GOD EATER:救雷の神鳴   作:ひょうたんふくろう

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【神明】 しんめい。神。

【神鳴】 しんめい。雷。

【神名】 しんめい。神の名。




131 救雷の神鳴

 

 

「──コクーンメイデンの、繋がる(リンク)能力ですね」

 

 

 コクーンメイデンのリンク能力。群体として生きる彼らがもつ、お互いが感応波により繋がる能力。これがあるからティターニアはどんな遠距離でも正確な砲撃ができたし、コクーンメイデンを通して寄生したアラガミを操ることができる。フラックメイデンとティターニアというコクーンメイデンの群体としての生き方に必須の能力であり、これがなければ──これがあるからこそ、取るに足りないはずのコクーンメイデンが極東史上最悪のアラガミとなっているのだ。

 

 そんなコクーンメイデンの能力を。

 

 コクーンメイデンしか使えない、コクーンメイデンにしか役立たない能力を。

 

 ルーが、習得しているのだという。

 

「ど、どういうこと……? ルーがリンク能力を習得した、ってところまではわかるわ……。でも、それがどうして蒼い雷につながるのよ……?」

 

「考え方を少し変えるんですよ、お姉さま。……そうですねえ、ルーをティターニアと置き換えればわかりやすいかしら?」

 

「……ああっ!?」

 

 気づいたのは、九条であった。

 

「も、もしルーにリンク能力があったとしたら……! 範囲内のすべての対象と繋がっているのだとしたら!」

 

「……」

 

「あ、蒼い雷が砲撃だ! 神機使いがコクーンメイデン……中継器(ルータ)だ! 中継器となるコクーンメイデン(神機使い)から送られてくる情報をもとに、ティターニア(ルー)砲撃(かみなり)が撃ち込まれていたんだ!」

 

「「あっ……!?」」

 

 ルーがティターニアと同じくリンク能力を持っているならば。ティターニアと同じく、仲間と繋がって──超遠距離の攻撃を放つことは、決して不可能ではない。ルーと繋がっている神機使いが蒼い雷を落としたいと願えば──リンクを通じて、ルーの能力である雷がそこに落ちるのだ。

 

「そ、そっか……! だから、誰でも狙ったところに雷が落とせるんだ……! だってそれ、ルーが代わりに落としているんだもん!」

 

「あれだけ広いジャミング領域を展開できるなら……それだけ広範囲にオラクル的な干渉ができるなら、決して不可能じゃない……! 中継器がきっちり観測して場所を伝えるだけでよくて、何なら中継器側に使われているとさえも言えるの……!?」

 

「あくまで想像ではあるけれどね。しかし、今までだって出現するだけで天候を変えてしまうアラガミはいくらでも観測されてきたんだ。ルーくんほど強力なアラガミなら、これくらいは当然のようにやってのけるだろう」

 

 こちらの都合の良いタイミングで落ちる──こちらの意志の通りに落ちる、不思議な蒼い雷も。ふたを開けてみれば、不思議なことでも何でもない。

 

 ティターニアたちがやっていたことを、同じ原理でルーや神機使いが再現していただけ。本当に、それだけのことなのだ。

 

「あれ……ちょっと待って。今のルーにリンク能力とハッキング能力があるってことはさ。寄生体たちがいきなり共食いを初めて、人間を守るようになったのって」

 

「ルーくんがリンク能力でコクーンメイデンと繋がって、ハッキング能力でティターニアの意志を消して自らの手駒にしたんだろうね」

 

「うわあ……」

 

「寄生されたアラガミは、寄生者であるコクーンメイデンが絶対的な主となる。そのコクーンメイデンは、中継器としてティターニアの命令を受けて動く。……言い方を変えると、外部からの命令に対して敏感であり従順なのだ」

 

「それ……クラッキングされたら終わりじゃない……」

 

「まさかクラッキングされるなんて思ってもいなかっただろうし、そんなことするアラガミも、人間もいなかった。対策なんてされているはずがないし……そして、ルーくんのジャミングの影響範囲は非常に大きい」

 

「ふふ……つまり、ティターニアが手駒として用意していた寄生体のすべてが、反逆者になったということですね……」

 

 これが普通のアラガミであれば、そんなことにはならなかった。コクーンメイデンが寄生してしまったからこそ、外部からの干渉を受けてしまうことになった。コクーンメイデンという中継器に干渉してくる存在がいることを──そのシステムの脆弱性という概念が無かったからこそ露呈してしまった、致命的すぎる弱点。

 

 数が多ければ多いほど強い──そんな常識を、奇しくもルーは覆したのだ。

 

