GOD EATER:救雷の神鳴   作:ひょうたんふくろう

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【霹靂】 かみなり。いかずち。または雷が落ちたり激しく鳴ったりすること。

【青天の霹靂】 晴れた空に突然起こる雷。転じて、急に起きた大事件や大きな衝撃。


22 青天の霹靂

 

「ふぁぁ……よく寝たぁ……」

 

 はい、おはようございます。今日も清々しい朝ですね。

 

 この娘を拾ってから、ちょうど今日で五日といったところ。さすがに私の尻尾で起床するのも慣れたもので、うちの娘ってばすごくのんびりと朝の余韻を楽しんじゃっている。

 

 ここ一応野外なんだけど、嫁入り前の娘がこんなあられもないぼけーっとした顔晒しちゃっていていいのかしら?

 

「……よし!」

 

 顔をばしゃばしゃと洗ったところで、意識もしっかりしてきたのだろう。きりっ! っと気合を入れる姿が実に凛々しくてとってもステキ。私なんかはアラガミになってからはもう、起きたい時に起きて寝たい時に寝て食べたい時に食べる……だなんて自堕落(?)な生活を送っていたものだけれども、どうもうちの娘は生真面目な性格であるようだ。やっぱなんだかんだでフェンリルも軍隊に近しい組織だからかな?

 

「ふふっ……! キミは本当に甘えん坊だね……!」

 

 すんすん、と改めてこの娘を嗅いでみる──やっぱり、匂いはそのままだ。昨日とも一昨日とも変わっていない。

 

 挑発フェロモンが落ち切っていないから感じるのだと思っていたけれども……いつまで経っても感じると言うことはつまり、これこそが人間の匂いなのだろう。

 

 挑発フェロモンを使ったというその事実と、私の挑発フェロモンに対する理解不足、そして効きすぎる鼻のせいで、人間本来の匂いをずっと挑発フェロモンの残り香だと勘違いしていたってわけだ。ハイスペックすぎる体ってのも困りものですわっていう。

 

「ねえ……今日こそ、あっちの方に行ってみない?」

 

 私の背中に乗ったあの娘が、ぽんぽんと意味ありげに合図を送ってくる。言わずもがな、それが示しているのはアナグラの方向で……つまりは、何としてでも帰還したいという意思の表れに他ならない。

 

「はあ……どうせまた、無理だろうけど……」

 

 五日間。今の所この娘に変わった様子はないけれど、そろそろ偏食因子の投与リミットが来ていてもおかしくない。や、正確なリミットなんて私にはわからないし、他でもないゴッドイーターであるこの娘が全然気にしたそぶりを見せていないから、案外まだ大丈夫なのかもしれないけれども。

 

 ──ルゥゥ!

 

「よっし、しゅっぱー……えっ?」

 

 もう、挑発フェロモンを気にする必要はない。

 

 なんだかんだで、手土産もいっぱいあるし【危険なアラガミではない】という実績もできたことだろう。

 

 であれば……アナグラに向かわない道理はない。マジの偏食因子のタイムリミットが来る前に、動くべきだ。

 

「あれ……っ!? も、もしかしてアナグラに行ってくれるの? ようやく、私の言いたいことわかってくれたの!?」

 

 ──ルゥ!

 

 ごめんねえ。言いたいこと自体は最初から分かっていたのよ。意地悪をしていたわけでもないのよ。

 

 でもね、ママってばちょっと勘違いしちゃってたのよ。要らない気遣いしちゃってたみたい。

 

 頭の悪いママでごめんね。ちゃあんとあなたの願い通り、アナグラまで連れて行ってあげるからね。

 

「よーしよしよし、良い子だぞぉ!」

 

 ……冗談はともかくとして。やっぱりまぁ、こういう風に子供が笑っている姿はいいものよな。なんともまぁ嬉しそうにパンパン背中を叩いてくれちゃって。ちゃんとしっかり捉まってないと危ないっていう。

 

 ──ルゥゥ。

 

 さて。だいぶ名残惜しいけれども、そろそろマジにこの娘を引き渡すことについて考えよう。

 

 今いる場所は……蒼氷の峡谷付近。たしかここが群馬とか長野とかそっちのほうだったはず。少なくとも埼玉は超えていたような。

 

 んで、アナグラはそこからずっと南の海の方。神奈川県の藤沢市であった場所に存在している。これは公式が言っているから正確な場所として確定している。

 

 神奈川県藤沢市から埼玉を超えた群馬の方……と考えると、直線距離でざっくり150kmくらいの見積もりだろうか。現在地の正しいところがわからんけれど、まぁそんなに間違ってもいないだろう。

 

 改めて考えると、蒼氷の峡谷だけ妙に遠くない? 他のエリアって大体神奈川県内だったよね?

