「今回の件の責任のすべては──私にある」
極東を揺るがした前代未聞のアラガミ侵攻事件。マスコミ向けに開かれた記者会見のその冒頭。
どこまでもまっすぐ前を見据えたまま──グレゴリー・ド・グレムスロワは、はっきりと宣言した。
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「まず初めに──此度のアラガミ侵攻により身体、財産、その他すべての被害を受けた皆様に対し謝罪をしたい。我々フェンリルが本来果たすべき責務を全うできず、このような結果になってしまったことは大変重く受け止めている。今後は二度と──」
──形ばかりの謝罪は不要です。被害状況について、具体的な説明をしていただけないでしょうか?
「……被害状況の詳細はお配りした資料を確認していただきたい。また、今回の事件においては奇跡的にも、死者は一人も出なかったということだけは強調させていただきたい。これはひとえに、本件に対応した神機使いおよび関連職員、そして地域住民の皆様のご協力があってのものだと考えている」
──人的被害に関して、死者はいないというそちらの考えは理解しました。しかしながら、負傷者はゼロではなく、またフェンリルの支援を受けられなかったことによる二次的被害や精神的な苦痛を受けた人間は少なくありません。そちらについての見解をお願いいたします。
「フェンリルの支援が及ばなかったことについては、今後の課題であると認識している。しかしながら、現状においてその能力が不足していたとは考えていない。我々は現状でできるベストの対応をできたと自負している」
──は?
「手元の資料に記載はしているが、支援率および物資の活用率は98%を超えている。これは不備やトラブルなく、事前に想定したとおりの対応ができたということを示している。我々だからこそここまでの支援が可能であり、そして我々以外ではこの半分ほどの支援もできなかったと考える」
──支援を受けられずに被害を受けた人が何人いるのかわかっていての発言でしょうか? 被害者が現実に存在する中で、自分たちの対応は全く問題なかったと、そう仰っていると受け取ってもよろしいですか?
「公金の使い道に対して、
──死者をゼロに抑えることができたというのは素晴らしいことだと思います。今回のアラガミ侵攻は、フェンリルの皆さんがいなければより多くの被害が出ていたと断言できるでしょう。
「……どうも」
──ですが。
「……」
──ちょうどお金の話が出てきたので聞かせていただきます。今回の対応で、いったいどれほどの損失が発生したのでしょうか?
「……」
──我々は、決して少なくないお金をあなた方に支払っています。あなた方はその対価として、我々の生命と財産を守る義務が……いいえ、持つものとしての使命があると考えています。それなのに……今回の被害は。
「……」
──保有していた約500体の神機兵。そのほとんどを一斉に出撃させて、100体以上を復旧不可状態にしてしまったと聞いています。ただでさえ神機兵は非常に非経済的で批判の的になっている……その自覚は当然お持ちでしょうが、神機兵100体というのは想像できないほどの大きな損失です。こちらについての考えをお聞かせください。
「……はァ」
──……?
「まず、誤解のないように改めて宣言させていただくが」
──……。
「神機兵の大量展開を承認したのは私だ。当然、すべての責任は私にある」
──責任の所在は聞いていません。私が聞いているのは、神機兵を失ったことによる損失です。あれだけの損失……もしサテライトの支援に使っていれば、きっと今頃何万人もの人々が十分な食事、衣料、そして住居を手にできていたはずです。この損失はあまりにも大きすぎ──
「──どこが?」
──は?
「損失が大きい? いったいどこが? なぁ、もう一回聞かせてくれ……損失が、大きい?」
──え……だって、単純に……神機兵一体作るだけで費用は……
「人的被害はゼロだが?」
──……。
「
──いや、しかし。
「
──それは結果論では? もっと良い方法もあったはずです。それこそ、この極東には世界で有数の腕利きの神機使いが何人もいる。彼らの力を使えば、神機兵にここまで被害が出ることはなかったのでは?
「それこそ結果論だ。貴様はあの戦いの痕跡を、被害状況を見ていないのか? ……おかしいな、あの抉れた大地を見たからこそ、お前らはわざわざこのアナグラまで支援を求めてきたんじゃなかったのか?」
──論点をすり替えないでください。あの時、神機兵を使わずとも被害を抑える方法はいくらでもあったはずでは? それなのにそうしなかったのは──利権や面子の関係で、アナグラとフライアの連携ができなかったからではないのですか?
