほども述べましたが、未知の不明なネットワークとアクセスポイントがいっぱい……神機兵のそれ以外にも、その……」
「──まるで、神機使いそのものがアクセス先になっているかのような挙動を示している、かね?」
「え」
フランとヒバリが、驚いたように榊を見る。
ついでに──ラケルとリッカが榊をどこか怒ったように見つめ、そして九条とレアはもう何でもいいからどうにかしてくれ……と言わんばかりの顔で榊のことを見ていた。
「……あくまで、現時点での私の仮説となるが。証拠も何もない、ただの推測でしかないのだが──それでも良ければ」
そんな榊の前置き。しかしそれでも、それに否を唱える人間はここにはいない。
「すべての現象は──ルーくんの
蒼い雷も。いきなり人間の味方になった寄生体も、ケイイチたちが勝手にリンクバーストしたのも。この極東で発生しているすべての異常現象は、すべてルーの能力で説明することができると、榊は述べた。
「根幹が同じで、そのすべてがやはり相互的に影響しあっている……説明がかなり難しいのだが、ルーくんに起きた変化から説明するのが最も適当か」
「……ルーに起きた変化、ですか?」
「うむ──進化した能力と、新たに取得した能力。便宜上そう表現させてもらうが、ともかく復活したルーくんには、今までにない新たな力が発現している──と、私は考える」
どこか困ったように眉間に皺を寄せた榊は……やがて、意を決したようにつぶやいた。
「まず第一に……制御の利かなくなった神機兵。アレはルーくんのジャミング能力の影響を受けているものだと思われる」
「……」
「蒼い雷がルーくんに由来するものだとして。最初の暴走神機兵は、蒼い雷によって生まれたように私には見えた。ルーくんの電撃を受けて、その構成オラクルが変質する──つまり、ルーくんのオラクルに浸喰された結果生まれたのが、あの蒼い暴走神機兵だ」
オラクル細胞には、もともと別の細胞を捕喰する性質がある。だからこそ神機使いたちは神機に捕喰されないように自身にあった偏食因子を定期的に投与される必要があるわけで、それを怠った場合……自身のオラクル細胞に捕喰されかねない。リンドウの右腕などは、オラクルに浸喰されて変質した最も身近な例だと言えるだろう。
「ここまでは……オラクルによって物質が変質するだけであれば、珍しいことではない。あの蒼い暴走神機兵の変貌は確かに驚くべきことではあるが……ここまでであれば、我々の技術力でも説明ができる」
「程度の違いこそあれど、起きている現象そのものはアラガミ防壁や神機の作成と同じですものね……」
「うむ……故に、ここで着目するべきは……メカ的な変化ではなく、ソフトあるいは制御的な変化となる」
「あっ……!?」
榊の一言で、ピンとくるものがあったのだろう。
何かに気づいたフランは……おそるおそる、信じられないとばかりにその言葉を口にした。
「まさか……まさか! ルーの進化した能力というのは……!」
オラクルの力で物質が変質するのは、普通のことである。だから神機兵が蒼くなったり、存在するはずのない顎や牙が生えたり、本来の想定を超えた出力や機械強度を示すのもそういう意味では納得ができることである。
しかしながら、オラクルの力で──神機兵の制御システムが書き換えられるというのはありえない。破損ではなく、全く未知の形式で……あくまで、一種のプログラムであると認識できるというのは既存の科学力では説明ができないのだ。
すなわち、これこそが。
「──ジャミングではなく、ハッキング! それが進化したルーの能力ということですか……!?」
「バカな……アラガミが、ハッキングなんてできるわけが……」
「──我々が想像するハッキングとは異なるだろう。ルーくんからしてみれば、【自分の思い通りに動く】ことさえできれば、形式も構成も関係ないのだから。ゆえに、知ってか知らずか神機兵のメインプログラムもぐちゃぐちゃになってしまった。中途半端に反応するのはおそらくそのためさ」
「い、いや! 本当にぐちゃぐちゃに書き換えたのなら、中途半端に反応することさえありえない! ほんの一行ミスがあっただけで動かなくなるのが、プログラムというものだ……!」
「──
「……」