 

 ともあれ、150kmくらいであれば実はそんなに時間はかからない。人間が一日に歩ける距離は休憩とか諸々含めて30kmとは何かの本で見たけれども、私の脚力であればよわよわ人間さんたちよりもずっと距離を稼げるのは確定的に明らか。

 

 ぶっちゃけ、高速道路を使えば三時間もかからない距離だ。その高速道路も……というかまともな車道すらないこのクソッタレな世界では陸路でかかる時間の計算なんてほぼ無意味だけれども、私であれば関係ない。道も選ばず、ほぼ真っすぐそのままアナグラに向かうことができる。

 

「うっわぁ……! なんだろ、すっごいドキドキしてきた……! これ、この子の速さなら今日中にアナグラ着いちゃうんじゃないかな……!?」

 

 ──ルゥゥ!

 

 うん、たぶん普通に着くと思う。道の悪さやアラガミの対処、途中途中の休憩を鑑みても時速30km……つまりはママチャリの二倍の速さは固いだろう。それでさえ単純計算で五時間くらいで着く計算なのだから、朝のこの時間からまっすぐ向かえば、どんなに遅くとも夕方には着くんじゃね?

 

「そだ、今のうちに色々考えておかなきゃな……。この子の事、どうやって説明しよう……」

 

 あら。もしかして少し考える時間が必要だったりする?

 

 ……この娘との旅路をもう少し楽しみたいところだし、こっちも少しペース落とすか。それによく考えてみれば、強大なアラガミ反応がすげえ速さでアナグラに向かってくるって恐怖でしかないし。

 

「まさかいきなり攻撃されるってことは……無いと信じたいけどなあ。それに、さすがに中にまで入るのは無理だろうし」

 

 それな。現実的に考えると、ある程度距離があるところで迎えるってのが落としどころかね? あんまり防壁に近づきすぎると住民がパニックになるだろうし、フェンリルとしてもあまりいい気分はしないだろう。私が本当に安全かどうかすら、この段階では知りようが無いわけだし。

 

「誰にどう伝えるかも大事だよね……落ち着いて話し合いが出来そうな人を呼んでもらうのが一番なのかなあ」

 

 ──ルゥ?

 

 いるっけ、そんな人? 榊博士とかなら理解を示してくれそうだけど、さすがにあの人を現場に連れてくるのはリスクが高すぎる。榊博士以外に賢いタイプの人間がいるイメージが全然ないのが困るところ。

 

 ソーマさんなら少し可能性あるけど、あの人じっくり考える研究者っていうよりかはフィールドワーク主体なところあるし、そもそもが戦闘部隊なわけだし。あと、まだ時期的にアナグラにいるかどうかも怪しいところだ。

 

「……会いたいな、キョウヤくんに」

 

 おい待て誰だキョウヤって。

 

「……や、ダメだな。キョウヤくん、すぐ撃ってきそう」

 

 安心なさい。ママが全部雷で弾いてあげるから。あなたには指一本触れさせませんよう。

 

 ……マジでキョウヤって誰だ? そこんところ冗談抜きに気になるんだけど。

 

「うー……なんか、今の私ってすっごいボロボロじゃない? なんかこう……ザ・野生児って見た目してないかな……?」

 

 ──ルゥ!

 

 そんなことないわよ! あなたは可愛い可愛いママの娘よ!

 

 ……って言いたいところだけど。いや、普通に可愛いことには間違いないけれども。

 

 野生児というか、すーっかり野性味あふれる仕上がりになっちゃっているのもまた事実。一応水浴びで体は清潔にしているとはいえ、服はボロボロで変えられていないし、ドライヤーも使えていないから髪がボサボサというか、だいぶ傷んでいる感が否めない。

 

 さすがの私のふわふわあったか尻尾でも、髪の手入れまではできない。何と歯がゆいことか。ちくしょう。

 

「ああ……バンダナがあればなあ。あれなら髪をまとめられたのに」

 

 あら、いいわねバンダナって。きっとあなたに良く似合うと思うわ。ゲームでもそれっぽいのは何種類かあったし、コウタくんもGE2ではオシャレなバンダナしていたものね。

 

「……ね、今更なんだけどさ」

 

 おん?