「…………はっきりと、宣言させていただくが」
──……。
「アナグラも、フライアも──神機使いも、オペレーターも。すべての人間が一丸となることで、なんとかこの事件は解決することができた。何か一つでも欠けていたら、ここにいる全員があの世にいることだろう」
──ですから、もっとやりようがあったのではないかと聞いています。本当に、あなた方の対応に不備はなかったのでしょうか? それを証明することはできますか? 本当は……もっと被害を抑えられたんじゃないんですか?
「……具体的に、聞かせていただきたい」
──え。
「言葉の通りだ。我々の対応に不備があるというのであれば、具体的にどこに問題があったのか……なあ、言ってみろ」
──そ、それは……。例えば、神機兵ではなく神機使いを主体にした作戦をたてることはできなかったのですか? そうすれば、神機兵の被害は抑えられたのでは?
「……」
──それ以外にも。作戦行動の途中から、応援として他支部から戦力の補充があったそうですね? 戦力の逐次投入は愚策であるというのは、素人でも知っているほど有名ですが……あなた方のその対応に問題がなかったことを、どうやって証明できるんですか?
「……なあ、それは」
──はい?
「──神機兵の代わりに、
──いや、そんなことは。
「──人命軽視も甚だしいッ!! アラガミの恐ろしさは、お前らも知っているだろうがッ!!」
──ひっ。
「外野で騒ぐことしか……いや! 妨害しかしていないお前らが終わってからのうのうと口出しするだと!? 連日連夜、ゲートの前でふざけた騒ぎをしていたことを、忘れたとは言わせんぞ! 貴様らの対応をするために、ただでさえ少ないリソースを余計に消費する羽目になったんだからな!」
──……う。
「あれだけこちらを批判して、あれだけこちらの事前準備を妨害して……! いざことが始まったと思ったら、いけしゃあしゃあと保護を求めてきて……挙句、この期に及んでまた批判とはな! ええおい、どういう神経してるんだ!?」
──そ、それとこれとは話が別では? たしかに、一部の人間がそういったことをしていたようではありますが、それもやはりフェンリルの運営が不透明であることに起因しているわけで、今本当に議論すべきは、必要以上の損失を出していることについての見解です。そちらについて、改めて考えをお聞かせください。
「あの場で神機兵を出さなかったら、どうなってた? 神機兵を出してもここまでの被害が出たんだぞ? 出さなかったらどうなるか……なあ、その頭じゃわからないのか?」
──いや、だから……!
「ああ、そうだったな。お前らは莫大な予算をかけた神機兵を失うくらいなら、神機使いを……人間を囮にすべきだという主張だったな。つまり、サテライトもアナグラもフライアも……すべてを犠牲にして、神機兵だけ残せばよかったと、そういうことだな」
──……。
「なるほど、神機兵という損失を抑えつつ、リソースを食いつぶす
──いや、それは。
「私には一生かかっても理解できそうにない。理解する気もないし、したくもない」
──こちらも少し感情的になり、誤解を招く表現となってしまったのは認めます。しかしながら、より良い対応方法があったのではないかというのは、当然の疑問だと認識しています。なぜわざわざ、いまだ実戦投入すらしていない神機兵を、今回の作戦にいきなり大量投入したのでしょうか? これに作為がないと信じるほうが難しいのでは?
「……非常に腹立たしいが、貴様らの言葉を使うなら【よりコストの安いものだから】となる」
──どういうことでしょう? イニシャルコストもランニングコストも、神機使いのほうが神機兵よりもはるかに安いですよね?
