結論から言おう。私ってばけっこう強いかもしれない。
起きたのは日の出とほぼ同時。自身がアラガミであるという事実を再認識した私は、大きく一声鳴いてから外へと繰り出した。
準備運動がてら、そこらを思いきり駆け回ってみる。想像以上に体が思い通りに動く上、四足歩行特有の視界の揺れも気にならない。その速さもパワフルさも驚異的。なんなら垂直壁走りに近いことまでできた。正直な所、あまりにも爽快に動けるものだからご飯のことも忘れかけていたような気がする。
ただまぁ、それだけ激しく動き回っていれば、その物音を聞きつける輩も出てくるわけで。
ふと気づけば、遠目になにやらふよふよと浮いている黒い卵のようなもの──否、こちらに向かって飛んでくるザイゴートが見えた。やっぱりゲームの中と同じ姿で、大きな目玉がチャーミング……なわけがない。現実仕様(?)でかなりリアルになっており、ちょっとしたホラーといっても良いくらい。
ただ、最初の標的としては悪くない感じ。小型アラガミ──いわゆるザコ敵で、耐久力は最低レベル。どんな攻撃もよく通るし、体力もほとんどない。遠距離攻撃とそれに付随する状態異常効果が厄介だけれども、タイマンであれば被弾の可能性も大きく減る。
実際、そのザイゴートは弱かった。なにをトチ狂ったか、大きく口を開いてそのまま突っ込んできたわけだけれども、前脚で打ち払ったらそのまま弾けちゃったんだよね。
いやもう、自分でもびっくりだった。正直そこまで力を入れたつもりはなかったのに、文字通り割れた卵みたいになっちゃったんだもの。目玉は潰れてぺちゃんこのペラペラになってたし、人の顔っぽい上顎の部分も原形をとどめていない。かろうじて無事だったのは下顎についている舌の部分──人の足っぽくみえる砲台の部分だけで、可食部と言えるのはそこしかない。
初めてのお食事は、実に味気なかった。食べられる部分が少なかったのもそうだし、なにより味がほとんどしない。味の無いイカをかみしめているような感じで虚しかった。前脚に付いた血のほうがまだ味が有って満足感があった気がする。
さすがに潰れた目玉まで口に入れるのはなんかヤだな──なんて思っていたところで、もう一匹ザイゴートがやってきた。たぶん、仲間の断末魔(?)を聞いてやってきたのだろう。あいつらはそういうやつだ。
で、今度はこっちから飛び掛かってやった。イメージ的にはパン食い競争のアレみたいな感じ。せっかく大きなお口と鋭い牙があるんだもの、使ってあげなきゃもったいないし。
結果として、ザイゴートは私の口の中で思いっきり破裂した。硬い殻がパキっと割れたかと思った瞬間、風船みたいに中に溜まっていた空気(?)が弾けたんだよね。
そしてやっぱりそんなに美味しくない。最初こそ半熟の目玉焼きを潰したみたいで期待が持てたんだけど、肝心の中身に味がほとんどない。妙に水っぽいというか、なんとなく病院食を食べているような心持ちになる。
あと、変な薄い膜みたいなのが口に残って大層不快。砕けた殻のほうがまだカリカリ感があってマシ。思うに、ザイゴートは浮遊している関係上、中身はスカスカで見た目ほど食べられるところはないのだろう。味がしない理由はわからん。
そんな感じでザイゴートを食べた後は再び移動。この時になって「そういやザイゴートって毒があったっけ」と思い出す。ただ、ぽんぽんの調子は至って快調で、早く次の飯を寄越せと元気いっぱい。アラガミの胃袋は尋常じゃなく強いんだと思うことにした。
次に見つけた標的はオウガテイル。こちらは三匹ほど連れ立って歩いていた。ザイゴートよりかは食べ応えがありそうだったのと、こいつもまた小型アラガミに分類されるタイプ。肩慣らしにはちょうど良い。
そう思っていたんだけど……実際は、肩慣らしにすらならなかった。
最初の一匹目は、飛び掛かった時にそのまま前脚で潰された。
二匹目は、尻尾でばんっ! ってやったら吹っ飛んで動かなくなった。
三匹目は……知らない間にくたばっていた。体が半分凹んでいたから、一連の動きに巻き込まれて押しつぶされたんだろう。
味はやっぱりあんまりよろしくない。ザイゴートよりかは可食部が多く、食べ応え的な意味では見た目通りと言ったところ。あんなナリをしている割には歯ごたえが無く、ふやけたジャーキーを食べているような感じ。全体的に味が薄い。
