GOD EATER:救雷の神鳴   作:ひょうたんふくろう

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16 みずあび/神機だったモノ

 

「きゃ……!」

 

 さて、そんなわけでやって来たのは黎明の亡都。より正確に言えば、ゲームの時のフィールドではなく、そう呼ばれているであろう廃墟一帯だけれども。人間が付けた名前にアラガミである私がこだわる必要はないのでこの際気にしないことにする。

 

 辺りはすっかり暗くなっている。この娘を助けたのは確かお昼過ぎだったとはいえ、結構な距離を走ったのはもちろん、群がってくるアラガミ共を始末するのにちょっと手間取っちゃったんだよね。小型なんかはそのまま体当たりすれば押し潰れてくれたんだけど、中型以上ともなるとそういうわけにもいかないし。

 

「うう……やっと、止まった……!」

 

 何より、背中のこの娘の存在が大きい。私があまりに全力を出すとこの子が耐えられないし、必然的にビリビリパワーを用いた能力にも制限がかかってしまう。口や爪から電撃を飛ばすくらいならまだしも、雷を纏った全力タックルとかできないし。

 

 そんなわけで、アラガミとしての能力も身体的能力も制限しつつ襲い来るアラガミをなるべく優しく丁寧に返り討ちにして……ってしている間にはこんな時間になっちゃったってわけよ。

 

「ここは……どこだろ……?」

 

 私の背中にぎゅっとしがみついたまま、あの娘が小さく呟いている。一応、私の体の青いマントと一本角は、ビリビリパワーに関する器官だから微妙に青白く発光しているとはいえ……さすがに、周囲を照らせるほどじゃない。暗闇で目印にはなるだろうけど、結局はそれだけ。

 

「……水の音?」

 

 あらまあ、うちの娘ってば賢いじゃない! こんなに賢い娘だなんて、ママってば鼻ならぬ角が高くて嬉しいわ!

 

「川……じゃない、よね」

 

 冗談はともかくとして。

 

 人間の目じゃあまり様子は伺えないだろうけれども、アラガミの私の目にはばっちりとそれが──池とも湖ともとれる、ともかく水辺が映っている。わざわざここまでやってきたのは、比較的安全そうな水場があって、雨風もしのげる廃墟もあるからだ。

 

「わ」

 

 じゃぶ、じゃぶと大きく音を立てて水の中に入る。日が落ちているから、結構水はちべたい。私がマジの火のアラガミだったら、こいつをお湯にすることができたのに……と、思わずにいられない。

 

「つめたっ!?」

 

 そうして、水の中に伏せるようにしてあの娘を水に触れさせる。万が一にも溺れることのないよう、かなり浅めの所でだ。尾っぽと体で丸いクッションになるように体を曲げれば──うん、まぁなんとかなってるだろう。

 

「ね、ねえ……」

 

 

 ──ルゥゥ?

 

 

 ねえ、と言われても口が無いから返事はできない。だから代わりに、敵意なんてありませんよ感を醸し出しつつ小さく鳴いてみた。

 

「この子……アラガミ、だよね? ねえあなた、いったいどうして……なんで、私をここに?」

 

 あなたが生きるためには、水が必要だからです。

 こびりついて固まった血が、見ていて不憫だから落としてほしいんです。

 あと足のケガの応急手当もしてほしいんです。

 

 ああ、話せないというのが酷くもどかしい。

 

「お願い、もうちょっとだけそのままでいてね……」

 

 ええ、どうぞどうぞ。ゆっくり待ちますよう。

 

「お水ぅ……生き返るぅ……!」

 

 すっげえごくごく飲んでる。よっぽどお喉乾いていたのね。ごっきゅごっきゅって音がこっちまで聞こえますわ。

 

 あんまり綺麗なお水じゃないかもだけど、その辺どうなんだろ? ゴッドイーターだし、おなかとか壊さないのかな?

 

「いっつつ……うう、染みるなあ。あんまり深くはなさそうだけど……」

 

 ちゃぷちゃぷ、ちゃぷちゃぷと脇腹(?)のあたりで音が。どうも頭の切り傷(?)以外にもあちこちをケガしているらしい。そういやゴッドイーターの回復力って普通の人間とはあんまり変わらないんだっけ?