「いったいどういう風に生きていたら、人の命が鉄くずよりも安いものだと認識できるんだ?」
──……。
「なあおい、教えてくれよ? え? 何とか言ったらどうなんだ? 黙ってちゃ何もわからんぞ」
──……それは。
「あの時お前らは何をしていた? 我々の批判をする以外で……避難民の誘導や支援の補助を少しでもしたのか? 何か少しでも、事態の解決のために動いていたのか?」
……。
「え? なあ、何とか言ってくれよ。……何もしてないだろ? じゃあ、一番価値のない安いリソースってことだ。つまりお前らの理屈で言えば……囮になるべきはお前らだぞ」
──それはあまりにも暴論が過ぎるのでは。
「……これ以上私をイラつかせるな。いや、私はいい……だが、これ以上命を賭して戦った人間たちを侮辱するのであれば、私は私の責任として、貴様らにそれ相応の報いを受けさせる」
──それは、脅迫と受け取ってもよろしいでしょうか?
「人の命に勝るものが、どこにあるんだと言ってるんだ! ……ああ、お前らはゴシップのためなら人命など二の次だったな!」
──いや、だから。
「お前らに何ができた!? あれ以上の方法がどこにある!? ……人が死んだほうがよかったと、お前らはそう言ってるんだぞ!」
──そんなことは、言ってないです。
「いいや、言ってる! 自覚すらしてないとは驚きを超えてあきれるわ!」
──対応に不備があったと認めたということでよろしいですね?
「はァ?」
──あなた方の対応に不備があったせいで、被害がここまで大きくなってしまったんです。あなた方がもっとうまくやっていれば、こんなことにはならなかった……と、皆さん言っていますよ。
「みんなって誰だ?」
──……。
「サテライトや周辺区域の警護に当たっていた神機使いたちからは、地域住民から感謝されたと連絡を受けている。そりゃそうだ、実際に目の前でアラガミから守っているんだからな。……貴様の言う”みんな”とやらは、どこの誰だ? ……なぁ、言ってみろよ」
──ですが、私が入手した情報では──
「……ッ!! お前、失敬を通り越して無礼だな! おい、名を名乗れ! そして近隣住民や神機使いたちの前で同じことを言ってみろ!」
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──失礼ながら、少々意外でした。私の知っているあなたは、あくまで組織の長として振る舞う人間で……末端で動く人間については良くも悪くも関与しないタイプかと。
「組織の長だからこそ、だ。組織においてはそれぞれに果たすべき役割がある。彼らの戦場はアラガミがいる場所で、そして彼らの役割はアラガミと戦うことだ。そしてもちろん、それは私には果たせない役割だ」
──……。
「私の戦場は
──ええ、全くその通りだと思います……さて、落ち着いてきたところで、改めて質問させていただいてもよろしいでしょうか。
「ふん。嫌だと言っても引き下がらんのだろう……まぁ、さっきのあいつより無礼な奴はもういないと信じたいが」
──ありがとうございます。まず初めに……少なくとも私自身は、フェンリルおよびフライアの皆さんに非常に感謝しております。こういう言い方もおかしいですが……あなた方がいてくれて、本当に良かったと思っているんです。
「……」
──そのうえで。改めてお聞かせ願いたい。
「……なんだ?」
──グレム局長の顔の傷と、あなたの隣にいる九条博士の頬の傷です。どちらもガーゼを貼り付けた、とても痛々しい姿であるように見えますが。
「……」
──あなたから部下に対する有形力の行使が……暴力行為があったという噂は本当でしょうか? その顔の傷は、その時に負ったものだという話もでています。少なくとも、事故やうっかりで負うような傷ではありませんよね?
「……」
──常日頃から、慢性的なパワーハラスメントがあったのではないでしょうか?
「……」
──どうしましたか? 回答できないということは、暴力行為を認めるということでしょうか?
「……存外、まともな質問だったので驚いているだけだ」
──それで? 暴力行為はあったということですか?
「結論から言うと──無いわけではなかった」
──それは……!
「が、しかし。暴力行為とは言えないな」
──は?
「私と九条博士……いいや、あえてプライベートでの呼び方をさせてもらうが」
──……?
「私と
──えっ?