あとやっぱり水っぽい感じがしたのはなぜだろう? 私の舌がおかしいのか、それともこれこそがアラガミの味なのか。他のアラガミも食べて見ないとわからない。
ザイゴート、オウガテイルと続けて味気の無い食事になってしまったせいで、その後も地味な空腹感は続く。なんとなく我慢すれば我慢できてしまう程度の空腹感というのが妙に厄介。目の前を蚊が飛んでいるかのような煩わしさというか、痒い所を掻いているはずなのになんか場所が違って上手く掻けない時みたいというか……言葉にするのが難しい。
その後も何度かオウガテイルとザイゴートに遭遇するも、結果はほぼ同じ。どいつもこいつもちょっと前脚で振り払っただけで動かなくなった。味気なさも同様。空腹感も満たされず。
アラガミがあれだけ食欲旺盛なのも、もしかしたら舌のほうに根本的な問題があるのかもしれない。食べても食べても空腹感が紛れない理由が「味がしないから」だとしたら、これだけ悲惨なことはない。
ただ、収穫がないわけでもなかった。あれはたしか五匹ほどの群れのオウガテイルに突っ込んだ時のことだったけれども、そのうちの一匹が果敢にも私に反撃してきたんだよね。
だけれども、私はいたって無傷。思いっきり後ろ足を噛みつかれたのにそのことに気付きすらしなかった。「あ、なんかひっついてるかも」ってくらいで、痛みとかは一切なし。
自分で自分の体に爪を突き付けた時はきちんと痛みを感じたから、痛覚が無いってわけじゃない。でもって、オウガテイルは小型アラガミとはいえその攻撃力は案外馬鹿にならない。つまりこの場合、私の防御力が凄まじく高いということなのだろう。
その後、何度か攻撃をわざと食らって見たりしたけれども、やはりダメージはまるでなかった。ザイゴートの遠距離攻撃はそよ風みたいなものだったし、オウガテイルの尻尾アタックも赤ちゃんにぺちぺち叩かれているのとさほど変わらない。
さすがは新種のアラガミというべきか。強靭すぎる自分の体に自分でびっくりしちゃうじゃんね。
ちなみに、移動途中で何度かコクーンメイデンとも戦った。色合い的には通常種で、そして割とマジに何の脈絡もなく唐突に地面から生えていてけっこうシュール。そういうものとはいえ、目が合っちゃったときなんか奇妙な笑いが込み上げてきたっけ。
知っての通り、コクーンメイデンは動かないアラガミだ。その代わり、地味に命中率の高い遠距離攻撃と、正直あんまり役に立っていない緊急手段的な近距離攻撃を持つ。
遠距離攻撃──オラクルレーザーについてはやっぱり私には効果なし。毛皮が普通に弾いてくれた。というかそもそもとして、あの程度の速度なら私なら余裕をもって避けることができる。試しに何度か食らってあげたのは、単純に確認をしたかったからというだけでしかない。
味の方はイマイチ。水っぽさはオウガテイルとかよりはマシとはいえ、歯ごたえも味もしないというか……。可食部が少なくて満足感が得られない。味のしない小魚を延々としがんでいるような感じで、なんだかとても虚しい気分になったのを覚えている。
結局そんな感じで、今日は一日ずっと小型アラガミを貪っていた。悲しいことに数だけはたくさんいるものだから、食べるものに困るってことだけはない。なんだかんだでそれぞれ数十匹単位で食べた気がする。それでなお、私のおなかの虫はうるさく騒ぎ立てているけれども。
一応、今は近くにアラガミの気配はない。食べ尽くした──とは思えないが、ひとまずは一掃できたと言って良いのだろう。どうせまたすぐ湧いてくるとは言え、明日はもっと遠くに足を延ばしてみたい所存。もっと言えば、食べ応えのある……少しでも味の濃いアラガミを食べてみたい。
やっぱりそれなりに強いアラガミじゃないとダメなのだろうか。人類がギリギリ生きていられる程度には、ヤバいアラガミの数も少ないように思える。あるいは本当にヤバいアラガミはゴッドイーターが率先して狩っているのだろうか?
まぁいい。なんだかんだで悪い滑り出しでなかったのは事実。飢える心配だけはないのだから、ひとまずはそれでよしとしよう。
──明日は、もっとたくさん美味しいものを食べられますように。