 

「足は……ダメ、か。折れてないだけ、運が良かったかな」

 

 重めの捻挫ってところだろうか? ……捻挫って冷やせばいいんだっけ? それとも温めてマッサージとかするのが良いんだっけ?

 

「……随分と大人しいような。この子、水辺に暮らすアラガミなのかな……?」

 

 いや、違うんですよ。

 

 というか、わざわざ全身で水の中に入ったのは。

 

「きゃ!?」

 

 

 ──ルゥ。

 

 

 ざばりと軽く尻尾を持ち上げ、じゃれるようにしてこの娘に水をかける。私自身はじゃれただけのつもりであっても、サイズ差がサイズ差だ。この娘からしてみれば、滝行……とまではいかないまでも、それなりの衝撃だったことだろう。

 

「ごほ……っ! な、なんなの……? いきなりどうしたの……?」

 

 そーれ、もう一発。

 

「わぷ」

 

 頭からぐっしょり。全身ずぶぬれ。土埃や乾いた血の大半はこれで洗い流せたというのに。

 

「もう……まさか、じゃれてるの……?」

 

 ──くせえ(・・・)。全然挑発フェロモンの匂いが落ちない。どうやら、ちょっと水で流した程度じゃ落ちない程度には強力なものらしい。

 

 この挑発フェロモンが落ちない限り、この娘をアナグラに帰すことはできない。この挑発フェロモンが落ち切るまでは、私が守り通さねばならない。

 

 二日か、あるいは三日か。水じゃ落ちない以上、自然に無くなるのを待つほかないだろう。

 

「ぬ?」

 

 

 ──ルゥゥ。

 

 

 とりあえず、今日の水浴びはここまでだ。こんな時間にずっと水の中に居たら風邪ひいちゃうしね。

 

「……降りろ、ってこと?」

 

 陸に上がって、そのまま伏せて。意味ありげに尻尾でびったんびったん地面を叩いて促したら、向こうの方も察してくれた。

 

 幸いなことに、私自身に対する警戒心はかなり無くなっているらしい。いくらかの戸惑いこそ見られるものの、最初にギャン泣きされたときのような恐怖の感情はもうほとんど感じられない。

 

「あ……どこいく……おぉ!?」

 

 失礼。私イヌ科(?)ゆえ、風呂上がり(?)は体をぶるんぶるんさせないといけないんですの。そうじゃないとみすぼらしい野良犬同然の見た目のままになってしまいますの。

 

「ごーかいだねえ……あっという間に水気が切れとる……」

 

 いやいや、まさかこれで終わりとは思うまいね?

 

「ん……今度は光ってる……?」

 

 全身にビリビリパワーを充填。ただし、放出はせずにそのまま溜め続ける。こうすることでどんどん体に電熱をためて……ほら、すっかりぽっかぽかのふっかふか。水気が飛んで乾燥したどころか、首元のファーも毛皮も布団乾燥機にかけたかのような仕上がりになっている。

 

 んで、このぬくぬくでふわふわな尾っぽを使えば。

 

「わふ」

 

 小娘一人の全身を包むくらい、わけないことよ。

 

「わ、わわ……! くすぐったいのに、あったかくてふわふわ……!」

 

 女の子は体冷やしちゃいけないからね、ちゃんと全身しっかり拭いて、体をあっためておかないと。これが野郎だったら、ここまでのサービスはしなかったっていう。

 

 ……それはそれとして、火の準備もしておきたいところ。やっぱり焚火は必要だろう。問題なのは、ここらには都合の良い薪が無いって所だ。生木なら見つからないこともないけど煙が凄そうだし……いや、超高電圧で一瞬で炭化させれば木炭が作れたりする……のか?

 

「もぉ……! やめてってばあ……!」

 

 まぁ、水さえあればどうにかなるはず。食事はなんとかおいおい考えるほかな──そういや、腕輪に偏食因子を投与しないとダメじゃなかったっけ? アレ、リミットってどれくらいだった?