「そんなに疑うのなら、どれ……ここはひとつ、みんなの前で握手でもしてみせようか? ……ほれ、ソウヘイ」
「え、えっと……その、あの……?」
「何だお前、和解の握手の一つもできんのか? それともなんだ、俺の手なんて触りたくもないってか?」
「い、いいえ! あの、その、決してそういうわけではなく……!」
「──と、こんな冗談が言える程度には仲が良いと思っている」
「は、はは……はい、この通り……。あ、握手してま……すッ!?」
「ほれ、よく見ろ。そして好きなだけ写真も撮っておけ。……ソウヘイ、お前も少しはカメラ映りを意識しろ。そうじゃなきゃ延々とこの時間が続くぞ」
「は、い……ッ!」
──仲が良いというその主張を、今は信じることにします。しかしながら、グレム局長の暴力行為によって九条博士がケガを負ったというのは紛れもない事実ですよね? これは明らかに、パワーハラスメントに該当します。組織の長として、問題であるという認識は当然持っていますよね?
「……なるほど確かに、いささか激しい口論になったことは認めよう。しかしそれも、お互いの目的が……世界の平和を守るという使命が同じであるからこそのものだ。お互いが真剣だからこそ、時には対立することもある」
──それは、暴力行為をしていい理由にならないのでは?
「真剣にぶつかった結果だ。私も一発、ソウヘイも一発で納得して、それで終わった話だ」
──……。
「逆に言えば、【トップをぶん殴っても問題ない】と思って実行に踏み切れるほどの信頼関係がある。実際、籍はそのまま残っているし、その後も普通に一緒に仕事をしているんだ……尤も、貴様らにはわからない感覚かもしれんが」
──そもそも、対立するというのが問題なのでは?
「私は経営者なのでね。たとえ性能が100%でなかろうとコスト性を取る。実現性とコスト性に重点を置いた判断をするのが原則だ」
──……。
「だが、ソウヘイは技術者だ。目的のためであればコストを度外視して性能を取る。0.1%でもリスクがあればその選択肢は取らない……取れない。私だったら、その程度は無視できるものとして扱うがね」
──それは。
「中途半端なものじゃ意味がないと主張するソウヘイと、コスト性が良くなければ現実的じゃないと主張する私で対立するのは当然だ。むしろそうならないのであれば組織が機能していないともいえる」
──つまり、お互い合意の上の「喧嘩」であったと?
「喧嘩……ともまた違うと思うがな。だが、この極東にはこういう諺がある──【喧嘩するほど仲が良い】とな。つまり、ある種の信頼の上に成り立っている行いなわけだ」
──一方的な暴力である印象を受けますが。
「おいおい、冗談はよしてくれ! 私の顔を見てくれよ……さっきも言った通り、私もソウヘイに一発もらっているんだぞ? こいつはこんなナリしてなかなかにガッツがあるやつでね。今回は鼻血で済んだが……とっさに身を引いていなければ、前歯をもっていかれていただろうよ! なあ、ソウヘイ!」
「は、はは、ははは……」
「……まったく、お前は。こういう時は、【次は前歯と一緒にノックアウトもして見せます】……くらいの冗談は言ってもいいんだ。それともアレか、力じゃ私に勝てないからって、盤外戦術でイメージダウンを狙っているのか?」
「う……じゃ、じゃあ、それで……」
「あの時の気迫が信じられんな、まったく……いや、こうして油断させておくっていう腹か?」
──すでに、和解は済んでいると? だから、自身に非はないと?
「うむ。より厳密に言えば、そもそも問題であるとも我々は思っていない。我々は……嫌いあっているわけじゃなくて、議論している中でヒートアップしただけだ。傍から見れば口論のように思えてもその場だけの話で、その時間さえ過ぎればコロッと元通りだ……見ての通り、な」
──……。
「私もソウヘイも……いいや、フェンリルに所属するすべての人間は世界の平和を願っている。だから、役職も所属も関係なく、本音で意見をぶつけ合うことができる。そうしてアイディアや意見をより昇華させていく……そんな環境がフェンリルにはあって、そして我々の中にそれを疑っている人間は一人たりともいない。そう、今回の件は──我々が同じ目的のもとに真剣に取り組んだ結果生まれた、ちょっとしたノイズに過ぎない」
──……。
「イエスマンだけの組織に成長はありえない。組織というのは多様性こそがその強み。組織であるという強みを生かせなければ、いずれ腐敗するだけだ……貴様らマスコミには理解できないことだろうがね」
──貴重なお話、ありがとうございました。……ところで、もういくつかお聞きしたいのですが。
「なんだ?」
──出撃した神機兵の中に、今まで公開されたものとは全く別の神機兵がいたという話があります。具体的には、蒼い躯体の新型であるとか……。
「……それについては、後ほど公開予定のものとなる。……だよな、ソウヘイ?」
「は、はは、はい……っ! あ、あれは、我々が新開発した機体でありまして……! ぐ、具体的には……!」
「具体的な話はしないでよろしい。ただ、一点だけ伝えるならば……」
──なんでしょう?