「コンピュータは電子機器で、電気で動く。そしてルーくんは電気を操る力を持ち、ジャミングを行うことができる……どういう形であれ電子機器に干渉できる存在が生まれた時点で、こうなるのは時間の問題だったのだ」
「は、はは……」
ルーがどうやってジャミングをしているのか、その詳細な原理はわかっていない。工学的なジャミングに近いことはやっているが、それだけでは説明ができないこともある。しかしながら、制御もソフトも突き詰めて考えればその構成要素の最小単位は電気であるのだ。であれば、ジャミングという妨害行為がいつしかハッキングという干渉行為に変わっても不思議はない──と、榊は語った。
「さて……ハッキングの話が出たから、次は謎のネットワークの話をしようか」
「ネットワーク、ですか? でも、それってそんなに大事なのかしら? それもルーがハッキングを会得したから……で、説明できるのでは?」
レアの当然の疑問。榊はそれを、やんわりと否定した。
「説明が矛盾してしまうようで申し訳ないのだが……ハッキング能力だけにしては、今回の事象はあまりにも規模が大きすぎると思ってね」
「……」
「神機兵の暴走だけなら、ハッキングで説明ができる。けれど、ほかの現象についてはハッキングじゃ説明ができない。しかしながら──ある一つの要素を加えることで、ほかのすべてが概ね説明できるようになるのだ」
「え……!?」
今現在、この極東で起きている謎の現象のすべては。
たった一つの要素を加えることで説明できる──と、榊は確かにそういったのだ。
「そもそもの大前提の話をしよう。ルーくんのハッキング能力は、ジャミング能力が進化したもの……つまり、もともと持っていた能力が成長したものだ。そして、これから話すある一つの要素とは──ルーくんが新たに会得した能力となる」
「…………いったいいつ、ルーが新たな能力を会得したっていうのさ?」
リッカの指摘。ルーはついさっきまで、蛹の状態のまま訓練室に安置されていた。蛹であるときは当然動けず、意識があったかどうかさえも定かではない。戦場に飛び出していったのだって数十分前の話なのに、そんなルーが……目覚めたばかりのルーが、今までにない新たな能力を会得しているだなんて考えにくいことである。
しかしながら──榊は、まさにその言葉が聞きたかったといわんばかりに、にっこりと笑った。
「良い質問だね──リッカくんの言う通り、ルーくんはまだ目覚めたばかりだ。元の能力が進化するのならまだしも、新しい能力なんて習得する時間も機会もない」
「……」
「──が、しかし。最も基本的なアラガミの成長を忘れていないかい? ルーくんには、
「………………まさ、か」
榊のその言葉の意味に気づいたのは──気づいてしまったのは、ラケルであった。
「……気づいたようだね」
「……確かに、それなら。蒼い雷も、寄生体を操るのも。リンクバーストも、ブラッドアーツも説明ができますが……でも、そんなことって」
「ちょ、ちょっとラケル……! おねがいだから、私たちにもわかるように話して……! あなたの言葉は、いつもわかりづらいのよ……!」
懇願するようなレアの声。それに気づいているのかいないのか……ラケルは、榊の目をじっと見つめたまま小さく、されどはっきりした声でつぶやいた。
「──アラガミは、
それは、アラガミの大原則。
「──自分とは異なるものを食べ続けることで、加速度的な進化を続けていく」
だから、人類はここまで追い込まれた。だから、アラガミの脅威はいつまでたっても無くならない。
「待って……! それって……!」
「る、ルーが一番食べたアラガミって……! というか、蛹の時も食べさせていたのって……!」
そしてそれは、ルーという特別なアラガミでも適用されることなのだ。
「その通り──ルーくんが新たに習得したのであろう能力は」
榊の言葉を、ラケルが引き継いだ。
「──コクーンメイデンの、
・恩頼(おんらい)って、「みたまのふゆ」でも一発変換できるって初めて知りました。
・Over the clouds
ゲームをしているときは気づかなかったのですが、音楽プレイヤーで聞いた時に03:00頃が立体音響(?)になっていてびっくりしました。