「さて……残っているのはリンクバーストとブラッドアーツになるかな?」

 

「ですね……尤も、リンク能力が説明できた時点で、こちらも解決済みのような気がしますが。……改めて考えると、ハッキング能力はジャミング能力が進化したのではなく、リンク能力とルーの元々の能力が組み合わさって生まれたものなのかも」

 

 榊とラケルの頭の中では、すべての説明がついているのだろう。交わす言葉は少ないのに、お互いがどこか満足気というか、すっきりした表情をしている。議論をしているというよりかは、余裕をもって回答したテストの答え合わせをしているかのような雰囲気だ。

 

「ちょっと待ってよ榊博士……! 私たちは全然わかんないよ……!」

 

「そうよ……! さっきも言ったけど、あなたの言葉はすごくわかりづらいのよ……! もっと、こっちにもわかるように説明して……!」

 

 リッカとレアの、心からの懇願。それは間違いなく、この部屋にいるほかの人間の気持ちを代弁したものである。

 

 そんな二人の言葉に、一瞬きょとんとしたように面食らった榊とラケルは──次の瞬間にはお互いにアイコンタクトを送り、そして同じタイミングで頷きあった。

 

「では、こちらの説明はお任せしても?」

 

「ええ──おそらく、私の専門分野ですから」

 

 ちょっと紅茶が恋しくなってきますね──なんて冗談を言いながら、ラケルは静かに語りだした。

 

「──結論から言うと、リンクバーストしたのもブラッドアーツが使えるようになったのも……ルーの能力によって、全員が繋がったからです。テレパシーによる意思疎通も、リンク能力で繋がっているからですね」

 

「……」

 

「神機に特殊な調整を施せば、誰かをリンクバーストさせたときに自身もリンクバーストすることができる……というのは御存知だと思います。言い方を変えると……捕喰や強制開放剤を使わずともリンクバーストする手法は、すでに確立されているのです」

 

「……今回は、それがリンク能力だったってこと?」

 

 リッカの言葉を、ラケルはにっこりと笑って肯定した。

 

「ええ──推測になりますが、そうであると考えています。繋がっている誰かがリンクバーストすると、そのリンクを通じて繋がっている全員のオラクルも同時に活性化する。誰かの活性に共鳴している、とも言えるかも。感応能力で状態を共有していると言えばわかりやすいかもしれませんね」

 

 だから、常に全員がリンクバーストしている状態になっている。これだけ人数がいれば誰かが捕喰をしているだろうし、誰かがリンクバーストしているわけで……つまり、厳密には永続的にリンクバーストを維持しているのではなく、常に捕喰することでリンクバーストをやり直し続けているのに等しい状態になっているのだ。

 

「暴走神機兵でも、コクーンメイデン寄生体でも。今この瞬間、どこかで必ず誰かが何かを喰らっている。常にバーストし続けているから、バースト状態が途切れない。オラクルが切れないのも……誰かが回収したオラクルを、リンクを通じて共有しているからですね」

 

 通常であれば。第二世代の神機使いは剣型神機で直接アラガミからオラクルを回収し、回収したオラクルを銃弾として銃型神機で放出する。第一世代の神機使いの場合は、自身で補給したオラクルか、あるいは剣型神機使いが回収してくれたオラクルを銃弾として使用する。

 

 今回の場合は、リンク能力によってすべての神機使いが繋がっている。どこかの誰かが剣型神機でアラガミを攻撃すれば、そのオラクルはその時点で誰でも使用できる状態となる。そしてこの戦場においては常に誰かしらが戦い続けているわけで──つまり、常にオラクルが補給される状態となっているのだ。

 

「そ、そっか……詳しい原理はともかく、一応それなら説明はできるんだ……」

 

「わ、ワイヤレス充電や送電衛星の遠隔送電みたいなものか……? むむ、しかし……いくら同じエネルギーとはいえ、オラクルを電気と同じ扱いで考えていいものなのか……?」

 

「──今回ばかりは、そう考えてもいいのですよ。さすが九条博士、目の付け所がちがいますね」

 

「……へ?」

 

 くすくすとおかしそうに笑って、ラケルはつづけた。

 

「ブラッドアーツが使えるようになったことも、《喚起》の力を持つヒロ……あるいはブラッドアーツが使える人間とリンクし共鳴したと考えれば説明ができると思いますが……ですが、リンク能力だけではリッカさんも感応現象に介入できたことについては説明ができません」

 

「……」

 

「であれば、このリンク能力の正体は既存の感応現象ではない。……いいえ、感応現象以外の何かも交じっていると考えるべき」

 

「……」

 