「あの蒼い神機兵が開発できたのは、半ば奇跡に近いものだ。そしてあの蒼い神機兵の性能は、従来の神機兵の性能をはるかに凌駕する。それこそ……たとえ神機兵100体を失ったとしても、蒼い神機兵が一体いればお釣りが出るくらいに」
──それほどの性能があると……!?
「ある。正直なところ、神機兵の喪失は確かに大きかったが──それ以上に得られたものが大きいというのが実情だ。あの蒼い神機兵には……神機使いの代替戦力としてはもちろん、それを超えたはるかに大きな価値がある」
──アラガミを貪り喰らっていたという目撃証言もあるそうですが。それこそ……神機兵のほうが、アラガミに見えるほどだったとか。それはつまり、大きなリスクを抱えているということではないのでしょうか?
「……あの蒼い神機兵を造るには、とある特別なアラガミの力が必要だ。だから少しばかり、アラガミらしさが出てしまったのだろう」
──それは……っ! 問題発言ですよ! アラガミから人類を守るべきフェンリルが、アラガミを利用していると言っているのですから!
「何を今さら。毒を以て毒を制すという言葉があるが……神機使いというシステムそのものが、そういうものだろう? オラクル細胞にはオラクル細胞でしか対抗できないというのは、もはや常識だろうが」
──ですが、神機使いとアラガミは明確に異なるものです! 神機使いは人間で、アラガミはアラガミでしかない! たとえ神機使いの体にオラクル細胞があったとしても、心までアラガミのはずがないのだから!
「ふむ……全くその通りだな」
──え。
「その論調で言うならば、まったくもって問題はない」
──それは、どういう。
「私が言えるのはここまでだ。これ以上は技術情報になるので公開はできない……が、こういう表現をしているというその事実で、察せられることも多いはずだろう」
「わ、私も……ええ、はい。ぐれ……グレゴリー、いえ、グレッグと同じ意見です」
「……無理して略称で呼ぶ必要はないぞ、ソウヘイ。……ともかく、上の連中が何と言おうが、貴様らマスコミが何と言おうが──私の目の黒いうちは、蒼い神機兵にも、件のアラガミにも絶対に手出しはさせない」
──それは、フェンリル本部に対する叛意であると捉えてよろしいのでしょうか?
「いいや、違う。私の……私たちの目的は今も昔も、そしてこれからもずっと同じだ。私はただ単に……我々の恩人を、仲間を、絶対に守って見せるというその意思表明をしただけに過ぎない」
──……。
「それを周りの連中がどう捉えるかまでは知ったことではない。我々は我々の目的を果たせればそれでいい。組織の長たるもの、これくらいの責任は取るもので──そして、その覚悟はとっくにできている」
──では、最後に一つだけ聞かせてください。先ほど、応援として他支部から戦力の補充があった……という話が出ていましたが。
「……」
──実際には、正式な命令はでていないのでは? これは純粋にただの事実として話しますが、戦力の逐次投入は愚策であるというのは誰でも知っている。当然、その道のプロであるあなた方がそんなことを知らないはずがない。それなのにそうしたというのは……そうせざるを得なかったからでは?
「……」
──あなた方は正しい対応をした。その場において最善と思われる行動をした。それが戦力の逐次投入であったというのは……つまり、他支部からの応援は最初は想定していなかったということじゃないんですか? だから、イレギュラー的に駆け付けてくれた彼らを、現場判断で運用するしかなかったのではないですか?
「……言いたいことを、はっきりと言ってもらえるだろうか?」
──命令を無視して、管轄範囲外で勝手に行動した神機使いが何人もいる。明らかな軍規違反であると同時に、フェンリル内部ではまともに統制が取れてないという証明にもなりかねない。
「……」
──もちろん、そんなことはないと信じています。だからこそ、あの行動にどういう意図があったのか……あなたの口から、説明いただきたいのです。あなたには、その責任があると認識しています。
「……責任、か。ならば、私の口から語れることはそう多くない」
──……つまり?