 

 たしか、GEBの時にカノンちゃんとブレ公が一瞬MIAになってたはず。バーストの追加シナリオの所だったはずだから、リンドウさんの探索任務の所だっけ? カノンちゃんがエイジスで保護されたってのだけは印象に強く残ってる……なんでエイジスで見つかったんだろね? あそこ、行こうと思っていける所じゃないしなんだかんだで管理されてるんじゃないの?

 

 ともかく、あのときはそれなりに探索に時間をかけていたはず。具体的な日付自体は出ていなかったけど、二日や三日ってことはないだろう。おそらくは一週間程度くらいなら、偏食因子を投与せずともゴッドイーターは活動できる……たぶん。きっと。

 

 だから、ひとまずはそこがリミットだ。それまでにフェロモンが落ちなかったら、リスクを冒してでもアナグラに届けないとね。

 

 ……サバイバルミッションの時って携帯型の偏食因子を持ち込んでるんだっけ? いや、どのみちこの様子だと持ち合わせてないだろう。無いものねだりしてもしょうがねえや。

 

「ん……! もう、だいじょうぶ!」

 

 ぺんぺん、と尾っぽを優しく叩かれる。叩かれるというか、抱き着かれたというべきか。

 

 うん、やっぱり女の子は綺麗かつ清潔にしていないと彼氏ができない──と、うちの娘をどこの誰かもわからん馬の骨には渡せない。せめて、私より強い奴でないと。

 

「……これから、どうすればいいのかな」

 

 どうするって、そりゃあ。

 

 今日に限って言えば、後はもう寝るだけ……の、その前に。

 

 

 ──ルゥゥ。

 

 

 その傷、なんとかしてみるかあ?

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

 

「……こ、れは」

 

 作業台に置かれたその金属塊を見て、楠リッカは思わず息をのんだ。

 

「ひどい……ぐっちゃぐちゃ……」

 

 金属塊。そう、金属塊としか形容できないそれは、先日回収されたばかりの桜田チハルの神機だ。よく見れば持ち手があることもわかるし、銃身も刃も、シールドだってあることがわかる。だから、物そのものは別段特別でも何でもない。

 

 だけれども──整備班として神機に精通している自分でさえ、よく見ないとそれが神機であるとわからないというのはリッカには初めての経験だった。

 

「こんな……一体どうしたら、神機がこんな風になるの……」

 

 用途が用途だから、神機は丈夫に作られている。もちろん、戦闘中に破損すること自体は珍しくないし、そうでなくても定期的なメンテナンスが必要になる代物だ。そういう意味では、いかに頑丈な神機と言えど壊れることに不思議は無いし、事実としてリッカは今までに何度も神機を修理・点検してきている。

 

 しかしながら、ここまで破損した神機というのは見たことがない。剣は折れ、銃は曲がり、盾は砕けて……そして、全体としてひしゃげている。無事なところを探すほうが難しく、もはや神機であると表現することすら憚られるような状態だ。

 

「……」

 

 長年神機の整備をしてきたリッカには、神機の状態を見るだけで使い手のことがある程度わかる。剣を主体に戦う神機使いであれば刃の部分の消耗が激しいし、まだ実戦慣れしていない新型神機使いの場合、変形機構の消耗が妙に激しかったり部分的な劣化が目立ったりする。

 

 そして、神機に付いた傷を見れば……その傷が、仲間を庇って受けた傷なのか、ビビッて逃げて受けた傷なのかがわかる。

 

「チハルちゃん……」

 

 そんな、リッカの視点でこの神機を評価するならば。

 

「……最後まで、頑張ったんだね」

 

 ──判断ができないほど、損傷が激しい。だけれども、誰かを助けた結果こんな状態になってしまったのだという強い確信があった。

 

「お茶会、楽しみにしてたんだよ……キョウヤのやつがさ、柄にもなく張り切っちゃって。照れ隠ししながら、チハルちゃんのために頑張って準備してて、さ」

 

 キョウヤが無茶して資金を稼ごうと神機を酷使して。特大級の雷を落としつつ、説教をして。説教の休憩中に、お茶会の段取りを相談して。一方で、計画がバレないようにチハル本人にはキョウヤへの更なる説教を頼んで。

 

 そんななんてことの無い思い出が、なぜだかリッカの頭を埋め尽くしていく。

 