「というよりも、むしろ──今回の現象のすべては。リンク能力というそれそのものの根底こそが、何よりも重要なのです。そしてそれは、先ほどの九条博士の言葉が大きなヒントと成り得るのです」

 

 その能力の本質を、ラケルはあっさりと口にした。

 

「リンク能力と、ルーの本来の能力──電気の能力の相性が良すぎたのです。意志も、感覚も、感情も……そのすべては、究極的にはただの電気信号。そして──今この瞬間、極東エリアはルーが展開したジャミング領域、すなわちルーの電気信号(ちから)で満ちている」

 

「……まさか」

 

「ルーのそれは、おそらく感応波と電気の両方の性質を併せ持つ。いいえ、結果として同様の役割を果たしているというべきかしら? ともかく、これが示すのは──」

 

 リンク能力という、何かと何かが繋がる能力。

 ルー自身が持っている、電気を司る能力。

 

 この二つが、組み合わされば。この二つによって、神機使い同士が繋がるというのであれば。

 

 すなわち、それは。

 

 

 

「──すなわち、大脳そのもの。神機使いが神経細胞(ニューロン)で、それを繋ぐジャミング領域……この電磁感応空間こそがシナプス。そう、奇しくも我々も群体で──ルーを司令塔とした、フェンリルという獣なのですよ」

 

 

 

 感応波であり、電気でもあるルーの能力。その能力を使えば、神機使いたちと繋がることができる。その繋がりの関係はニューロンとシナプスの関係と似ており、意思も感覚も、そのつながりは究極的にはただの電気でしかない。つまり──神機使いたちのこの繋がりは、大脳の働きと同様であると捉えることができる。

 

「群体であるフラックメイデンは、ティターニアを司令塔としてコクーンメイデンがリンク能力で繋がっており、一つの生命として振る舞っています。同じように、大脳を……いいえ、人間を細胞の群体としてみるならば」

 

「群体としての人間は、大脳を司令塔としてニューロンがシナプスで繋がっていて、一つの生命として振る舞っている……?」

 

「ええ……そしてフェンリル(われわれ)という群体は、ルーを司令塔として神機使い(ニューロン)リンク能力(シナプス)で繋がっているのです」

 

 群体としての生き方と、大脳と神経細胞、そしてシナプスの関係。奇しくもそれは非常に似ており、ルーの能力であればそれらを疑似再現することができる。今、この極東で起きているのは、それらの究極系であるのだ。

 

「ブラッドアーツが使えるようになったのは、繋がっているほかの神経細胞が使えるから。テレパシーができるのは、神経信号と同じ理屈で情報の伝達ができるから。リッカさんも感応現象に介入できたのは……ケイイチさんを媒介にしているから。ケイイチさんが受け取った情報が電気信号となり、物理的接触を介してリッカさんにも伝わっているからですよ」

 

「……! そっか、中継器(ルータ)だけじゃなくて変換器(コンバータ)増幅器(アンプ)も兼ねているんだ……!」

 

 神機使い同士は、リンク能力による感応現象で繋がることができる。それによって受け取った情報……声や光景として認識されるそれは、電気信号として大脳に伝わっていく。本来微弱であるはずのその電気信号を、物理的接触によって直接相手に送ることができれば、神機使いでない人間であっても感応現象でやり取りした情報を受け取ることができる。

 

 そして──神機使いでない人間の声は、神機使いの耳を通して電気信号に変換される。あるいは、物理的接触と電気的性質を併せ持った感応現象で直接その電気信号を読み取るのかもしれない。いずれにせよ電気信号として認識されれば、あとは逆の手順で相手先の神機使いに届けることができるのだ。

 

「電気信号として変換される情報であれば……! 人間の脳みそが認識できる情報なら、神機使いとか関係なしにやり取りできるんだ……!」

 

「ルーくんが雷の力を司るアラガミで……そして非常に強力な感応能力を持っているからこそできたことだろうね」

 

 この極東で起きた数々の現象。その根底にあるのが、リンク能力と電気の能力。人間もまた社会性を持つ動物で、ある種の群体として生きている。それらすべてが合わさった結果生まれたのが、今のこの現状であるのだ。

 

「神機使いを中継とした遠距離落雷。ジャミング領域は意志で、電気で繋がっている。感覚も感情も究極的にはただの電気信号に過ぎず、我々一つ一つを神経細胞、かつ感覚器官と見立ててルーくんが展開したこの領域を電気信号で満たす……その結果、全員の意志が繋がる。神機使い同士に留まらず、神機兵も寄生体も……そして、人間でさえも」

 

「酷く野暮な言い方ではありますが……そういうことなんでしょうね」

 