 

「あなたと一緒にいると……髪がぶわってなるよね」

 

 えっ。

 

「最初はこーやって走っているから、風のせいだと思っていたけど……わ」

 

 ──ルゥ。

 

 止まる。

 

 いや、止まらざるを得なかったというか。

 

 今ここに来ての衝撃の新事実。うちの娘の髪がボサボサだと思ったら、どうやらそれは私のせいだったらしい。

 

 ……マジで? いやま、確かに今もボサボサのままだけれども。風とかないのにボサボサだけど。でもそれって、ろくに手入れができなかったのと……あと単純に、そういう髪質ってだけじゃなかったの?

 

「んー……やっぱり。少しずつ広がっている(・・・・・・)ような」

 

 わあ、ホントだ。なんだか少しずつ少しずつ、風も無いのに髪がふわって広がっているぞぉ。最近の人間さんってすごいのねえ。それとも神機使いとしてのオラクル細胞のせいかしら?

 

 ……いや、マジでなんだコレ? こんな現象聞いたことが無い……けど、この娘の口ぶりだとこれって私のせいだよね?

 

 おかしい。特にこれと言ってなにかをしているわけでは……アッ。

 

「あ……止まった」

 

 してたわ。めっちゃしてたわ。というか基本的に二十四時間、寝ている時もやるように習慣づけてたわ。

 

「わ、今度はぶわってなった……ふふっ、やっぱりあなただったんだね」

 

 ビリビリパワーのユーバーセンス(仮)。常に展開しているこれのせいで、静電気的なアレで髪が広がったのだろう。もう無意識で展開できるようにしていたから全然気づかなかった……というか、私の毛皮や尻尾がふっかふかのもっふもふなのも、こいつの影響が少なからずあるのでは?

 

「ね、変なお願いかもなんだけどさ……アナグラに着くまでは、それ止めといてもらっても良いかな?」

 

 ──ルゥゥ。

 

 ごめんね、ホントに気が利かないママでごめんね。こんなのあなたも嬉しくないわよね。

 

 ……妙にふわってなりやすい髪質だなとは思っていた。アラガミの私にはわからないだけで、じめじめしてんのかなって思っていた。でもまさか、ビリビリパワーのユーバーセンス(仮)のせいだとは思うわけないじゃん……!

 

「あ……ふふ、ありがと。キミはやっぱりいい子だねえ」

 

 さすがに女の子だし、見た目も整えておきたかろう。それに私自身、ウチの娘をボロボロなままアナグラに帰すのは気が引ける。

 

 ユーバーセンスって言ったって、正直そこまで必要性のあるものじゃない。あったら便利だけど、無くても十分活動できる。索敵だけなら視覚や嗅覚でも十分にできるし、接敵しても敵なしだから無くても何ら問題はない。

 

 ──ルゥゥ!

 

「よーし、じゃあ出発進行!」

 

 まぁ、一応?

 

 念のため、より警戒レベルを引き上げてちょーっとゆっくり進むとしましょうか。

 

 この娘もいろいろ考える時間が必要だろうし、アナグラもびっくりしちゃうかもだし、安全は命よりも大事ってそれ昔から言われているし。

 

「ああ……! 早くみんなに会いたいなあ……!」

 

 ごめんね。でも、これくらいは許してほしい。あなたと一緒に過ごせる時間をちょっぴりだけ増やさせてもらっても、罰はあたらない……よね?

 

 

 ──ルゥゥ!

 

 

 もし、罰を当てる神がいたとしたら。

 

 その時は、そいつをイタダキマスしてやるかあ。

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

 

「……う、そ」

 

 朝。暗い気持ちのままいつものカウンターへと着いたヒバリは、ディスプレイに表示されたそのアイコンを見て目を見開いた。

 

「チハルさんの、オラクル反応……!?」

 

 ディスプレイの端っこの方。このアナグラにて想定されている作戦エリアのほぼ境界ギリギリ。オペレーターとして全体の状況確認をするため、常に神機使いたちの居場所を表示している──普段は用事が無ければあまり見ないそのディスプレイの中に、あんなにも切望していたアイコンが確かに存在している。

 

 加えて言えば。

 

「生き、てる……?」

 

 オラクル反応。より具体的に言えば、腕輪の反応。

 