「どうして……チハルちゃんみたいな人から、いなくなっちゃうんだろ……」

 

 何度も行ったチハルの神機のメンテナンス。ここ一年ほどで、チハルの神機には誰かを庇って受けた傷が増えていた。一方で神機そのものの消耗や負荷はメンテの度に減っていて、どんどん神機の使い方が上手くなっていることが見て取れた。

 

 

「……リッカさん?」

 

「ん……」

 

 

 整備室の入口。

 

 いつのまにやら、そこに二つの人影があった。

 

「コウタくん……に、ヒバリも。どうしたの?」

 

「や……俺は普通に、任務帰りで神機を預けに」

 

「私は……その、ちょっと、眠れなかったので」

 

「……そっか」

 

 リッカが見ていたものに気付いたのだろう。二人とも、無言のままその神機の成れ果ての前へとやってきて、リッカと肩を並べた。

 

「……俺、最初これが神機だって気づかなかった。神機がこんなふうになるだなんて、知らなかった」

 

「……私もだよ。こんなの、初めて見た」

 

「ねえリッカさん……なんとか、せめて神機だけでも綺麗に直せないのかな?」

 

「私も、そう思ったんだけどね」

 

 使い手を失った神機は、新たな神機使いが見つかるまで神機保管庫に保管される。こういう理由(・・・・・・)で使い手を失った神機の場合、神機そのものの修理を伴うケースが多い。当然、その修理もリッカの仕事の一つではあるのだが。

 

「剣も、銃も、盾も全部ダメになってる……全交換が必要っていうか、交換しようにもこの状態じゃ分解すらできない」

 

「……」

 

「だから、物理的に切り離して貴重な部位だけを……アーティフィシャルCNSだけを摘出するかたちになる、かな」

 

「それって……」

 

 神機を直すというのではなく。廃棄するそれから、使えるものだけを抜き取っているだけに過ぎない。

 

「……アーティフィシャルCNSは、神機の心臓部(コア)と言える大事な部位だから」

 

「そう、ですね……」

 

 だから、形は変われどチハルの想いも受け継がれている。

 

 そうであると、信じるしかない。

 

 そうじゃないと、やってられない。

 

「……慣れたと思ったんだけどな、こういうの。……やっぱ、辛いや」

 

「慣れるもんじゃないよ。慣れなくてもいいんだよ。それに……女の子たち(わたしたち)ほどじゃないにせよ、コウタくんも話す機会は多かったんでしょ?」

 

「うん。うちのエリナの面倒をよく見てもらってたから、その関係で……あと」

 

「うん?」

 

「……俺の妹も、チハルと同じくらいだから。どうしても、さ」

 

「そっか……」

 

 無言。なんだかとても居た堪れなくなったので、リッカは気になっていたもう一つのことを切り出した。

 

「ところで……ヒバリでもコウタくんでも、知っていたらでいいんだけどさ。……あれからキョウヤ、どうしている?」

 

 チハルと最も仲が良かったキョウヤ。それが友情なのか恋人的なものなのか、はたまた家族のようなものなのかはリッカには結局わからなかったが……ともかくとして、そんなキョウヤの姿をリッカは見ていない。

 

「……ずっと、部屋に籠ってるよ。最後に会ったのは……チハルの遺留品のバンダナを渡した時、かな」

 

「ご飯もろくに食べていないみたいです……。ムツミちゃんが毎回届けに行ってるんですが、全く手を付けてないか、ほとんど減ってないトレーを持ち帰るばかりで……」

 

 

 ──そう言えば、ご飯もいつも一緒に食べていたっけ。

 

 

 ちょっと騒々しい……それでも、賑やかで穏やかな食卓。ぷんぷんと頬を膨らませるチハルに、へらへらとそれを笑って受け流すキョウヤ。

 

 そんな光景はもう二度と見られないことに気付いて、リッカの頬に一粒の涙が流れた。




 「俺の妹もチハルと同じくらい」とコウタのセリフがありますが、コウタの妹(ノゾミちゃん)の年齢、どこにも見つからなかったっていう……。
 (年齢的に)同じくらい、あるいは(体格的に)同じくらいの都合の良い方で脳内補完お願いします。
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