 たったそれだけ。たったそれだけで、絶望的なまでの状況がひっくり返った。繋がる力と電気の力──ルーが持つその二つの力がすべての根底にあり、追いつめられていたはずの人間たちが、ティターニアを追い詰めている。

 

「は、はは……それってつまり、全部ルーのおかげじゃん……! ルーが来てくれたってだけで、ここまで何もかも上手くいってるんじゃん……!」

 

「ええ、その通り──ルーのおかげで、希望の光が見えている」

 

 ちょいちょい、とラケルがケイイチを手招きする。何かを察したケイイチは少しばかり不安そうにしながらラケルに近づき──そしてやっぱり何かを察した九条が、それに遅れまいとケイイチに続いた。

 

「……レイナくんも来てもらえるかい?」

 

「は、はい……」

 

 いろいろもろもろ、気を使ったのだろうか。榊もまたレイナを近くに呼び寄せて……そう、ちょうどこの部屋にいる全員が、オペレーターであるヒバリとフランも一緒にケイイチとレイナに触れられるような位置につかせた。

 

「では、さっそく」

 

「あっ」

 

 待ちきれないとばかりに、ラケルがケイイチの手に触れる。少しばかりの躊躇いの後に九条もまたケイイチの手に触れて……そして榊やレアはレイナの手に触れた。もちろん、ヒバリもフランも、リッカだって触れている。

 

 

《ひゃっはあああああ!! 撃ち放題だぜぇぇぇぇ!!》

 

《雷を落としまくれ! 一匹たりとも逃すなッ!!》

 

《神機兵を盾にして突っ込むぞ! なぁに、どうせ腕が取れてもまた生えてくる!》

 

《なぁ見てみて! ガルムに乗れたぞ! これ俺の相棒にしてもいいかな!?》

 

《ちょ、ちょっと……あなた、ブラッドアーツ使いこなし過ぎてませんか……!?》

 

 

 感応現象を通じて伝わってくる、誰かの声。戦場の土埃と血の匂いに、アラガミたちの悲鳴。どくん、どくんと心臓が妙に高鳴るのは、リンクバーストの感覚が伝わっているからだろうか。それとも……戦友たちと一緒に全力で戦うことができるという、神機使いだけが味わえる高揚のためだろうか。

 

 

《ルァァァァァ!!》

 

《──カァァァァン!》

 

 

 そして──ひときわ強く感じる、アラガミの雄叫び。そのアラガミの雄叫びに紛れるようにして聞こえる、甲高い雷鳴。なんとなくお腹が空いているような気持になったりするのは、果たして気のせいか。

 

「……凄まじい光景だね。これが彼らが普段感じているものなのか」

 

「すごい雷鳴……なんだか頭がくらくらしてしまいそう……」

 

 戦場にひっきりなしに轟く雷鳴。視界のどこかで蒼い稲光が輝き、そして次の瞬間には目の前にいたアラガミが黒焦げになる。雷鳴が鳴り響くたびに、稲光が閃くたびに──戦況はどんどん、こちらの優勢となっていく。

 

「雷が……この蒼い雷が、すべてを変えた……。この蒼い雷のおかげで、何もかも上手くいっている……」

 

「いったい……この蒼い雷は、なんなのかしら……?」

 

 九条とレアの、独り言のようなつぶやき。そんなつぶやきを聞いて、榊はどこか感慨深そうに語りだした。

 

「この極東において、雷とは──豊穣の象徴としても扱われていた」

 

「……豊穣?」

 

「雷の異名は稲妻(いなづま)……すなわち、稲の伴侶だ。昔から、雷の多い土地では稲がよく実ることが知られていてね。これすなわち、雷光が稲を妊娠させる……つまり、実らせると考えられていたんだ」

 

「なるほど……稲の豊作をもたらす良き伴侶だから、稲妻と名付けられたんですね」

 

「うむ。もちろん今は、雷が豊穣をもたらす科学的な原理の解明もされている。植物の成長に必須の窒素が、雷……放電によって空気中の酸素と結びつき、雨と一緒に土壌に流れ込む。ゆえに、雷の多い土地では作物が多く実るというわけだ」

 

 だからこそ、雷は稲妻と呼ばれた。空中にて発生する放電現象に、かつての人間たちは稲の伴侶の名を与えた。豊穣をもたらす存在として、崇め讃えていた。

 

「そして……雷には、もう一つの異名がある」

 

 雷が持つ──豊穣とは別の性質。それは恵みをもたらすものではなく、むしろ忌み嫌われるものでもあった。

 