 あの日以来、ずっと途絶えたままだったのに……そこには偏食因子の投与限界時刻が示されていて、今なおその腕輪が正常に機能し続けていることを、チハルの生体反応(バイタル)に大きな異常がないことを示し続けている。

 

 そう──いつもと同じように、チハルが生きていることを示し続けている。

 

「まさか、そんな……」

 

 とうとう自分の精神がおかしくなってしまったのかと思った。

 現実じゃなくて、都合のいい幻覚を見てしまっているのかと思った。

 あるいはもっと単純に、まだ夢の中なのかもしれないと思った。

 

 しかし……眠そうに目をこすりながらエントランスにやってきたオペレーターたちや神機使いは紛れもなく現実のそれで、今まで止まっていたのかと錯覚するほど早鐘を打つ心臓が、ヒバリにこれが現実であると突きつけてくる。

 

「レーダーかシステムの不具合……」

 

 よくあることだ。整備班には悪いけれども、肝心な時に壊れるのがレーダーだ。

 

 だからヒバリは、いったん落ち着いて……もう一度、再スキャンをかけた。オペレーターのマニュアルにも【不具合が発生した時は再スキャンをしてください】と書かれているし、先輩オペレーターたちも【とりあえずなんかおかしかったら再スキャンだよね】と誰もが言っているのだから。

 

「……っ!!」

 

 ──再スキャンをしても、チハルの名前は確かにそこに在る。あの日と同じように、それが当然だとばかりに存在している。

 

「れ、レーダーそのものが壊れてる……?」

 

 そんなはずはない。

 

 だって、他のアラガミ反応はきっちり取れているし、サテライトで防衛任務についているタツミやジーナの名前も問題なく表示されている。

 

 それに……チハルのオラクル反応がある場所のすぐ近くに、大きなアラガミ反応がある。その部分だけレーダーがイカれているなんて可能性も、これでなくなった。

 

 つまり。

 

「これは……故障なんかじゃない!」

 

 何度も何度も目をこすって。それでも確かにそのアイコンがそこに在り、システムも正常であることを確認したヒバリは。

 

『──か、関係者各位に通達!』

 

 震える手でマイクをアナグラ全体放送のチャンネルへと切り替え、自分でも言葉にできない感情に突き動かされるまま、その事実を叫んだ。

 

 

『チハルさんのオラクル反応が確認されました! ──チハルさんが……生きてます!』





Q.オペレーターさんたちはどうやって神機使いのバイタルを把握しているんですか?

A.実は腕輪でそのあたりを全部チェックできるようになっています。

 腕輪って神機のアーティフィシャルCNSとの接続を行っているわけですし、少なからずコンピュータ制御がされていると思うんですよね。

 ほら、リンクバーストって神機の暴走を防ぐためにレベル3までのリミッタがかけられているじゃないですか。つまり何かしらの制御が入っているのはほぼ確定なんですよ。で、どこにそのあたりのセンサや制御機構が搭載されているかって言ったら……消去法的にも実運用的にも腕輪一択だと思うのです。

 ブンブン振り回したりアラガミの攻撃を受け止める神機そのものに精密な制御機構を組み込むなんて、あまりにも危険がアブなくてナンセンスなのは確定的に明らかですもの。それに、物理的に腕とくっついている腕輪に機能を盛り込んだ方が、紛失の危険性とか無くて便利じゃないですか。

 というかそもそもとして、腕輪ってターミナルへのアクセスキーとしても使われていますし。そんなわけで、コンピュータ/情報記録媒体が組み込まれているのは間違いないです。

 なので、神機使いの腕輪には偏食因子の投与および神機との接続以外にも、「バイタルチェック」、「位置情報確認(発信機/GPS機能)」、およびそれらに付随する諸機能を補佐するための「通信機能」……といった機能が搭載されているとここではしています。神機との接続機能がある超高性能なスマートウォッチみたいなものという認識です。

 ……と、ここまで書いて推敲をしたところで、GE公式ブログの方に

・正式名称「P53アームドインプラント」通称「腕輪」。
・ゴッドイーターはこの腕輪を通じて神機を操ることができ、同時に自身に移植されているオラクル細胞の制御も担っている。
・位置情報特定用のビーコン、ターミナル接続インタフェースなど様々な機能を持っている。
・ゴッドイーター本人にも知らされていない機能があるという噂があるが真偽は不明。

 ……と、思いっきりそのまんまなことが書かれていることに気付きました。長々と記載した推測はほぼ全部無駄足です。悔しいからそのまま載せます。ちくしょう。
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