「──駆けつけてくれた神機使いは、すべてその善意と使命感で動いてくれた者たちだ。ただ、この極東を守りたいと思って……自分たちの身を顧みず、その力を貸してくれた英雄だ」
──軍規違反があったと認める発言であると受け取れますが……英雄であれば、軍規を犯しても構わないと?
「違う。彼らは自分が処罰されるなんて百も承知の上で駆けつけてくれた。軍規違反を犯した彼らは、軍規に則り処罰される。英雄的行為であろうとルールはルールだ。規則を守ることができねば、組織は崩壊する」
──では、彼らを処罰するということですね? この極東のために、世界の果てからやってきてくれた彼らを……自分の立場が悪くなることを厭わずに動いてくれた英雄を、処罰するんですね?
「………………そんなこと、できるわけがないだろうがッ!!」
──ひっ。
「我々の使命は人類の平和を守ることだぞ!? 誰よりもその使命を全うしようとした者たちを処罰なんてしたら……! 私はこの世のすべてに顔向けができない! そんな恥ずべき行為をするくらいなら、今この場で腹を切るほうが何倍もマシだ!」
──では、軍規違反をした神機使いを不問にするのですか? それは職権濫用なのではありませんか?
「……無論、そんなことがまかり通るはずもない。だから──私にできるのは、ただ頭を下げることだけだ。具体的には……」
──それは……?
「各支部宛の、いわゆる嘆願書というやつだ。どうか、寛大な措置を求む──とな」
──いや、それって。
「
──……。
「ちなみに、極東支部支部長のペイラー・榊殿も連名となっている。つまり、アナグラとフライアの総意であると受け取ってもらって構わない」
──……。
「……さて、そろそろ時間だな。これ以上の質問は受け付けないが……最後に改めて、宣言させてもらおうか」
──……。
「今回の件の責任のすべては、私にある。そして、我々のうちの誰か一人でも欠けていたら、この勝利は掴めなかった」
──……。
「神機使いはもちろん、それに限らず──命を賭して全力で戦ってくれたすべての人間に、私は最大限の尊敬と敬意の念を抱いている。だから、もしそんな彼らのことをほんの少しでも害そうとする人間がいるのなら……」
──……。
「──それが何者であろうとも。私は私の覚悟と責任をもって、全力でそれを叩き潰す」
「それこそが私の戦場で──組織という群れにおける、私の役割なのだから」
・人命軽視も甚だしい!
神機兵試験運用時に想定外の赤い雨が降る中、シエルちゃんの命よりも神機兵を守ることを命じたグレム局長に対してブチ切れたジュリウス隊長のお言葉。正確には、『人命軽視も甚だしい! あの雨の恐ろしさは貴方も知っているはずだ!』です。
なお顛末は知っての通りですが、この時グレム局長は語気を荒げながらも【結果として動き出してしまった現場対応を認めてそれを優先させる(無駄に言い争ったり無駄とわかりきっている割り込み命令をしない)】、【現場対応者の上司であるジュリウスにフォローをするように命じる】、【それはそれとして後で処罰はすると通告し、後は任せて邪魔になる自分はさっさと退く】……と、責任者としては悪くない対応を取ってるんですよね。倫理観は終わってますけど。
・お前、失敬だな! おい、名を名乗れ!
ジュリウスのフライアクーデターで人質にされていたグレム局長の解放後記者会見にて、「神機兵制御の材料に黒蛛病患者を使ったのはグレムの指示では?」と質問してきた記者に対してブチ切れたグレム局長のお言葉。ちなみに迫真の台パンつき。正確には『ん、何? 私の指示? そんなわけあるか! 私は被害者だぞ! お前、失敬だな! おい、名を名乗れ!』です。
なお、割とマジで人質から解放された直後の被害者に対して「お前の指示だろ?」ってマスコミが聞いているので、(グレム局長の最高責任者としての説明責任はもちろんありますが)マスコミ側のデリカシーが無いのは間違いないですね。