神鳴(かみなり)……つまりは神が鳴らすもの、ひいてはその声。かつての人間たちは、轟く雷鳴は神々が発するものであると考えた。荒れ狂う嵐、そして落雷を……神の怒りと捉えた。自分たちの手ではどうにもできない天災を、大いなる畏怖を込めて神の御業と(なぞら)えたんだ」

 

 暗い空に走る閃光も。恐ろしくおどろおどろしい大きな雷鳴も。そして何より、人死や山火事を引き起こす落雷を──かつての人間たちは、神の怒りであると解釈した。空の向こうにいる雷神が怒り狂ったことで、雷が落ちると信じていた。

 

 そう……雷とは、神鳴。怒り昂る荒神の存在を証明するものでもあったのだ。

 

「無論、雷は神が鳴らすものだと信じられていたのは昔の話だ。雷鳴はただ単に、雷によって瞬間的に温まった空気が膨張し、周囲の空気にぶつかることで発生する音でしかない。あれを神の御業……いいや、仕業であると考える人間は、もういない」

 

「……」

 

「蒼い雷とは何か──と聞かれたのなら。科学者としての私は、ただの自然現象と答えるしかないだろうね。我々がすっかり忘れていた……あるいは気づいていなかっただけで、雷とはもともとそういう性質のモノなのだよ」

 

「ですが──」

 

 榊の言葉を遮って、ラケルがゆったりと笑いながら言葉を紡いだ。

 

「この蒼い雷をただの自然現象と切り捨てるのは──あまりにも、科学者としてロマンに欠ける行いですよね?」

 

「……ふむ?」

 

「雷……いいえ、神鳴(かみなり)。それはつまり、神鳴(シンメイ)とも読める。だからこれは、まさしく神明(しんめい)……つまり、超自然的な神そのもの。雷とは、神そのものであるのです」

 

 ラケルの言葉は、止まらない。

 

「突然訪れる雷を、急雷(キュウライ)と呼びますが……この極東に突如として現れたルーは、まさしく急雷。……ここで一つ、言葉遊びをしませんか?」

 

 こういうの、実は結構好きなんですよ──と、ラケルは静かにほほ笑んだ。

 

 

「ルーの雷は……人々の意志を集め、束ね、一つにして繋がる──(あざな)う雷。すなわち、糾雷(キュウライ)

 

 

「なるほど……加えて攻撃、ジャミング、さらには癒しまで、あらゆることを可能にした──究めし雷。すなわち、究雷(キュウライ)

 

 

「そ、そして……! どんな敵にも怯まず、勇ましく駆け抜け戦う──(たけ)し雷。すなわち、赳雷(キュウライ)

 

 

「えっ!? えーっと……! だ、誰かを扶けるため、何かを斃すため……その存在を(こいねが)い望まれる──求める雷。すなわち、求雷(キュウライ)

 

 

 

 

 

 かつての人間は、大いなる畏怖を込めて雷を──神鳴と呼んだ。 

 

 そして、この極東に突如とした現れた(ルー)──すなわち、急雷を。

 

 ラケルは糾う雷──糾雷と呼んだ。

 榊は究めし雷──究雷と呼んだ。

 九条は赳し雷──赳雷と呼んだ。

 レアは求める雷──求雷と呼んだ。

 

 

「かみなり、かみなり……そして、きゅうらい」

 

「ふふふ……とっても楽しいですね……。もはや、運命的なものを感じるほどに……」

 

 

 気分を良くした榊とラケルは、にっこりと笑って──そして再び、ケイイチとレイナに触れた。

 

《求め、糾い、究めた、赳し雷……そんなルーくんの蒼い雷でも、雷はどこまで行っても自然現象に過ぎない──だけど、あえて》

 

 今ここで戦うすべての人間に響いた声。

 

《あえて今一度、かつての時代のように大いなる畏怖と、そして心からの畏敬の念を込めて。そしてルーくんというその存在を象徴して、こう呼ばせてもらおう》

 

 猛り荒ぶる神鳴への畏怖。

 豊穣を齎す神明への畏敬。

 

神明(しんめい)すなわち神鳴(しんめい)。神の鳴き声であるその雷鳴を。我々と共に在る蒼い雷の荒神(アラガミ)──その神名(しんめい)を》

 

 

 ──ルァァァァッ!!

 

 ──カァァァン!!

 

 

 蒼い雷が、戦場を明るく照らす。

 

 

 

 

 

 

《救う雷──【救雷の神鳴】と》





救雷(キュウライ)】 救う雷。


【王】 君臨するもの。全てを統べるもの。
【久】 永久。
【玖】 九。


玖雷(キュウライ)】 九つの雷。永久(とこしえ)なる王の雷。
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